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内容についての思いなどはともかくとして、いろいろ分かってすっきりした。
周りにある物事をわからないままでいると不安なのだ。人間、誰しも多分同じなのだろう。
『・・・やはり素質を持つ者はうらやましいですね』
「?何か言った、先輩?」
『いいえ、なにも。「概念」についてもうちょっとありますが、それはまた別の機会に語るとしますか』
・・・まだあるのか?
さすがにもうそろそろライフがゼロだぞ?いや、冗談だ。
ちょっと自分の常識というものが亡くなったのかなぁって思って。
『「核」の破壊は基本その依り代となる主体を壊すことでできます。世界の核であるおかげで、その依り代はこの世界の運命を常に味方につけている状態にあるので、簡単のことでもないのですが』
運命を味方につける、それはつまり自身に極端の幸運を保ちながら、相手に極端の悪運を強制すること。
どれだけ微々たる可能性だとしても、すべてが奇跡として起こりうる。
どんだけ念入りして相手を殺そうともかならず計画が破綻し、そしてそれを成そうとしていることで破滅を招く。
こんな状況下で、普通であるのならば勝ち目など皆無なのだ。
『限定的に下位の世界に降ろしている状態で、破壊神である唯一の利点は自身が理に運命を操作されないことにあります。《本》が接触した「理」を介し「運命」を読めるということは、あなたはその世界に居ながら、その存在が「理」を上回っているということです』
「でもそれって、単に自身が影響されないだけじゃん」
『いいえ、あなたの存在が理を超える、それはつまり運命を捻じ曲げることができるということ』
ん?あれ?なんか話がズレている?
『何も難しいことではないのです。ついさっき、あなたはそれを起こしたのではありませんか』
俺が?
さっきと言っても、あのイベントくらいしかなにも起こらなかったのだが。
・・・んー。あ、そうか!
「《本》が読めるのはこの世界の運命。そして今、その《本》はまったく読めない状況となっている!」
『えぇ、そうです。あなたは起こる筈だった「運命」をねじ伏せたのです。そうですね。今風に言うと、あなたはイベントのフラグをへし折ったのです』
なーるほど。
あ、もしかして、あの自分の行動によって変動しまくってた空白部分もそういう力?
『ですが、それの効果もいつまで続いているとは限りません。あの空白部分と同じ、運命は自動で修正を図るのです。時間が経つにずれ、あなたに持たされた変動による影響が減っていきます』
え?マジか?
《本》を開いてみると、本当に文字化けの部分はすこしつづ読めるようになっている。まだ完全な文章になっていると言い難いが。
『ひと昔は、こうやってイベントをこなしながらさっきみたいな状況を作り、その隙を狙って「核」の破壊を試みるのが我々の常套手段でした』
「今は違うと?あぁ、そうか。なんかウィルスっぽいものを仕込んで自壊させる方法もあるやつか」
『その通りです』
どうにも、数年前にとある破壊神が開発したものらしい。
俺たちの世界にいるパソコンウィルスをなぞって、下位世界における破壊神が常に「理」を上回る「権限」を逆手に作ったものらしいが。具体的に説明するにも、先輩も俺も専門的な知識なんて持ち合わせてはいない。
だが原理としては単純らしい。
用語をパソコンのそれに言い換えれば、通常権限の高いユーザーに対して「アクセス不可能」という結果を得れば止まるところを別ルートへ「アクセス可能」とすることにより、「理」が常に「破壊神」に対して運命操作をやろうとするよう誘発したそうだ。
だが破壊神が運命操作を受け付けない。
受け付けないためにイベントフラグをへし折ることが可能になるという結果を利用し、こちら側がなにもせずにイベントフラグだけが自壊し続けるようになってしまうのだそうだ。
そして、いずれそれがパンクとなってしまい壊れる。
なんか、本当にどこかのパソコンウィルスそっくりだな。
『原理が分かれば簡単そうに聞こえてくるのでしょうね。私としては、あの者が端末の中でそれを作れるようになっているほうが驚きなんですが』
「でも端末のほうが使用者に合わせてくれるのだろう?ならばそんなことができるようになるほうが自然じゃないのか?」
『・・・えぇ、そうですね』
なんだろう?歯切れ悪いなぁ。
『あなたがその機能を望めば、端末が応えてくれるのでしょう。それで、どうします?』
「んー」
パソコンをハッキングするみたいに簡単に終わらせる、それはそれでわるくないのだけれど。手間が掛からないし、簡単に終わるし。
俺もここからさっさと出たいんだけど。
でも。
なんというか、なんか違うような。微妙な抵抗感があるんだよなぁ。
それをやるかと聞かれたら悩んでしまう、なんかすっきりしないモヤモヤを感じてしまう。
これは、前にこの世界を破壊するかと先輩に聞かれたときに感じたものと似ているな。だからあの時と同じように簡単にイエスと言えないのだ。
『それぞれの破壊神にはそれぞれのスタイルがあり、好むやりかたがあります。一番手っ取り早い手段をとるのに迷っているのならば、あなたが好きなようにやりなさい』
え?でも、人手が足りないんだろう?
ならばできるだけ効率よくやったほうがいいんじゃないのか?
『えぇ、手が足りません。ですがそれは次元の機構の問題であり、あなたのではありません』
――破壊神、それがたとえ代行だとしても、それはそういうための「道具」として割り切ってはなりません。
――えぇ、決して、そこを間違ってはいけません。