突撃
学校、人間、勉強、全てから解放された夕方。大きく息を吸い込んで大きく息を
吐く。茜色の夕日は美しいというより眩しく、見とれることは出来ない。
自分では気付いていなかったようだが、かなり体に疲労がたまっていたようで
一歩、一歩と踏み出す足がとても重い。
「.....そう考えると、毎回、毎回色んなトラブルやイベントに出くわしながらも
体一つ壊さずに生活している主人公達は超人だよな」
勿論、自分に体力の持ち合わせが全く無いことも起因しているのだろうが
それにしても最近は色々と問題が多かった。疲れからか意識が朦朧としてくる。
なんとか、無人の家に着くと『ただいま』とも言わずに無言で自分の部屋に
行きベッドに潜り込んだ。硬く、薄っぺらい自分好みの布団を体に巻いて
そのまま目を閉じると何とも言えない多幸感が押し寄せてくる。
「......幸せ」
俺はそのまま、静かに目を閉じた。幸い、明日は土曜日だ。
どれだけ寝ようとも、誰も文句を言うまい。
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土日を何時ものように、だらだらして過ごし月曜日、
俺は目を覚ますと喉に違和感を覚えた。
「まさか、な」
ゴクリ、と唾を飲み込む。すると、喉に何とも言えない痛みが走った。
試しに頭に手を当てると少し熱く感じられ、おまけに頭痛もする。
何処と無く体が重く、しんどい。
「これは完全にやったな......」
言うまでもない。風邪だ。鼻水は無いが、咳も出る。
金曜日しんどかったのも風邪をひきかけていたのが原因だったのだろう。
精神的な疲労が溜まって免疫力が落ちたところに病原菌がきて王手。
そういえば宗里先生も風邪をひいていたようだし、流行っているのもかも
しれない。兎に角風邪だ。クソっ、体弱って風邪になるなら土日になってくれよ。
何で丁度学校が始まった日にひくんだよ。運悪すぎか。
風邪は俺のようなぼっちには一大事。なんたって休んだせいで勉強が
分からなくなってもノートを写させてくれたり教えてくれる人物がいないのだ。
かといって、アイツの厨二病じゃあるまいし無理に登校して拗らせたら大変だ。
此処は、一日休みをとろう。親父は珍しく5時出勤だったので今は家にいない。
コミュ障の俺は死ぬほど家族以外との電話が嫌いなのだが自分から
するしか無いだろう。なんたって電話で在庫があるか確認するのが嫌で
売り切れ続出のゲームをわざわざ電車を乗り継いで有るかも分からないのに
買いにいくレベルだからな。因みにそのゲームは無かったのでネットで買った。
じゃあ、最初からネットで買えよ俺。
「取り敢えず、飯でも食うか」
風邪薬は常備されているのだが、その全てが食後しか飲めない奴だ。
正直、唾を飲むだけでも喉が痛い状況で飯を食うのは苦痛でしか
無いのだが.......まあ、仕方がないか。風邪の時は粥という
イメージで粥でも作ろう。豆知識だが、粥は消化によく風邪の時に確かに
良いが、柔らかいからといって噛まずに食べると胃に負担がかかって逆効果だ。
俺はキッチンに行き、米を研ぎ水を多めに入れて炊飯器にセットした。
早炊きモードで30分程だ。冷蔵庫には梅肉のチューブがあったのであれを
使って食べよう。俺は結構梅が好きだ。ニッキとか抹茶とか、干し芋も好きだ。
......おい、そこセンスが老人とか言うな。
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マスクを探すため、物置を漁っていると怪物が現れた。
紫色のノートに大きく『終末之誓約書』と、書かれている。
......俺が静かにそのノートを物置の棚に戻そうとすると風邪の症状か
ふらついてしまい、棚に凭れかかってしまった。案の定、棚が重力に
従って落ちてしまう。不幸中の幸いでその棚の板は一番下のもので
上にも大したものは乗っていなかった......筈?
『闇き夜道の導き』『昏冥の福音書』『世ノ果テ記録書』
『在りし日の夕闇』『不断なる濫觴』『画竜点睛』.......etc。
棚から落ちた物は全てがそんなことを書かれたノートだった。
.......見なかったことにしよう、うん。そうしよう。見るのは中二ぶりだろうか。
その数字が表しているのかは知りたくないが。兎に角、ここに放置するのは危険だ。
早く自分の部屋に持っていこう......風邪の日になにしてんだ、俺。
取り敢えず、誰も入ってこないであろう俺の部屋の机の中に
直すことでことを解決させた。ついでにマスクはその机の中に
入っていた。テンポよくことが進んで助かる。キッチンに戻ると粥が
炊けていたので茶碗によそって梅肉をかけて、軽く塩をふり手を合わせた。
「頂きます」
それを木製の匙ですくい、よく噛んで喉に通す。
「.......やっぱり痛いな」
柔らかく、出来るだけ噛んでいるため、殆ど液状化しているが
それでもやはり痛いものは痛い。なんとか、茶碗一杯を食べ終わると
直ぐ様薬を飲んだ。市販のものなので効くかは未知数だ。
「......今日は大人しく寝ておくか」
そう思い、俺がベッドにいこうとするとインターフォンが鳴った。
機械越しに顔を確かめると、そこには雪加の姿がある。
「.......はい」
一応、用件を聞くためにボタンを押した。これで向こうからの
声も聞こえる筈だ。
「学校」
「単語で話すんじゃない」
「行こう」
「述語で話すんじゃない」
「学校行こう」
「無理だ」
コイツの好意は嬉しいが、生憎休もうとしていたところだ。
「私のことなんてどうでも良くなった?」
重い。
「昼ドラのドロドロ展開はどうでも良い。風邪引いたんだよ。
今もかなり辛い」
「風邪......分かった。お大事にしておいて」
雪加は何かを考え付いたように言う。
「おう」
するとタイミング良く、インターフォンが切れた。
.......ちょっと待て。アイツ、『しておいて』って言ったか?
流石に言葉の綾だろう。だよな?
そろそろ、学校側が電話を受け付ける時間なので俺は緊張しながらも学校の
番号を確実に打ち込み、電話をした。
「はい、岬川高等学校です」
通話に出たのは向こうの教師だろうか。自棄に締まりのある声だったこともあり
体が石のように硬直した。
「あ、ええ、あ一年三きゅみ上里祐也です。
あの、朝から体調が良くないので休みます」
噛んだ、キョドッた死にたい。
「はい、一年三ですね。分かりました伝えておきます」
「あ、はい。よりょ、宜しくお願いします」
俺は速攻でそういうと、電話を切った。これだから電話は嫌だ。
そもそも、人間は情報の殆どを視覚情報に頼っているのだから、電話で滅茶苦茶
緊張するのも当たり前なのだ。俺は視覚情報有りでもコミュ症だが。
「そういえば、熱測ってなかったな」
体温計を持ってきて測ってみると、体温計の液晶は38度を示した。割と高い
じゃないか。調月め!.......自分で言ってなんだが八つ当たり甚だしいな。
しかし、38度は結構ヤバいな。明日、悪化するようなら医者にかかるか。
まあ、俺は基本的に寝れば治るタイプの人間なので寝れるだけ寝よう。
そう考え、俺は自分の半身と言っても過言ではない布団という至高の物体へと
体を埋めた。
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「ん、んあ? 5時か。滅茶苦茶寝たな」
寝たのが大体8時なので9時間も寝たことになる一日の三分の一以上だ。
どうにか重い体を起こして、ベットから降りるとなんとなく妙な感覚を覚えて
部屋を見渡した。 しかし、別だ変わったことはない。
......俺のベットの横に椅子を置いて厨二病が座っている以外は。
「おはよう」
「神出鬼没女子......需要あるのか?」
「ミステリアス属性祐也の好みに刺さってると思う」
なんでコイツ俺の好きな属性しってんの?
「人の家に不法侵入するのが、ミステリアスでたまるか」
「はい、徹也に電話で許可貰った。祐也が閉めてなければ扉も開いている
と思うから、勝手に入って良いって」
よし、あの父親殴ろう。そして、返り討ちにあおう。
「気持ちは嬉しいが、帰ってくれ」
「イヤ」
俺の言葉を雪加は一刀両断した。
「あのだな、お前が此処にいると俺の風邪が移る可能性があるんだぞ?」
「大丈夫、このマスク、医者用の良い奴だから」
雪加は口に付けているマスクを軽く揺らして言った。
「なんでそんなの持ってんだよ.......」
「祐也、体調はどう?」
呆れる俺を無視して、雪加は聞いてきた。
「どう、って聞かれると......良くはないな。
頭も痛いし、咳もでるし、喉も痛い」
正直に風邪の症状を申告する。
「そう、栄養ドリンク買ってきたけど飲む?」
雪加はゴソゴソと、野鳥のセッカが描かれているマイバックを漁り
栄養ドリンクを取り出した。
「薬屋で店員に相談したら、栄養ドリンクが良いって言われたから」
「ありがとな。じゃあ、飲ませて貰う。あ、レシート見せてくれるか? 払う」
俺がそう言うと雪加は、レシートをポケットから出し俺に渡し......渡そうとした
瞬間、ビリビリに破いた。
「ちょ」
「これくらい別に良い。祐也に借りも作れるし」
「いやでもな.....」
幾ら何でもコイツに払わせるのは気が引ける。
後借りってなんだよ。
「良いから、早く飲んで」
雪加は俺にグイっと栄養ドリンクを押し付けてくる。
酒コールならぬ栄養ドリンクコールかよ。
「ん、じゃまあ、頂きます」
栄養ドリンクって頂きますって言うものなのか疑問に思いながら
俺は栄養ドリンクを飲んだ。俺は栄養ドリンクの味が結構好きだ。
いやあ、旨い。本当に。栄養ドリンク大好き。栄養ドリンクと結婚したい。
「ご馳走様が聞こえない。もういっぱいが聞こえない。美味しかったが
聞こえない」
栄養ドリンクコールやめろ。
「薬は飲んだ?」
「一応、朝の分はな」
今まで寝ていたので、昼の分は飲めていない。
「じゃあ、ゼリー買ってきたからこれ食べて薬飲んで」
「おう、分かった......ってちょっと待て」
「何?」
「なんでお前、そんなナチュラルに俺の世話してんの?」
見舞いどころか、看病になってるし、コイツは俺の嫁かなんかかよ。
「祐也が心配だから。迷惑?」
「別に迷惑じゃないが......」
只、何と無く罪悪感を覚える。
「じゃあ、早く食べて、飲んで」
「ゼリーの代金は」
「いらない」
即答された。
「良いから、早く飲んで」
「分かった分かった、飲むよ」
雪加に渡されたプラスチックのスプーンでゼリーを掬い、食べる。
結構な量だが、簡単に食べることが出来た。今の俺、ラブコメの
主人公っぽくないか?
「ちょっと待ってて、水取ってくる。薬は何処にある?」
「いや、それくらい自分で出来るから」
「駄目、薬の場所を教えて」
・・・・・・。
「ダイニングのテーブルの上」
「行ってくる」
俺が何を言っても聞かなそうだと思い、そう言うと
雪加は風のように飛んでいった。
「一体、なんなんだよ......」
いや、例に漏れず雪加も世間一般で言うところの美少女なので
その美少女に看病されるなら役得なのかもしれないが......。
「治癒の力を持ちし禁断の果実をすり潰し、固めた聖宝と
在りし日の川から汲んだ黄昏の水、召喚」
訳、薬と水を持ってきました。
「厨二病を急に発症させるな。お前、部活でも厨二病全開だっただろ」
教室では大人しかった分、かなり焦った。
「それが私の存在意義」
大人になったら悶え死にそうな存在意義ですね。
「せいぜい、大人になってから死なないようにしろよ?」
そう言いながら、俺は雪加が持って来てくれた薬を水で飲んだ。
「大丈夫、私は永遠に夢見る少女だから」
夢見る少女じゃいられない人は居ても、永遠に夢見る少女とか
開き直ってる奴初めてみた。
「さいですか。ゲホッゲホッ」
咳をした後、胸のあたりがジーンと痛む。もしかしてこれが恋!?
「大丈夫?」
苦しそうな俺の顔を覗き込んで雪加が聞いてきた。
「悪いが、大丈夫ではなさそうだな。ゲホッゲホッゲホッ」
「病院、行った方がいい気がする」
心配そうに雪加は言う。
「明日になって改善してなかったら行く」
俺は何処と無くぶっきらぼうに答える。
「適当......」
雪加は呆れたような目で見てきた。
「別に良いだろ。それより、岬川高校は良かったか?」
俺は昨日から気になっていたことを聞いた。
「なんか......人が沢山集まってきて驚いた」
俺と何が違ったのか分からなかったが確かにコイツの周りには滅茶苦茶
女子が集まっていた。
「あれはなあ......まあ、寄ってきた中にこれからもつるみたいって奴が居たら
仲良くしといても良いんじゃないか? 俺は相変わらずボッチだが......」
まあ、俺はこれっぽっちもあんな連中とつるみたいとは思わないが
コイツには良いことかもしれない。
「考えておく」
確かに俺はコイツに前科部の実態について説明したが、あの学校の
殆どの生徒が虐めに加担していることは教えていない。
転校してきたばかりの雪加にその事実を告げることを俺は無意識に
拒んだのだ。出来ることなら、コイツには何も知らずに学校生活を送って
貰いたい。
「ああ、そうしてくれ」
俺がそう言うと、雪加は『それと』と言い、続けた。
「部活、自然観察部は楽しそうだった」
マスクで顔が見えずとも、雪加が笑っているのが分かり、俺は安堵を覚えた。
滅茶苦茶更新遅れました、すいません!
これからは大体、一週間に一回更新出来ると思います!
何時も執筆している機器が故障していて、スマホで書かせて頂いたので、何時もより読みにくいかもですが、ご了承下さい。
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