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百夜釣友  作者: 柳キョウ
99/101

第九十九夜:禁断のゲーム(了)

アラバマリグが日本に入ってくる数年前のことです。すごいと思います。


(ドッコラショ!)


そんな掛け声が聞こえてきそうなBのキャストだ。

ゆったりとしていて力強い。手にするタックルはロングレングスのベイトタックル。

いかにもBらしく、数カ月も前から、各メーカのカタログを手当たり次第に集めるところから、そのロッド選びは始まった。複数のショップに実際に足を運んでカタログを集めたのは、実は私である。そしてネットを使って購入者のインプレを調べ上げ、先々週の末にやっと決断して購入した新品のシーバス用ベイトタックルなのだ。その長さは8フィート2インチ。

ラインの先に結ばれているルアーは、一言で説明しづらい。説明しづらいが、Bの命名が、とても的を射た表現だと思われるので、そのまま使おう。


B曰く、(アンブレラリグ)。太い樹脂製の骨組みを、傘のフレームの如く組み上げ、各々の骨の先に、今はシャッドテールワームを装着したトレブルフック付きジグヘッドリグが4個付いている。残り2本のアームには、ごく小さなブレード。ジグヘッドの針は、煌びやかなティンセルを含んだスカートが、丁寧に巻き付けられている。これはBの手巻きである。

リグの総重量は実測で約70グラム。通常のシーバスタックルでは、ここまでの重量級リグを投げることが困難で、従ってBは、このリグを快適に使いこなすためのタックル探しを、数カ月前から始めた訳である。



「おっ、ちょっと空が白んできたな」と静かな声でB。


視線を東に向けると、いつの間にか空が朱色を帯びて白んできている。

11月最終週の週末。風は穏やかだったが、それでも早朝の大気は、それまで深々と防寒着の上からでも、私達の肌を突き刺し続けていたのである。あと半時間も経過すれば、顔を出した太陽の輻射熱が、少しは冷え切った体を温めてくれることだろう。そんなことより・・・


「あの海面の騒めき、もしかしてカタクチイワシの群れじゃないの?」


暗い時間帯には全く見えなかった、足元から30メートル程沖合の海面を竿先で指し、私は言う。


「ああ、どうも、それっぽいな」


いそいそとリグを回収し、その海面の騒めきに向けて、重たいアングレラリグをBが投入する。糸が海面に伸び(どぼ~~ん)という派手な着水音を立てる。海面の騒めきに辛うじてリグが届いた。すぐにリトリーブを開始、その4巻目くらい。


「おっ、当たった。あっ、抜けた。おっ、また、アカン!」


どうやら、Bの投げるアンブレラリグに魚からの応答あったようだ。それも複数回。


「お~い、ユキ、こっちおるぞ~」


10メートルほど距離をおいて竿を振っていた、すらりと背の高い女性が駆け寄ってくる。

にこやかな笑みを携えた表情だ。少し明るくなり、朝が早かったにも関わらず、彼女が薄めのメイクをしていることに、私は気づいた。美しい女性だと思う。

彼女は走ってきたその勢いを、そのまま利用するように、立ち止まりもせずキャストする。

ルアーはメタルジグ。その際の、この女性の掛け声は、(塩焼き~~~)。

綺麗な外見とは似つかない掛け声に、心が和む。


実に愛おしげな視線で、この女性のややぎこちないキャストを確認したあと、今も続く水面の騒めきに向けて、Bが仕掛けを投入する。


「よっしゃ~!」


「塩焼き~~!」



Bの(よっしゃ~)が先だったか、女性の(塩焼き)が先だったか、いずれにせよ、ほぼ当時に2人の竿が曲がった。女性の持つ竿は、初めてBが自分で購入したバス用スピニングロッドである。程なくして、これもほぼ同時に、早朝の冷たい空に舞ったのは、紫色を帯びた銀色の輝き。タチウオだ。


「よ~し、まずは一本」とB。


「今晩の塩焼きゲット~」と女性。


どちらのタチウオもおよそ指3本サイズ。この時期、この釣り場で釣れるタチウオとしては、まあアベレージサイズ。


「サバ折り!」


そう口にして、女性がペンチを器用に使い、タチウオの首を折って絞める。


「こっちのも頼む」


素早く針を外したBが、タチウオを女性に向けて投げる。紫の光が空に踊る。

先と同じように、ペンチで女性が絞める。


「サバ折り!」


「サバじゃねぇけどな」


Bの相槌。なかなかにユーモア溢れる味のある暖かい言葉の交換と見事な連携。


「なかなかいい夫婦になりそうだ」


偽らざる本音を、私はそのまま口にする。やっかむ気持ちはまるで起こらない。

言うまでもなく、この女性はBの彼女。4カ月後の彼女の誕生日を待って、入籍するという。学者気質の気難しさと偏屈さが、ありとあらゆる言動に垣間見えるBに、よもやこんな素敵な彼女がいたことが、そのことを知った私には大いなる謎だった。いや、そうではあるまい。私自身も判っているのだ。Bの纏う、己という人間に対してのゆるぎない自信。これと決めたことをやり抜く実行力。そして一途さ。つまりBとは、同性の私から見ても、やはり魅力のある男なのである。



この3人でのタチウオ釣行は一昨日の夜に突然決まった。

失礼、3人ではない。実はもう一人、かなりの距離をおいて釣りをしているので、すっかり忘れていた。あのAも、静かにいま竿を振っているのだ。



「そろそろ、タチウオ周ってきたかい?」


そんなBの電話が、その釣行の発端。一昨日のその時間、私はまだ事務所で仕事をしていたが、(ちょっと待て)と受話器を机に置き、本当は駄目なのだろうが、会社のパソコンで大手釣り道具屋のホームページから釣果情報を検索したのだ。いよいよ湾内に入ってきたカタクチイワシの群れを追う形で、タチウオが釣れ始めたという情報。何ともタイミングがよい。


「どうやら、釣れ始めてるみたいだよ」


「ベイトはイワシの群れかい?」


「ああ、そのようだな」


「じゃあ、行こう。明後日の土曜日の朝はどうだ?」


変わらぬBの剛腕さと決断の早さ。文句の一つも言いたいが、それでも大した予定がいつもないのが私の週末なのだ。


「まあ、行けなくはないが、準備とか大丈夫なのかい?」


「馬鹿野郎、俺がこの日をどれだけ待ったと思っている?用意万全さ」


(ああ、なるほど)と思った。

時は一年とすこし遡る。

Bの釣りデビューの日のその帰路、車のなかでBは言った。


「もう使わないスピナーうんちゃらを、何個かくれないか?」


このスピナーベイトというルアー、根掛かりしにくいことが特徴の一つであり、従って、もう使う気が起きないような古びたものでも、ロストすることなく意外とタックルボックスの奥底に眠っていることが多いのだ。

B宅の玄関先でボックスを開くと、(もう使わん!)ってやつが、見つけただけでも4個も出てきた。どれもラバースカートが溶けてしまって、針先も錆びてしまっている。このままボックスに入れておいても、きっと一生使うことはない。

このままタックルボックスの肥やしになるよりは、ここはBに、この不幸なスピナベの行く末を託すとしよう。そのBの実験成果にどこか期待している自分がいる。


そしてその2週間後、週末の早朝。今度はいきなり私の自宅を訪ねてきたBが私に見せたのは、3つのスピナーベイトをワイヤーで連結したスピナーベイトの塊。ブレードの付いているアームが3本、ヘッドも3つ。

単純に括り付けてしまっては、それぞれのブレードがぶつかり合って干渉しそうだが、上手いワイヤーワークで、ブレード同士の距離を確保している。

まじまじと観察すると、一度ワイヤーで固定したあと、溶かした鉛か何かを流し込んで補強してあるようだ。なかなかに器用な奴だ。


「じゃあ、今から釣りに行こうか」


そう、Bとはそういう男なのだ、昔から。いまさら驚かない。


一個の重量がおよそ20グラムあるスピナーベイトが3個。バス用ルアーとしては超重量級である。急遽手持ちのロッドのなかで、一番ヘビークラスのものを車に積んだ。リールに至っては、わざわざ途中で釣具屋に立ち寄り、新品の25ポンドナイロンラインを購入し、現場で巻き直した。普段の釣りではめったに使うことのない太さのラインだ。


釣り場は、前回と同じ農業用ため池。実験の場としては、傾向と対策を把握する意味で、当然同じフィールドが都合いい。

水面を覗き込むと、朝霧が視界を遮り、水面に浮かぶ魚の姿は見えない。そのことに少し私はほっとする。

魚が見えてしまえば、どうしても釣り人の性で、こいつらを狙ってしまうのだ。

釣ることに熱中し、実験的意味合いのプライオリティが下がってしまう。

見えなければ諦めも付く。

そしてB考案のスピナーベイト連結リグを初っ端から糸の先に結ぶ。ぶら下げてみると、こいつが重い。エクストラヘビーのフリッピングロッドの先が、すでに小型魚一匹をぶら下げているように重力で下がっている。25ポンドラインに巻き替えておいてよかった。16ポンドクラスのラインでは、少し力んでしまうと、キャスト切れしてしまいそうな重量感だ。


それにしても、実験とは言え、普通のルアーを投げれば、それほど魚をキャッチすること自体は難しくないこの季節、全く釣れる気がしないこんなゲテモノルアーを投げねばならないとは。私はかなりにげんなりしている。

そして第一投。


(どっぼ~~ん)


ルアーの着水音が、私の知っているバス釣りで発生する音ではない。

リールを巻いてみる。


(うおっ!)


25ポンドラインが70メートルも巻ける大型のリールだ。巻取り力は昨今必要以上に軽量化された最新のリールと比べるまでもなく強い。それでも・・・


「この巻き抵抗は、人間側が体力的に持たないな」


どうにかルアーを引っ張ってくると泳層は表面直下。3枚のブレードが水を強く噛み過ぎて、揚力がヘッドの重量を上回っているのだ。


「しょうがねぇなぁ。それじゃ、少し集魚力は落ちるだろうが・・・」


そう言ってBは、回収した連結リグのブレードを、少し苦労しつつ一個取り外した。


「このままじゃあ可哀そうだから・・・」


Bはアームだけになってしまったその骨の先に、他の3個と同じシャッドテールワームのジグヘッドを結び直した。

6本のアームのうち2本にウィロー型のブレード。残り4本にシャッドテールワーム。

見れば見るほど、大仰なルアーだ。


(こんなの絶対に企画倒れだ)

口にこそしないが、私の偽らざる本音だった。


さて、こいつを投入し巻き始めてみると、若干は引き抵抗が小さくなった。体に無理のない速度で巻いてくると潜行深度は70センチくらいだろうか。


「まだ重たいかい?」


「俺の知ってるバス用ルアーの引き抵抗じゃない。でもまあ、さっきと比べると我慢できない程じゃない」


そんなやり取りの間に、この大袈裟なリグが足元まで帰ってきた。

こんな太い骨組みに魚は違和感を持たないのだろうかなんて考えたが、Bの狙い通り、このルアーが泳いでいる姿は、確かに小魚の群れを見事に演出している。

このとき私は、心の中でこの不思議なリグを、(大袈裟リグ)と命名したのである。


(どんっ!)


「うわっ!」


ピックアップの直前、唐突に足元のブッシュから飛び出したのは40センチを超えるナイスバスだった。フリッピングロッドと25ポンドラインのパワーを活かし、一気に岸に抜き上げる。

長さこそ大したことはないが、しかし胴が太い。丸い。たっぷりと餌を喰っている魚のようだ。しかもこのサメでも釣るの?的なルアーの、しかもたった2投目の出来事。


「餌を食いたがってる魚が相手なら、まあこんなものさ」


この瞬間、次戦9月に予定されているJBⅡ西の湖第3戦の先発ルアーが決まった。



そして迎えた第3戦、結論から言うと、トーナメンターの出船を待たずして湖面に飛び出した我々の船は、このブレード2個、ジャッドテール4個の大袈裟リグで、ものの1時間半で4本、総重量6キログラムの魚をゲットした。

魚のレンジが完全に沈んでしまった8時以降は、(何だこれ?)ルアーの代表であるスモラバで4本。大袈裟リグで釣った魚を入れ替えるほどの大物は釣れなかった。

結果、5本の総重量は6900グラム。フライングスタートではあったが、この数字は、当日の優勝者のウェイトを1キロ近くも上回っていたのだ。


少し離れた位置から表彰式の様子を見ていたBが、小さく口にした。


「勝ったな」


どこか寂し気にそう言ったBのセリフが、何だか妙に印象に残り、その横顔はやけにいい男に見えた。ともあれ、Bが宣言した(バスプロに勝たせてやる)、その目標は、見事にこの日達成されるに至った訳だ。

しかし、Bの探求心はここで留まることはなかった。


「魚がフィッシュイーター化しているとき、例えばスズキやタチウオが、これも例えばイワシの群れを追い回しているようは状況では、このルアーは絶対的最強ルアーとなる。でっ、俺としても釣って食べれて、美味しい魚がやっぱりいい」


これが、バスプロ達を見事やっつけたトーナメントの帰路、車のなかでBが口にした内容である。


(じゃあ、毎年10月後半に、湾内に入ってくるタチウオで試してみようか)


そんなやり取りで決まった2カ月後のタチウオ釣行、この大袈裟リグは確かにタチウオをゲットした。しかし同時にいくつかの問題点も発覚した。

まずはシンプルにその重量。これだけのヘビー級ルアーを快適に投げ得るタックルが、なかなか世に存在しないのだ。

そして次の問題はフッキング率の悪さ。当たりは頻繁になるものの、なかなか針掛かりには至らないのだ。しかしこれは当然の事で、バス釣り用の針が上を向いているジグヘッドの形状自体が、そもそもタチウオ釣りには向いていない。

この問題については、この時点で私には複数の解決策が思い当たった。


そして予想もしていなかった最大の問題。釣り始めて1時間半ほど経過した頃、唐突にそれは表れた。ブレードの回転が投てきを重ねるごとに悪くなっていくのだ。

始めはブレードのボールベアリングが塩噛みしてしまったことが原因かと思ったが、回収した大袈裟リグをみて驚いた。ブレードのついているアームが、その先端から緑色に変色しているのだ。


ソルトウォーターフィッシングでは、この金属が錆びるという現象は避け得ない。

フックであったり竿のガイドであったり、時としてリールのパーツであったり。従ってソルトアングラーは、フレッシュウォーターアングラー以上に、タックルのメンテナンスには気を遣う。しかし、釣りをしている最中に錆びてしまうとなると、これはもう対処のしようがない。


「電食作用だな」


Bの声に、私はこくりと頷く。電食作用とは、接触した異金属間で生じる電位差によって、水などの導体を介し微電流が流れることによる金属の腐食なのだ。

ブレードとアームという異金属。海水という最悪の通電媒体。

想像もしなかった問題に唸ってしまったBであるが、この年のうちに打開策を見出すには至らなかった。例年より少し短かったタチウオシーズンは、12月を待たずして終わってしまったのである。


時を今に戻そう。

バスプロに勝つと言う目標を達成し、タチウオシーズンも終了し、以来Bと釣りに関する会話をする頻度も少なくなったのだが、今にして思えばBの性格を鑑みるや、次シーズンに向けた闘志がメラメラしていたであろうことは、想像に難くないわけだ。

(どれだけ待ったと思っている?)という久方ぶりに釣りに誘った際のBの言葉には、実はそんな重みがあったのである。


Bの彼女は、いや、彼女という表現も今では軽すぎる気がする。Bのフィアンセは、もう竿を振ってはいない。すでに夕食のおかずは十分という感じなのだろう。

Bが4本、Bのフィアンセが1本、そして私が3本。特に2人に遠慮することなく、ルアーを投げ続けたはずの私を上回る釣果を、Bは得たことになる。四半世紀にも及ぶルアーフィッシングのキャリアを持つ私を・・・である。

そして最大の功労者は、もちろん(アンブレラリグ)。


電食作用の影響を樹脂製のアームを採用することで解決し、引き抵抗の軽減と潜行深度確保のため採用した市販品の小型ブレード2個仕様により、集魚力を確保しつつも、引き抵抗を大きく低減するに成功した。ジグヘッドの軸にトレブルフックを一個通す案は、これは私の提案である。ティンセルの一工夫はBの独断。


「なあ・・・」


「んっ?」


竿を振りつつBが私に声かける。


「あの、西の湖の試合な、あれってプロの試合だったんだろ?」


私達が挑戦したJBⅡ西の湖のトーナメントは、トップカテゴリーではないものの、紛れもなくプロ連中の試合である。(プロなんて大したことないな)なんて自慢話をBはしたいのだろうか。


「プロの試合なのは間違いないよ。トップカテゴリーではないけどね」


(トップカテゴリーではない)という一言を付け加えた私は、きっと(上には上がまだいるよ)と言いたかったのだろう。

あの日私達は、優勝者のウェイトを上回ったとは言え、それはフライングスタートだったし、使用したルアーも公式の試合では禁止されている類のものなのだ。少なくとも、私達は、トーナメントルールに則って戦い、プロに勝った訳ではない。


「あんなのでいいのかね?」


「あんなのでいいとは?」


「俺が気になったのは表彰式の光景さ。プロスポーツ、釣りをスポーツと言うかどうかは別にして、それでもプロ競技ってのは、観客やファンが居て初めて成立するものだろ。あの表彰式で、ああ、こいつらが観客やファンだなって人間は見当たらなかった。そうだな、何だか身内同士の釣り大会って感じだった」


Bの言わんとすることが、私には分かった。野球やサッカーやボクシングでは、狭い会場に何千、何万という多くの観客が集まって選手達のパフォーマンスに熱狂する。

これが釣りとなるとフィールドは広い湖面全域だ。一度に多くの観客の視線の中で競技するということができない。世の釣り番組のように、カメラで収録しておいて、後で編集するという手法もあるが、それでは観客がリアルタイムで楽しむことができない。

観客があってこそ成立するプロスポーツとしては、この釣りの特徴は致命的と言える。


「もう一つ気になったのは、優勝者のインタビューだ。次戦も控えているので釣り方は言えない・・・なんて言ってなかったか?」


そう、確かに優勝者はそんなコメントをインタビュー時に発した。従って、このトーナメントのウィニングパターンは、その場にいた私たちも結局は分かっていない。


「プロスポーツ選手の存在価値ってのは、観客を魅了してファンを作り、そしてそのスポーツの裾野を拡大することだ。そういう意味では、あの時の優勝者より、お前の方が遥かにプロっぽい」


そんなBの言葉を聞くと、日本のバスフィッシング界の行く末を憂う気持ちが立ち上がらないでもない。Bの言うように、プロの試合ですら仲間内の釣り大会の様相なのだ。

しかし、私の方がプロっぽいというBの言葉の真意は測りかねる。これは一体・・・


「お前が釣りの楽しさを俺とユキに教えてくれた。お前と一緒に釣りをした全ての釣行が、本当に楽しかった。釣れた日も、そうでなかった日もな。プロの大会の優勝者のインタビューを聞いてすら、(釣りは面白そうだ)なんて思わなかった。でもお前は、そのことを俺たちに教えてくれた。プロと呼ばれる連中の使命が、愛好者の裾野拡大だとするなら、お前はこのたび十分にプロっぽい仕事をした」


「それほどの物じゃねぇよ」


真面目な顔をしているBの態度に照れくさくなり、吐き捨てるように私は言った。

そして沈黙。しばらく私達の竿は曲がっていない。どうやら朝マズメのチャンスタイムは終盤に差し掛かったようだ。


「やっと釣れた~~」


漁港の先端の方から、これ以上ないほどに嬉しそうな声と共に、Aが走ってきた。右手に釣り竿、左手には朝日に輝く銀色の帯。タチウオだ。それほど大きくはない。

大人げないAの崩れた表情に、私達もつい笑顔になってしまった。


「まだしばらくタチウオは釣れるのかい?」


珍しく笑顔のBが言う。


「ああ、ふた月くらいは釣れ続くだろうな。数は減っていくが、その分、釣れるタチウオはデカくなるよ」


「そうか、じゃあ、またみんなで来よう」


「ああ、そうだな」


「釣りってのは、本当に楽しい」


私にとっては言わずもがなのそんなBの一言が、この日の納竿の合図となった。




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