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イタイ。
目が痛い。
頭が痛い。
誰が。何で。どうしてこんなことになっている。
《本》に書かれている内容を思い出し、俺はげんなりとなった。
絶世の美女。虹の姫。
たしかにそう書かれていたけど、実際の描写は美しいの一点ばりだったから。まさかまんまと虹色だったんなんて。
ないわ。
このセンスはないわ。
「~~~~~~」
「~~~~」
周りの人がなにかを言っているが、俺の頭の中に入ってこない。
この体の持ち主の残渣が持つ怨念かなにかしらないが、俺に語りかけてくるように感じるのだ。
あの女を壊せと。
最初はあまりにもイタイと思ってたから、それは錯覚だと思ってたけど。
だが俺はたしかに、心の内から湧き上がる破壊衝動に駆られている。
まじか。こういう憑依って、体の持ち主から影響を受けることもあるのかよ。
さすがに危ないだろう、どう考えても。
壊セ。コワセ。
コ――
「黙れ!!」
思わずイライラしてそう叫んでしまうと。シーン、と周辺が一気に静になった。
あ、やべぇ。というか、さっきからなにが起きていたのか聞いていなかった。
慌てて《本》のほうに目を向けると、その画面にはほとんど文字化けしていて、この部屋に入ってきたあとのことはほぼなにもわからなくなってしまっている。
えっ?なんで?
『《本》の機能が限定的に使えるだけマシだと思ってください。普通新人には使えない機能ですから。今はとにかく、この場をなんとかするほうが重要です』
そうだな。ずっと黙らせている状態だからな。
ここはアドリブで、なんとかなるのか?
というか、なにを言えばいいんだ?口を開けると、ツッコミになってしまいそうで怖い。
「もう良い、この二人を放っておけ。これから一切、な」
なんとか搾り出したのが、自分でも強く思ったことだった。
関わりたくない。こんな悪趣味な女と、その外見を美しいと思う奇特なセンスの持ち主も。
ほとんどそのセリフを最後に強引に部屋をでてしまったけど。やってしまった感が半端ななかった。
だって《本》の後の内容が一部を除いてほとんど全部文字化けしてしまったし。
自分の部屋に戻ってなお、俺の怪我をみようとするメイドたちを下がらせて、俺は傍に待機していた執事に目を向ける。
下がってはくれない。
俺今一人になりたいんだけど。静かなところで考えごとをしたいんだけど。
これじゃ先輩からアドバイスも聞けないじゃないか。
あ、そうか。俺がなんか命令しておけばいいのか?
なにを命令しよう・・・
ずっと見られているからなのか、執事から救いの手を伸ばしてくれた。
「旦那様、若様とあのお嬢様は・・・」
「客室にでもまとめて閉じ込めておけ」
思わず反射的に答えてしまったが、執事から怪しまれるような感じはなかった。どうやらまだOOCしていないらしい。
「承知いだしました」
そう言って、執事は部屋から出て行った。
やっぱ気を使われている。でも、ナイス。これで一人になれる。
念のため、数分ほど待って、誰も帰ってこないことを確認してからもう一度端末の画面を呼び出す。
《本》の中身はあいかわらずめちゃくちゃになっている。
《マップ》の中でクエストイベントを示す赤いびっくりマークもいない。この部屋の外に待機している者もいない。
よし。
あ、そういえば、さっき画面がフラッシュしていた記憶があるんだけど。でも新しいアイコンとかが出ていないんだよなぁ。
なんだったんだろう?
「せんぱいー」
こんな時だからこそ、お助けキャラの出番。俺はとりあえず投げやり感満載な声で呼んでみる。
『・・・なんですか?』
あ、なんか機嫌悪そう?
「説明ぷりーず」
『ふざけないでください』
「あ、はい」
てへっ。
いや~。俺こんなキャラじゃないけどさ。
ただ、さっきのいろんな意味で後味のわるいイベントの後に、なんかいろいろとたまったものがあってな。
それを発散させたいのだ。
『とりあえず、最低限の目標は達成されました。具体的になにから聞きたいですか?』
とりあえずいろいろとあるけど。まとめて聞いてみるか。
Q、破壊神の仕事って、毎回こんなことやらないとだめですか?
A、必ずしもそうなるとは限りません。
Q、役を演じるのに一体なんの意味があるのですか?
A、主にその世界の「理」に触れるためのと、その「核」の存在を探すためです。
Q、その理由は?
A、その世界を破壊するか否かはその経験の元、それぞれの判断に任せられています。破壊するのを後に回しても問題ありません。だが、そのためにまず知ることが重要です。
破壊しないのなら「核」の捕獲、破壊するのなら「核」を破壊します。それが世界を破壊する手段の一つです。
Q、世界を破壊する手段は他にもあるのですか?
A、おおよそ三つあります。
一つ、物理的な破壊。「理」や「核」と関係なく、物理的に世界を壊し尽す手段です。
自分でやるのもよし、世界の中の人を動かすのもよし。ただし、時間が掛かります。
二つ、「核」の破壊。「理」がなければ世界は成立しません。その「核」を破壊することで、世界のすべての法則が乱れます。
簡単に例えるのならば、それを破壊すれば世界が自爆します。こちらは今現在一番効率がいい方法となります。
三つ、「核」の書き換え。こちはら基本創造神がメインに使っている手段ではありますが、場合によればこちらのほうが簡単なケースもあります。ただし、創造神の適正がなければ、誘導くらいまでにしかできません。
「理」が書き換えられた場合、世界は一度破滅を向かえ、そして新しい「理」に適するよう再生するのです。
Q、もっと簡単にできませんか?
A、本物の破壊神にしかできません。我々はただ、より高位次元に存在しているからこそ、下位次元に対して自分が持ち得るそういう適正な力を発揮できています。
その身を低位次元に落とせば、あるいはその次元の神を倒せたり、そのまま力で世界を破滅させるまでに至ることもありますが。二度と元の世界に戻れる保障はどこにもありません。
だが意識を不完全な形で下位次元の依り代に憑依させている方法をとる以上、我々に発揮できる力も限りがあります。そのために、上位世界からこの補助用の端末を預けられていますから。