不良
「科学に文芸、吹奏楽に自然観察か......」
俺は帰宅途中、何処の部活に入るか悩んでいた。科学はあまり興味が沸かない。吹奏楽は嫌いと言えるだろう。体育系は論外。つまり、残されるのは文芸と自然観察な訳だ。昨日までの俺なら特に迷うことなく、文芸にしていただろう。だが、どうしても昼休みでの宗里先生の言葉が離れない。
「自然観察部に入れば幻中の事が多少はわかるかも......か」
まあ、その事は家に帰ってゆっくり考えるとしよう。この辺って、スーパーは何処にあるのだろうか。明日の弁当のオカズを買わないといけない。
「少し探検してみるか......」
探検と言っても、スーパーとコンビニを探すついでに近所を散策するだけだ。適当に俺の家がある住宅地の道を抜け、割と大きな道路に出てみた。道路の近くには散髪屋、某ファストフード店、コンビニもあったが肝心のスーパーは見つからない。
まあ、コンビニを見つけただけ儲けものだろう。今日は疲れたし、コンビニで買い物して帰るか。
⭐︎
翌日、俺は特に悪夢を見ることもなく、目が覚めた。昨日はコンビニで買った弁当を帰って食ったのだが、あの弁当はあまりにも不味い。信じられないくらい不味い。あのコンビニの弁当はもう買わないようにしよう。
スーパーを見つける事が出来なかったので、弁当も作れない。今日は学食にすることにしよう。偏食の俺でも食べれる物があるといいのだが。まあ、うどんくらいならあるだろう。
学校に着いて時計を見ると、まだかなり早い時間だった。朝練の奴等はもう来ているが、そうでない生徒はあまり来ていない。
「おはよーございまーす......」
自分のクラスに入り、やや棒読み気味の挨拶をした俺は
既に登校している奴を探した。
「・・・おはようございます」
「おう、おはよ」
幻中だけがぽつんと座っていた。俺は教科書類を机に出して、リュックを掛けると、椅子に座って本を開く。15分程前の自分を褒めてやりたい。よくぞ、本を持ち物に入れてくれたと。
本が無かったら、更に気不味かったと思う。幻中も本を読んでいるし、お互いこれで気不味い思いをする事もない。
「おーい 上里部活もう決めたかー?」
俺が心の中で安堵の溜め息を吐いていると、突如、大きな足音と共に宗里先生が現れた。不味い。非常に不味い。俺は入部先を自然観察にしようとほぼ決めていた。理由は昨日、考えた通り楽そうだし、性に合っていそうだからだ。何より宗里先生の言葉が引っかかる。
が、もし俺の仮説が正しいとすれば幻中は自然観察部の部員だ。自分に関わるなと言われている手前、彼女の横で自然観察部に入りたいです、というのは何と無く言いづらい。
「お前は確か運動系は嫌なんだろ?」
「ああ、はい。そうですね、基本的には」
「お前、自己紹介で生物が好きって言ってただろ? それなら自然観察部がお勧めだ。どうだ?」
「自然観察ですか......面白そうですね。じゃあ、特にこだわりも無いのでそれにします」
「おう、これ入部届けな。書いたら職員室に持ってこい」
しかし、宗里先生はそんな俺の心境を汲み取ってくれたのか、俺が自然観察部に自然と入れるようにしてくれた。あ、ダジャレじゃないです。
これなら幻中もしょうがないと思うだろう。まあ、本当に幻中が自然観察部の部員なのかも分かってはいないのだが。
宗里先生は幻中に気付かれない様にウィンクをして教室から出ていった。
部活届けを書いている途中、ふと幻中の顔を見たが、特に気にした様子もなく、読書に耽っていた。幻中は自然観察部の部員ではないのだろうか。そんな疑問を抱きつつ、俺は教室から出て、何事もなく職員室に向かった。......筈だったのだが。
「おい、お前ぶつかっただろ? あん?」
何か現れた。何だよ、この一昔前の不良みたいな奴。彼とすれ違った時、此方は避けたのだが、彼方は避けるどころか此方に少し寄り気味で歩いていたのでぶつかったという感じだ。つまり、俺は悪くない。
「いや、俺避けましたし。どちらかと言うと貴方が避けずにフラフラ歩いてたのが原因なのでは? お互い様にするならまだしも、俺が悪く言われるのはお門違いだと思うんですが」
「あん? お前、転校生のクセに生意気だな」
「いや、別に転校生は関係ないと思いますけど」
「は? 関係あるに決まってんだろ? あんまり調子乗ってるとぶっ飛ばすぞ?」
理不尽なんてものじゃない。そして、何故、コイツは俺が転校生であることを知っているのか。怖い。怖すぎる。
「いや、直ぐに暴力振るおうとするの止めましょうよ。それ以外の問題の解決方法を知らないんですか?」
俺が不良を睨み付けてそう言うと、周りには野次馬が集まり始めた。
「見て。あの転校生、近藤に喧嘩売ったみたいだよ?」
「え? あの近藤に? うわビビってるじゃん、ダサ」
「ねえ、知ってる? アイツってウチのクラスの転校生なんだけど、玲奈の横の席なんだよ?」
「え? マジ? うわ、流石玲奈の横だけあるね」
「てか、玲奈の菌で玲奈病になったのかもよ?」
「ちょっ、アンタ玲奈病って」
ヤバイ、凄い腹立つ。喧嘩売ってんのは俺じゃなくてコイツだし。後、小中学生レベルの虐め止めろよ。......成る程な。大体、分かったかもしれない。
「お前マジで殺すぞ?」
しばらく静かだった不良、もとい、近藤がいきなり物騒な事言ってきた。殺害予告を面と向かってされた場合、どうするのが正解なのだろう。生命の尊さを説く? それとも、土下座で許してもらおうか。
「近藤君だよね? 今、あまり穏やかじゃない言葉が聞こえたんだけど君かな?」
突如、俺達の間に割って入ったのは優等生らしい雰囲気の少女だった。幻中が静かで聡明な優等生だとすると、この人は明るくて活動的な優等生......的なイメージだ。あくまで俺の感じたイメージだが。
容姿はクリームがかった短い髪が印象的だが、身長も猫背の時の俺とそう変わらない。かなり高身長だ。そんな風に俺が暫く、その少女を観察していると近藤は
「ッチ、面倒クセェ。ふんっ、やってられるかよ」
と、ブツクサ言いながら、少女を放って何処かへ歩いて行った。捨て台詞が小物のそれだ。
「はあ、全くしょうがないな。なんか、ごめんね?」
少女は苦笑しながら此方を見てきた。
「えーと、どっかで会ったことありましたっけ?」
近藤を撃退してくれた恩人に俺は聞く。
「あぁ、ごめん。初対面だったよね」
『君有名だから』と何気に気になる前置きをして、少女は
「私は芦原白嶺。この高校の生徒会長と自然観察部という部の部長をやらせてもらっているんだ」
と笑いながら言った。




