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百夜釣友  作者: 柳キョウ
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第八十五夜:柳は遂にベイトフィネスタックルを手に入れた(了)

K様、N様

週末は釣れませんでしたね。これに懲りずにまた行きましょう。


深夜の漁港の外洋側。20トン型テトラポットの上で、ぼんやりと闇に浮かぶ波の輪郭を眺めている。ここ日本で消波ブロックとして使用されるテトラポットは全部で18種類。最も大きいのが80トン型と呼ばれるもので、日本海や太平洋の荒波地域に設置される。瀬戸内海ではほとんどが20トン型より小さいもの。これまで人生で一度もひけらかす機会がなかった僕の雑学の一つだ。ひけらかした。


潮を見詰め、風を感じる。こんな時、なぜだか釣り人は仁王立ちになって、手を腰に当てる。自然とそうなるのであって、決して恰好を付けている訳ではない。理由は自分でもよく分からない。


記録的な暖冬といわれる今年の冬は、本当に暖かいようで、全く風がないこともあり、例年なら凍えつくような1月の夜気が全く肌を刺してこない。どころか、防寒ウェアを着てテトラポットの上を数十メートル歩いてきた僕の体は、逆に少しポカポカしていた。


僕の右手には新品のベイトフィネスタックル。リグは完成している。街頭の光を利用して、さっき駐車場で作ってきたのだ。1.8グラムのジグヘッド単体。極めてシンプルな仕掛け。セットされたワームは、口の大きいガシラ狙いということで、比較的大きめのクローワームを選択した。ジグヘッドと合わせたリグの総重量は4グラムくらい。

ベイトフィネスタックルの性能を検証するには持ってこいのリグだ。



「うん、潮通しもよさそうだし、この辺りにしよう」


辺りに全く釣り人は確認できないが、そんなことに関わらず、最近、僕は釣り場でよく独り言を口にする。年を取った証拠なのだろうか。決して人寂しい訳ではない。

人寂しがっているようでは、そもそも釣りに向いていない。

どちらかと言えば、一人になりたいが故、釣りに出かけるという釣り人も多いのだ。

僕に関しても、その事はあながち否定できない側面がある。一方で、他の釣り人とフィールドで出会うことは、よっぽどマナーがなっていない釣り人を除いて、決して嫌いではない。釣り人とは複雑な生き物なのだ。


海と向き合い、まずは目の前のテトラの切れ目を狙ってピッチングでルアーを送り込む。

海面を燕のように・・・という訳にはいかなかったが、それでも十分釣りとして成立する程度には、ストレスなく軽量ルアーがはじけ飛んでいった。

しゃっ、しゃっ、しゃっ、と手で新品のリールから糸を送り出す。しかし意外と早い段階で糸の出が止まってしまった。考えていた以上に水深が浅いのか。

着底後数回ワームを揺すってみたが、この日の第一投目にバイトはなかった。そんな甘いものではないらしい。

足元の水深がないということは、やや沖目へのキャストが有効かも知れないが、しかし、もう少しだけ足元を丁寧にということで、ほぼ真下、足元のテトラの穴にリグをスルスルと落としていく。

予想した通り、あっという間に着底したが、それにしてもこのリールの回転の滑らかさはどうか。感覚としては7グラムくらいのテキサスリグを扱っている感じ。


(ベイトリールの性能はシ〇ノ製メタニウムマグ07モデルをもってして終着点を迎えた。それ以降の様々な新機能の付加は、アングラーの感性を唯にスポイルするもの)

これが僕のベイトリールに関するこれまでの持論であったが、このたびこの持論は撤回せねばなるまい。


このバーチカルフォールにも魚からの反応はなかった。そこに居さえすれば、ほぼ間違いなくバイトがあるガシラ相手なのだから、ここは狙い場所をがらりと変えるが得策だろう。

早々に見切りをつけてルアーを回収する。ハンドルを数回回すと、あっという間にリグが手元に戻った。ギア比7.3というスペックは、僕の保有するリールの中にあっては最速の部類である。巻物に使った場合はどうだか分からないが、こういう打ちの釣りに使用するには、驚くほどに快適だ。


さて、遂にベイトフィネスタックルによる初のフルキャスト。ヘッドライトを点灯させてマグネットブレーキの設定を確認する。いま現在の設定は20段階の10。20段階って、そこまで細かく刻む必要があるの?とは思ったものの、マグネットブレーキならちょうど真ん中、遠心ブレーキならシュー2個オンが僕の基準で、よほどの強風下の釣りでなければ、こんなセッティングでこれまで問題があった経験がない。


ブレーキの設定を変えずにそのまま沖目に向けてキャスト。

テイクバックの際、ルアーの重量がやや感じにくかったので、反射的にリリースを早めにした。ここらのところが経験の為せる業。

距離にしてどうだろう、15メートルは飛んで行ったか。1.8グラムジグヘッドリグを、8ポンドラインを巻き込んだベイトタックルで15メートルキャスト。

素晴らしい。最新タックルの性能も、僕のキャスティングテクも。


またまたリールから手で糸を引き出し、できるだけフリーに軽量リグを落としていく。

取りあえず5回、糸を引き出してみた。しばらく待ってみると、フケていた糸にテンションが掛かった。まだリグは着底していないようだ。クラッチを切ったままリールを見ていると、しばらくゆっくり回転していたスプールが程なくして止まった。着底の合図。

糸ふけを取る程度にテンションを掛けると、特に抵抗なく軽量リグが手前に寄ってくる。ボトムの形状はフラットのようだ。


竿1ストローク分くらい手前に引いてきた頃だろうか、コリコリという固い感触がラインを通して伝わってきた。どうやら一番アウトサイドのテトラの際にルアーが達したようだ。

テトラの入り具合がよく判らないが、いま僕が乗っているテトラと同じ形状のものが水面下に沈んでいると想定すれば、それは結構大きなテトラということになる。

ロッドティップを高くホールドし、ジグヘッドリグをテトラの形状に沿ってずり上げてくる。


コリコリ、コリコロ、ゴリン、フッ、って感じでリグが宙に浮く感覚。

一番沖側のテトラをリグが超えたようだ。ここで少し竿を倒してリグをフォールする。その動作とほぼ同時に、ググンって感じの海中からの応答。

慌ててロッドをあおる様なことはせず、しばらく竿を揺すって魚がワームを咥え続けていることを確認したあと、ぐりぐりと巻き合わせる。


はじめは結構な重みを感じたが、リールをさらに巻き込む段階で急に抵抗が小さくなった。

うんうん、ガシラとは元来そういう魚なのだ。最初のうちはけっこう頑張るが、ダメだと思うと意外と諦めが早い。

ガシラのそんなところが、時に反面教師となったり、時に模範となったりする。

すぐに上がってきたガシラは約20センチ。まあ悪くはないサイズだが、フィネス寄りのロッドとは言え、それでもバス用タックルだ。このサイズでは釣り味としては少し不満だ。

サイズアップを目論み、ここで僕はワームのサイズを思い切ってデカくする。

ビール瓶クラスのアイナメ釣りを除いて、ロックフィッシュゲームに使用するワームとしてはほぼ最大級。ジグヘッドのフックが相対的に小さすぎて、ほとんどワームの頭にチョン掛け状態となる。


先般と同様に、沖目掛けてオーバーヘッドキャストでリグを投入する。

ワームがデカくなった分重量が増したが、きっと空中での空気抵抗の問題なのだろう。飛距離は先般とあまり変わらなかった。空気抵抗が増した分、飛んでいくルアーも急速に空中で勢いがなくなったが、これも最新リールのブレーキ性能の高さなのか、全くバックラッシュしそうな気配がなかった。

着水後、何度か手でリールの糸を引き出す。しばらく待ってフリーにしているスプールが止まるのを待つ。浮力が大きくなったからだろうか、着底までにしばらくの時間を要した。スプールが止まる。こんな時、全く糸が浮いたりしないのがマグネットブレーキシステムのメリットだ。遠心ブレーキを突き詰めたシ〇ノ製リールの唯一と言っていい弱点も、このダ〇ワ製最新マグリールには存在しなかった。


ゆっくりリグをズル引く。

程なくして、コリコリの感触。テトラのアウトサイド。さっきはこのテトラを乗り越えたタイミングでバイトが在ったが、果たして・・・


(ゴクンッ、ゴクン!)


他の魚種では味わうことのできない明確無比なガシラバイト。

ワームが大きいことを考慮して、少し間を置いた後、ぐぃっと巻き合わせる。

ギア比7.3のハイスピードリールが一気に魚を、テトラ際から引き剥がす。

上がってきたのは25センチクラス。魚体は真っ赤。相当深い根に潜んでいた魚のようだ。


僕はこの2匹目のガシラをゲットしたことにより、完全にこの日の釣りのリズムを掴んでしまった。

沖目に投じる。4~5回ほど手で糸を引き出す。

底を捕る。竿1本分程度引いてくるとテトラのアウトサイドに到達する。

このテトラを乗り越えて、そのままフォールさせた瞬間にバイトがある。


何度か立ち位置こそ変えたが、それでも全く同じルーチンとリズムで、20匹くらいのガシラを釣り上げた頃、ふと時計を見ると、釣りを開始してからちょうど2時間が経過していた。

ここで気分転換も兼ねて、さっきはまるでバイトの無かった足元の穴を、バーチカルにリグを落とし込んでみた。着底を待たずして何かが飛びついてきた。

潮位が上がってきたので足元のテトラまで魚が上がってきたのだろうか。

指でスプールを押さえてフッキング動作。我ながら流れるようなロッドワークだ。

上がってきたのは20センチを大きく超えるタケノコメバル。


完璧だ。完璧なタックルセットだ。完璧なリズムだ。

これ程の完璧感を実感したのは、一体いつ以来だろうか。

そう、あれは僕がバストーナメンターとして、一度だけ表彰台のど真ん中に立ったあの日以来。2005年6月。滋賀県西の湖でのローカルトーナメント。


その日、西の湖の天候は曇天無風。トップウォーターで釣るにはフィッシングプレッシャーが高く、巻きの釣りにはめ込むには風がない。ジグやワームの釣りは、曇天により魚がストラクチャーに依存せず、広く散らばり過ぎていて効率が悪い。ライトリグへの小さなバスの反応はすこぶる良かったが、狙って大型魚を釣ることが難しい。

こんな中途半端なシチュエーションの中、僕はサスペンドタイプのものに鉛シールを貼り、スローシンキングに即席チューンしたバイブレーションプラグのスローリトリーブで、曇天によりウィードの上面に浮いていたはずの大型バスを攻略し、表彰台の天辺に立ったのである。

優勝インタビューでは、(バイブレーションでウィードの上面を引いてリミットを揃えた。最大魚はアユカラーのサイレントモデル)なんて優勝パターンを説明したが、最も重要だったのは、投げる、沈める、巻くの、全体としてのリズムだったのである。中でもスローシンキングチューンにより通常のバイブレーションでは実現できなかったスローリトリーブでウィードの上面を攻めたこと。これこそが他のアングラーとの差別化だったのだ。それと比較すれば、アユカラーだとかサイレントだとかは、実は些末なことだったはずなのである。


魚を釣ることに関して、僕が一番大事であると信じる釣りのリズム。

これが今日は完全にはまっている。

そしてもう一つ特筆すべきこと。針がむき出しのジグヘッドリグでテトラ帯を攻めるという、常に根掛かりのリスクが伴う釣りにおいて、一つもルアーを無くしていないという事実。釣り人がリズムを掴んでいる時ってのは、こういうものなのだ。


果たして、このベイトフィネスタックルのデビュー釣行は、4時間強の時間でガシラ50匹、タケノコ3匹という好釣果となった。ルアーのロストはなんとゼロ。

僕はまだ夜が明けていない午前四時ごろ、納竿としたのである。もちろん大満足の釣行となった。



「安全運転で帰るか」


車まで戻り、仕掛けを仕舞いこんだ僕は、またまた独り言を発する。

と、その時、一人の釣り人が堤防から梯子はしごを降りてくるのを見た。

今日見かけた最初で最後の釣り人だ。

手にしているタックルはおそらくメバル用ライトタックル。

少し機嫌のいい僕は、こちらからその釣り人に挨拶する。


「おはようございます。釣果のほうは如何ですか?」


「いや~、まだメバルには少し時期が早かったみたいです。小さいのが3匹くらい。そちらはどうでした?」


「ずっとガシラに遊んでもらってました。メバルは狙ってないです」


「テトラに乗って釣りしてたんですか?」


「ああ、はい」


「もうワカメ付いてました?」


「んっ、ワカメ?」


「テトラにワカメが付きだすと、メバルが寄ってくるんです。毎年3月くらいからは、ワカメに付いたメバルが入れ食い状態になるんですよ。でも今年は暖冬だったので、もうワカメ付いてるかな~って」


へぇ、そうなのか。こんな情報収集も、フィールドに出てこないことには入手できない。

まさに現場からの生情報だ。


(ああ~、今日は消化不良だなぁ)


本当に悔しそうな顔でそのアングラーは去っていった。

僕的には、また3月の楽しみが一つ増えたことが嬉しかった。


ぐっと放射冷却で澄み切った冬の空を見上げる。

満足を得た釣り人にも、そうでない釣り人にも、平等に星々が散りばめられていた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 今週は私も川でボウズをくらってしまい、この文章で楽しい釣り気分を味わっております。 「ピッチング」という言葉だけで、なんとなくロッドの曲がりや、海の風景を想像できてしまいます。色々な「ある…
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