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前科部!  作者: 蛇猫
前科者達との自然観察
22/108

二人席


俺達は駅前のバス停からバスに乗り込んで目的地へと向かっていた。バス特有の単調な

揺れに眠気を誘われて思わず寝てしまいそうになる......所なのだろう普通なら。しかし

今はどう考えても普通と呼べる状況ではない。何故かと言うと


「・・・・」


横に幻中が居るからである。俺が座っているのは二人席の窓側、そして幻中はその横の

通路側の席に座っているのだ。気まずい。滅茶苦茶気まずい。席の組み合わせは先生が

勝手に決めたのだが、あの人のことだ。面白がって俺と幻中をくっ付けたのだろう。色々

残念な調月や小動物的可愛さのある小戸森、そして友好的な白嶺先輩であれば我慢出来た

だろう。しかし、幻中。お前は駄目だ。無表情で無口。そしてクールで優等生......。


駄目だ。ただの陰キャが敵う相手じゃない。教室なら話し掛けやすいがバスの二人席と

なれば話は違う。何と言えば良いだろうか。周りから半分遮断されていて、二人だけの

空間のような感じがするのだ。仲の良い相手となら良い空間なのだろうが、そうでなけ

れば最悪だ。全く話したこともない相手であれば隣の席に乗ってきた別の客の様な扱いが

出来るが、少し接点のある奴と一緒になった場合延々と気まずい時間が流れることになる。


しかも気まずいだけじゃない。二人席の癖に座席が狭いので幻中の腕やら足やらが当たって

くるのだ。恥ずかしい、超恥ずかしい。例外除いて女子となんて話したことすらないような

ただの非リアの俺に酷すぎませんか神様。畜生なんか滅茶苦茶いい匂いするし。駄目だこれは

色んな意味で。


「・・・・・すか?」


俺が心の中で悶えていると、幻中が何やら小さな声で話し掛けてきた。


「すまん。聞き取れなかった。もう一度言ってくれるか?」


俺は幻中の方を向いてそう言う。


「・・・その、やはり私と同じ席は嫌ですか?」


幻中は前よりも少し大きな声で言った。


「いや、別にそんなことは無いが。どうしてだ?」


「・・・先程から嫌そうな表情をしているように見えたので」


「確かに嫌なことがあったのは認めるが、幻中が嫌な訳では無い」


どっちかと言うと、嫌なのはこの空間。


「・・・そう、ですか」


幻中は何かまだ引っ掛かる事が有るように言った。


「ああ」


「・・・貴方は何をしたいのですか?」


俺が頷くと幻中はまた小さな声で聞いてきた。


「質問の意味が分からないんだが」


「・・・周りから孤立すると分かっていながらも虐めの対象にされている私と対等に接し

 自然観察部の部員と知り合いになり、挙げ句の果てにはこの部活へ入部。したかと思えば

 郊外学習です。私には貴方が何をしたいのか分かりません」


幻中は何時も話さない様な長文を話し、俯いた。まあ、確かに端からみれば

自然観察部に固執しているように見えるか。


「前にも言ったと思うが俺は別に人付き合いなんかに拘っていないんだよ。だから

 お前を特別扱いする気もないだけだ。先輩達と知り合ったのは偶々だし、この部は

 興味があったから入っただけ。郊外学習は部活動だから企画書を書いた。それだけ」


「・・・もし、貴方に虐めの矛先が向けられたら?」


「此方には、見た目通り怒ったら怖い父親と完全無欠系の先生が付いているから大丈夫だ」


親父はあんな風だが他人に怒ると喋り方が幻中並に丁寧な敬語になる。しかも、感情論を

混ぜずに淡々と正論を述べて論破していくのだ。聞いてみれば弁護士の勉強を一時期してた

とかなんとからしいが。


「・・・分かりました。やはり、私と関係を切りたいと思ったら何も言わずに絶縁して

 いただいて結構ですので、その時まで同じ部活の部員として宜しくお願いします」


絶縁とか物騒だな。上里さんそんなに酷くないぞ。


「いや、別にそんなことはないと思うが......。まあ、改めて宜しく頼む」


「・・・はい、宜しくお願いします」


幻中は何時も通り表情を変えずにそう言ったが、その声音は少し

柔らかかった気がした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


あれからバスで約20分、無事目的地へとたどり着いた。周りには如何にも野性動物が

生息していそうな林が見える。


「やっと着いたなあ~」


宗里先生は腕を伸ばして言う。確かに此処までの道のりは結構長かった。


「今は......十時前って所ですね」


先輩が腕時計を見て先生に言った。中々腕時計を見ている姿が様になっている。


「んじゃあ、早速観察開始するか?」


「別に良いですけど、ルートとか決まってるんですか?」


俺は先生に手をあげて質問をした。こういうのは闇雲に歩いても何も

見れなかったりするのだ。


「良い質問だな上里!」


何だこの人。


「ふっふっふ。出来る大人の私はネットで宿屋が出しているオススメコースを

 調べてきたのだよ」


先生はドヤ顔でそう宣言した宗里先生に白嶺先輩は複雑そうに周りを見渡しながら言う。


「芦原? 文句があるのなら言っても良いぞ?」


こわっ、ヤクザかよ。


「いや、別に......無いです」


白嶺先輩宗里先生の圧力に圧倒された様で珍しくショボンとする。滅茶苦茶可哀想。

誰か慰めてあげろよ。俺はやだ。


「そうか、全員異論は無いらしいし早速行くぞ。いっせーのーでオー!」


宗里先生は掛け声と共に腕を上げた。


「・・・・」


「・・・・」


「......チッ」


「・・・・」


「あ、あはは。 お、おー!」


だが、悲しいかな白嶺先輩以外誰も反応しない。勿論俺もだ。

調月に至っては舌打ちしてるし。


「それじゃ、行くか。これ地図な」


宗里先生はそう言って俺達一人一人に割と大きめの地図を渡してくる。中を試しに

開いて見ると確かに色々なルートが乗っていた。


「今回はルートAで行くからな、其処を見ておけよ。

 ああそれと上里、そのノートはお前が取り敢えず持っておけ」


先生は先程俺に渡してきた『自然観察記録帳』を指して言った。


「ええ......あ、はい分かりました」


俺が嫌そうな顔をすると先生が急に怖い笑顔を向けてきたので

命をとられないうちに了承しておいた。


「宜しい、では行こうか」


先生がそう言った時、本当の意味で自然観察部の

初めての部活動が始まった。

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