探偵と怪盗
無表情で問いかけた俺を白嶺先輩は興味深そうな目で見つめ、口を開いた。
「あはは、まあ、名推理と言えば名推理なんだけどね? ......やっぱり君、ちょっと浮いてるでしょ」
「唐突に失礼なこと言いますね。まあ、転校生なのに全然、話し掛けられないのは否定しませんけど」
「君、それが何故か分かる?」
「いえ、全く」
「あはは、そりゃ、そうだよねー。君、悪いことしなさそうだもん」
「もしかして馬鹿にしてます?」
俺の文句を受け流すと、白嶺先輩は溜息を吐いて口を開いた。
「私はね、幻中さんのことは正直言ってあまり知らない。というか会話も殆どしたことないんだ」
「え? 白嶺先輩って、部長なんですよね?」
幻中の無口さを考えれば会話が少ないのは分かるが、だからといって、部長と会話を『殆どしたことない』なんてこと、あるだろうか。
「あはは、驚くよね。だってウチの部活、活動もロクにしてないんだもん」
「え?」
「自然観察部......ね、本当に名ばかりの部活だよ。自然なんて一度もないのにさ」
白嶺先輩は嗜虐的な笑みを浮かべて『あはは』と笑った。
「その実態は学校に居場所の無い生徒の拠り所......もとい、溜まり場だよ。ウチの学校、基本的に部活強制じゃん? 他の部活に居れば周りから嫌がらせを受ける、って人が皆、前科部に入部するの。あそこに居れば、仲良い友達は出来なくとも、虐げられることはない」
「過去に虐められる原因、つまり『前科』を作った前科者の溜まり場、それで前科部ですか......」
自然観察という言葉をひらがなに分けて
途中の文字を読むと『し《ぜんか》んさつ』になる、というのも由来だろうか。
「あはは君、頭良いね そういう事。前科、前科ね......」
先輩はそう言って、苦笑しながら俯いてしまった。
「白嶺先輩」
「あはは ごめんねーこんな所見せちゃって」
俺が声を掛けると、彼女は引きつった笑みを浮かべながら顔を上げた。彼女の目からは涙がツー、っと流れている。笑った。俺の心の中では様々な疑問や感情が飛び交った。
「白嶺先輩、言い忘れてましたけど俺も自然観察部、入りますからね」
「......え? ごめん。もう一回言ってくれるかな?」
「俺も自然観察部に入ります」
「えっ、えうぇ、な、なんで!?」
何そのリアクション。可愛い。
「何でも何も、もう入部届け出しましたし」
厳密にはまだ出せてはいないが、顧問には伝えたので実質、出したようなものだ。
「だ、だから何で!? 返して貰いなよ!」
「嫌ですよ、可愛い後輩も居るし」
脳裏に浮かぶのは芋天好きの僕っ娘。
「いや、でも、でもでもでもでもでも! 今の話聞いてたよね!? 和気藹々とした雰囲気なんて全く無いんだよ!? 活動もロクにしてないよ!?」
「雰囲気が悪いなら帰るまで、活動をしていないんだったら、やるまでです」
混乱する先輩に俺はそう言って続ける。
「学校で行き場のない生徒の溜まり場? 生憎、暗黙の了解なんてものが察せるほど、賢くないんですよ、俺は。俺は自然観察部で自然観察をしたいんです。それに、顧問に入ってくれと頼まれて入ったんですから、歓迎こそされても、拒絶されるのは不本意です」
「べ、別に拒絶してる訳じゃないけど......」
「じゃ、決まりですね。明日から部活参加するんで宜しくお願いします」
「本当に良いの? 前科部のレッテルはそう簡単に剥がれないよ?」
「元より剥がすつもりは無いんで大丈夫です。というか、既に俺、周りから嫌われてるみたいですし」
近藤に続き、近藤♀にも因縁付けちゃったしね。もう何も怖くない。
「......分かった。じゃあ、その、えと、宜しくね?」
「はい、宜しくお願いします。で、先輩」
「ん? 何?」
ナチュラルに白嶺先輩呼びから先輩呼びに変えてみたが、ツッコまれなかった。よし、これからはこれでいこう。先輩付きとは言え、名前呼びは恥ずかしい。
「結局、どうしてわざわざ、俺なんかをこんな所に呼んだんですか?」
「あ~、それね......。君と私が今朝、初めて会った時、君が玲奈さんのことを話したでしょ。その時、あまり君が玲奈さんのことを悪く思っていなさそうだったからさ。君なら玲奈さんと仲良くなれるかもって、思ったんだ」
白嶺先輩は言いづらそうに頬を掻いた。
「その割にはかなり前科部のことを悪く言ってましたよね、先輩。幻中と仲良くさせたいなら、前科部に俺を勧誘した方が効果的だったんじゃないですか?」
「私も最初はそのつもりだったんだけどさ。......確かに君が玲奈さんと仲良くなってくれれば私は嬉しい。でも、玲奈さんと仲良くなったり、前科部に入るということは君が玲奈さんと同じような扱いを周囲から受けることになる可能性を孕んでいる。私の自己満足のためにそんなことはしたくないなって思ったんだ」
どうやら、この人はつくづく人が良いらしい。他人である幻中の幸せを願い、俺のリスクまで考えてくれていたとは。
「それで結局、収穫はあったんですか?」
「え?」
「先輩は、俺のことを考えてくれて、自然観察部に俺を勧誘するのも、幻中と仲良くさせるのも、止めたんですよね? なのに先輩、俺に前科部の事や幻中が虐められていることを教えたじゃないですか。何でそんな必要のないことをしたのかな、何か意図があったのかなっ、って」
「あはは。君、また名推理。探偵かな?」
「生憎、怪盗派なんで」
「怪盗ね。確かに小賢しそうだもんね」
小賢しいて。
「まあまあ、兎に角、俺は探偵に証拠を一つも残さず鮮やかに物を頂く頭脳派の怪盗ってことにしときましょう。それで、実際どうなんですか? 俺に色々教えたのは何の意図があったんですか?」
先輩はバツが悪そうに彼女の口癖とも言える『あはは』という笑いを発した。そして、溜息を吐き、口を開く。
「ちょっと、言い難いんだけどさ。前科部のこととか、玲奈さんのことを君に言っておけば、もしかしたら君が自主的に玲奈さんと仲良くしてくれないかなって、考えてたんだよね。仮にそれで君が虐められても自己責任で私が罪悪感を抱く必要も無いし」
「面倒臭いこと考えますね」
俺はゴニョゴニョと自分の考えを説明する先輩に苦笑した。回りくどいというか、何というか......。
「それだけ? 怒ったりしないの?」
「別にそんなに怒る要素無いですし」
「で、でも私、君の優しさに付け込もうとしてたんだよ?」
「俺、自分から自然観察部に行こうとしている訳ですし、モーマンタイです」
「そう言ってもらえると、私としては嬉しいけど」
「まあ、幻中と仲良くする気はないですけど」
俺の言葉を聞いた先輩は目を見開く。
「え、でも、自然観察部に入るんじゃ......」
「入りますよ? でも、別に幻中と特別仲良くする気はありません。俺は自然観察部の活動に興味があるから入部を希望している訳ですし」
「うっ......」
まぁ、元々の理由は宗里先生が幻中の無愛想な態度の理由が自然観察部にあると言ったからなのだが。その理由も大体、分かった今、俺が自然観察部に入らんとする理由は部活動に興味があるから、というもの以外に何も無い。
そもそも、友達が居らず、虐められているから仲良くしてやろうだなんて偽善、幻中にとっても失礼だ。
「かといって、別に必要以上に距離を取る気もないですし、普通の同級生として接するつもりですよ? そうやって接している内に先輩の言う『仲が良い』状態になることはあるかもしれないですけど」
その俺の発言に先輩はまた目を丸くして
「ふふ、ふふふふふっ、あははは、何それ? ツンデレ?」
と笑った。
「は?」
「つまりそれって、遠回しに『俺はアイツを特別扱いはしない。アイツは普通の同級生であり、同じ部活の仲間。まあ、普通に付き合う内に恋に落ちる可能性は十分、あるけどな。キリッ』って、言ってるんだよね?」
「全く違いますからね!? キョクアジサシの渡りの距離並みに話を飛躍させないでください!」
因みにキョクアジサシが一生に移動する距離はおよそ240万キロ。この距離は月と地球の間を約3往復する距離に値する。
「はあ......。先輩、もう疲れました。明日も学校ですし、そろそろ帰りません?」
「オッケー。帰ろっか。あ......後、さっきから『先輩』って私のことを呼んでるけど『白嶺先輩』だからね?」
バレてたか。
投稿遅れました すいませんリアルが忙しくてw
次回も宜しくお願いします! それと......すこーし下の方の
評価もお願いしますw




