第八十九夜:成長された、成長した
またまた一番最新の釣行日記です。
釣り仲間と3人で釣行に出掛けた。
本命ターゲットは、前週からプラグでも釣れ始め、いよいよベストシーズン間近と言ったところのメバル。
事の発端となったのは、(先週尺メバル釣りました。それもプラグで・・・)という私の釣果報告。仕事のメールに(※P・S)として一行付け加えたものだ。早速、仕事の話もそっちのけで、お誘いの返信があった次第。(嘘です。ちゃんと仕事に関しての記載がありました。そういう事にしておきます)
このお二方、なかなか人間的にも味わい深い人たちなのだ。お二方とも、同じ超一流企業に勤めており、昨年にいわゆる職場恋愛で、めでたくご結婚されたご夫婦である。
学歴も、思わずこっちが引いちゃうような一流大学のご出身。思考は冷静にして深く、発言は端的にして的確。
そして釣りに関しては・・・、ああ、本愚作“第44部(こだまが鳴るとき)”をお読みいただけると幸いだ。その章のまさに登場人物であるお二人なのである。
我ながら、よくお二方の雰囲気と関係について、上手に表現できていると満足している。
あれからすでに1年半。あの頃はまだ入籍されていなかったはずのお二人。
個々に仕事でお付き合いがあったものの、当時はお二方がそういう関係とは全く知らず、釣り場で待ち合わせた初めての釣行のとき、1台の車から同時に現れたお二人に、(えっ、どういうこと?)ってなった事を、まるで昨日のことのように思い出せる。
月日が光速で流れていることを実感しつつ、変わらぬお二方のご厚情に感謝している。
このお二方と一緒に釣りをすること、これがなかなか面白いのである。
まず、着実にアングラーとしてお二方が成長していること。それを現場で実感できるのが見ていて楽しい。さらに、このご夫婦間の、時に垣間見える距離感の妙とでも言うか。
例えば・・・最初のタックルを購入されたときのやり取り。
「何釣りから始めたいですか?」
「今の季節に釣れて、できればルアーで釣れる魚がいいです」
「じゃあ、カサゴかメバルあたりが、ルアー釣りの取っ掛かりとしてはいいでしょうかね。季節的にも・・・」
そんな会話の流れで、7フィート3インチのライトアクション、極めてスタンダードなメバルロッドを、まず旦那さん(になる方)に購入頂いた。
※このやり取りの時には、お二方の関係を私は全く知らない。
「チューブラーティップとソリッドティップってのがあるんですけど、汎用性を考えたら、一本目としてはチューブラーをお勧めします。釣りを続けていく中で、ソリッドタイプが必要になってくるシチュエーションが、そのうち自ずと分かってくると思います」
我ながら良いアドバイスだ。そんな私の補足までも含めて、すべて忠実に、私の意見をこの旦那さんは採用してくれた。
一回目の釣行では、私の準備していた予備タックルを使って頂いた奥様(になる方)はと言うと、二回目の釣行の際には、いつの間にかご自分で竿を購入されていたようで、その竿を初めて拝見したときは、ちょっと笑ってしまった。
その竿は旦那さんの物より5インチ長い7フィート8インチ。昨今ショート化される傾向にあるメバルロッドと比べるまでもないロングロッドである。パワーも1ランク上のミディアムライトパワー。
普通は・・・いや、何が普通なのか分からないが、それでも普通は、男性の方が、より長くて固い竿を選ぶ傾向にあるものなのだ。中級者が初級者にタックルを勧める際も、自分が使っているものより、若干短く、柔らかいスペックのものを推奨することが多い。
長くて硬いロッドは、使いこなせばそのポテンシャルが活きるが、そのためには少しの努力と経験が必要。そんな中級者の認識による推奨なのだろうし、一般論として、これは誤りではない。
いずれにせよ、このご夫妻がそれぞれ購入された竿のイメージを別のもので例えると、スパルタンな味付けのスポーツ車を購入した奥様と、街中で取り回しのよいコンパクトカーを利用している旦那様って感じ。確かに何となくこの二方の印象と重なって、私にはそのことが面白かったのだ。
奥様の方が、より長く硬いものを選ばれた背景には、一体なにがあったのだろうか。
深く考えず、たまたまショップで安売りしていたセール品に手を伸ばしたのだろうか。
体力的に劣る女性が、タックルの長さとパワーでそれを補助しようと考えたのだろうか。
後者が理由なら、その慧眼おそるべしだ。
興味は尽きないが、まだ直接ご本人達に尋ねることはしていない。このことはもう少し、興味のまま、私の中で寝かしておくこととしよう。
次いで釣果について。傾向と呼ぶにはまだ母数が小さいが、これまでどちらかと言えば奥様の方が、より魚を釣ることの方が多かった・・・ような気がする。
想像できる原因は、自分の釣りは横に置き、旦那様側が奥様に対して気配りをしていること。しかし私が見た限りでは、そこまであからさまな感じを抱いたことはない。
それ以外の要因も、実はなくはない。その違いは、アジ釣りやサバ釣りではさして問題とはならないが、これがメバル釣りとなると、より釣果の差としてはっきりと表れるだろうと、私が予想している違いである。
その違いとは、お二方の基本となっているロッドアクションの違い。そしてこの違いは、私たちの初めての釣行、サバ狙いに出掛けた際、最初にお二方に私が手渡したルアーの違いに因るものなのだ。でも、そのことについて、お二人に語ったことは、これまで一度もない。いつの日か種明かしということで、語りたいと思っている。
「〇〇ご夫妻との釣り、どうだった?」
私がこのご夫妻と、よく釣りに出掛けていることは、職場の多くの人が知っているので、たまにそんな会話になったりする。
「う~ん、まあまあかな。僕がメバルとカサゴ合わせて15匹くらい。〇〇ご夫婦も、それぞれ2~3匹くらいは、ちゃんと釣ってたよ」
「ええ?それってなんか、遠慮がないっていうか・・・いいのかい、そんなことで?」
「いいのかいって、何が?そもそも遠慮って何よ?」
「だってお前は釣りに関しては自称プロ級なんでしょ。もうちょっとお客さんに対して遠慮とか気遣いがあっていいんじゃないの?」
うん、こんな事を宣う輩は、少し誤解している。お客さんではなく、今やお二方は、立派な私の釣り仲間なのだ。少しむかし話をしよう。
それは1990年のこと。自分はすでに一端のバスアングラーだと自負していた私は、某ローカルバストーナメントに出場した。おかっはりの大会である。
意外にもというべきか、やはりと言うべきか、それなりの自信を持って出場したその試合をノーフィッシュで終えた私は、本トーナメントの優勝者が40センチアップだけで5本のリミットを揃えてきたことに心底驚いた。
そのトーナメントの翌週、たまたまフィールドで見かけたその優勝者に、臆せず私は指導を請うた。この人物も、本作“第15部(廃刊を惜しむ)”で少しだけ登場する「吉野川の救世主」と呼ばれた人なのだ。当時四国で活躍していたローカルトーナメントプロ達をして、(吉野川のおかっぱりでは、あの人には絶対勝てん)と言わしめていた。このメシアとの出会いによって、私の釣技と人的つながりは、その後一気に広がったのだ。
「なに言ってんの、想像してみてよ。自分たちが2~3匹、その横で僕が3~4匹ってのと、自分たちが1匹釣る間に、5匹も同じ場所で僕が釣ってる。どっちが釣りの奥深さを実感できる?・・・あなたが想像してるのは、ダブルボギーペースで仲良く回る接待ゴルフのイメージか何かじゃないの?それとは訳が違うよ、僕たちの釣りは」
よく分からんって顔で、その同僚は席に戻ったが、分かって貰えなくたっていい。
分かる人だけが、私と一緒に釣りをする資格がある。ごめん、偉そうに言い過ぎた。
さて、今回の釣行の話に戻そう。
釣りを初めて小一時間くらい経った時だろうか、私の予想に反して、まず旦那様側が、良型のメバルを釣り上げた。プラグで・・・である。そのメバルは僕たちがブルーバックと呼んでいる、いわゆるクロメバル。複数匹で回遊することの多い同種は、一匹釣れれば同じ場所で連発する可能性も高い。
一気に私たちのテンションも上がったのだが、それにも増して上がってきたのが、強風による荒波の高さ。ほとんど私たちの足元を洗わん勢いだ。昔から、(凪を釣れ)と言われるメバル釣りでは、これは最悪と言ってよい状況。
こんな事もあろうかと保険的に考えていたテトラ帯に移動したが、さらに勢いを増した強風にこのポイントもほぼ壊滅状態。メバルはもう諦めざるを得ない。カサゴを狙うにしても決して簡単じゃない。私でも・・・である。
サイドハンドでキャストする。可能な限り横風をラインに当てないためである。
ルアーが着水する前から竿を倒し、ラインを海水に馴染ませる。
リグを沈めていくが、着底の瞬間は分からない。シンカーの重さと水深から鑑みて、そこはもう勘に頼るしかない。
風に糸が引っ張られ、ボトム(底)にルアーをステイさせていることすら難しい。
シンカーを重くするという手もあるが、さすれば今度は根掛かりのリスクが増える。
1.5グラムシンカー、3ポンドフロロライン。そんな組み合わせで、どうにかテトラの起伏を微かにロッドで感じ取り、ルアーをこの起伏に支えてもらう状態でバイトを待つ。
ロッドティップはほとんど水面。少しでも持ち上げようものなら、リグが風で流れてしまう。
さて、この表現で、いかに厳しい状況かを伝えることはできただろうか。
いかがだろうか、ちい華様。
こんなやり方で、どうにか4本、中型カサゴを私は釣り上げた。
全霊を注ぎ込んでの成果。
お二方の朝食、すなわちみそ汁の具、程度にはなっただろうと少し安堵する。
ところで・・・
「あれ、〇〇さん(奥様の旧姓)は、どこ行かれたんですか?」
「そこに潜ってます」
見ると、ロングロッドを短く持ち、しゃがみ込む様な態勢でテトラ際の穴にリグを落とし込んでいる奥様の姿。
そう、この強風下では、これが最善の釣法。程なくして、期待通り奥様の竿が海中に引き込まれた。サイズは小さかったが、これこそナイスフィッシュ。
(ほら、そこに投げて)と促されてヒットする60センチオーバーのシーバスより、至る所でボイルが起きているフィールドで釣り上げる100匹のメバルより、遥かに価値のある15センチのカサゴ。そんなクオリティーフィッシュを釣りあげてくれたことが、私にとっても、この日一番の喜びとなった。
本当にアングラーとして成長されたと思った。
私がバストーナメンターだった時、人様の釣果を喜んだことなんて全くなかった。
目の前で他のトーナメンターがビッグフィッシュを釣り上げれば、帰着時間までにデッドすればいいのに、と本気で考えた。
※バストーナメントでは死魚はノーカウントとなる。
釣技に関してはおそらくあの頃と比較してレベルが落ちたが、人の釣果を素直に喜べるアングラーにはなれたようだ。
私もアングラーとして成長したと思った。




