第八十三夜:柳は遂にベイトフィネスタックルを手に入れた(2)
2020年はリールあたりの年ですね。
いち・に~・さん・・・・・・よんじゅうきゅう・ごじゅう!
8ポンドフロロカーボンラインをリール50回転分巻き込んだ。
40年にも及ぶ釣り歴を振り返っても、こんなきっちりとしたラインの巻き方、これまで一度もしたことがない。
(大体こんなものかな~)って感じな巻き方を、僕はずっとしてきたのだ。
それでも経験とは恐ろしいもので、この大体が、150メートル巻きのボビンならちょうど2回分。300メートル巻きなら4回分。
つまり僕が、こんなもんかな~で糸を巻き込むと、かなり小さな誤差で75メートルほどの糸をリールに巻き込むことになっていたのだ。
「糸巻量が少なければ少ない程、ベイトフィネスタックルは戦闘力が上がる」
そんなDVDの中でIKが語った言葉を鵜呑みにする格好で、この度きっちり回数を数えた訳なのだが、巻きながら僕は不安になる。今糸を巻き込んでいるリールのギア比が7.3。ベイトフィネス専用リールという訳ではないので、スプールの径はそれほど大きくはない。
糸を巻き込めば巻き込むほど、一回転の巻き込み量は大きくなるが、それでも平均一巻き60センチくらいだろう。50回巻きならおよそ30メートル。
30メートルも糸が必要な釣りをするつもりはないのだけれど、30メートルなんて、一回バックらってトラブれば、もう終わりじゃん。高切れの可能性だってゼロではないだろう。
ということで、歩留まりの意味もあり、あと15回追加でリールを回した。
こんなところが、まさに(下手の長糸、上手の小糸)ってところなのだろう。
でも、やっぱり人生には余裕や歩留まりは必要だ。
社会人になってから、ずっと(無駄な出費)と思っていた生命保険料が、この度わが家計を救ってくれたことで、柳の人生観は少し変わったのだ。
そして沢山の知り合いの心遣いにも大変感謝した。
たまには致命傷にならない程度に怪我もしてみるものだ。
人の優しさが身に沁みたりする。
また話がずれた。
でっ、タックルはこのベイトフィネスロッド一本。少し痛い思いをして得た保険金で、新しい足として軽自動車を手に入れた僕に、フィールドに持ち込むタックル数の制限はないのだが、(結局はいつもと同じ釣りをしてしまった)って事にならないため、まあ格好よく言えば、退路を断った訳なのだ。
ルアーの方もなかなかに潔い。スモラバが4つだけ。そのうちの一個は、今のところ令和最大バスを捕えた2.3グラムのもの。最大といっても35センチだけど。
トレーラーに使う予定のワーム2パックと一緒に防寒着のポケットに押し込むと、ウエストポーチすら必要のない軽装。でも、ハサミをポケットに直接入れるのも、万が一、足を滑らせ転んだ時なんかちょっと危ない気もした。今、僕は怪我には少しだけ敏感なのだ。そして下痢止めなんかの常備薬とハサミ用だけに、一応ウエストポーチを準備した。
今回の釣行の武器は、スモラバと軽装備による機動力。とっても男らしい。
厳寒期の釣行、しかもただ新しいタックルが使いたいだけ。釣果など端から期待していない。準備を整えた私は、さしたるドキドキ感もないまま床に就いた。それでもウィークデーの夜に比べれば、数十万倍も幸せだ。
目覚めると窓から注ぐ光の角度がなんだか変だ。
我が家にこんな方向から日光が差し込んでいるのをあまり見たことがない。
ダイニングから洗い物でもしている水音が聞こえる。
「お~~い、いま何時?」
「2時前。起こした方がいいかな~って思ったけど、スヤスヤ寝てたから。お腹すいた?」
「うん、すいてる。てか・・・2時って、昼の2時?」
「丑三つ時がこんなに明るい訳なかろう」
「・・・でしょうね」
寝過ごしたという次元を凌駕した朝寝坊・・・というより昼寝坊。
こう見えて僕は結構ウィークデーはちゃんと働いているサラリーマンなのだ。
ちょっと気が緩むと、疲れている日にはたまにこんなことが起こる。
体力の衰えも、本当に最近酷いし。
少し日が長くなったなと感じ始めた頃とはいえ、夕マズメの短時間で魚をゲットできる程、1月のバス釣りは甘くない。この時間から出掛けても、今日釣果を上げることはもう絶望的だ。
「釣り、行くんじゃなかったっけ?どうするの」
「行く、絶対行く」
でもこんなところがマルチアングラーの融通の利くところ。ベイトフィネスタックルが活きるのは、何もバス釣りだけではない。僕の心は、この時すでに漁港のガッシーモードに変貌していた。
もし日本にガシラという魚が生息していなかったらと思うと、正直ぞっとすることがある。
僕たちアングラーにとっての、正に冬の救世主的な存在だと思う。ガシラってとても愛らしい魚だ。
お腹を少し温める程度の軽い昼食を取った後、少しリビングで報道番組なんかを見ながらまったりとして、夕方の5時頃に、烏の行水のような風呂の入り方をした。
(晩御飯はそうする?)とは女房の声。昼が遅かったこともあり、空腹感はまるでない。
それよりも体が風呂で温まったからなのか、阿呆ほど寝た後だというのに、何だか眠気が襲ってきた。
真冬の夜釣りは神経と体力を消耗する。エネルギー温存ということで、僕は再び布団に潜り込むことに決めた。目覚ましのアラームを21時にセットしようとしたが、ちゃんと今度は起こすから心配するなと女房。その時間までには、ちゃんと夕食も準備しておくとのこと。
(それじゃあ)と特に礼の言葉も口にせず素っ気なく布団に一度潜り込んで、ふと思い出したように布団から飛び出し、そしてガシラ用ワーム3パックと2グラムジグヘッド4パックを防寒着のポケットに放り込んだ。
おっと危ない。夜釣り用のヘッドライト。夜の必需品。こいつはポーチの方に収納した。
「この寒い中、本当にご苦労なこった」
全く悪意を含まないそんな見送りの女房の声を背に受け、夜の散歩にでも出掛けるような軽装で、僕は自宅を出た。時刻は21時40分。
ベイトフィネスタックルデビュー釣行。
西から吹いてきた1月の夜風は、やっぱり少し冷たかった。




