m'aider
「あ、祐也君に幻中さん」
俺と幻中が部屋に戻ると、先輩がそう言った。
「ただいまです」
俺は先輩にそう言うと、部屋の中に入る。
「二人とも何処に行ってたの? 心配したんだよ?」
「いやあ......まあ、色々あったんですよ。
兎に角心配掛けたみたいですいません」
「・・・ご迷惑お掛けしました」
俺が謝るとそれに続いて、幻中が頭を下げた。
「あはは、いいよ、いいよ。もうそろそろご飯が来る筈だから待っててね」
「そう言って貰えると助かります」
それから十数分後、部屋にノックが響き渡った。
「お料理をお持ち致しました」
「あ、はい。今開けますね」
先輩がそう言って、扉を開けると入ってきた従業員が様々な料理を
盆から部屋の真ん中にある食台に置き始めた。従業員は盆に乗せてある
料理が無くなると、廊下に停めてあるワゴンからまた料理を幾らか盆に乗せては
食台に乗せて、料理を全て置き終えた。
「御料理は以上で御座います。御料理をお召し上がりになられましたら部屋に
置いてあるロビーに掛かる電話でお申し付け下さい。食器回収の者が参ります」
お、おう。なんか自棄に此処の従業員礼儀正しいな。圧倒されてしまいそうだ。
従業員はそう言うと、足早に部屋から出ていった。
「それじゃあ、皆食べよっか。頂きます」
先輩が手を合わせてそう言うと、幻中達も手を合わせて
同じ言葉を言い、食べ始めた。
「頂きます」
俺もそれに倣って食べ始める。
「なあ、小戸森」
「どうかしましたか、先輩?」
「お前、この中で嫌いな料理あるか?」
小戸森は此方を訝しげに見つめて、首を振る。
「質問の意図が読めませんが......特に無いですよ?」
「そうかそうか、それは良かった」
小戸森は頭上に疑問符を浮かべる。
「ええと......ロクでも無いことなのは分かりますが、何が良いんですか?」
「いや、ほら。お前にこのスープやるよ」
俺がそっと小戸森の近くにつき出したのはかきたま汁的な奴だ。
うっぷ......。見ただけでも吐き気が。
「先輩嫌いなんですか?」
「嫌い。駄目。生理的飛び越して生物学的、物理的に無理」
体が拒否反応を起こす。特に卵と一緒に入った榎茸あれも駄目。
虚無と絶望の液体と言っても良い。ソシャゲとかだと闇に分類される奴。
「へえ、祐也君嫌いな物あるんだ」
小戸森と俺が話していると、先輩が横から入ってきた。
「そういう、先輩は無いんですか? 嫌いな物」
「あはは、勿論あるよ。料理だと煮物とか青魚とかが苦手かなあ」
「ほら、やっぱり先輩も有るじゃないですか」
ヤッベエ、俺も煮物無理だわ。
「まあ、一応ね?」
先輩ま苦笑しながら言う。
「あ、それとだな。小戸森、これとこれと、あ、これもやるよ」
俺はそう言いつつ、嫌いな料理を片っ端から小戸森に押し付けていく。
「え、ちょっ。多いですよ! ボクこんなに食べれませんって」
「小戸森、お前になら食べきれると信じているぜ」
俺はドヤ顔で親指を立てる。
「その信頼は入りません!」
小戸森が机をバンバンやって言ってくる。
「小戸森、食事中だぞ、机を叩くな」
「机を叩かせてる元凶は誰だと思ってるんですか!
それなら、先輩も好き嫌いなんて食べ物に失礼です、食べて下さい」
・・・・・・・・・・・・。
「そ、それだけはご勘弁を! いや、俺が悪かった小戸森この通り、この通りだ。
頼むから、頼むから、ろくでなしの先輩の代わりに食ってくれ」
俺は頭を食台に打ち付けて謝る。いや、だってあの料理を食べたら
俺が俺で無くなるきがするんだもん。
「いや、其所まで謝って貰わなくても良かったんですけど。
......はあ、分かりました。『ろくでなし』の先輩の為に
食べてあげますよ」
ろくでなしの部分強調するのやめてくれませんかね。
「ん? 調月、箸が止まってるぞ? どうかしたか?」
俺が向いた方には、無言で料理を凝視する調月が居た。サラダとかは
食べたみたいだが、エビフライやチーズがかかっているミニハンバーグを
明らかに残している。いや、サラダも良く見るとトマトが残して有るが。
「いえ、只、少し苦手な物が出ただけよ」
「例えば?」
「この中に有るので言えばチーズ、海老、それにトマトよ」
「多いな」
「貴方には一番言われなくないのだけれど」
調月は青筋を浮かせて、俺が小戸森に押し付けた料理を見る。
「いや、嫌いな物が多い同類の俺だからこそ言う」
「何ですか、その開き直り......」
小戸森がなんかぶつぶついってるけど知らん。
「あ、幻中さんは嫌いなものとか有るの?」
俺と調月のやり取りを見ていた先輩が言う。
「・・・特にはありません」
「凄いな幻中、俺なんか嫌いな物が多すぎて世の中辛いぞ」
初めての飲食店とか行くと、その料理に嫌いな物が入っているか
分からないので、写真付きの料理しか食うことが出来ない。
店員に聞く? ご冗談を。
「・・・いえ、別に......」
幻中は無表情で言う。
「というか小戸森、芋天が出なくて残念だったな」
俺は押し付けた料理を必死に食べる小戸森に言った。
「先輩、別にボクは四六時中芋天のことばっかり考えてる
訳じゃないですからね?」
「好きな天ぷらの具は?」
「......芋です」
小戸森は俺の質問に即答する。
「ケーキと焼き芋どっちが好き?」
「......焼き芋、って先輩さっきから狙って質問するのズルイです!」
小戸森は少し声を荒らげて言う。
「小戸森、冷静になれ」
俺は興奮する小戸森に優しく諭してやった。
「興奮させてるのは、先輩でしょうが!」
「小戸森、皆見てるぞ」
見れば、先輩達の視線は興奮して俺に怒る小戸森に集まっている。
「い、いやその......す、すいません」
興奮したせいで、俺と飯を食うときのテンションになっていたらしく
周りが見ていたことに気付き、顔を真っ赤にしてそう言った。
「あはは、小戸森さん祐也君とは何時もそんな感じなんだ」
顔が真っ赤になって今にも『カァァ』という擬音が付きそうな
小戸森に先輩は笑いながら言う。
「い......いや、その」
小戸森は先輩の言葉に戸惑っているようだ。
「先輩御名答。小戸森は何時もこんな感じですよ」
俺は含み笑いでそう言った。
「なっ......」
小戸森が『てめえ、何いってんだよ』みたいな風に睨んでくる。
「あはは、そっちの方が良いんじゃないかな。小戸森さんは」
先輩は笑顔で小戸森にそう言った。うわあ、邪気が無い。
「ええとその......そうですか?」
「うん、何時もの小戸森さんより自然な感じがする。
勿論、小戸森さんが嫌ならいいんだけどさ、出来れば
私たちにももうちょっと砕けた感じで話してよ」
「......努力します」
小戸森は縮こまって小さな声で言った。
「別に小戸森が素を見せるのは大好きな先輩の
前だけとかいう設定でもいいんだぞ?」
俺がそうからかうと小戸森はまたもや顔を紅く染めて
「ボ、ボクが先輩のこと好きなわけ無いですか! ほ、ほんの少し、
か、感謝はしてますけど......その、好きとか本当に有り得ませんから......」
そう叫んだ。いや、そんなに否定されると先輩傷ついちゃうよ?
「あはは、小戸森さんは祐也君のことが好きなんだね」
「だ、だから違いますって!」
「あはは、そうそんな感じで私にも接してくれると嬉しいかな?」
先輩はしてやったりという顔で小戸森に言う。この人策士だ。
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それからは全員夕食を食べ終わり、食器を従業員に片付けて貰った。
「この食台、片付けよっか」
先輩は食事を食べ終わると、そう言った。
寝るときはこの部屋に布団を敷くことになるのだが、そうすると
この部屋の真ん中に大きく構えてある食台が邪魔になる。その為に
この食台は折り畳んで直せるようになっているらしい。
「いや、先輩は座ってて下さい。俺がやりますから」
俺はそう言って立ち上がった。
「え、いや良いよ」
「仮にも先輩なんだから、後輩にそういうのは任してくださいな」
俺は食台を勘で畳んだ。変な形にならなかったので勘が当たったようだ。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
俺は先輩の言葉にそう返して、畳んだ食台を押し入れの下に入れた。
「それで、今日の就寝どうするんですか? 主に俺の位置的な奴で」
「そうだね、布団を五人分敷いたらこの部屋どれくらいなんだろ?」
確かに、それでスペースが余るようなら俺を隅の方にやって
先輩達は距離を取って布団を敷くことが出来るだろう。
「ま、取り敢えず敷いてみますか」
俺はそう言うと再び、押し入れに向かい今度は上の棚から
布団を出して敷き始めた。
「あ、待って私も手伝うよ」
「ボクも手伝います」
「じゃあ、宜しく頼みます」
そんな風な会話をして、俺達は向きを整えながら
布団を五人分敷いてみた、敷いてみたのだが......。
「狭いな」
「狭いね」
「狭いですね」
俺と先輩と小戸森か口を揃えて言うのも無理はない。
部屋自体は広いのだが、備え付け敷き布団が大きいせいで
五人分敷くとかなり圧迫感があるのだ。
「これ、どうしよっか?」
先輩は少し困ったように聞いてくる。
「いや、そもそもですね。先輩が俺も同じ部屋で
良いとか言ったからこんな状況が起きているわけでですね」
更に言えば宗里先生が悪乗りしなければ、な。
「記憶に無いなあ」
この人......。結局調月と違って邪気が無いから許したくなるけど。
「はあ.....俺は掛け布団だけでも寝れるんで大丈夫です。
俺の敷き布団が無くなれば少しはスペース空くでしょう」
俺は溜め息を吐きながら言う。
「え!? いや、そんな悪いよ。それだったら全員敷き布団を敷いて
私が祐也君の横で寝るしさ」
何を言っているんでしょうかこの人は。
「いや、流石にそれは色々と問題有るでしょう」
そもそも高校生の男女が同じ部屋で寝るだけでも問題があるのに
この狭さの中、横で寝るとか大問題だ。
「私は貴方が敷き布団も掛け布団も羽織らずに
隅で寝ると良いと思うのだけれど」
調月は表情一つ変えずに言ってくる。
「鬼かよ」
「あら、貴方のような存在に仮にも同じ部屋で眠ることを許可
しているのだから、感謝こそされても鬼と言われる筋合いは無いと思うわ」
「お前は何様だよ」
「今から性犯罪者と一夜を共に過ごさせられるか弱い女子高生だけれど?」
「何処から否定すれば良いのか分からんが、取り敢えずお前は黙れ。
後、お前はどう考えてもか弱くは無い」
「ま、まあまあ落ち着いてよ......」
言い合いを続ける調月と俺に先輩は宥めるように言ってくる。
「お言葉ですが部長、仮にコレを隅にやって部長が横に寝たとしても、
もう一人コレ布団が近くなると人が居ますが、それはどうするんですか?」
調月の言葉は確かにあっている、仮に俺が部屋の隅で寝ても先輩が
俺の横でその横が壁上も壁になるとして、その下、俺の足か頭に当たる
部分は必ずひとり近くなる。後、『コレ』扱いはやめろ。
「た、確かに......そうだなあ」
悩む先輩を見て何かアイディアは無いものかと考えていると、
徐に幻中が口を開いた。
「・・・私は別に構いませんが」
「んなっ!?」
幻中の言葉に思わず小戸森が叫んだ。
「幻中、お前は自分が何を言ってるのか分かっているのか?」
俺の言葉に幻中は頷き
「・・・はい、貴方も異性と寝るのに抵抗があると
思いますし、我が儘など言っていられないと思いますので」
と、静かに言った。
「いや、でもだなあ......」
「・・・それに、貴方を信用しているので」
幻中は少し表情を崩し、笑顔とまではいかなくとも
優しい表情を作ってみせた。畜生、反則だろ。
「じゃ、祐也君の横が私でその下が幻中さんね」
先輩が手をパチンと合わせて言った。
「先輩が......幻中先輩と芦原先輩と......」
後ろの方で小戸森が何かを呟いているが良く聞こえない。
「じゃあ、そろそろ寝ますか」
「え、まだ9時だよ?」
「久しぶりに結構歩いたんで疲れが溜まってるんですよ。
申し訳ありませんが、俺だけ先に布団に入らせて貰いますよ」
体力が無いというのはこういうときに不便である。多分、精神的な疲れも
溜まっているのだろう。先程急に睡魔が襲ってきたのである。
「私も先に眠らせて頂きます」
調月はそう言って俺から大分離れた位置に敷いてある布団に
潜り込んだ。そして、
「あ、それじゃあボクも先に......」
小戸森はそう言うと俺と調月に続いて布団に入り込んだ。
早起きして小戸森の寝顔を見るのも良いかもしれない。
「・・・では、私も」
幻中も先輩に軽く礼をして布団に入った。
「え、なに? みんな寝ちゃうの? じゃあ、これ絶対
私も寝なきゃいけない奴じゃん」
先輩は一人でそんなことをいいながら、電気を消すと
俺の横の布団に入ってきた。
「祐也君、隣宜しく」
先輩はからかうように言ってくる。
「寝ますよ」
俺が顔を逸らしてそう言うと
「うん、また明日ねお休み」
と先輩は言ってきた。
「お休みなさい」
俺も軽くそう返して、寝付いた。長かった1日の終わりである。
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夢を見た。別れたのは最近のことなのに随分懐かしく感じられる人影。
ぼやけているようだが、その人影が誰か、直ぐに分かった。
「祐也」
「どうしたよ」
「学校......楽しい?」
「......さあな」
「祐也の『さあな』は満更でもない時」
「さいで」
「良かった」
「何がだよ」
「祐也が変わっていなさそうで」
「人間、一週間や二週間では中々人格は変わんねえだろ」
「そう?」
「ああ」
「お前はどうなんだよ」
「私?」
「お前は学校、楽しいか?」
「私は学校......」
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「夢か」
起きて見ると周りには敷き布団が敷いてあり一瞬疑問に思うも
直ぐに、郊外学習に来ていたのだと思い出す。朝にしてはまだ周りは暗く、
試しにスマホを確認すると夜中の2時だった。
「結局学校はどうだったんだろうな」
勿論、あれは俺が作り出した夢だということは心得ているが彼処まで
会話が出来たのに大事なところで覚醒してしまったことには少し不満がある。
夢でも、夢の中でも良いから聞いてみたかった。『夢の続きを見せて』
なんていう言葉があるが、夢の続きを一度覚醒してしまってから見れたことは無い。
明晰無云々はさっぱりだしな。まあ、それでも.......
「もう一回寝よ」
夜中に起きても仕方がないと思いほんの少し夢の続きを期待して
俺は意識を夢に溶かした。
最近、更新が遅くなっていますが建前は不定期更新なのでお許しを。
前科部はまだまだ続きますのでこれからも宜しくお願いします。
評価、ブクマ、感想は本当に励みになります、是非とも宜しくお願いします。




