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前科部!  作者: 蛇猫
仮面と古傷
56/108

夕食


「とまあ、そんなことがあった訳だ」


「・・・それを私に話すのですか」


「幻中なら口固そうだし、大丈夫だろうと思って」


「・・・そうですか」


有馬と別れ、一旦帰宅した俺は夕飯の買い物をするために、この前幻中と

出会ったスーパーに来ていた。そして案の定、また幻中と出くわした訳だ。

有馬に口止めをされたにも関わらず、幻中に話してしまったが幻中なら大丈夫だろう。


「そうそう。幻中も夕飯の買い物か?」


「・・・はい。序でに切れていたティッシュペーパーも

 購入しようと思いまして」


幻中は買い物カゴの中に入れているティッシュの箱を見せてきた。

特別高級なものではなく店で一番安いものだ。


「なんかティッシュが切れて買い物に行く幻中って違和感が凄いな」


「・・・何故、ですか?」


「ん~なんと言うか、幻中がそうやって庶民的な面を見せてるのが

 まず俺の中では違和感が有るんだよな。俺からすると幻中って

 雲の上というか、お嬢様みたいなイメージが有るから」


そんなイメージを作っている原因は幻中の振る舞いや性格もそうだが確実に

この前行った幻中の家の影響もあるだろう。高校生は勿論、全うな社会人でも

住むことが難しそうな高級マンションに一人暮らし。おまけにまるで家政婦でも

雇っているのではないかと言う程に掃除の行き届いた部屋だ。

まず、普通の女子高生ではない。


「・・・確かに、父は医者で母も弁護士なのでそれなりに家は裕福ですが

 仕送りは最低限にしてくれと頼んであるので実質、貧乏みたいなものですよ」


「ほええ......」


父は医者、母は弁護士。絵に描いたような金持ち家族だがそれが

幻中の両親だと言うのなら不思議と違和感は無かった。

予想通りという感じだ。


「・・・高校生になってからすっかり疎遠になっていますがね」


「因みに参考までにたが、1ヶ月の食費はどれくらいで?」


「・・・2万円ですね」


「やっす」


大体、一食200円しか食事に使っていないと言う計算になる。

幻中の体は大丈夫だろうか。


「・・・仕送りと一緒に米だけは一袋送ってくれるので大して苦では

 ありませんよ。それでも、特売巡りくらいはしなければなりませんが」


「へ、へえ......」


俺は乾いた笑いを浮かべる。まさか、あの幻中の口から特売という

言葉を聞くことになるとは。


「・・・上里君も夕飯の買い物ですか?」


「ああ。今日は親父が夜勤だからカップラーメンとかで

 済ましても良いかと思ってるけどな」


「・・・それは......」


幻中は少し顔をしかめた。


「言いたいことは分かってる。体に悪いから止めとけって言うんだろ。

 それは重々承知なんだが、毎日カップ麺な訳でも無いしたまには、な?

 最近は親父が帰ってくるのが遅くて、毎日のように夕飯の担当をしてるから

 疲れてるんだよ。幸い、親父は外で食ってくるらしいし。休むのなら今だ」


「・・・そうですか」


俺の説明を聞いても尚、やはり幻中は俺のことを心配するかのような

表情を浮かべている。カップ麺など、幻中からしたら有り得ないのだろう。


「よし、適当にカップ麺でも買うか。じゃあ、俺はカップ麺売り場......に?」


俺がカップ麺売り場へ行こうとすると、幻中は静かに俺の腕を掴んできた。

どうやら、止まれという意味らしい。


「・・・あの」


「どうかしたか?」


幻中は顔を下げると、俺の腕を掴んだままボソボソと話し始めた。


「・・・貴方さえ良ければ、また私の家に来ませんか?

 夕食くらいでしたらご用意します」


「......へ?」


あまりにも幻中の言葉は突然過ぎて、俺は一瞬何を言われたのか

理解出来なかった。


「・・・先程もお話ししたように、食費が月2万円なのであまり豪華な物は

 作れませんがカップラーメンよりはマシな物を作れると思いますので」


「......ガチで?」


「・・・はい」


俺と幻中の間に沈黙が流れた。この感覚も慣れたものだ。

俺は心の中で言いたいことをきちんと整理して、口を開いた。


「いや、でも幻中に悪いだろ」


「・・・一人も二人も同じようなものです。今晩は煮物でも

 作ろうかと思っているのですが、お嫌いですか?」


煮物......正直なところを言うと、一部の具材はあまり好きではない。

しかし、そんな只の好き嫌いをこの場で言う気にはなれなかった。


「別に嫌いでは、無いが」


「・・・あまりお好きでは無いようですね」


すると、幻中は俺の考えなんて筒抜けだとばかりにそう言ってきた。


「い、いや! 別にそんなことは.......無い、かも」


「・・・この前の郊外学習での夕食時、色々な料理を小戸森さんに

 食べて貰っていたことから察するに上里君はかなりの偏食家ですよね?」


弱気になる俺に更に幻中は追い討ちを掛けてくる。

その口調は責めるようなものではなく、淡々と肯定を求める物だった。


「......はい、そうです」


俺は幻中の鋭い観察眼と推理力の前にひれ伏した。これ以上己を

偽る必要は無い。俺が子供のように好き嫌いばかりをする人間なのだと

理解すれば自ずと幻中も先程の話を自分から断るだろう。


「・・・それでは、今晩は貴方のリクエストに沿ったメニューにしましょうか。

 幸い、まだ買い物はしていないので」


だがしかし、俺へと返ってきたのは信じられない言葉だった。


「でも、それは流石に......」


「・・・料理の腕に関しては少しばかり自信があるのですが」


「いや、違うそうじゃない。幻中の料理はどう考えても美味いと思うんだが

 やっぱり、俺のために作って貰うっていうのは気が引けると言うかだな」


前にも同じような下りがあったが、そもそも俺と幻中は恋人同士でも

滅茶苦茶気の許せる友達という訳でもない。この前が以上だっただけで

本来、そんなあやふやな関係の男を女子高生が家に招き入れ料理を振る舞う

なんてことはとてもではないが社会的に歓迎されることではない筈だ。


社会的に歓迎されることでは、ない筈......なのだが。


「・・・どうぞ」


何故か、俺は幻中の家で椅子に座っていた。

目の前のテーブルには幻中が運んできた料理が置かれている。


「本当に良かったのか?」


あの後、その場の流れに従った結果幻中にご馳走になることに

なってしまった。俺の人生で二度目の幻中の家である。


「・・・はい。私の我が儘を聞いてくれてありがとうございます」


「いや、礼を言うのはこっちの方だが......」


俺は何と無く幻中と目を合わせることに気恥ずかしさを感じて

辺りをキョロキョロと見渡した。


「・・・他人の家は落ち着きませんか?」


やはり、幻中には全てお見通しの様だ。


「少しな。目のやり場に困るというか」


「・・・あまり気にせず寛いで貰って良いのですが」


「善処はする。それじゃあ、冷めないうちに頂いても良いか?」


「・・・はい。どうぞ」


俺は手を合わせて『頂きます』と挨拶をすると幻中の作ってくれた

食事に口を付けた。料理のメニューはきんぴら蓮根に、味噌汁

サワラの西京焼きに白ご飯だ。最初にきんぴら蓮根を食べた俺だが

その反応は分かりやすいものだった。


「・・・・」


「・・・どう、ですか?」


幻中が心配そうに俺の表情を窺ってくる。


「......幻中」


「・・・はい」


「滅茶苦茶美味い」


そのきんぴら蓮根の味は美味すぎて笑いが込み上げてくる程だった。


「・・・そう、ですか。安心しました」


「いや、マジで美味い。鷹の爪の程よい辛味も甘過ぎない

 味付けも俺好みだ。味付けは、めんつゆか?」


「・・・はい。それに、胡麻油を少々」


「成る程......後でレシピ教えてくれるか?」


是非とも我が家の一品に加えたい。


「・・・はい、勿論」


ほんの少し表情を柔らかいものにして応えた幻中に俺は礼を言った。


「......何でこんなに幻中は俺に良くしてくれるんだ?」


通常、知り合いが夕飯に何を食べようが他人事だと割り切るのが普通だ。

俺だってそうするだろう。だが、幻中はそうはしなかった。俺の健康を気遣い

家に招き入れ、美味しく栄養のある夕飯を振る舞ってくれたのだ。

そして幻中は俺の質問に熟考した後、口を開いた。その唇は

震えているようだった。


「・・・自然観察部の皆さんとも貴方が入部してきてから随分と親しく

 なりましたがそれでもまだ距離があります。従って、私が現状一番心を許せる

 人は貴方だけなのです。そんな存在のことを気にかけるのは当たり前かと......」


幻中は出汁の効いた、旨味のある味噌汁を啜って言った。


「それは流石に俺のことを買い被りすぎだろ」


幻中から目を逸らしながら俺は言った。部屋中に何と無く気まずい

ムードが流れる。


「・・・いえ、私は適当な判断しかしていないつもりです。

 実際に私が家に呼んだことのある人は上里君だけですし」


幻中は何時にも増して真面目な顔で淡々と俺にそう告げる。

その表情に迷いの文字は一切なく、説得力に満ち溢れていた。


「そ、そう......なのか?」


「・・・両親すらも家に入れたのは数回ですし、自分から呼んだことは

 一度も有りません。私が自分から呼んだのは貴方だけです」


戸惑う俺に小さな声でありながら力強い声で説明をする幻中を見て

俺は感じた。幻中は決して弱くは無いのだ。謙虚でありながらも、自分の考えは

確固たるものとして己の中に仕舞っておき、然るべき場であれば精一杯に主張をする。

そんな幻中の姿に俺は凛とした美しさを感じた。


「ありがとな。幻中」


そして、俺は気付くと幻中に礼を言っていた。


「・・・え?」


「正直なところ、そう言ってもらえて嬉しかった。ありがとう。

 ただ、一応、言っておくが岬川高校が異常なだけで俺は別に善人でも

 何でもないからな?」


「・・・そのことに関しては良く知っています」


幻中は心なしか、何時もよりも早く答えた。


「いや、そうまで即答されると複雑だが......なら良い。

 それより、有馬のことだよ。どう思う?」


俺は唐突に話を切り替えた。幻中だけには有馬の秘密を漏らしたのだ。

小戸森にもメモ帳自体は見せたが本当に有馬のものだったのかは知らない筈だ。

有馬の本性も。


「・・・どう、とは?」


「いや、何と無くなんだがアイツからトラブルの臭いがするんだよな」


「・・・トラブルが起こるとすらならば、恐らく上里君が有馬さんの

 正体を見破ったのが原因で起こるのでしょうね」


幻中の口調は何処と無く、トラブルの根源は俺だと言う風に聞こえた。


「幻中、もしかして俺のこと責めてる?」


「・・・いえ、全く」


「本当かよ......」


最近の幻中は若干押しが強い。今回も幻中が力強く否定したため

言いくるめられてしまった。


「・・・上里君が転校してきてから何かと学校が騒がしくなったのは事実ですが」


「返す言葉も御座いません」


調月の毒舌とは違い幻中は淡々と事実を述べる。これがまた心にくるのだ。

しかし、幻中の言っていることはどう考えても正論なので反論することも

出来ない。正論意外に正しいものなんて、極僅かしか無いのだから。


「・・・ですが、貴方のお陰で私の財布が盗られずに済んだことや

 自然観察部が以前と比べ物にならないほど活気づいたのもまた事実です」


「それは......まあ、そうか」


自分を客観的に分析した場合それくらいの功績は自分のものとして

評価しても良いのでは無いかと思う。


「・・・私は未だに新しいあの部活に馴染めていないですが」


「つっても、皆大体そんなもんだろ。調月や小戸森も同じようなもんだぞ?

 別に何も馴染むことだけが、良いことだと思えないし」


今、改めて考えると本当に白嶺先輩の存在は偉大だと思う。一声掛ければ

皆が纏まり常に先頭で部活のために試行錯誤してくれているのだから。


「・・・そう......ですね。有馬さんの話に戻りましょうか」


「ああ、うん。かなり話が脱線してたな。それで? 幻中から見て

 有馬って今までどんな奴だった?」


幻中は同学年としては有馬と一年以上の付き合いとなる。

何か知っているかもしれない。


「・・・有馬さんとは一年のとき、同じクラスでしたが学年中の人気者で

 明るい人でした。特に、今と変わらないかと」


「ふむふむ。成る程」


「・・・あ、ですが今とは違い、今の生徒会長と有馬さんは良く

 行動を共にしていた気がします」


その時、俺の頭の中のピースとピースが噛み合った気がした。

そういえば今日の放課後、有馬に先輩の話を出したら顔をしかめられたのだ。

本人は過去に色々とあったと言っていたが......。


「うーん、でもそんなにトラブル臭はしないしやっぱり俺の思い違いか。

 自分の本性を偽って、周りに合わせながら生きてるのも一種の処世術なんだろうし」


俺には出来ない処世術だ。尊敬はする。


「・・・兎に角、あまり気にしない方が良いのでは?」


俺は幻中の提案に頷いた。


「それもそうだな。あまり気負っても疲れるだけだろうし。

 .......それじゃあ、そろそろお暇しようかと思うんだが」


既に幻中の作ってくれた食事は完食している。

名残惜しいが時間だ。


「・・・そうですか。では最後にきんぴら蓮根のレシピをお教えしますね」


「ああ、頼む」


幻中はメモ帳のようなものにスラスラとレシピを書き写して

俺へと渡した。


「・・・どうぞ」


「ありがとう。家で作ってみるな」


「・・・はい」


その後、幻中は断ったのだがマンションの下まで俺を見送りに

付いてきてくれた。


「じゃあな、幻中」


「・・・はい。さようなら」


美味しい飯を食わして貰っておきながら、見送りまでしてもらい

俺はとてもいい気分で幻中と別れた。そして、俺が歩き出して

幻中がマンションの中に消えると、思いがけぬ人影と遭遇した。


「あれ、先輩? さっきの人って......幻中先輩ですよね?」


俺は無言で目を逸らした。

ポイントが伸び悩んでおりますw

蛇猫の創作意欲のためにも是非、評価、ブクマ、感想、レビューお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あれ?これグルメ小説だったっけ?ってなるぐらい美味しそうでした♪あとはほっこりもできました♪ 良い話をありがとうございました♪
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