第六十三夜:禁断のゲーム(7)
しばらく釣りができません。
6月最終週の西の湖に僕達は浮かんでいる。JBⅡ西の湖第2戦。
今回の僕たちの戦術のキーワードは、ずばり周波数。
4月に開催された前戦は、発信機という近代兵器を使って、魚との距離”D”を詰めるという戦術と、B曰く、最も釣り餌として重要なエレメントである匂い”S”を武器に、並み居るプロアングラーに立ち向かった訳であるが、結果は僕たちにとって満足のいくものではなかった。
その原因をBは、(バスを怯えさせるほどのバスボートの爆音とアングラーのプレッシャー)と結論付けた。
つまり、匂い”S”というエレメントがプレッシャーに弱いというBの見解である。
それならばということで、消去法による僕たちの次の一手が、周波数なのである。
前戦に一本だけバスを捕らえたバイブレーションプラグが、3週間前に繰り出したプラクティスで、好釣果を上げた。狙って当てた訳ではないのだが、モーニングタイムはもちろん、陽が上がってからも、このルアーのみ好調に釣れ続けた。
途中、根掛かりでルアーをロストしてしまった僕は、同じタイプのバイブレーションプラグの色違いを糸の先に結んだ。そしてそのルアーでも、同じように釣れ続けたのである。その際、Bがぼそりと僕に問うたのだ。
「そのルアーの周波数は、どのくらいなんだい?」
(周波数?)
これまでルアーの動きが、ワイドだとかタイトだとか、ローリング主体だとかウォブリングが強いだとかは考えるが、ルアーの発する周波数なんて、考えたこともなかった。
答えに窮している僕に、Bは続ける。
「朝からだいぶん気温が上がっているし、きっと水温も上がっている。釣り人も増えた。色も変えた。それでも釣れてくるということは、何かが、ここの魚の好みに合っているということだ。俺はそれが、ルアーなるものの発生している周波数じゃないかと思ったんだよ」
(周波数か・・・)
心の中で、その言葉をつぶやき、ピックアップしたバイブレーションをボートの際で泳がしてみる。ビビビビビッ~ってな感じで細かくバイブレーションしている。
でっ、この周波数・・・普通のリトリーブでルアーが泳ぐ速度は、まあこんなものか。
どうだろう。一秒間に発生しているバイブレーションは、5回?6回?う~~ん、よく分からん。悩んでいる僕に、Bが言う。
「パンフィシュの餌となることが多いワカサギなんかが逃げる時の周波数が、大体12から16ヘルツと言われている。これが海の魚、そうだな、例えばイワシなんかなら20ヘルツくらいの周波数は出す」
へぇ~って感じだが、だからどうしろと言うのだ。
僕にはどう反応するのがいいのか、よく分からない。
「ぱっとみ、そのルアーは今動かしている速度で、大体6から8ヘルツくらいだと思う。それの倍くらいの速度から、少しずつ速度を落としてくれ」
何だかよく分からん指示だが、今回Bにボード代金を出して貰っている。
自分の好きなように釣る事ができないのが、僕的には不満だが、それでもこやつの金で、大好きな釣りができているのも事実だ。
それじゃあと、一気にリールのリトリーブの速度を上げる。
ルアーを回収するときでも、これほど早くは巻かないという速度でバイブレーションプラグを引くと、これはたいがいな重労働だ。
10投もしないうちに、もうパーミングしている左手が疲れてきた。
「あのさぁ、結構つらいんだけど、肉体的に・・・」
正直に泣き言をいうと、(じゃあもっと楽をして同じ周波数が出せるものを使えよ)とさらりとBがのたまう。
これは難題だ。数あるプラグの中でも、振動の細かさ、つまり周波数の高さは、バイブレーションがきっと一番だ。クランクベイトなんかはもっと周波数が低いだろうし、こいつを高速で巻き続けるとなると、これは拷問以外の何物でもない。
そんなことを考えているとき、Bがひょいと僕のタックルボックスから摘み上げたのは、5インチのシャッドテール型ワームだった。なるほど、何もプラグに拘る必要もないのだ。シャッドテールワームのテールが生み出す周波数は、ボディー全体でバイブレーションするプラグよりも、きっと細かいはずだ。
そう考えた僕は、スモールラバージグが付いていたロッドに、このシャッドテールワームをテキサスにリグった。カラーはグリーンパンプキン。まあ定番カラーの一つと言えるが、あまりBがそのことに拘ったとは思えない。
シンカーを8分の1としたのは、単にワームの大きさとのバランス。
ここらは結構いい加減なセレクトだ。
リグり終えた仕掛けを、ちゃぽんとボート際に、ロッドのストロークで引きてみる。
プルプルと小気味よくテールがバイブレーションする。
「うん、それくらいの周波数で10ヘルツは超えているだろう」
その速度は、これまで使っていたバイブレーションの大凡半分くらいか。
そんなBの納得の表情を確認して、何を狙うでもなく、広い湖面にルアーを僕は投入する。
感覚としてリグ全体の重量は14グラムくらいか。
フルキャストした訳ではないが、推定で20メートル程、一直線に飛んで行った。
えっと、リトリーブスピードはさっきの半分くらいかなと、強く意識して一定速度で巻く。
潜行深度は、いくぶん先のバイブレーションと比べて深い層を泳いでいることだろう。
だからなのだろうか、シンカーが硬いウィードの塊にコンタクトする感覚が、ラインを通して伝わってくる。この2カ月でずいぶんウィードが成長したようだ。
このシャッドテールでの一投目は何事も起こらなかった。
次のキャストは、テキサスリグのウィードレス性能を活かすべく、できるだけウィードの濃いルートを選んで方向を決めた。
またもや速度を意識してリトリーブを開始する。硬いウィードの面へのコンタクトが強すぎるような気がしたので、僕は若干ロッドの先端を高く保持した。このロッドポジションで潜行深度はおそらく1.5メートル強。
(どん!)
10メートルほどリトリーブした頃だろうか、ウィードのモスを抜けた瞬間に明確なバイト。フッキングも決まった。ウィードからできるだけ早く引き離そうとリールを巻き込むと、重量感のある魚の首振りがはっきりと伝わってきた。
これはかなりの大物だ。明らかにキロアップの手応え。
ボートから数メートル先で、水面に飛び出したバスの姿は、ゆうに45センチを超えるグッドフィッシュだった。
そして僕たちの快進撃は、この一投から始まったのである。




