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百夜釣友  作者: 柳キョウ
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第七十五夜:やっぱり通い詰めてるアングラーの情報ってすごい

新しい足ができました。止める場所を探すのに苦労する。


一気に気温の下がった11月半ばの早朝。

新しい足である白い軽自動車で、僕は芦屋漁港北岸に入った。

僕にとって自家用車とは、すなわち釣り道具の一つなのだ。


既に止まっていた黒い軽自動車の横にベタ付けする。この黒い軽自動車が、あの83おじさんの車なのである。やはり83おじさんも、今日ツバスを釣りに、ここに来ているらしい。


LEDライトをおでこに装着してタックルの準備に取り掛かった時、どこからか現れたラブラブおじさんに声を掛けられる。


「おはようございます。この度はご復帰、おめでとうございます」


この付近のアングラーの多くが、僕がバイクで事故を起こし、しばらく釣りから遠ざかっていたことを知っているのだ。しかもその事故が、釣り場に向かう道中であったことも、皆に知れ渡っている。何とも小恥ずかしい。


「おはようございます。どうですか、調子は?」


「先週はまあまあ良かったですねぇ。明るくなってからは、どっかでボイルしてました。今日もそろそろ始まる頃じゃないですかねぇ」


なるほど、これは期待できそうだ。僕がこの時期に、ツバス釣りでは先発を任せることの多い信頼のスピンテールジグをボックスから取り出した時、ラブラブおじさんが続ける。


「今年のツバス、けっこう偏食なんですよ。それじゃあルアーが大き過ぎるかな」


ツバスに限らずルアーフィッシングの基本は“マッチ・ザ・ベイト”。つまり狙いの魚が今食べている餌のサイズや色に、ルアーを合わせることは、とても重要なのだ。しかしベイトタックル使いの僕は、あまり小さく軽いルアーを保有していない。


「手持ちのルアーの中では、これが一番小さいやつなんですが・・・」


「じゃあ、これ使って下さい。マイクロベイトパターンには、今のところ最強のルアーです。ここでは」


手渡されたのは、イカ釣りに使うエギのような形状のメタル製のルアー。お尻に小さなブレードが付いている。

僕自身、初めて見るタイプのルアーだが、光物に反応がよく、しかも捕食しているのが小さなベイトだと考えると、確かに見事に状況にマッチしていると言える。しかし・・・


「もし気に入らなければ替えて貰っていいですから」


そう、そう言うものなのだ。基本、アングラーとは、人に勧められたルアーや場所で、いくら好釣果を上げても、何だかそれでは自分が釣ったという満足感が得られないものなのだ。

そんなアングラーの矜持をちゃんと理解して、このラブラブおじさんは先手の一言を付け加えてくれた訳である。ここらのところが本物のアングラーだ。流石だ。

だから僕も素直になれる。


「じゃあ、遠慮なく使わせて頂きます。ありがとうございます」


「復帰祝いにプレゼントします。じゃあ、僕はもうちょっと東側で釣ってみますね。お互い頑張りましょう」



ありがたく頂戴したルアーをセットし、沖目掛けて投じる。コンパクトだが自重があり、ベイトタックルでもそれほど投げるにストレスはなかった。30メートルくらいの飛距離は出ている。これだけ飛べば、湾内ならばまあ釣りとしては十分に成立する。


その時、僕から見て右側で小規模なナブラが起こった。射程距離である。

海中にあったルアーを必死に回収し、ナブラ目掛けて再投入する。

が、この投てきにはバイトがなかった。

ナブラは今も続いている。気を取り直しもう一投。

少し一投目よりもゆっくり目にリトリーブする。

これにもバイトがない。んっ?意外に手強い。



「今年のナブラ打ちにはコツがあるんですよ。完全に魚の目線が上を向いてるんで、表層でないとバイトしてこないようです」


振り返ると(魚屋おじさん)が立っていて、僕のキャストをさっきから見ていたようだ。

(魚屋おじさん)の持つ竿の先には、今はもう廃型となったD社のソルトウォータ―ペンシルベイトがぶら下がっていた。

僕の釣りに影響がない程ほどの距離を空けて、朝の空気を切り裂きペンシルベイトが飛んでいく。

“ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ”と細かいドッグウォークアクション。少し魚とルアーの距離はあったが、後方からツバスが追いかけてきた。バイトまでは至らなかったが明確な魚からの応答。

確かに魚の視線が上を向いている状態なら、ペンシルベイトは有効なルアーだろう。

それを見て、僕もロッドを高く立て、ファーストリトリーブにアクションを変えた。

とたんに(カツン!)と鋭いショートバイトがあった。フックアップはせず。


「本当ですね、レンジを表層に変えたら、いきなりバイトがありました」


(でしょう~)って表情をして、魚屋おじさんが西方向へテンポよくルアーを投じながら去っていった。



「新しい車、届いたんですね」


聞き慣れた声に振り返ると、目を線のように細めた83おじさんが、にこやかな笑顔で立っていた。


「ああ、はい。まだちょっとしか走ってないけど燃費もいいし、結構走りますし。便利ですね、軽自動車って。バイクみたくコケることもないし」


そんな僕の返事に83おじさんの顔が、さらに綻ぶ。

僕の横に立って、83おじさんが投じたルアーは、僕の使ってるのと一緒だ。


「あれ、そのルアー、一緒ですね」


「マイクロベイトパターンですからね。この小さいブレードがいいみたいです。ただ比重が重いから竿を立てて早く巻かないとダメみたいです。自分よりも下の層の餌には反応しないようなんですよ。今年のツバス。風が止んだらシンキングペンシルなんかの方が、ゆっくり探れていいかもです」


連立方程式の解が、見事はじき出される感覚。こうなれば、もう魚が釣れるのは時間だけの問題だ。


その後、40分ほどの間に、僕は3バイト1フィッシュ。83おじさんが2バイト2フィッシュ。この差は単に使っているタックルの特性だろう。そういうことにしておこう。

(自分は釣りが上手いんだ)と思い込める事こそが、魚を釣るための絶対的必要条件なのだから。


朝竿を振り初めてから、ずっと気になっていたことを、僕は83おじさんに尋ねてみた。


「今日の風向きなら、南浜の方が潮通し良くありません?みんな北側で釣りしてるけど・・・」


「ああ、最近あっち側、ポリがよく駐禁取り締まってるんですよ。先週も仲間が一人やられました」


やっぱり通い詰めてるアングラーの情報ってすごい。



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