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前科部!  作者: 蛇猫
そして前科者『上里祐也』は鳥好きになった
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柏餅女


「なあ、これ、行かなくても良いんじゃないか?」


「駄目。きちんと、連絡を受けるまでは。自己判断では

 きっと痛い目を見る」


「あっそ」


どしゃ降りの雨と風の猛攻により大荒れの世界を

俺と雪加は集合場所の駅を目指して歩き続けていた。

こんな日に絶対、自然観察などないと思うのだが......無いよな?


「チャットアプリのグループとか無いの?」


「んな、キラキラした制度がうちの部活に有る訳無いだろ。

 というか、そんなのやっても俺と調月は参加しないだろうし」


先輩は勿論、幻中と小戸森もやれと言われたらやると思う。


「そういえば......祐也、スマホ持ってるのに私と連絡先

 交換してくれなかったんだった」


雪加は何処か遠い目をしながら言う。


「別にする必要無いだろ。そもそも、連絡先の交換とかチャットアプリとか

 自分のスマホに人が居るみたいで気持ち悪いんだよ」


プライベートを侵されるのが死ぬほど嫌いな俺だが、やはり

そういうのも無理だ。というか、そもそも雪加以外に連絡先を

聞かれた試しが無い。クラスのグループに誘われたことも無かったし。


「それだったら、スマホ要らない気がする」


「持ち運び便利なパソコン兼ゲーム機としては使える。後、夜道とか

 色々と物騒だから直ぐに警察に掛けれる方が良いだろ?」


「確かに、祐也弱そうだから喧嘩吹っ掛けられそう」


弱そう、じゃなくて弱い、な。


「そんときは絶対権限(アブソリュートスキル)とやらで俺を守ってくれ」


俺は茶化した様に言う。


「祐也も絶対権限(アブソリュートスキル)なら、二つ所有してると思う」


「やめろ、封印した筈の歴史を掘り返そうとするんじゃない」


もし、これを部員たちの間で暴露されたら、と思うと

冷や汗が出てきた。


「そうは言うけど、祐也の看病に行ったとき机の上に

 懐かしいノートがいっぱい置いてあった気がする」


「うん?......」


俺は笑顔で固まった。そういえば、あの日の朝そんなのが

物置で見つかったから、一時的に隠すため机の上に置いてた気が......。


「『終末之誓約書(アカシックレコード)『』闇き夜道の導き』『昏冥の福音書』『世ノ果テ記録書』

 『在りし日の夕闇』『不断なる濫觴』『画竜点睛』久し振りに見たけど

 良かった」


もうやめて下さい。上里のライフはゼロです。


「『偏食家の俺が、暴食の絶対権限(アブソリュートスキル)を授かるなんざ運命さんも奇っ怪よ』

 祐也の決め台詞」


あれえ、可笑しいな。HPがマイナスにいってら。


「頼むから、それを自然観察部員達の前でやるなよ?」


「何で?」


「単純に恥ずかしいから」


後、絶対に調月に罵られるから。


「え、『感情......そうか、そんなものもあったか。長い絶望の果てに

 そんなものは忘れて......』」


「よーし、柏餅ほしい人!」


俺は黒歴史を掘り返してくる雪加をどうにか止めようとそう叫んだ。


「欲しい」


「なら、その口を一旦閉じろ」


試しにドスの効いた声で言ってみた。


「祐也に凄みがある......」


「うるせえ」


確かに、何時も覇気がなく弱々しく情けないのは否定しないが。


「取り敢えず、もうそろそろ駅につくから黙っててくれ。頼むから。

 柏餅は勿論、帰りに良いところの奴買ってやるし......」


「背に腹は変えられない」


雪加はそう言うと、自分の口に手を当てて見せた。

これ以上は余計なことは言わない、ということなのだろう。


「そうしてくれ。お、見えたぞ......本当に揃ってるし」


今回は現地最寄りの駅集合ではなく、この街の最寄り駅に集合ということに

なっていたので本当にこの雨の中揃うとしたら居るのは、今見えている駅の

前な筈だ。そして、現に距離が遠くて良くは見えないがそれらしき人影

4人が立っているが分かった。俺はそれを見ると、溜め息を吐き

その場所へと歩を進めた。


「おはようございます」


駅に着き、本当に人影四人が俺達の目当ての人物達だったのかを

確かめた。やはり、其処に居たのは前科部の部員たちであったので

挨拶をした。先輩が居ることも考慮して、敬語の方が良いだろう。


「おっは~」


そんな俺とは対照的に雪加は馴れ馴れしいとも取れるような

挨拶をする。


「友達かよ」


いや、友達居ないから本当の友達の関係を持っている奴らは

どんな挨拶をするか知らないが。


「あはは、それくらい砕けてた方が私としても話しやすくて良いよ。

 二人ともおはよう」


相変わらず優しい先輩は顔ひとつしかめずに、にこやかな笑顔を

浮かべた。


「あ、先輩.......と、勘解由小路先輩、おはようございます」


雪加という呼ぶことの多い先輩が増えても、俺の呼び方は『先輩』で

統一してくれるらしく、何と無く嬉しい。


「おはよう、勘解由小路さん。あの案山子(カカシ)は何処にいるのかしら。

 もう、そろそろ集合時間を回るから遅刻ね」


「只の案山子は此処だ、此処。勝手に遅刻にすんな」


俺は何時も通りの調月に若干安心しながら何時ものようにツッコむ。

 

「あら、影が薄すぎて気がつかなかったわ。ごめんなさい。

 それと、おはよう」


「特大ブーメランをお見舞いしてやる。おう」 


これぞ、自力光学迷彩。 


「何か、雹霞と祐也が言葉の最後で会話してて相棒みたい」


そんな、俺と調月をじっと見ていた雪加がそんなコメントをした。


「「煩い」」


「四面楚歌の状態で背中を合わせて、闘った仲みたいに息ぴったり」


分かりづらそうで、分かりやすいことを言うな。

ツッコミ難いだろ......いや、そのコメントは可笑しい。いつから俺は

芸人になったんだよ。 


「お前らが終始ボケまくるせいで、いつの間にかコントをやってる

 気分になってたぞ」


「貴方が出来るのは精々、荒唐無稽且つ滑稽な生きざまを

 晒して道化として笑われることくらいでしょう」


「朝、出会ってそうそう辛辣だな」


「事実だもの、仕方ないじゃない」


調月は『フッ』と軽く笑い飛ばし、顔を背ける。

俺は少しだけこの前、相談に乗ったことを後悔した。


「・・・おはようございます」


そんなやり取りを見守りながら遠慮がちに

挨拶をしてきたのは幻仲である。


「おう、おはよう」


見ろよ調月。この、白銀の女神を。毒一つ吐かずこんなにスムーズに

挨拶の応酬が終わったぞ。いや、そもそも挨拶が彼処まで脱線

することなど殆ど無いが。


「んで、今日の活動はどうなったんですか? 先輩」


九割五分延期か中止だろうと思いながらも俺は聞いた。


「それがね~メールしたんだけど宗里先生から一向に連絡が無いんだ」


「ええ......」


何やってんだよあの教師。


「あ、集合時間過ぎた」


雪加がポロっと溢した言葉に俺は雨の中、宗里先生への

憎しみを強めた。


「それで? 結局、どうするんですか?」


「う~ん。一先ず、此処は雨に濡れるから何処か屋内にでも入ろっか」


確かに此処は申し訳程度の屋根が有るだけで、横殴りのこの激しい

雨を防ぐことは出来ていない。


「屋内って?」


「う~ん。喫茶店とかかなあ......お金持ってきてない人居る?」


先輩がそう聞くが、誰も何も言わない。


「そっか。じゃあ、喫茶店とかに入って先生の返信を待とうか。

 幾らか待っても、返信が来なかったら部長権限で解散にするね」


先輩の言葉に皆は口々に肯定した。


「って言っても、何処かめぼしい喫茶店とか有るんですか?」


駅前と言っても、小さな駅なので中に店が入っているといった

ことも無い。


「和菓子喫茶が良い」


先輩への質問に雪加が答えた。


「いや、お前に聞いてないし......待て、和菓子? 詳しく」


「いや、滅茶苦茶食い付くね。いや、別に良いけど」


先輩が呆れているが知らん。和菓子だぞ、和菓子。


「此処から徒歩五分くらいのところに和菓子とドリンクだけを

 扱う喫茶店が有るの。引っ越し祝い的な意味で引っ越したときに

 買って食べたから味は保証する」


雪加は口を緩ませ親指を立てた。


「蓬餅は?」


「勿論有る。後、柏餅の蓬もある」


何か、さらっと布教された。


「よし、先輩徒歩五分ですって! 行きましょう。

 はい、行きましょう。お前らも和菓子派だよなあ!?」


俺は興奮したように言った。和菓子は上里さんの好きな食べ物

ランキング堂々の一位である、行かない理由が無い。すると

静かに手をあげ、異論を唱える者が居た。


「残念私は、洋菓子派よ」


「なっ......貴様、裏切ったな!?」


俺は思わず、声を上げた。


「フッ......趣味嗜好で貴方と対立するのはこれが初めてかしら。

 今まで同じ紅茶派で広義に言ったところの爬虫類好き。

 そして、嫌いな物が多い。様々な共通点を持っていた貴方と

 好みに関する話題で対立するのは此方としても、本意では無いけれど

 私は、私の好きな物を貫かせて貰うわ」


「カっ......そうか。そうかよ。それでこそだ。俺も精々和菓子

 好きとしての力で抵抗してやるぜ!」


俺は睨み付けるように調月と目を合わせた。


「同じ目標を持って突き進んでいった相棒が意見の食い違いにより

 突如としてライバルになり、互いの理想の為、力を合わせる。

 ベタだけど嫌いじゃない......」


「私達は一体何を見せられてるのかな」


「・・・さあ......」


「きっと、到底ボク達には理解し得ない事が起こってるんでしょう」

 

「はい、其処。雪加と先輩と幻中と小戸森!」


急に指名されて三人は戸惑う。


「和菓子と洋菓子どちらが好きか、お答え頂けますか?」


「調月さん、怖い! 殺気飛ばさないで! 祐也君が来るまえは

 そんなキャラじゃなかったよね!? 私は洋菓子だけど!」


先輩は調月の蛇睨みに耐えかねて、悲痛な声をあげる。


「和菓子に一票」


しかし、そんな調月の放つ覇気を物ともせずに

和菓子へと票を入れるものも居た。


「......え、ええ」


小戸森はまだ、迷っているようだ......多分、迷ってるのは

自分がどちらを好きか、ではなく調月と俺、どちらを取るかで

悩んでいるのだろう。


「・・・和菓子で」


そして、またもや和菓子へと票が入った。遠慮がちだが

まるで、自らの信念を突き通すように幻中が票を入れたのだ。


「幻中先輩!?」


小戸森は自分と同じように、迷うだろうと思っていた

幻中が案外、直ぐに票を入れたので驚いたらしい。そして

洋菓子に一票、和菓子に二票入っているので小戸森が和菓子へと

票を入れれば、完全に和菓子の勝利となる。


「......っ」


調月は顔をひきつらせて、苦い顔をしている。自分の勝ち筋が

小戸森に残されていることを悟っての表情だろう。

まあ、小戸森が洋菓子派だとしてもあいこになるだけだが。


「じゃあ......その、ボクは和菓子派で」


そして、第一次和菓子VS洋菓子の対決は意外にも俺の圧勝で

幕を閉じてしまった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


雪加は柏餅、俺は蓬団子、幻中は桜餅、小戸森は酒饅頭

調月はお萩、先輩は白玉ぜんざい。各々が好きな物を注文して

席に座っていた。


「いやあ、私を合わせて6人。かなり多い気がするね」


先輩が皆を見て、圧巻とばかりに言う。


「確かに、喫茶店に来るメンバーとしては多いかもですけど

 部活の全メンバーとしてはかなり少ない方ですよ」


「......この部活、滅茶苦茶」


雪加は若干引くように言った。


「それを言わないで、勘解由小路さん。分かってるから」


帰宅部、美術部、科学部、吹奏楽部人口が少なそうな部活を見ても

全て部員は二桁であるのにこの部活はやっと最近6人になったばかりだ。


「でも、今年先輩と勘解由小路先輩が入ってきたので

 一気に増えましたよね。ボクも今年に入りましたし.......」


涙目になる先輩を小戸森がフォローする。


「新入部員たったの3人......ああああ」


しかし、先輩のネガティブモードは止まらない。

小戸森のフォローが逆効果になってしまった。


「まあまあ先輩、落ち着いて和菓子でも食べましょうよ」


俺は珍しく荒れる先輩を宥めながら、調月の方を見ると

何やら震えていた。


「......和菓子、洋菓子は本当のところどちらでも良かったけれど

 貴方に負けたと思うと、屈辱的で悔しいわね」


放っておこう。


「先輩、まだ宗里先生からの返信来ませんか?」


「うん。全然来ないね。既読すらついてない」


割とマジで死んでないだろなあ。あの、先生。

それから暫く他愛ないような、会話をしていると突如、先輩は

思い付いたように言った。


「あ、そうだ暇だし折角だからさ祐也君と勘解由小路さんの

 昔話でも聞かせてよ!」


「嫌です」


俺は即答する。人には掘り返されたくない過去というものがあるのだ。

例えば、意味の分からない設定を作り妄想の力を使う自分に酔っていた

とかな。


「良いじゃないですか、先輩。面白そうです」


小戸森まで何を言っているんだ。


「この前、私のことは色々と言ったのだから貴方の話も

 聞かせないと不公平だと思うわ」


三人の猛攻を受け、タジタジになりながら俺はスッと雪加に

助けを求めた。すると


「祐也......私は、知らない」


若干、哀れみの目を向けられた後に目を逸らされた。

......この柏餅女。クソ、天使の小戸森に裏切られたなら

女神の幻中に頼るしかない。


「・・・すいません」


最早、助ける術は無いと言わんばかりに幻中は雪加に

倣って目を逸らした。まもまもまでが俺を見捨てるというのか?


「チッ......はあ、分かりましたよ。その変わり長くなりますよ。

 後、雪加! お前の過去もバラすんだからな!? 良いのか?」


俺は助け船を出さなかった雪加へと腹いせのように言う。


「......あ、やっぱりその話止めてくれない?」


すると、幾つか厨二病のコイツでも話されて欲しくない

過去があったらしく、俺に待ったをかけてきた。


「もう、止まれねえからよお......お前の話題ばっかり出してやるよ」


「じゃあ私が祐也の恥ずかしがってる奴を話す」


「もう、面倒臭いから互いが互いの過去を暴露するってことで

 良いんじゃないかな?」


いや、何だこの俺とコイツが損しかしない催し。


「祐也......覚悟は出来ている?」


雪加は俺より黒歴史が少ない、というか今も進行形で

刻んでいっているせいで其処まで苦ではないらしく乗り気だ。

......やってやる。


「ああ、そちらこそ覚悟しろよ?」


この時の俺は理性が吹っ飛んでおり、この話が

どれだけ長くなるのか検討もついていなかった。

はい、殆どの方が察していると思いますが次回から過去の話になります。

過去の話が終わっても、まだまだ書きたいことは色々と有りますので

恐らくこのシリーズは少なくとも後、1年程続くと思います。

改めて、宜しくお願いします。 

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