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「一体何があった」
んー、自分で言って置きながら、さすがにちょっとおかしかったか?
でもなんかすぐにいい口調を思いつかないというか。
ならここで、すこしイラっとしているようにすればいいのか?表情を作ってみるけど、ちゃんと視てくれるよな?
「そ、それが・・・」
メイドは俯いたまま語りだす。
あ、そうですか。視てくれないのか。
顔を作って損した。いや、むしろ良かったというべきなのか・・・?
いや、今はそんなことをおいておこう。
なんか感情が変にひっぱられて、抑えられているようで。そういうあるはずな感情を感じない時に自分でもわけわからないテンションになるらしい。
とりあえず今はチャンス。
メイドが俯いているのをいいことに、これなら腕を動いても問題ないだろうと端末の画面を操作する。
人物の情報の中では自分のステータスもあるが、基本IDカード並みの情報しか載っていなく、主に表示してあるのはその下にある役のステータスや背景、そして個人情報などになる。
話を聞きながらそれらから重要だと思われる部分をピックアップしていくと、メンドは語り終えたとばかりにビクビクしながら黙り込む。
まとめられた情報の中で大量の青い文字があり、クリックするとその部分に対しての解釈や詳しい情報が別の窓で表示してくれる。だが今それらを見ていくのに時間がないから、とりあえずスルーしておく。
これ以上黙り込むと怪しまれそうだから、次になにを言うおうかと、俺は頭の中で情報を素早く整理する。
背景はよくある中世ファンタジー。剣と魔法と魔獣あり。
俺の役は偉い貴族の中年、嫁は健在。一人息子はまだ二十歳すぎたばかりなのに、とある有名な騎士団の副団長まで上り詰めた男イケメンの天才肌。
一応嫁候補として、同盟の組んでいる貴族の娘とよくいさせようとしているが。
これまでに女に目をもくれずにいたため、氷の貴公子とかなんとかの称号を誰かに付けられている。
ここ最近、とある伯爵家の娘に惚れたため、無感症がいっきにむっつりに変身した。
そして今、魔獣に襲われそうになっていたその娘を家に連れ込み、怪我の手当てやらメンタルケアとかでじたばたしていると。
なんだろう。この物語の筋書きって・・・なんかものすごく嫌なんだけど。
それとも、この嫌な感覚はこの体の持ち主からのなのか?
とりあえずメイドに目を向けると、握りしめている手や仕草から、俺はあることを気づいた。
このメイド、この話をわざと持ってきたのだろう。隠し切れない何かに対する不満を見え隠れしている。
「で、怪我は?」
「・・・それが、顔に薄い掠り傷のみでしたので、たいしたことは・・・」
なるほど。大体分かった。
「分かった。下がりたまえ」
「・・・はい」
・・・・・・
メイドが去ったあと、俺は嫌な感じを覚えながらも、気になっていたことを調べに端末を弄りだす。
だがいくら自分の役の背景などを調べても、詳しい内容があやふやで、結果的に意味のないものばかりとなってしまった。
これはちょっと、おかしい。というより、もしくは嫌な予感があたったというべきだろうか。
「くっそ、まじかー」
『――なるほど、なかなかな適正ですね』
あ、先輩。
まだ居たんだ。
『端末はユーザーに合わせていろんなものを自動調整していきます。あなたのスタイルなどに合わせて、操作可能な範囲なども広がるでしょう。あなたのその端末はすでに初期の調整を終えてます。ホーム画面に戻してみればわかるのでしょう』
へぇ、そんなことになるのか。なんかアレだな。
アバターの行動でいろんなものに経験値を溜めてレベルアップしていくゲームみたいだな。いや、この場合は装備か?
俺は言われた通りに窓を全部閉じてホーム画面に戻ると、一瞬違うアイコンが見えたが、すぐに画面全体が信号のないテレビみたいな感じになってしまった。
「あの・・・これは?」
『ふむ・・・どうやらあなたの望みを元に自己改造をし始めています。すぐに終わるでしょう』
すぐに終わるといって、本当にすぐ終わった。
急に中心からノイズを排除させたかのように、画面が戻ってきた。
さっきノイズが走る前の画面と似ているから、なにかが変わったのだろうけど、具体的なことはなにも分からない。
とりあえず、新しい本のアイコンが追加されたので、それを開いてみる。
『Analyzing...0%,1%,3%...』
表示された画面にはデータロードのゲージが表示されて、そしてかなり早い速度でそのロードが終わった。
ロード画面が一転し、大量の文字が並びだされる窓が開かれる。
『端末は適した力を発揮できるように補助する道具。それを通じて、あなた自身の能力を表現できるようにしてくれているのにすぎません。それなのにも関わらず、限定的ではありますが、初日でその《本》を使えるようになるとは・・・やはりあなたには、破壊神よりも創造神向きな適正を持っているのですね』
ブックマークいただきました。ありがとうございます。