引っ越し
「うわっ。重いな......」
俺は引っ越し業者が下ろしてくれた妙に重いダンボールを持ち上げ愚痴を言う。明らかに服や食器の重さではない、言うなれば祖母の家で見る灯油と同じぐらいの重さだ。要するにかなり重い。
「なあ親父、これ何が入ってるんだ? 凄い重いんだが......」
こういう事は専門家に聞いた方が良いだろう。
既に足元に下ろしたダンボールに目をやりながら俺は聞いた。
「ああ、それな。俺の本だよ多分40冊ぐらい入ってると思うが......。何だお前そんなのも持てないのか?」
無茶言うな。
「いや親父の持ってる本って半分くらいが凄いデカイ図鑑だろ? そりゃ重いわ......」
俺が覚えている限りでも15冊は必ずあった筈だ。俺も小学生のころキノコや野鳥の図鑑を適当にめくって読んでいた覚えがある。だが、あまりの大きさ故に
読みきるのには中々の時間が掛かった物だ。
俺がそんな思い出を懐かしんでいると親父が俺に近寄ってきて
「おい、祐也。これは俺が持つからお前はそっちの服が入ってるダンボールを持て」
と言った。
やだイケメン......ではなく親父は全く重そうな素振りを見せずに重い本の入ったダンボールを持ち上げて親父の部屋になるのであろう部屋に運んで行った。本当に俺の父親なのだろうか?
そんな疑問を抱きつつ俺は粛々とダンボールを運ぶことにした。
「さてと、大体必要な物は運びこめたな」
前の家より少しだけ広く見える部屋を見渡して俺はそう呟いた。きちんと時計は合わせたし、本や参考書、机ベッドも運んだ。その分疲れたが。
「今日からこの街で暮らすのかー」
引っ越しなど3歳の頃に一度しただけで、物心付いてからするのは完全に初めてである。まあ、前の街に友達が居た訳でも無いので引っ越し自体は悲しくなかったが。
だが、アイツともう会えないと思うと何となくだが、悲しい気がした。
「そういえばこんなのもらったな......」
俺は呟きながら雑に折ってポケットに入れておいた紙を広げる。
『1.毎日11時までには寝て朝は7時までに起きる事。
2.栄養管理をきちんとして 菓子類を食べ過ぎない事。
3.勉強の予習、復習はきちんとする事。
4.学校ではきちんと授業に取り組む事。
5.祐也は祐也らしく生きる事。
6.絶対にいつか私に会いにくる事』。
其処には謎の鉄則が書かれていた。5番目6番目は生活関係無いし。
「なんだこれ」
アイツは俺の母親かよ。
「はあ.......やっと引っ越してアイツから解放されると思ってたのにな」
そして俺はその手紙を優しく手に取り、額に入れて机に飾った。
「まあ......こういうのもありだな」
何故かこの瞬間、やっと新しい生活が始まった気がした。




