マルへ
よく丸まる猫がいた。名前はマルだった。
メスだったからマルちゃんマルちゃんって即席麺のメーカーみたいに可愛がられていた。
よく人に懐く良い猫だった。
生憎自分は動物という物があまり好きではなかったので周りの人が可愛がるのを遠巻きに見ていた。
触れ合ったこともあったが、そこでマルの事は周りの人が可愛がっている猫以上には思えなかった。
マルのことは嫌いじゃなかった。多才な猫だとは知っていた。マルを見ても心が動くことはほぼなかった。
僕にとってマルはただそこにいるだけの存在だった。
でも、ある日マルはいなくなった。
理由は分からない。マルを可愛がっていた人は悲しんでいたけど僕はその輪に入れなかった。
でも、マルがいなくなってふとしたときにマルの事を思い出して初めてマルがいないことを実感できた。
そしてマルがいなくなって寂しげになっている自分に気がついた。
またマルに会いたかった。
風の噂でマルをとなりの町で見た人がいるらしい。
そんな話を聞いてわざわざとなりの町に行くぐらい僕はマルのことが好きだったらしい。