何時も通り
今回は頑張って一万2000文字程書きました!
どうぞお楽しみ下さい。
人生とは、自分にとって奈落の底のようなものだった。
深すぎる底からは、上から射し込む光さえも良く見えない。
結果として、周りが何一つ見えなくなり、正しい判断さえも出来なくなる。
『幽霊の正体見たり枯れ尾花』という言葉が有るが自分にとっては
枯れたススキの穂が出す音でさえも、自分を嗤笑する言葉に聞こえた。
道徳の教科書もこの底から這い上がる方法は教えてくれない。
この痛みから、苦しみから救われる方法は自ら考えねばならないのだろうか。
もし、そうだとしたらこの伽藍堂な頭で、そんな方法を果たして
考えることは出来るのだろうか? いや、無理だろう。
なんにしろこの頭脳が馬鹿みたいに考えてたどり着く思考は一つだった。
それは自分の頭が悪いのか、それとも別の人間でさえもこのような
状況に陥ればこのような思いになるのか。自分には分からなかった。
嗚呼。
死にたい。
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「う」
きつい風邪が吹き、黒い雲により世界が光を失い朝方のような
暗さを辺りが呈している午前7時。昨日に比べてい幾らか楽になった
体に鞭を打って、学校へと行く。頭痛はだいぶ引いたが喉の痛みは
依然として続いている。
「あ、なんか居る」
学校まで後少し、というところで既視感を覚える人影が見えた。
あちらも、此方を見ている辺り俺の存在に気づいたようだ。
「うーす」
俺はそいつへと軽く挨拶をする。
「お、おう。よう、上里」
其処には山本の元、彼氏であり俺と対立した過去を持つ井上憂がいた。
あれほど、謝ったというのにまだ俺と顔を合わせるのが気まずいようだ。
「よう、井上。そういえば、結局山本がどうなったとか知ってるか?
幻中から聞いてないんだが」
俺がふと気になったことを口にすると、井上は苦い顔をした。
「俺も良くは知らないが、山本に荷担していた女子生徒達は停学。山本は
退学処分になったみたいだ。岬川の校則は緩いかわりに、非行には厳しいからな」
「質問、虐めは非行じゃないんですかー?」
俺はこの高校に巣くっている虐めのことを揶揄してそう言う。
「いや、俺に言われても......まあ、確かに虐めはこの学校多いよな」
中々、話のわかる奴だ。
「前科部、なんていうふざけた部活があるぐらいだからな」
実のところ、調月や白嶺先輩がどう虐められているかは
詳しく知らないのだが。
「ふざけた部活って......お前其処の部員だろ」
「だからふざけた生態してるだろ?」
ふざけすぎて、某変な生き物の図鑑に載せられるまである。
「確かに」
納得すんな。
「それに考えてみろ、最近入った雪加入れると滅茶苦茶キャラ濃いぞ?
毒舌陰キャ、調月。無口ボクっ娘、小戸森。生徒会長、芦原先輩。
クール&ミステリアス、幻中。ゴスロリ厨二病、勘解由小路。
変態にして陰キャの頂点、非リアヲタク、上里。最強メンバーが揃い踏みだ」
もう、アニメ化しても良いレベル。絶対俺円盤買うぞ。
「......確かにそう言われると個性的な人が多いな」
「だろ? というか、そんな個性的な俺と居てお前の面子は
大丈夫なのかと聞きたいんだが」
俺がサディスティックな笑みを浮かべて言うと井上は
それを鼻で笑った。
「んなこと、知るか。俺は面子よりも自分らしさを尊重する」
はい、典型的なイケメンでました。爆発しろ。
「......どうなっても知らないからな」
「ああ、そもそもお前が俺を心配する義理なんて無いだろ」
「まあ、それもそうか。話は変わるがお前、調月にも礼は言っておいた方が
良いと思うぞ。山本の本性を暴くのに結果的に貢献してくれたからな」
これでも、調月には本当に感謝している。勿論、俺の身を案じてくれた
小戸森にも、決めつけずに慎重に調査を入れてくれた宗里先生にも、
......信頼も期待もするな、なんて偉そうに宣った手前言いづらいが
俺のことを信じてくれた幻中にも感謝している。
「ああ、分かっている。きちんと、調月には礼を言った。
後日、改めて家に礼を言いに行きたいと言ったら激しく拒否されたが......」
調月が激しく拒否する様子は想像に難くない。理由は毒親のせいか
または、単純に来てほしくだけだったか。
「まあ、調月だからな仕方がない。無愛想が人間の皮着て
歩いているような奴だし」
俺が苦笑しながらそう言うと後ろに突如、寒気を感じた。
嫌な予感。
「あら、性犯罪者兼ストーカーの卑屈が人間の皮を着て
歩いているような、貴方にそうまで言われるとは光栄ね」
修飾語が多いなオイ。後、性犯罪者兼ストーカーの卑屈って何。
「うわっ!?」
井上は突然現れた紫に驚愕の声を上げた。対して俺は至って冷静。
影が薄くて近寄っても気付かれにくいのは自分だけではないと知れ、調月。
「よう、毒」
其処に居たのは前科部、陰キャ女子代表調月だ。しかし、口の悪さは
何時もと代わりないのだが、少し外見に違和感を覚えた。気のせいだろうか。
「最早、毒蛇ですらなくなっているわね......せめて蛇を
付けて頂戴。おはよう」
あ、其処は拘りあるのな。
「つ、調月か。お、おはよう」
井上はまだ少し動揺しながら、挨拶をする。
「井上......友太だったかしら? おはよう」
「憂だ! 誰だよ友太!」
友太とかいう、謎の名前に間違えられた井上が憤慨する。安心しろ俺も
名前忘れられたり、山本とかいう掠りもしない名字に間違えられたから。
てか、本当に誰だよ友太。探したらこの高校にも居そうな名前だな。
「あらそう、ごめんなさい。私、自分に関係の無いことは
直ぐに忘れてしまう部類の人間なの」
これは酷い。
「井上、コイツはこういう奴だ。諦めろ」
「あ、ああ......」
調月のあまりな態度に井上が若干困惑する。
「お前、俺以外にも容赦無いのな」
「あら、私がきつく当たるのは基本的に貴方だけよ?
何か私がしたかしら?」
ヤバい、コイツさっき名前間違えたのもガチみたいだしそれ以前に
人の名前を間違えることに失礼とかそういう考えを持っていない。
「い、いや何も......」
井上は山本の件での恩を感じているせいか、微妙な表情で
何も言わずに黙っている。
「そう、ならいいわ。それよりも貴方、風の噂で聞いたのだけれど
随分、勘解由小路さんは女子に人気らしいわね。同じ転校生がこのザマなのに」
グサッとくることを言いますね。
「そう言えば、そうらしいな。上里のクラスにまた転校生が来たって
噂になってたぞ」
なんせ、転校生が来る前から情報が噂になって出回る様な学校だからな。
来た後のことなんて容易に想像出来る。
「それにしても、また一年三組に転校生が来るなんて......貴方の
存在感が無さすぎて教師が忘れていたとしか考えられないわね」
流石に山本の件にかなり関わった人間なんだからそんなことは無いだろう。無いよな?
「い、いや流石にそれは無いだろ......多分」
おい、其処。不安になること言うな。
そんなこんなで話し合っていると、教室の前にまで着いてしまった。
「じゃあ、上里。またな」
「さよなら。下村君」
誰だよ下村。
「おう、またな」
井上の二の舞になり、若干ショックを受けながらも俺は
調月と井上にそう言って別れた。
「うーす」
俺は何時も通り、幻中だけしかいない教室へと軽く
挨拶をしながら入った。
「・・・おはようございます」
幻中も変わらず、何時ものように言葉を返してくる。
「おう」
俺が挨拶を返してくれた幻中に再度そう言い、荷物を
片付けていると幻中が不意に話しかけてきた。このパターンも
何時も通りと言えば何時も通りだ。
「・・・御体は大丈夫ですか? 昨日休んでいたようですが......」
幻中が独り言のようにボソッと言う。これも何時も通りだ。
「ああ、お陰様でまあまあ良くなった。完治とは言えないがな」
それでも、幻中が心配してくれたのは少し嬉しい......気がする。
「・・・そうですか。お大事にしてください」
幻中の言葉は何処か無機質で無感情な風に聞こえるが俺は
その言葉が他人事ではない、真に自分を心配してくれて向けられた
物であったと感じた。
「ああ、分かってる」
それから、20分後。教室内は殆どの生徒が集まり、騒がしく
なっていた。こうなったら、俺と幻中は完全に影の住人。
しなくてはならないことは一つだけ、きらびやかな生徒たちを横目に
本を読むことだけだ。
「雪加ちゃん、私も今日は弁当なんだ~。一緒に食べよ?」
「分かった」
「雪加ちゃんって、何処から引っ越してきたの?」
「此処より、北」
「ええ~北じゃ、分かんないよ~。あははは」
どっと、笑いが起きているのは昨日俺の看病を何故かしてくれた
雪加の机だ。俺なんて看病してもらったもんね、お前らよりも
俺の方がアイツのこと詳しいもんね......駄目だ。アイツが人気者過ぎて
マウントを取る相手を間違えてしまった。アイツの周りの連中にマウント
とってどうするんだよ。
「まあ、前よりも今の方がアイツにとっては幸せなのかもな」
つい、心の声が口に出てしまった。幸い、幻中には周りが煩いのと
本に集中しているせいで聞こえていなかったようだ。しかし、切に願うことだが
アイツにはこの学校で生きやすい『居場所』を見つけてもらいたい。
俺の二の舞にならぬよう。別に俺は今の現状に満足しているが。
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「調月」
放課後、雪加は教師と転校してきたこととかの話が有るとかで
職員室に行き、何時ものように一人で帰ろうとしていると
最近出現率が本当に高い、紫がいた。
「・・・・」
いや、無視かよ。此方の言葉は十分聞こえたと思うのだが。
「おい、調月」
「・・・・」
俺は調月の横を歩くようにして、もう一度大きめの声で話し掛けた。
しかし、調月からリアクションは返ってこない。
「調月......?」
俺は調月の雰囲気が何時もと違うことに気付き、再度話し掛けた。
何時ものように、意図的に俺を無視していると言うよりも
呆然としていて、俺の声が届いていないような。そんな感じだ。
「......煩いわね。何度も言わなくても聞こえているわ」
やっとのことで此方に反応した調月の反応はこのようなものだった。
「いや、気付いてたなら返事してくれよ」
「......ごめんなさい」
調月は割と真面目なトーンで謝る。
「ごめんなさい、って。別に謝って貰いたい訳じゃないが......
お前なんか変だぞ?」
今日の調月は日頃の調月なら絶対にみせない隙をみせまくっている。
それに声色も何処と無く、弱っているような気がした。
「変、とは失礼ね。貴方の方が余程変よ」
一見、台詞だけ聞いてしまえば何時もの調月だが、雰囲気といい
声色といい、発言といい、調月の端々から何時もと違うところが窺える。
「はいはい。......調月、究極の部外者にして無関係の極みの俺が
一つ聞かせて貰っても良いか」
俺は敢えて、暗に自分が今からする質問は興味本意でしかないと強調する。
「どうぞ」
調月は文句一つ言わずに、ボソッと俺が質問をすることを許可した。
「じゃあ、聞くが......ってこの展開前も見たな。まあ良いか。
お前がさっきから、放心状態にあるのはその腕の傷が原因か?」
俺は人差し指で制服の袖口の丁度入り口部分辺りに見え隠れしている
傷を指して言った。朝、調月の外見に違和感を持ったのも無意識に
間違い探しのように見え隠れしているその傷が見えていたからなのだろう。
「......っ」
俺がそう言うと、調月は驚いたように傷の部分を隠した。
「安心しろ。周りには誰もいない」
朝の調子はやっぱり無理をしていたのだろうか。今の調月は
弱った小動物のようで、何時ものトゲトゲしさが全くない。
......不謹慎かもしれないが、少し可愛い気がする。
「......何時から気付いていたの?」
「質問に質問で返すところも、隙を見せないお前らしくないな。
気付いたのは、まさに今。お前に声かけた時辺りだ」
「そう......」
俺の言葉を聞きながらも、調月は自分の腕の傷を悲しそうな目で
見つめる。
「まあ......あれだ。立ち話もあれだし、折角のピカピカの高校生
なんだから、青春を味わうためにも公園でも寄って行こうぜ」
俺は下校通路から少し離れた位置にある人気の少ない公園を
指さして軽い口調で言う。
「......何故、ナチュラルに私が貴方に相談を受けてもらう流れに
なっているのか分からないのだけれど」
「お、少しは毒線に毒が溜まってきたみたいだな。ま、取り敢えず
言いづらいことは伏せても全然良いから、話してみろよ。
なんか、お前をこのまま帰らせたら寝覚めが悪そうだし」
「それでも、私が貴方の安眠を保障する義務は無いわよね。
というか、貴方が質の悪い睡眠をとるのは此方としては面白いの」
こいつ、少し元気が出てきたからって毒づきやがって。
「頼む、調月。俺の安眠の為に相談を受けさせて貰えないか?」
「......要求内容が前代未聞だけど......まあ、仕方がないわね。
そこまで言うのならば、吐露させて貰うわよ」
「おう、さんきゅ。俺の自己満足に付き合ってくれて」
そう、あくまでもこれは自己満足。恩を売っているわけでも
何でもない。今日の夜の安眠の為にも話を聞いておきたいと言う
自己欲求を叶えてもらうために、調月に相談役をさせてもらうことに
しているのだから、寧ろ俺が借りを作っていることになる。
「ええ、貴方の自己満足に付き合ってあげるのよ。
気持ちが晴れやかにならなければ、責めるから」
「そこに関しては保障しない」
そんな言葉のキャッチボールだか、ドッチボールだか
分からないような言葉を交わしながら、幾つか信号を渡り
公園へとたどり着いた。
「飲み物は何かご所望かしら?」
公園へ着くと調月は自販機の方へと無言で進んでいき
立ち止まって聞いてきた。
「え、いや......良いのか?」
「貴方から相談役を買って出たとは言え、話を聞いてもらうのは
私の方よ。相談料として受け取っておきなさい」
「じゃ、じゃあ、ミルクティーで」
俺は恐る恐ると、調月に頼んだ。意外に調月も良い奴なのかもしれない、と
思っていると調月は自分の分の紅茶と俺が頼んだミルクティーを持って
此方へと向かってきた。
「はい、150円よ」
そして何故か金を要求してくる。
「は? えと、相談料は?」
「私が、貴方の分まで自販機のボタンを押して、持ってきてあげる
という労働が相談料よ。何か、勘違いしていないかしら?」
一時でもこいつを見直したのが間違いだった。
「あ~はいはい。150円な」
俺はゴソゴソとリュックを漁り財布を探す。
「え、いや。あの......」
「ほい、150円」
俺は、財布から丁度百円玉と五十円玉を取り出して、調月に
渡した。
「あ、あの......冗談のつもりだったのだけれど」
「へ?」
俺は腑抜けた声を出す。
「流石に私でもこんな詐欺まがいのことはしないわよ」
「いやあ、調月だったらやりかねないなと思って......」
「......私をなんだと思っているのかしら」
毒蛇。
「取り敢えず、代金は要らないから彼処のベンチにでも
座りましょう」
「了解」
俺達は公園の隅の方にある、古びたベンチに腰掛けた。
「なんか、この前もこういうことあったよな」
あのときは公園ではなく、喫茶店に入ったが。
「ええ、貴方と最近ずっと一緒にいると思うと、ゾッとしないわ」
調月は皮肉たっぷりに言ってくる。確かにこの前も俺の自己満足
みたいなものに付き合わせてしまったし、悪いとは思っている。
「すまん。俺の好奇心なんていうしょうもないものに付き合わせて」
「......まあ、あのときは私としても、その、気持ちが楽になった訳だし
別に謝る必要性は無いわ」
「そう言って貰えると嬉しいがな」
実際、俺は調月の話を聞いていただけで何も助けになるような
ことはしていない。しかし、その話を聞くという行為だけで
調月の気持ちが楽になったのなら嬉しいことだ。
「それじゃあ、雑談は此処までにして本題に入りましょうか」
調月の表情が一変して険しいものとなる。
「分かった。じゃあ、改めて聞くがその腕の傷はどうした?
親にやられたか?」
この前の調月の話を聞くに調月の親は、調月に暴力を振るうことが
多々あるらしい。
「それだったら、まだ、諦めもついたのだけれどね」
調月は宙を見つめながら、言う。
「じゃあ、何で?」
俺がさらに聞くと、唇を噛みながら調月が口を開いた。
「自傷......よ」
自傷、読んで字のごとく、自分で自分の体の一部を傷付ける行為だ。
主に精神的苦痛やトラウマなどから引き起こされることが多いと聞く。
「調月が自傷、か。原因は親か生徒か? あ、ワンチャン
俺の可能性もあったりする?」
俺は少し、感情的になりかけている調月に対して
冷静に分析する。
「てっきり、笑うと思ったのだけれど。笑わないのかしら?
無益で、意味のない、馬鹿みたいなことだって」
調月は声を震わせながら聞く。
「あのなあ、そこまで自分で理解してるならやるなよ。
どうせ、お前のことだから原因は知らないけど、勢いで
傷を付けた後、冷静になって、自分が惨めになったんだろ?」
「・・・・」
「図星か」
俺は一先ず、調月が何かを話すまで待とうと思いミルクティーを啜った。
砂糖が少なめ且つ香り高く自販機のもののわりに中々旨い。
「ふ、其処まで心を見透かされるといっそ気持ちが良いものね」
調月は依然として声を震わしながらも、無理にひきつった
笑みを浮かべて言う。
「お前はこんなこと言われると面白くないだろうが
俺とお前って結構共通点多いからな。自分にその状況を
当て嵌めて、それを客観的に分析すれば分かる」
「......そうね、私と貴方。確かに似た者同士かもしれないわ。
どちらも猫背だし、嫌いなものは多いし、暗いオーラを
纏っているし、捻くれているし」
あ、それ自覚あったんだな。
「てっきり、俺なんかと似た者同士にされたらキレるのかと
思ったが......自棄に素直だな」
今日の調月は何時もよりも優しいというか、柔らかい。
もしかして、これがこいつのデレなのか。デレにしては
固い気がするが。まあ、調月がデレて滅茶苦茶アマアマになっても困るが。
「別に。全てが同じとは言っていないわよ。あくまで共通点が
多いと言う点は納得せざるを得ないでしょう。実際、そうなのだし。
私が貴方を好きになれないのは、ある種の同種嫌悪というのも
あるかもしれないわね」
「同種嫌悪なら、俺にお前は自分を自己投影して自分の嫌な部分を
嫌悪していることになるが、お前って別に自分嫌いじゃないだろ」
なんなら、調月は自分の毒舌や猫背、腐った瞳を肯定している。
「まあ、確かにそうね。自分のことは大好きよ」
調月は胸を張って言う。
「じゃあ、俺のことも大好きだな」
「待って、明らかにその理論はおかしいわ」
調月は手で俺の謎理論を静止してくる。
「すまん。話が逸れてたな。それで? 自傷の原因とかは
聞いても良いのか?」
調月が俺と似た者同士だとすらならば―――誰だってそうかもしれないが
プライベートについて一方的に聞かれるのは嫌な筈だ。
「ええ、貴方に打ち明けるにはあまりにも屈辱的な内容だけれど
聞いてくれるかしら? 笑いたかったら、笑ってくれても構わないから」
「ああ、分かった。面白かったら、遠慮なく笑わせてもらう」
売り言葉に買い言葉、ではないが、弱気な調月の言葉を俺は
フォローするでもなく、只、素直に同意した。調月としても
変に気を使われるよりも、いつも通りの方が気が楽だろう。
「そうして頂戴。じゃあ、本題に入るわね。
貴方が休んでいた昨日の夜のことなのだけれど」
「昨日の夜と言えば、月曜日だな」
俺の確認に調月は頷き
「前々から私の母親はあの部活にいることに不満を持っていたのよ」
と、行った。あの部活とは自然観察部のことだろう。
「それは......虐められる奴が集うような部活だからか?」
調月の親は世間体を気にするタイプだということが
前の話し合いで判明したので、そういった理由だと納得だ。
「いえ、私の母親は自然観察部が『前科部』何て呼ばれて蔑視
されているなんて、知らなかったの。只、スクールカーストの下位者に
なりやすい文化系の部活に入ることが気にくわなかったみたい」
「成る程」
其処で娘の健康を気遣って、運動部に入れる親はいるかもしれないが
自分が周りに良い顔をするために娘を運動部へといれようとする
ケースは初めて聞いた。
「それで、私もなんとか無理を言ってあの部活に入ったのだけれど
何故か今までは近所の人間と話していても『前科部』に関する情報を
仕入れてこなかったというのに昨日、誰から聞いたか、私の入っている部活の
正体がバレたのよ」
「正体がバレたっていうのは、自然観察部が周りから蔑まれている
部活だということがバレたってことか?」
「正解。それで......此処からがとても貴方に聞かれるのは屈辱的な
場面なのだけれど。親は私に今すぐ部活を退部しろといったの」
そりゃあ、世間体をそれほどまでに気にする親が娘がそんな部活に
入っていると知ったら辞めさせようとするだろう。
「ま、調月の親だったら当たり前だろうな」
「貴方に自分の親の性格が分かっているのも複雑だけれど兎に角そうよ。
そして、その......昔なら辞めても良かったかもしれないのだけれど
その、最近は少し愛着が沸いてきて......」
調月は柄にもなく、言葉につまりながら話す。
「つまり、今の前科部が好きだから辞めたくないと?」
俺は調月の言葉を要約して言う。
「な、勘違いしないで頂戴。嫌いではない程度しかあの部活に
好感なんて持っていないわ。その、只、他の部活は楽できなさそうだし
面倒臭いってだけよ」
「お前、そうやってたまに狼狽するからアイツにツンデレ
とか言われるんだぞ」
小戸森もかなりのツンデレだし、ツンデレ好きには堪らない
部活だろう。俺? 嫌いじゃない。
「話の腰をおらないでくれるかしら?」
調月は割りと恐ろしい殺気を放つ。
「あ、はい。続けてどうぞ」
これ以上、怒らせない方が身のためだ。こいつも最初にあったときと
比べると円満、とは程遠いがいくらか心を開いてくれた。険悪にならないようにと
気を使いまくらないといけない関係なら、必要ないと思うがわざと険悪に
なろうとも思わない。
「勿論、私が辞めたくないと言ったとき親は大激怒して
とても、罵倒されたわ。大概、何時もそういうときは私が
折れるのだけれど、今回は私が折れなかったから何時もより酷かった」
「それは、辛かっただろうな」
「ええ、関係のないことまで持ち出して逆ギレのようなことも
交えながら、口汚い言葉で罵られたわ。一時間以上」
基本的に共感能力が高くない俺でも調月が顔をしかめながら
話す内容は聞けば聞くほど辛くなってきた。
「それで?」
「最終的には11時頃になって、眠くなったのか母親が折れて
荒々しい足音をたてたり、扉を開けたりして、不満たっぷりに
寝室に入っていったわ」
ヤクザじゃないか。俺は本当に警察に通報したりしなくて
良いものか。
「私もその後、直ぐに寝ようとしたのだけれどその時の私の
メンタルは馬鹿みたいに弱っていて、親に吐かれた暴言が
ずっと、頭の中で繰り返されて、気が触れて来てしまったのよ」
なんとなく、話が分かってきた。
「それで、自傷に至ったと?」
「そう、分かりやすくカッターナイフで腕を軽く、ね。結局は
後先を考えなかった私が全て悪いのだけれど。傷の痕が残ったりする
可能性も有るのに、そんなことをした自分が本当に惨めで嫌に
なってきて......今に至るわね」
俺は実際に調月の母親に罵られたわけでもないし、何か命令された
訳でもない。しかし、
「お前と俺は違うんだから、お前の気持ちも言葉以外では
分からないが......お前は悪くないと思うぞ」
無責任かもしれない。他人事だから、言えることかもしれない。
もしかしたら、当事者しかわからない自虐的な感情なのかもしれない。
しかし、俺が調月に言える......いや伝えたいのはそんな言葉であった。
「無責任だと思うがあんまり自分を責めるなよ。それこそ、生活の
モチベーションの下降に繋がって無益なことだと思う。俺と同じで
賢しいお前なら分かるだろ」
俺は頭ごなしに、調月を肯定するでもなく、否定するでもなく
話を聞いて感じたことを言う。
「そう、ね。済んだことを後に活かすわけでもなく
つつき回すのは時間の使い方として無意義だと思うわ」
調月は険しい顔をほんの少し崩して言う。今までこんな真面目な
話を異性と交わすことが殆ど無かったため、冷静を気取ってはいるが
中々緊張していた。だが、昔のことの様に感じる郊外学習で
幻中に夜連れ出された時よりは緊張していない。慣れとは怖いものだ。
「だろ? そういえば、その傷。消毒とかしたのか?」
調月にそう聞くと、調月は顔を横に振った。
「あのな、あんまり見てないが結構大きい傷だっただろ。
ちゃんと適当な処置をしないと、膿んだりして大変なことになるぞ?」
俺が珍しく人の心配をしていると言うのに調月は
何が面白かったか笑いだした。
「ふふっ、ちょっと笑わせないでもらえる?」
「何がツボッたんだよ」
「いえ、その。貴方が私の親よりも親らしいことを言うから......」
「あ、確かに」
確かに虐待紛い―――俺は虐待だとおもうが、そういった行動を
する親と傷が膿まないかを心配する俺だと、どちらが正常な親らしいかで
競えば、此方に軍配が上がるだろう。
「ご忠告、感謝するわ。家に帰ったら処置を調べてみる」
「ああ、もう自傷なんてするなよ。それと」
俺は先程から言った方が良いのか、言わない方が良いのか
考えていた言葉を言おうと口を開いた。
「お前の親、話を聞く限りだと言うと悪いが本当に危険だと思う。
警察とか児童相談所とか危険だと思ったら利用しろよ?
なんなら今、この場で俺が連絡しても良いが......」
調月はこの前、親のことを『少し性格の悪い親』としか見ておらず
周りに訴えるつもりはないといっていた。それが調月の考えなら
俺が無理に言うのも野暮な気がするが、それでも親のせいで自傷行為に
まで至っていると知れば、いくら正義感の弱い俺でも流石に見過ごせない。
「......そうね、考えてみるわ。もし、その時は貴方の
家に逃げ込ませて貰えるかしら?」
調月は何時もなら絶対にみせない、からかうような笑みを見せて言った。
ヤバい、いろんな意味で強い。少し理性が飛びそうだった。
「いや、流石に親から逃げて男の家に駆け込むのは本末転倒
過ぎないか? 襲われるリスクがあるぞ?」
「ヘタレの貴方なら大丈夫よ」
何で素直に、信頼してるって言わずに毒を吐いちゃうかなあこの子は。
「まあ、そういうことなら家も近いわけだし、頼って
もらっても構わないが。但し、お前の母親が玄関の扉を
破壊して入ってきたら止めれないからな? 親父がいたら別だけど」
上里と調月どちらも非力って、それ、皆言ってるから。
「流石にあの親でもそんな傍若無人なことはしないわよ......恐らくは」
・・・・・・。
「やっぱり来ないでくれ。痛いのヤダ、怖いのヤダ」
「なんというか......まあ、私と貴方が似ていると言うところは
やはり、正しかったようね」
呆れた様に溜め息を調月は吐く。
「誰だって痛いのと怖いのは嫌だろ」
「それを格好つけてでもやろうとする者もいるものよ」
「俺が格好つけてやっても蛮勇にしかならないと思う」
蛮勇は勇気にあらず。蛮勇は死を招く。って言葉もある。
身の程をきちんと弁えておかないとな。
「それもそうね。それじゃあ、そろそろ解散しましょうか。
幾らかは気持ちが楽になったわ。ありがとう」
「こちらこそ、今日は安眠出来そうだ。ありがとう」
俺の返し方、普通に考えるとよくわからんな。一応、帰り道は
同じなので自然と別れるまで俺と調月は歩いて帰り、二人とも
分かれ道で立ち止まった。
「じゃあ、此処までだな。またな、調月」
「ええ、もし何かがあったら上里家にお邪魔させてもらうわね。
さようなら、上里祐也」
俺の言葉に調月はもう一度、表情を崩してそう言うと
そのまま俺に背を向け帰っていった。
「なっ......」
俺はそれから、暫く動くことが出来なかった。何時も、『貴方』としか
言わない調月が意味ありげに俺のフルネームを呼んだのだ。一体、
これは何のメッセージなのだろうか。しかし、確実に分かることが一つだけある。
それは......
「やっと名前覚えたか、あいつ」
その日の夜は熟睡出来た。
最近、ランキングの方をちらっと覗かせてもらいました。
下の方の方でも何千ポイントとあって、目が回りそうでしたw
いつか、ランキング入りすることを夢見てこれからも書き続けます!
応援よろしくお願いします!......ということで評価、ブクマを貰えると嬉しいですw
勿論、感想も滅茶苦茶モチベーションに繋がります! 皆で前科部を
ランキングに乗せましょう! えいえいおー!
後、Twitterも始めました。前科部の更新をそちらでも伝えていけたらなと
思っています。名前は『翼蛇猫:前科部 幽霊憑き小説家になろう』、です。Twitterの方は低浮上の可能性
大ですが宜しくお願いします。




