第十弐話 攻勢
第十弐話 攻勢
宮殿の応接室で国のトップによる会談が秘密裏に行われていた。
「単刀直入に言います。どうかオウェリナを救って下さい。」
「と言いますと?」
富樫は驚くことなく冷静に問い返した。
「オウェリナ最高議会が二つに分断されてしまったのです。」
「なぜ…」
オウェリナ皇帝は説明を始めた
昨年の戦争では開戦から三か月ほどで双方の和解が成立したものの被害は甚大だった。
サリエールは事実上の敗退を繰り返してはいたが決して脆弱ではなかった。
当時の専門家が書記でこう語っている。
«サリエールの軍隊は練度が足りてりなかった。蟻が棒切れ持ってワイバーンに突っ込むようなものだ。
しかし指揮官は優秀だった敵の攻勢の隙を突いては敵本営への奇襲を仕掛けた。この奇襲によりオウェリナ大帝国の第一師団中隊長は討ち死にした。»
オウェリナが講和を急いだ理由の一つだ。
その後の議会で問題は起きた。
攻撃を続行すべしという主戦派とエリジア大公国によるオウェリナ侵攻に備えサリールと手を結ぶという講和派、同盟派、共闘派などの和平派が二つに割れて内戦を行おうとしているのである。
そんな中で現皇帝であるオウェリナ皇帝は失墜の一途を辿るのみだった。
権力を失い和平派に引っ張り出され、トップに祭り上げられた皇帝が今ここにいるということだ。
「…ということがあったのです。」
「是非とも協力したいところですが救済の手を差し伸べるには我が国には未だ国力がなさすぎます。」
富樫は苦い顔をした。
エリゼも少し苦い顔でこう言った。
「サリエールとオウェリナの国境線やその他方面基地ではサリエール帝国陸上軍の警備が厳重に行われていて臨戦態勢ではありますが出兵となると兵糧が何とも……」
「サリエール軍のたとえ少数でも練度は他の国様よりも高水準と聞いていますが?」
「高水準でも人間です。それに我が軍は少数精鋭部隊の部隊配置がまだですから。」
「戦車は?」
オウェリナ皇帝がいきなり問いかけた。
「?…………ハッ⁈」
「どうして貴方がそれを…防衛機密のはずですが…」
「富樫紅葉…だって貴方、日本人でしょ?」
「オウェリナ皇帝?…なぜそのことを?」
「最初はジパルシン人だと思ったけどその驚き用なら…さっき郊外で日本のパトカーを見たんだけれど車が存在しているならば武力向上のために戦車でも作っているのかなーって思って。」
「皇帝…あなたは…?」
「弐島冥寿…あなたと同じ日本人です。陸上自衛官でした。」
「弐島メイジ…っん? 憲吾の妹か?」
「?…なぜ、うちの兄の名を?」
「そりゃあ、同じ部隊だからな…」
「⁈ あっ、憲吾が言ってた警部ってトガシ君なの?」
「そうなるな…へ~陸上自衛隊に居たのか…所属は?」
「私は第一戦車大隊第二中隊七四式戦車隊でした。」
「というと練馬の一師団か…」
「詳しいんですね。」
「あそこの普通科とはよく合同訓練していたし。」
「まあそんなことはどうでもいいのです。本題ですよトガシ君。」
(おお元に戻ったぞ…)
「私は戦車の技術をサリエールに伝授します。あなたは」
「少数部隊の配置」
「です」
「だろ?」
富樫と弐島の声はシンクロしていた。
サリエール帝国とオウェリナ大帝国和平派はここに非公式の同盟を結んだ。
富樫「メイジはなんでこっちに来たんだ?」
弐島「訓練中に戦車のキャタピラに踏まれた。」
富樫「お、おう」
弐島「トガシ君は?」
富樫「知らん男にピストルで…」
弐島「憲吾は無事だったの?」
富樫「知らん」
弐島「はっ?」
ありがとうございました。