第八十夜:柳は遂にベイトフィネスタックルを手に入れた(1)
明けましておめでとうございます。
むかし昔、ずっと自宅のトイレの棚に置いていた愛読書があった。
“便秘”なるものを、柳はほとんど経験したことがなく、腸の活動は、いつも至って良好。よって毎朝10分程度は、トイレの便座に座り、読書の時間が獲得できていたのである。
自称『年間500回う〇こをする男』
年間に釣り上げるバスの数よりも、はるかにう○この回数の方が多かった。
そんな健康のパロメータと呼ぶべき朝のお通じも、ここ数年は目に見えて衰えてきた。
特に、出張でビジネスホテルなんかに泊まった翌朝には、大抵の場合、出てきそうで出てこない頑固な”ヤツ”に悩まされる。
最近テレビで、(一日のうち8時間以上何も食べない時間を設けること)が、腸の活動を活発に保つコツであるという内容の番組を見た。ぜひ試してみようと思う。
さて、柳が若かった頃、そんな悩みも知らず、毎朝の読書タイムに愛読していたのが、某カリスマバストーナメンター”IK”が著した『トップシークレット49』という題名のバス釣り指南書だったのだ。
少し調べてみると、発行は1996年。
その著の中で、当時人気の高かった数名のトーナメンターを例えに挙げて、バスアングラーのタイプを分別していた。
(イジメられっ子逆切れタイプ:菊〇プロ)
追い詰められて開き直った時、遂に真の実力を発揮するという、(初めから頑張れよ~)って突っ込みたくなるタイプ。
読者の方には全く興味がないだろうし、きっと知らないと思うが、”タネ・ヨシホ”ってキックボクサーがいて、彼が正にこんなタイプのボクサーで、一度ダウンを喫してからが本領発揮の時間。ブチ切れたようにパンチを振り回し、そして逆転KOという、見ていて本当に面白く、確かに応援したくなるタイプだ。
そう考えると、菊さんがトーナメントから一線を引いた今でも、大変に根強い人気がある事もなんだか頷ける。
(理工系技術型天才:藤〇プロ)
緻密な状況分析と理論を武器にバスを釣り上げる技能派タイプ。そしてその論理的思考は、タックルやルアーの開発という局面にも遺憾なく発揮される。ときに技術者ならではのナイーブさが裏目に出ることもあり、誰もが認めるトップクラスの実力者でありながら、その潜在能力を100%発揮できないこともある。
この藤〇プロ、遂に去年、トップカテゴリートーナメントで初優勝を果たした。
トーナメント通の柳をして、(えっ、初優勝だったの?)って感じで、確かにこの分析は当たっているような気がしなくもない。実はとても心が優しいという氏が立ち上げた”輝く同盟”社の益々の発展を、心よりお祈りする。
(文科系営業型天才:モ〇ゾープロ)
バス釣り業界では、云わずと知れた世界のモ〇ゾーなのだが、文科系営業型ってなんやねん!と思う。
理工系と文科系の例えは、何となく分からないでもない。
平たく言えば、理屈と感覚のどちらに重きを置くかの違いと呼べるのだろうけど、技術と営業って一体?
全国の汗水垂らして働く営業マンを代表して、柳は言いたい。
営業とは本当に緻密で地道な仕事なのだと。
まあ、いい。所詮、柳の戯言だ。
さて、アングラーとしての柳は、正にここに分類される。
(頑固一徹こだわり型:下〇プロ)
当時からも、戦績という観点では、先の3アングラーと比較して明らかに見劣りしたし、これと言ったタイトルも、その後20数年間獲得していない(はず)の下〇プロ。
それでも、誰に何と言われようと、言い訳の一つもせず、決して流行になびくことなく、ひたすらに我が道を究めんと欲す。
多分、20年以上昔のこと。サンテレビの人気釣り番組“THE H〇T”で、デカバスを捉えた氏の横で、綺麗な女性アシスタントが取って付けたようなコメントを宣う。
「さすが天才、下〇正希プロですね」
その横で、氏が静かに首を横に振る。
その所作は、いわゆる謙遜って感じの物ではなかった。
本当にそう考えている人間の所作と表情であり、さりとてそこには卑屈感がない。
(俺は天才じゃあない。でも、そんじょ其処らの天才には負けやしない)
そんな男の無言の自負に、(格好いい~)とテレビの前で思ったことを、はっきりと覚えている。最近、釣り雑誌の紙面なんかで、氏を見ることがトンと少なくなった。
氏とは全く面識はないのだが、いつまでも元気でいて欲しいものだなんて思ったりする。
でっ、柳は下〇プロタイプなのだ。
流行には飛び付かない(飛び付こうにもお金がない)。
そして拘る。頑固だ。とても困ったものだ。
柳の拘りと頑固具合の一部を紹介しよう。
柳はシーバスを、できればベイトタックルで釣りたいと思っている。
とんでもなく性能が高みに達してしまったスピニングタックルでシーバスと対峙するのは、昨今のPEラインの普及も相まって、まるで勝てると判っている戦いをしているような気がしてしまうのだ。
シーバス用ベイトタックルも、数こそ少ないが世に存在しているし、きっと使い易いのだろう。でも、できるならバス用のベイトタックルで釣りたいと思ってもいる。
バス用ロッドって実はすごいのだ。
レギュレーション上10フィート(昔は8フィート)を決して超えない短さの中に、強さと繊細さ、感度と粘り、弾性としなやかさ・・・釣り竿作りの技術の粋が、この短さの中にギチギチに詰まっているのだ。そして短いが故に、決してごまかしが利かない。
例を挙げよう。
例えばとにかく折れにくい竿を作りたいとする。そのためには単純に竿の全長を伸ばせばいい。負荷が掛かった時のベントカーブのアールが大きくなるのだから、それは当然のことだ。
例えば短いままで強い竿を作りたい。ならば単純に太い竿を作ればいい。
でもそれでは、キャスタビリティや感度と言った他の性能が犠牲になる。
大切なのは相異なる特性のバランス。ここらの所のバランス感覚が、よくできたバスロッドは本当に秀逸なのだ。
さらに付け加えるとベイトロッドに対してのオーバーロード、つまり過負荷に対しての耐久性の凄さ。これがスピニングロッドだと、ベイトロッドに比べて多少の融通が利く。
荷重のオーバーロードに対して、スピニングリールのドラグ性能で力をいなすことができる。また構造上、ガイドが下向きなので、高負荷時にも、竿の軸がブレることが少ない。
要はバスロッド、なかでもベイトロッドって、とてもとても偉いのだ。よくできたバス用ベイトロッドを作れるメーカなら、どんな魚種向けのロッドだって一級品を作ってのけるだろうし、ゴルフ用シャフトだって、とんでもなく素晴らしいのを作るかも知れない。
また話がズレた。
さて、そんな自分でもやんなっちゃうほど頑固で、流行に飛び付かず、そしてバス用ベイトロッドが大好きな柳が、ついに最近、“ベイトフィネスタックル”を入手した。
少し調べてみると、“ベイトフィネス”なる言葉が世に浸透し始めたのは、2012年頃のようだ。
柳の場合、1996年以降、スピニングリールに巻き込むラインは100%フロロの4lb。この4lbラインを使用して、実際に大型の魚に糸を切られたのは、20余年の歳月の中でたぶん5回ほど。年間の釣行が20日(バス釣りのみで)と計算すると、それはさほどの頻度ではない。
ここで魚を掛けても、きっとスピニングタックルでは魚が取れないと考え、同タックルでのキャストを控えた結果なのだろう。
さて、ここで、8lb、或いは10lbクラスのラインを使用し、スピニングタックルでしか扱えないような軽量リグをキャスト・プレゼントできれば、時に心強い武器になるとは理解していた。それでもこの流行に飛び付くことなく、世の流行から5年以上の時が経過したのは、昔ほど柳が釣果に拘らなくなったためだろう。今でもバストーナメントに出場していたなら、きっと遅くとも2013年には、ベイトフィネスタックルを入手していたことだろう。
でっ、今回遅ればせながらベイトフィネスタックルを購入したのは、たまたま立ち寄った大手釣り具店の在庫一括処分品として、無造作に並んでいたベイトフィネスロッド一本を見止めたからなのだ。
メーカの希望小売価格は3万4千円。それがなんと3950円。ここまでの値引き率となると、一体メーカの希望小売価格ってなんなの?と思ってしまうが、実際に袋から出して手にしてみると、カーボンシートの巻きは4軸、その巻き密度も高い。3万円を超える定価も頷ける質の高さだ。
全体的に、想像していたよりもシャキンとした張りが感じられる。
何だかごく普通のミディアムライトクラスのロッドのように感じたが、小口径軽量ガイドを採用しているため、店内で振る分にはそう感じるのだろうと思った。
店員さんの目を盗み、ティップを摘んで大きく曲げてみると(よい子は真似しちゃダメ)、全体としてマイルドな味付けだが、むっちりとしたトルク感が確認できる。テーパーは癖のないスロー気味のレギュラー。スモラバやネコリグを専用に扱うのであれば、もう少し先調子寄りの方が使いよいのではと思ったが、タグに記されていた解説には、(スモールプラグのマシンガンキャストに最適“との記載があった。ああ、そういう狙い!って感じで納得した。
一度レジで清算を済ませたあと、せっかくベイトフィネスロッドを手に入れたのだから、それ用の専用リールもあった方がいいだろうと店内に戻る。
そして驚いたのは“ベイトフィネス”を謳うリールが、各メーカから多数ラインナップされていること。中には1万円以下のものもあった。この価格帯のリールを手に取り、スプールを回してみると、ベイトフィネスの触れ込みの割には回転が滑らかではない。ベアリングの質が悪いというよりは、単純にスプール自体の自重が重いようだ。ただの浅溝スプールのベイトリールといった感じ。
やはり、古今東西(安物買いの銭失い)とは、すなわちリールのことを表しているのだろう。
少し気になったのは、販売価格1万円代前半の老舗海外メーカのベイトフィネス専用リール。手にとるとボディー自体も軽く、付いているショートハンドルはカーボン製だった。スプールの回転も悪くはない。スプールにボコボコ開けられた無数の穴は、軽量化を狙った結果なのだろう。
ここで注意しなければいけないのは防錆性能。イマドキのリールはほとんどが防錆を謳っているが、単純にベアリングに防錆塗装を施しただけのものが、特に海外製のリールには多いのだ。防錆の謳い文句をそのまま信じてしまうと、ベアリング以外の箇所、例えばメインギアやレベルワンダーなんかが、一度ソルトシーンで使っただけですぐに錆びてしまうことがある。こういった所に関しては、やっぱり国産リールは信用するに値する。
柳がいうのもおこがましい限りだが、(大丈夫か、モノ作り大国ニッポン?)と感じることが、最近本当に多い。納期遅延や品質不良、極めつけは性能偽証。
ニッポン製品の性能は本当に素晴らしい、そんな時代はとうに過ぎてしまったのだろう。こんなモノ作りの実態では、いずれ日本人は年収200万円で生きていかねばいけない日が、近い将来くることだろう。だってモノ作りの実力が、国民の平均労働賃金が200万円の国と、同程度なのだから。
そんな現実の中にあって、釣り用のリール、こいつだけは今も日本が世界に誇っていい数少ない製品の一つだと思う。
ということで、国内製ミドルグレード機種のベイトリールを、柳は選んだ。型落ちしていたこともあり、希望小売価格から50%オフの1万6千円。別にベイトフィネス専用という訳ではないが、スプールの軽さは秀逸。3グラムルアーのピッチング、なんて特殊な使い方をしなければ、かなりの軽量ルアーまで幅広く扱えることだろう。先のロッドと合計して消費税込みで2万円強の出費。
かくして柳は、遂にベイトフィネスタックルを手に入れた。2020年のお正月。
でもって、このベイトフィネスタックルが、2020年の柳の初釣行において、とてつもない釣果を、柳にもたらせてくれることになるのだ。




