第九十七夜:禁断のゲーム(12)
久し振りの投稿です。なぜなら新作を鋭意執筆中だからです。(キングダム 王魏将軍風)
結論として釣果を述べれば、4種の細工を施したシャッドテールワームのみを使ったBが合計3本。スモラバと6インチワームのネコリグで、私が8本のキャッチとなった。この日の最大魚は40センチ弱、私がスモラバで釣った魚である。
ここでBの3本の釣果については、少し補足が必要だろう。
この日紛れもなく初めて釣り竿を振ったBは、この針掛かりした3本の魚以外にも、フッキングミスで取り逃した魚が数本あったのだ。キャストは公園で練習できても、実際に魚のバイトを感じ取り、フックセットに至るプロセスは、やはりフィールドでの経験の他に、腕を磨く手段がない技術なのだ。
Bの釣った3本の魚のうち1本は、釣りを始めて半時間ほど経過した頃、まだ日の角度が浅い時間帯に釣れた魚。もう2本は、逆に夕マズメのローライト時に釣れたものだ。
一方で私のキャッチした8本は、ぽつりぽつりと、竿を振っている間、コンスタントに釣れたものである。多少は夕方にバイトの頻度が高くはなったが、その傾向は多少というレベルである。
もう一つ特筆すべきことがある。Bの釣った3本の魚はいずれも、彼の準備した4種類のうち、最も発生する周波数が高いワームで釣れたのだ。傾向と断言するには少し母数が少なすぎるとも感じるが、それでもどの魚も、初心者のBが針を外すに苦労する程、喉の奥深くにフックアップしていた。こんな深いバイトを得られた時、我々釣り人は、(ルアーが合っている)と言うような表現をするが、この高い周波数を発生するワームでのみ、初心者のBですらフックアップできる程、バイトが深かったと結論付けるのは、早く結論を知りたい私の希望的勇み足なのだろうか。
「何度かは他のワームにも魚は付いてきた。でも迷わずワームに喰い付いたのは、この周波数のワームだけだ」
こう語るBは、少し自慢げだった。そもそも周波数作戦はBの考えた作戦であり、私以上にBにはこの作戦に思い入れがあるのだろう。
さて、こうは言えないだろうか。
本来、バスとして餌を捕る時間帯である朝と夕マズメに、シャッドテールワームでバイトがあった。たった3本の魚ではあるが、明らかにある周波数を発するワームに対してのバイトが深かった。そして、本来バスという魚が積極的に餌を捕る時間帯でない日中は、実際の餌、すなわち小魚を模したシャッドテールでは釣れなかったが、魚が(何だ、これ?)と思わせるスモラバは、どうにか魚のバイトを得るに至った。
それでも・・・
「若干のこじ付け感は、否めない気がする」
正直な思いを、私はBに伝えた。根拠は他でもない、私自身の合計8本、最大魚は40センチ弱という釣果である。
今回の釣行では実験の意味もあり、スモラバ主体のパターンを展開した私だったが、仮にこんな制約がまるで無ければ、数に関してはスモラバより遥かに手返しの良いバイブレーションプラグ、型に関しては、夕マズメのスピナーベイトかサイトフィッシングによる大型魚狙い打ちを、私はメインパターンに据えただろう。日中の間にバイトを捕えたスモラバだが、では4インチワームのダウンショットではダメだったのかというと、きっとスモラバとそれ程変わらぬ釣果を得ただろうというのが、私の予想だ。
ルアーの発する周波数の大小によって、魚の喰い方に違いが出るということは、まあ認めるとしても、少なくとも(釣れない時間帯のスモラバが最強)説は、もろ手を挙げて賛同とは言いかねた。そんな私の意見に対するBの反応は、次の通りである。
「俺も、スモラバなるルアーが最強と結論付けるつもりはない。何か訳の分からん魅力は感じるがね」
ここでBの思考が脇道に触れる。
「大体、こんな感じなのか?」
「んっ、こんな感じとは?」
「釣果だよ。え~っと、8時半過ぎから始めたから大体9時間くらい釣りをしてるよな。でっ、今回の釣果は普段の釣りと比較してどうかって質問だ」
季節は7月下旬。バス釣りの適水温と言われる17~22℃は少し超えていようが、全く魚が動かなくなる水温に到達するのは8月に入ってからだ。初心者であるBの面倒に、時たま時間を割きながら8本の釣果というのは、まあ悪いものではない。もっとも、Bでも魚が釣れる可能性の高い、比較的釣りやすいフィールドを選んだということもある。
そこらのことも鑑みて、今回の釣果について、私は次のようにBに説明した。
「一言で言えば、悪くない釣果だと思う。数に関しては、夕方ファーストムービングルアーを使っていれば、もう少し釣れたと思うがね」
「ファーストムービング?速く動くルアーって意味か?」
「そう、そうだよ。例えばこの前、西の湖で釣ったバイブレーションとか、お前の好きなスピナーベイトとかってやつが、これに該当する」
「ふ~~ん、じゃあ、真っ暗闇になるにはまだ少し時間があるし、もう一度そのバイブなんちゃらと、スピナーうんちゃらが泳ぐ様子を見させてくれないか?」
意外な要求だ。日中は気温30℃を超えたであろう炎天下の中、途中1時間強ほど昼休憩を取ったものの、それでも7時間以上はルアーを投げ続けていたBなのだ。
また、コンスタントにバイトを取っていた私に比べて、朝夕しかバイトがなかったBには、釣れない時間帯が私以上に長く感じたことだろう。慣れない釣りの動作に疲労も溜まっているはずだ。如何にスイッチの入ったBと言え、もう集中力の限界だろうと私は踏んでいた。
(ビールだ、ビール!)
すぐにそんなBの大声を、夕暮れ押し迫るいま、聞くものだとばっかり思っていた。
それでもBの眼差しは真剣そのもので、仕方なくという訳でもないが、私はまずバイブレーションプラグを糸の先に結び始めた。
深く思慮することなく、偶然ボックスの取り易い場所にあったチャートカラーのものを選ぶ。手際よくユニノットで縛り、護岸際をサイドハンドでショートキャスト。回収後、反対方向へ、今度はバックハンドキャスト。これも護岸沿い。夕マズメのベストタイム。岸際が最もプロダクティブだろうとの考えによるものだ。
「おい、いま魚を釣ろうと思ってないか?ルアーの動きが見たいんだよ、俺は」
(ああ、そうかよっ)て感じで、少しムカっとした私であるが、ピッチングでショートキャスト、そして足元でルアーを泳がせる。
「これがバイブレーション。こいつはサイレントモデルって言って音がしないタイプだけど、ラトル・・・え~っと、金属の玉が中に入っていてカタカタ音の出るやつもある」
「うん」
生返事を返すBの表情は、どこか上の空って感じだ。
こんな表情を見せている時のBは、いつも何かを深く考察している。そしてその処理速度は、我々一般人の比ではない。今更ながらだが、このBの出身校は、沢山のノーベル賞受賞者を輩出しているあの京都の学校だ。
しばらく足元でバイブレーションを泳がしていた私なのだが、Bからの反応が希薄なので、退屈しのぎの意味もあって、サイドハンドキャストで岸際を打った。もう十分にこのルアーの動きは観察できただろう。
距離的には10メートル程度のキャスト。そしてこの一投にあっさりと魚がバイトしてきた。フッキング直後に感じた重みで、それ程大きくない魚であることが分かった。
着水後巻き始めてすぐ、中層でのヒットだ。およそ25センチ。ひょいと抜き上げながら、Bに言う。
「ほらな、こっちの方がスモラバより手返しが早い分、効率がいいんだよ」
「ああ、でもサイズは小さくなった」
言われて初めて私も気付いた。確かにこの魚が、今日二人の釣った魚のうちで最小魚だったのだ。使っていたワームがデカいこともあったが、Bの釣った3本の魚は、どれもいいコンディションをしていた。長さこそ、私がスモラバで釣った一本が一番長かったが、この最長寸の魚は、いかにも夏バテって感じで痩せていた。
「子供の行動ほど予測できないものはないのさ。人間でも動物でも。じゃ、次、スピナーうんちゃらを投げてみてくれ」
スピナーベイト、初めてその動きを見た時、Bなりに少し感動したと言ったあれだ。
Bとしてはこのスピナーベイトの動きを観察したいのだろう。キャスト後、沈めるような間は取らず、表層付近を泳がせる。2投、そして3投。
「う~~ん、やっぱりこれは餌っぽい。小魚の群れだな、これは・・・」
スピナーベイトは小魚の群れ・・・確かによく言われる仮説ではある。しかし、そう表現されるようになったのはほんの15年程前のことだ。それ以前の日本のバスアングラーにとって、(何だかよく分からないアメリカンルアー)の代表が、このスピナベだったのだ。
ただし、このルアー、初めからそれを狙って作られたものではない。そんな雑学をひけらかす必要は、今はないのだろう。
「超・・・正反対のルアーだな」
んっ?意味深な言葉である。
「正反対とは?」
「だからバイブなんちゃらと、スピナーうんちゃらは、全く正反対のルアーってことだよ」
「んっ、その心は?」
「だから正反対のルアーってことだ。(何だ、これ?)の代表がバイブレーション、餌を模したルアーの代表がスピナーベイト」
この意見に同意できるアングラーが果たしているだろうか。むしろバイブレーションとスピナーベイトは、とてもよく似た特性のルアーだという認識の方が、遥かに腑に落ちる気がする。即ち、どちらもシャローレンジをテンポよく広く速く探っていくルアーであるという意見だ。ましてスピナーベイトの形状は、実際の餌とは、あまりにもかけ離れている。むしろバイブレーションプラグの形状の方が、見た目は遥かに小魚っぽい。
「そのバイブレーションってルアーも(何だ、これ?)だ。大体、そんな頭を下げた姿勢で横方向に大暴れる生物が世に存在するか」
バイブレーションプラグは実際の餌とは、実はかけ離れている。
この時聞いたBの見解は、その後の私のバイブレーションプラグに対しての認識を、若干変化させる程度の知識として留まった。
逆に、スピナーベイトは餌そのもの。この考え方が、その後の私のフィッシングライフを大きく変えるほどの意識改革になるとは、この時点ではまるで私は想像していなかったのだ。




