第陸話 貴族
第陸話 貴族
「トガシ様、起きてください。」
「う、うぅむ…メリアか…?」
「おはようございます。」
この娘はメリア、この前の奴隷の一人で今はこの宮殿で働いている。
いつもなぜだか愛想がなくいつも無表情だ。
過去に何かあったのかは気になるところだが聞くのは野暮だろう。
「あっ‼ トガシ様っ、こんな所に…急いでください今日ですよっ今日。」
今日は僕の戴冠式である。前国王から冠を譲り受けこの国の今後のことについて貴族や民衆の前で演説を行うのである。
「エリゼ、朝からうるさいよ。それに今日のことも分かってるさ。」
「ならいいです。して、原稿は…」
「そういや書いてないな…」
「はぁ⁉ かいてないですとっ!」
「う、うるさいやい。 スピーチする内容は頭の中に叩き込んである。」
「着替えたらすぐ行くぞエリゼ。」
「はい。」
トガシはこの前まで来ていた服とは違う警官服を着た。
創造魔法の洗服で綺麗にした後、ピストルの弾痕を修復魔法で直した。(魔力枯渇が酷い)
ネクタイを締め防刃ベストを着てジャケットを着た。
防刃ベストはジャケットの間に隠れて見えなくなった。
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「これより、第二三八回、サリエール王国戴冠式を執り行わせていやだ来ます‼」
宮殿の三階の大きなベランダから前国王の宰相がそう叫ぶとともに宮殿の大庭園から軍楽隊がファンファーレを奏でた。
「それでは次期国王よりお言葉をいただきまする。」
富樫が演説台に立った。
「今日、国王になるトガシ・モミジである。今回、宣言したいことが二つである。 まず一つ目、一部貴族制を撤廃する。」
「⁉」
その時、一瞬にして広場が凍り付いた。
大庭園には約三千人もの貴族や民衆が困惑していた。
「なっ、何を言っているんだ‼ 我々が今までいくら国に奉公してきたと思うんだ‼」
「そうだ!」
話を聞いていた貴族達が庭園からヤジを飛ばしてきた。
「黙れ、この国の貴族は清聴もできんのか? これだから信用できないんだ。それに貴様らがしてきたことは奉公ではなく不正な賄賂だろう?」
「ぐぬっ…」
「だが貴族の者ども、安心してくれ。私が排除する貴族は準男爵以上で不正を行った者とする。
そして二つ目は新たな憲法を制定し帝政国とする。 憲法の概要は奴隷の撤廃、一部貴族の撤廃、国民の権利及び自由の尊重、保護である。詳細は省く、新憲法は後日発行する。そしてっ…」
〝ガッ〟
「くっ、」
その時、何者かが短剣で富樫の腹部を刺した。
富樫はその場に倒れこんだ。
貴族どもは歓声を上げる
「ざまあみろっ! 俺たち貴族を虚仮にしたからこうなったんだ。バーカ‼」
〝うるせえな、覚えてろ馬鹿貴族ども〟
富樫は心中でそう呟いた。
そんな時。
「殺ったか?」
聞き覚えのある声だ。
〝まさか前国王?〟
〝ハハ、ヤッパそうだと思った。どうりておかしいもの…〟
「んっ? なっ…⁈ 剣が刺さっていない⁉」
富樫に短剣を刺した少年らしき人物が叫んだ。
〝そろそろいいか、〟
富樫は立ち上がった。
「なっ、死んでない?」
前国王が顔を真っ青にしてそう言った。
「どういうことですか? 前国王…いや、罪人が…」
「ば、化け物…」
貴族共による歓声はもう上がってこない。
第陸話を読んでいただきありがとうございます。
物語もだいぶ進んできましたね。