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前科部!  作者: 蛇猫
仮面と古傷
55/108

メモ帳


「ヒャッホー、上里君。おっす、おっす~」


「いや、お前誰」


雪加が教室で色々とトラブった後、無事に授業が終わり昼飯を

食いに学食へと向かっていると、見覚えの無い人物に絡まれた。


「ちょ、上里君冗談キツイわ。そもそも上里君、友達居ないんだから

 僕の名前くらい覚えれるっしょ」


「ぶん殴ってやろうか。ちょっと痒いぞ」


「ごめんごめん~。上里君学食~?」


相変わらず言葉が聞き取りにくい奴だ。有馬岬(ありまこう)


「ああ。そうだが?」


「そっか、そっか~。上里君、何時も小戸森さんと食べてるもんね~」


「何で知ってるんだよ」


比較的に俺と小戸森が飯を食っているのは食堂の中でも隅の方だ。

あまり目立つところではない。


「ほら、上里君って意外と目立つからさ~。学食で

 見掛けることが多いんだよ~」


「俺って、そんなに派手か?」


自分で言うのもアレだが、俺の容姿はかなり地味だ。

髪が金色な訳でもなければ、大きなピアスをしている訳でもない。

というか、そもそもアクセサリーの類いを身に付けていない。

そんな俺が何故、目立つと言うのか。


「あ~......上里君、自覚無い?」


「何の自覚だよ」


「上里君って、確かに地味だけど変な存在感有るんだよね~。

 皆が上里君のことを話題にしまくってた時期もあったからそれも合わさって

 結構目立ってるよ~。逆に小戸森さんはマジで存在感無いけど~」 


俺が其処まで人の目を引く存在だったとは知らなかった。

俺が目立つと言うよりも俺の容姿や情報が山本との件などによって

皆により濃く記憶された、という方が正しいのかもしれない。


「何がどうであれ、面白い話が聞けた。ありがとな」


「どういたしまして~、それじゃあ僕も待ってる友達が居るから行くね~。

 バイバ~イ......って、うわああ!」


学食に着いた有馬がそう言って走り出すと、持っていたカバンのチャックが

閉まっていなかったらしく走ったときの勢いで財布を始めとする様々な

有馬の私物が床に散らばった。


「ちょっと、サイアクだよ~!」


必死に散らばった物を有馬が回収する中、メモ張の様なものが有馬から

少し離れたところまで飛んでいた。俺はそれを拾うと有馬に返そうとした。


「有馬~早く来いよ~」


「ちょっと、待って! 今、行くから~! じゃ、上里君今度こそバイバイ!」


しかし、有馬は俺にそのメモ帳を返す暇を与えず、足早にその場を

去っていってしまった。見たところ重要そうなメモ帳では無いので返すのは

放課後でも間に合うだろうと思い、ふとそのメモ帳へと視線を落とした。

散らばった時の勢いのせいなのか、真ん中くらいのページが開いている。

流石に他人のメモ帳を勝手に見るほど、デリカシーは欠如していなので

静かにそのページを閉じようと思ったとき、とんでもないメモの内容が

見えてしまった。


「何だこれ」


何やら、びっしりと書いてあるなと思っていたそのページには

有馬ではない別人の情報が事細かに書かれていた。書かれている内容は

名前、誕生日、好きな食べ物、好きな芸能人、部活、交遊関係、血液型、性格

良く使うSNS、扱い方、立ち回り方......等だ。おまけに学校内でどれくらいの

影響力を持っているかが考察として書かれている。


只の遊びで作った物で無いことは明白だ。気になって他のページを

捲ってみると、他のページにも似なような内容が書いてあり

其処にはあの山本や佐藤、近藤のことも書いてあった。


「井上まで書かれてるな.....」


其処にははっきりと『井上憂』の名前が記されている。どうやらこのメモ帳に

よると井上の学校内での影響力はそこそこ高いらしい。知り合いとしては

そんなところで部活の知り合いや俺の名前を見つけることは出来なかったが

俺の背筋が凍るには十分だった。


それに、このメモ帳に書いてあるのは人の紹介だけではない。

最近のニュースや今流行っている物を全て箇条書きにしたページまで存在するのだ。

その文章はとても整っていて、とてもではないがあの有馬が書いたとは思えなかった。

先程、有馬はメモ帳を探す素振りを全く見せずに去っていったので有馬ではない

誰かが悪ふざけで有馬のカバンに入れた可能性もあるかもしれない。


「只、悪ふざけにしては妙に丁寧なんだよな......」


兎に角、これは見なかったことにして放課後有馬に返そう。

それで終わりだ。


「と、言いながらボクに見せてる訳ですが......」


小戸森はメモ帳を手に取り、中を見ながら言った。


「いやだって、怖いし」


「そんなのボクも怖いですよ......うわ、確かに書いてますね。色々と」


人のメモ帳を勝手に見るのは許されない行為だとは思うが

今回は内容が内容なので特例で許してもらおう。


「だろ? 逆に何で俺達は書かれてないんだろうな」


「多分、取るに足らない相手だからじゃないですか?

 ほら、部長は生徒会長だから最初の方に乗ってましたよ」


「マジで?」


小戸森の開けていたページを覗き込むと、確かにそのページには他と同様に

『芦原白嶺』の文字があった。どうやら、俺が見落としていたページのようだ。


「有馬先輩のことは少しだけ知っていますが、こんなことを書きそうな

 タイプの人じゃ、有りませんよね......」


「ああ。この学校内での影響力、って項目の考察の文章を見たら分かるが

 相当の文章力の持ち主じゃないと書けないだろうな」

 

失礼だが何時もの有馬を見ている限り到底、彼に書けそうな文章ではない。


「それじゃあ、やっぱり有馬先輩が書いたわけでは無いんでしょうか? 

 はむはむ......美味しい」


「さあな。兎に角放課後、さっき言った通り有馬にそれとなく

 返して来るよ。つーか、芋天美味そうだな」


すっかりテンプレと化した、小戸森との食事。今では初めて小戸森と

出会って食事をしたときの恥ずかしさや気まずさは一切無くなった。

身内と言ったら言い過ぎかもしれないが、冗談抜きで雪加と同じくらい

小戸森は身構えずに接することが出来る。


「先輩にはあげないですよ。というか、本当に勘解由小路先輩のこと

 良かったんですか?」


小戸森が言っているのは、雪加が俺に弁当を作ってきてくれるという申し出を

俺が断ったことだろう。俺は小戸森と食べる学食の飯を優先したのだ。


「ああ、あれな。雪加も好意で言ってくれてたから悪いことしたが......

 何と言うか、俺にとっての昼飯は小戸森との学食だからな」


人間とは慣れるのが早いもので、一ヶ月程度小戸森との学食生活を続けただけで

この関係を終わらせたくなくなってしまったのだ。勿論、たまには雪加との弁当も

良いとは思うが。


「......そうですか」


「そそ。山本の件でも小戸森には色々と世話になったからな」


「別にボクは何もしてないですよ」


「いやいや、殆どの人間に冤罪を主張しても信じて貰えなかった俺にとって

 お前の存在は本当に心の支えだったんだよ。そういう面では本当に感謝してる」


静かに俺が微笑むと、小戸森は目を逸らした。分かりやすい照れ方をしている。


「なら、良かったです。先輩もボクの心の支えなので」


「それなら俺も良かった」


別段、面白い会話でも無かったのに俺と小戸森は二人でクスクスと

終始笑っていた。こう言ったスリルの欠片も無いつまらない日常を

何時までも享受したいものだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


俺はメモ帳を前へと突きだし、その先には笑顔の有馬。

筆舌に尽くし難い、何とも微妙な雰囲気が放課後の廊下に漂っていた。


「あっはは~。多分、それ僕のじゃないよ~」


「いやでも、お前のカバンから出てきたんだぞ?」


「きっと、誰かが僕のカバンに入れ間違えたんだって~。実際、カバンの

 中のものが散らばったときそれのこと探してなかったしょ?」


確かに、有馬の言うことも一理ある。そりゃあ、人が勝手に入れたものの

存在を認知しているはずが無いので例え、それが散らばったとしても

探そうとはしないだろう。


「お前がこのメモ帳の持ち主ではないとして、他に心当たりは?」


「無いなあ~きっと悪戯だろうし、捨てちゃって良いと思うよ~」


「いや、それは不味いだろ」


先程、有馬が述べていたとおり間違って誰かが有馬のカバンに

メモ帳を入れてしまった可能性だって充分にある。


「ど~せ、バレないから良いじゃん。持ち主探すのも面倒だし~」


「いや、そうかも知れないけど......って、ちょ」


有馬は俺の手からメモ帳を奪い取り、廊下の隅に設置されている

ゴミ箱の中にメモ帳を投げ入れた。


「うお~し。いっちょあがり!」


「あのな......」


持ち主不明のメモ帳をゴミ箱に投げ入れておきながら

全く悪びれる様子を見せない有馬に俺は呆れた。


「上里君って、今日部活~?」


「いや、宗里先生が出張で今日は偶々休みだ」


うちの部活の顧問は宗里先生、ただ一人だけだ。従って宗里先生が

出張に行くと責任者がいないことになり、部活は休みになる。


「良いな~僕は、今日も陸上部の部活が有るんだ~」


陸上部と言えば、佐藤と同じ部活だ。


「そか。じゃあ、頑張れよ。俺はこのまま帰る」


「うん、バイバ~イ!」


俺は帰宅のため校門の方へと行き、有馬は部活のため校門の方向とは

真逆の運動場へと歩いて行ったので俺達は結果的に別れることとなった。

下駄箱まで着くと、妙にあの有馬によって捨てられたメモ帳のことが

気になった。


何せ、メモ帳の隅から隅まで事細かに色々なことが書かれていたのだ。

書いた者は相当な苦労をしただろう。悪戯ではなく単に有馬のカバンに

入れ間違えたのだとすれば、それだけでゴミとして捨てられるのは

やはり可哀想だ。


俺はメモ帳の持ち主に軽く同情し、落とし物置き場に置いといて

やるくらいのことはやってしてやろうと先程のゴミ箱へと戻った。

すると、俺は其処で見てはいけないものを見てしまった。


「あ、有馬?」


其処にはゴミ箱の中からあのメモ帳を取りだし、自らの懐へ

仕舞おうとしている有馬が居たのだ。


「か、上里君!?」


有馬は俺よりも驚愕した様子で、メモ帳を即座にポケットに仕舞った。

俺が此処に戻ってくることは予想外だったのだろう。


「......ジトー」


「ちょ、上里君。止めてよ~その表情~。というか、自分で

 ジト~って、普通言わないっしょ」


俺がジト目で有馬を見つめてもあくまで有馬は自然体を

装っている。しかし、その表情や仕草からは明らかに焦りが見えた。


「やっぱり、そのメモ帳お前のだったのか」


「......いやや、違うって~。やっぱり持ち主の人が

 可哀想だなって思ってさ~」


「じゃあ何で俺の姿を確認した途端、慌ててメモ帳を隠したんだよ」


俺が疑問を呈すると、有馬は他に言葉が見当たらないのか

黙って此方へと向かってきた。


「上里君さ~」


有馬は依然、俺の元へと歩を進めながら笑顔で話を切り出した。


「ああ」


「このメモ帳の内容、見た?」


しかし、俺の真横で足を止めて俺と逆方向に顔を向ける有馬が

放った声は何処か恐ろしげだった。顔は見えないが、有馬は恐らく

笑っていないだろう。


「ああ、見たぞ」


俺は急に態度が変わった有馬とは対称的に、先程までと

全く同じように有馬の質問を肯定した。


「誰かに見せた?」


「小戸森に少々」


俺は嘘をつかずに、真実を伝えた。もう此処まで来るとメモ帳の

持ち主は自分ですと公言しているような物な気がするが。


「小戸森さんかぁ......」


「ああ、天娘の小戸森さんだ」


有馬の声は少し、無機質で先程までよりも随分と冷たいが

生憎、俺は昔の雪加で慣れているのでこの程度ではビクともしない。

多少、先程とのギャップには驚いたが。


「ぶっちゃけ言うと、実はこのメモ帳僕のなんだよね」


「ああ、知ってた。というか、さっき知った」


「周りには黙っておいて貰えるかな?」


「断ったら?」


俺は悪人面をしながら有馬に問う。


「どうもしないよ。僕にそれを止めることは出来ない。

 どうにか、キミが嘘を言っているのだと周りに信じさせるさ」


「とうとう、正体現しやがったな」


俺が体勢を変えて、有馬の目を見つめると有馬は笑顔を浮かべた。

何時もの有馬が浮かべている笑みの筈なのに、何故だろうか。

その笑顔がとても不敵なものに見えるのは。


「ちょっと~正体とかないって~。上里君結構面白いね~。

 将来の夢は芸能人?」

 

「そのノリやめろ。疲れる」


「連れないなあ」


有馬は『くくっ』と小さな声で笑うと、そう言った。

やはり、普段の有馬もこっちの有馬もどちらも腹が立つ。


「ま~、メモ帳に関してならあまり気にしなくても良いと思うぞ」


「ほう。因みに理由は」


「お前なら分かる筈だが、そもそも俺にはお前のことを触れ回る

 相手がいない。友人も恋人も。どうだ畏れ入ったか」


俺は格好つける様に胸を張りながら高らかに宣言した。


「......あ、うん」


「結構、真面目に可哀想な奴を見る目で俺を見るな」


「というか、キミって小戸森さんと付き合ってたんじゃなかったの?

 仲良いからてっきり、そういう間柄何だと思ってたんだけど」


「ちげえよ。めぐめぐとはそんなのじゃない」


生憎、一人っ子なので本当の兄妹の感覚は分からないがそう言った

感覚に近い気がする。勿論、俺は性的少数者ではないわけで

小戸森のふとした仕草に異性の魅力を感じない訳でも無いが。


「キミがそう思ってても意外に彼女は違うかもしれないよ?」


有馬はからかう様にいたずらっ子の様な笑みを浮かべた。


「滅茶苦茶嫌われてる訳では無いみたいだが、そんなのでは無いだろ。

 つーか、お前先輩......生徒会長に似てないか? 素」


俺は思い付いたように言った。先程の俺をからかうような口調が

とても先輩に似ていたのだ。


「・・・・」


すると、有馬は嫌なことでも思い出したように突然顔を強ばらせた。


「おい、何か言えよ」


「あ、ああ。ゴメン、ゴメン。会長とは過去に色々とあってね。

 つい、思い出しちゃったんだ。それも、あまり面白くない思い出でね」


どうやら、有馬にとって先輩の話題は地雷だったようだ。


「それは......すまん。出来ることなら忘れてくれ」


「あ、あはは。そうさせて貰うよ。それじゃあ、僕は部活が有るからここらで。

 キミは井上君とも交流があった筈だろ。出来れば、彼には僕のことを

 黙っていて貰えると嬉しいな。それじゃ、またね」


言うことだけ言うと、有馬はそそくさと運動場の方へ駆けていった。

全く、何だったのだろうか。やはりこの高校は色々と狂っているのだ。

そう、実感させられる一日だった。


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