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百夜釣友  作者: 柳キョウ
62/101

第六十二夜:一本いっとけ、○ジャ〇ラ

一本骨を折ったので、一本竿の話をします。


ボーナスの季節である(書き始めたのがね。今ではかなり過ぎた)。

この年齢になると、あまり嬉しくない。

下がることもないが、上がることもないから。

どうにか生き延びたと、ホッとはする。


このボーナス支給額だが、わが社の場合、直属上司の査定により、かなり支給金額が変動する。半年毎の査定見直しとなる訳だが、すなわちこうだ。


(期待を大きく上回る功績が認められた・・・評価A)


(期待を上回る功績が認められた・・・評価B)


(期待通りの功績が認められた・・・評価C)


(期待の功績に至らなかった・・・評価D)


(期待の功績に大きく至らなかった・・・評価E)


A評価とE評価では、およそ倍半分ほどの差が出たりするらしい。

社内規定をちゃんと見れば判るのだろうが、そんなもの、これまで一度も私は目を通したことがない。


A評価を受ける者とは、その年度に社長表彰を受賞したとか、画期的な新商品を開発したとか、ごくごく一部の社員らしいとの噂で、もちろん私もそんな評価を受けたこともなければ、受けたという人も知らない。

まあ普通は自分の評価なんて、他人に言わないはずだ。

E評価というのは、ちょっと心を病んでしまったりして、この半年間、一度も会社に来なかったような人達の評価というが、それでも最近の傾向で、(それも病気の一種?なのだから、この人達にE評価をつけるのは止めよう)となっているらしい。

それもどうだかと思うのだが、まあ、そういう病気とはあまり縁がない私には、全く興味がない。


そもそもこの評価基準を、私は少しおかしいと思っている。

期待を大きく上回る功績と言ったって、それって単純に、(期初はあまり期待されていなかったから、結果的にそうなっただけじゃないの)、なんて思ってしまう。

本当に優秀な人間とは、重い期待や高い目標値をその両肩に背負い、それでもちゃんと期待通りの結果を叩き出す人達のことだと、私は思う。


さて、この評価基準でいうところのAやBの評価。

つまり購入時の期待を上回ったもの。そんな釣り道具に出会うことが、本当に少なくなった。

竿やリールはもちろん、ラインやルアーまで、期待以上の買い物だったと思えることが、滅多にないのだ。こと釣り道具に関しては、それだけ私の目が肥えたということなのだろう。


最後に、(こりゃあ、物凄い買い物をした!)と記憶しているのは1995年頃。

初めて国産のバス用ベイトリールを購入した時のことだ。


この時代のバスアングラーは、ほとんどそうだったと思うのだが、当時バス用ベイトリールとは、すなわち某海外メーカ製丸形リールだった。

私もそのメーカ以外のベイトリールを保有していなかったし、もちろん他のメーカのものを購入しようなんて考えもしなかった。

この海外製丸形リール、今にして思えば、使い勝手がいいとはお世辞にも言えない代物で、フィールドでトラブルに見舞われることも多かった。それでもそれは(己の未熟によるもの)と割り切っていた。現場でトラブった時には、他のアングラーに気付かれぬよう、こっそりとバックラッシュした糸を解いていたものだ。


そんな時、たまたま購入した国産リール。値段は海外製某リールの約半分。

(さて、どんなもんだい?イマドキの国産リール)ってな好奇心が、唯一の購入動機だった気がする。

グレードとしてはミドルクラス。1万円代台半ばで購入したその赤いリール。

そんな買い方だったものだから、実際にフィールドで使ってみたのは、それからずいぶん時が経ってからことだった。

そして使ってみて、これはたまげた。

これまで使っていた世界で最も有名なリールの煩わしさは何だったのだろう。

そう考えちまった程の衝撃だったのだ。決してハイエンドモデルではない国産リールの性能の高さは。


覚えている限り、これが最後の(期待を大きく上回った)買い物。

その後は、(多分こんなものだろう)と思って購入したものは、ほぼ過不足なく(こんなもの)だった。

言い方を変えれば、(期待以上)のものが、容易には生まれてこないほど、釣り道具の性能が高みに達してしまっていた時代背景があったのかも知れない。


実際、その当時のタックルを引っ張り出し、いまフィールドで使ってみても、特に大きな不満は感じない。むしろ耐久性という観点では、必要以上に軽量化されている最新機種よりも、一昔前の道具の方が勝っていると感じることすらあるのだ。

耐久性があるということは、多少の無理が利くということであり、その多少の無理が、現場での融通となる。

この現場での融通が、極力荷物を減らしたい岸釣りでは、時に大変重宝なものとなるのだ。


さて、そんな私が、(期待以上)の買い物を、つい最近してしまった。

釣り竿である。バス用のスピニングロッドである。

でもバス釣りに使おうと思って購入したものではない。


年間を通じて、私のよき遊び相手になって貰っているシーバス。

季節的に最も熱いのが、春先に湾内へと入ってくるカタクチイワシを捕食する時分。

大体、4月初めから6月にかけて。

そして秋口。今度はマイワシが湾内に溢れかえる10月末頃から12月上旬。

春は大物狙い、秋は数釣りが楽しいのであるが、7月も半ばを過ぎ、いよいよ水温が上昇し、海中の酸素濃度が低くなると、シーバスを釣るのがかなり難しくなってくる。


そんな高水温期にアングラーを癒してくれるのが、私の通っている釣り場では、キビレチヌと真チヌとなる。

チニングなんて造語が生まれ、専用のタックルも各メーカから販売されているが、意外と世間には広がっていない。

理由はいくつか挙げられるのだが、まあそれは置いておこう。

時に忍耐力が求められる釣り難いシーズンのシーバスよりも、狙えば意外と簡単に釣果を上げることができるのが、このチヌなのである。しかも引きが強く、釣り味はシーバスに勝るとも劣らない。


大型の個体なら、大人の拳がすっぽり2個も入ってしまうほど口の大きいシーバスと比較すれば、チヌの口はかなり小さい。従って使用するルアーは、シーバスのものと比べると、やはり小型のものが主流となる。

そんな訳であるから、いわゆるチニングタックルは、シーバス用と比較してややライト、そして穂先が柔らかいものが多い。それでいて、年無しなんて呼ばれ方をされる50センチクラスが掛かることもあり、バットのパワーは必要不可欠。

こんな要求事項を具現化したチニングタックルは、繊細な穂先に強いバットという、かなりエキストリームなテーパーを持った、個性的な竿が出来上がってしまうことが多いようだ。

この手の竿は汎用性に乏しく、魚が掛かった時の美しい竿のベントカーブも期待できない。

やはり、きれいに竿が曲がる時というのは、釣り人からすれば、悦に浸れる喜びの瞬間なのだ。これがチニング専用ロッドには残念ながら期待できない。

そのことが私には不満となるのだ。


そんな理由で専用チニングタックル購入とはならなかった私が買ったのは、某メーカの、バス用スピニングロッド。かなりパワフルな方に分類されるやつ。

何だかよくは判らなかったが、(四軸方向のカーボンシートを使い・・・)とかいう謳い文句。

近年釣り竿に関しては、四軸だとか六軸だとか、凝りに凝ったカーボンシートの巻き方が話題になることが多いが、正直私にはよく分からない。

この竿の値段は1万円台前半で、あまり大きな期待を私に抱かせなかった理由の一つがこの安さである。


長さは6フィート9インチ。

いまどきのバスロッドは、PEラインの使用も考えられていて、ちゃんと糸絡みが防げるKガイドが装着されていた。

まあ、もともとバス用として強めのスピニングタックルがもう一本あってもいいなぁと思っていたし、シーバスシーズンの谷間を埋めるためのチニングな訳で、考えていたのと勝手が違えは、そのまま本来のバス用に使えばいい。そんな感じの買い物だった。


このロッドを初めて携帯した釣行では、夜明けをずいぶん前にしてフィールドに着いてしまった。

バチシーズン真っ只中の5月。闇の中シーバスタックルで十数投シンキングペンシルを投げてみたが、シーバスが出そうな気配はまるでない。やはりこのフィールドは明るくなってからの方が、魚の活性が高まるようだ。


と、その時、湾の最奥で釣りをしていた先行者のリールから、軽いドラグ音が聞こえた。

シーバスがヒットした時のような激しいドラグ音ではない。見た感じも、かなりライトなタックルを使用しているようだ。

程なくして上がってきたのは、どうやらカサゴ。まあまあなサイズ。

シーバスフィールドとしては超有名なポイントであるが、ここでロックフィッシュを狙っているアングラーは、私自身初めて見た。

なるほど、シーバスの方が有名なら、ロックフィッシュを狙う人は少ないはずで、きっと場荒れしておらず、この釣り場ではニッチな遊び方と言えそうだ。

おっと、またまたヒットしている。これもサイズは悪くない。


夜明けまでまだ時間もあるし、それじゃあ私もと、新品のバス用スピニングロッドに、ロックフィッシュ用ジグヘッドをセットし始めた。こんな釣りに使うことは、あまり想定していなかったので、リールに巻いてあるリーダーはフロロカーボンの4号である。糸が太すぎてジグヘッドの穴になかなか糸が通らない。比較的ラインアイが大きいジグヘッドを探し出して、どうにか仕掛けが完成した。小さなジグヘッドと太すぎるリーダーが何ともアンバランスだ。

その一投目は足元から10メートル程沖にあるブレイクラインを狙った。

足元の水深で満潮時には8メートル。風や潮流による糸ふけも考慮して、リグが着水するや、たっぷりと手で糸を引き出した。


やはりリグの重さに対して、竿がオーバーパワーであるのか、着底の瞬間を捉えるには至らなかった。それでも糸にテンションを掛けて聴いてみると、軽い2グラムのジグヘッドが海底を引きずってくる感覚がよく手元に伝わってくる。

私自身PEラインを使用して、ロックフィッシュを狙うという釣りを、これまでしたことがなかった。どうやっても根掛かりが避けられないこの手の釣りでは、リーダーごと仕掛けをロストした場合のショックが大きすぎるというのが、これまでPEラインを使用しなかった理由なのだが、実際にやってみると、その高感度は考えていたデメリットを補って余りあるものだと感じた。

竿2ストローク分ほど引いてきた間に、2回ほどジグヘッドが海底にハーフスタックする感覚があった。メインラインはPE0.8号、リーダーは4号である。

ロックフィッシュロッドとは比較にならない強いベリーのトルクを使って、海底から大きくリグを跳ねさせることなく、ルアーをスタック状態から引き抜く。これは存外扱いよい。


最近ある釣り雑誌で、(ティップが硬い竿の方がワーミングでは実はよく釣れる)という、従来の常識を覆すような記事を読んだのだが、この真偽はともかく、釣り味を優先したしなやかなロックフィッシュモデルよりも、今確かに、この硬いバスロッドの方が、この荒い根回りを攻めるには使いよいと感じている。これは新発見と言えそうだ。


ボトムを叩きつつ引き摺られてくるジグヘッドの重みが増した。

どうやらブレイクライン、すなわち掛け上がりに到達したようだ。


ここで(ゴゴン!)という感じの明確なバイト。

巻き合わせるとPEラインがガイドを滑る独特の糸鳴りがする。

結構な手応え。しかしタックルは、たとえ中型のシーバスが相手であっても、強度的には負けない程のヘビーセッティング。ゴリゴリとリールを巻く。

上がってきたのは20センチをいくらか超えるカサゴだった。


カサゴの上あごを見事に捉えていたジグヘッドを外し、ひょいとリリースしたのだが、ここで私はある事実に気付く。

これまで私は、数知れない釣り竿を購入してきた。

現状保有しているものだけでも30本以上。40年に及ぶ釣り歴の間に購入した竿の本数は、おそらく100を下回らないだろう。

そして購入してその1投目で魚をゲットしたのは、きっとこれが初めてのこと。

狙いの魚ではないとは言え、これは嬉しい出来事だった。

その後、30分ほどの時間で、4匹のカサゴを釣ったのだが、一般的なロックフィッシュモデルと比較しても、遜色のない使い勝手の良さだった。

いや、それどころかフロロ3ポンドクラスのラインを使用していたなら、何度かは根掛かりでルアーをロストしていたに違いない。

さすがに0.8号+4号では糸が太と過ぎるが、リーダーを2号程度に落とせば、ここのように海底の起伏が激しく、根掛かりの頻発するフィールドでは、むしろとても使いよいセッティングとなり得るのではと思ってしまった。


空が明るくなってから、私は本来のターゲットであるシーバス狙いに切り替えた。

通常、暗いうちは動きの大きなミノータイプのルアー、明るくなってからはバイブレーションを中心にルアーをローテする私であるが、この日は始めからバイブレーション。

カサゴ釣りに熱中するあまり、気が付くとすっかり空が明るくなってしまっていたのだ。


この日のメインタックルと考えていたベイトロッドで、護岸沿いと潮目の発生している沖合をランダムに次々と撃っていく。

が、6時を過ぎても期待していたボイルは起こらない。

水面は実に平和な感じで静まり返っている。

ここは日中に入ってからも、突然ボイルが起こる意外性のあるフィールドではある。

しかし、ここのところ初夏の陽気が続き、水温上昇が例年になく早いことは、明るくなって確認できたおびただしい数の赤クラゲの姿が語っている。

もしトビエイの姿でも目撃すれば、これはなかなか厳しい状況であることを覚悟しなければいけない。


いつどこで起こるか分からないボイルに備えて、飛距離の出るバイブレーションをいま仕舞い込むわけにはいかない。かといって、ただにそれを待っているほど状況は芳しくない。ということで、くだんのバス用スピニングロッドに、私はジグヘッドワームをセットして、足元に待機させたのだ。


やはりと言うか、期待に反してと言うか、7時を回ってもシーバスのボイルは発生しなかった。何気なく、本当に何気なく、私はスピニングタックルを握り、護岸と並行にジグヘッドリグをキャストした。その一投目にまさかのバイト。


通常バスを相手にする時には、絶対にあり得ないような満月を描くロッドの曲がり。

それは実に美しいスムーズなテーパーだった。

何度もドラグが大きく滑ったが、ファイト全体としては、トルク的に竿が魚に負けている印象はなかった。


時間にして2分足らずのファイトだろうか、銀鱗の輝きを水面下に確認した。

いつの間にか潮が満ちていて、足元から水面までの距離は短い。

何を根拠にしたのか自分でも思い出せないが、それでも(いける)と思った私は、エラ洗いを狙い水面に浮上してきたシーバスの動きに合わせて、ロッドのバットを持ち、一気にシーバスを抜き上げた。


足元の護岸に横たわるシーバスの姿を改めて見て、私の背筋は冷たくなった。

足場が低かったとは言え、それでもバス用スピニングタックルで抜き上げたシーバスは、決して小さくなかったのだ。メジャーを当ててみると62センチ。

ここで釣られるシーバスのアベレージサイズを超える大きさだった。

私としたことが、この竿の持つトルクの余力から、あろうことか魚のサイズを見誤ったのだ。そしてもう一つの事実に、その時気付く。

ロックフィッシュを狙った一投目にカサゴを捉えたこの竿は、シーバス狙いに変えた一投目で、またもやシ-バスをゲットしたこととなるのだ。


20センチ強のカサゴと62センチのシーバス。

全く大きさも性質も、当然仕掛けも違うこの2魚種を相手に、期待を遥かに上回る勝手の良さと性能を、この新品のロッドは示してくれたという訳なのだ。

なかでも公証スペックを遥かに逸脱する60センチオーバーのシーバスを抜き上げるトルク、これは素直に驚くしかない。

これからさらに水温が上昇する季節になれば、当初の思惑通り、チヌ狙いでもその性能を遺憾なく発揮してくれることだろう。


汎用性の高さと強度的歩留まりの高さ。

良いものは良い。悪いものは悪いと、少なくとも好きなこと(すなわち釣り)に関しては正直でありたい。だから書くことにする。


○ジャー○ラフト社DYS-69ML。一本持っていて、絶対損のないロッドだと思う。


ただし・・・

私はこの○ジャー○ラフトとうメーカを決して評価している訳ではない。

これまで何本か、私は同メーカの竿を購入している。

(これはいい竿だ)と思ったものが、今回のDYS-69も含めて2本。

(悪くはないんだけどなぁ~)って竿が2本。

(これは全く使うに値しない!)って竿が2本。


そりゃあ、釣り道具なんて人によって好き嫌いがあるでしょうって意見もあるかも知れない。

それでもあえて、面の皮を厚くし、40年のフィッシングキャリアに多少なりともの自負を持って申し上げる。

釣り道具の特徴とは、使ってすぐに理解できる特徴と、ながく使ってみて初めて分かる特徴がある。前者の例としてはパワーや感度。耐久性なんていうのは後者の典型的なものだろう。


私がこのメーカの竿に感じた(悪くはないんだけどなぁ~)という不満点の多くが、長時間、長期間釣りをしてみてやっと分かる不満点なのだ。

もし同メーカが、たっぷりとした時間を掛けてフィールドテストを実施すれば、きっと解決できた不満点と言えるかも知れない。


ここのところが、私には不満なのだ。

矢継ぎ早に最新のテクノロジーを搭載した新製品を世に送り出す。そんな同社の開発力を評価できる一方で、派手なプロパガンダもなく、静々と気の遠くなるトライ&エラーを積み重ね、木製の樽の中で味わい深く熟成されたワインのような、そんな名竿が、このメーカから発売された記憶が、私にはないのである。

アングラーから高い要求を期待され、そしてその通りの期待に応える、底光りするようなC評価の名竿が。


そんな竿は、これから期待するとして、それでも、やっぱり40年の経験を持ってしてこれだけは言える。


一本いっとけ、○ジャ○ラDYS-69。


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