厄災の箱
『箱』があった。
今日は珍しく飲みに行かず、疲れた体に鞭を打ち、満員電車に乗って何とかして家の近くの商店街に着き、トボトボとその道を歩いていた六月の夜だった。さすがに夜中だけあって全くと言っていいほど人が居ず、誰もいない商店街は静寂と不気味さに包まれていた。ふと横を見ると、シャッターの閉め切った何かの店の前に『箱』らしきものがあった。自然と立ち止まりそれに魅入ってしまう。なぜそんな所にそんな物が在るのかという疑問もあった。が、しかしそれ以前に疑問をかき消すかのような異質さが目の前を覆った。
それは、丁度バスケットボールが入るぐらいの大きさの、この距離で、しかも測らなくても判るほどに正確な四角の立方体で、しかも『それ』は真白だった。ただの真白ではなく本当に汚れも何もない、異質なまでに純粋な白だった。いや、異質なのはそれだけではない
『自然すぎる』のだ。明らかに背景に溶け込まないはずの色のない異物が、その不自然さをその『箱』自身が無理矢理に歪曲して『自然さ』を装っているかのように、だからこそその『自然』が『不自然』に感じ、見れば見るほど混乱する光景だった。
そう、例えるなら、背景の写真に、他の写真を切り取って張り付けたような、変なトリックアートを見せつけられているようなそんな違和感だった。なぜ『それ』が異質だと感じたかは分からないが、とにかくそれが普通のものではないのが分かった。
(・・・・・・?あんな物あったっけ・・・・・・?)
記憶にある限りでは『あんな物』は昨日までは無かったはずだ。何の為にそこに置いてあるのかは分からないが、何にしたって自分には関係なく、かつ、少しこの光景は不気味すぎるので足早にそこを後にした。
ここから、全てが始まる。