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百夜釣友  作者: 柳キョウ
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第六十一夜:令和初のノーフィッシュはこうして起こった

もうトランプさんは帰ったのかしら?


本書でも以前記したが、元号が変わってからの私の釣行は好調だった。

ゴールデンウィークはバチパターンとイワシ付きシーバス狙いのダブルパターンで、夜も朝も、超の付く入れ食いを体験した。

ややイワシパターンの破壊力が衰えてきた5月後半は、これまで信頼が置けると言うほどまでは物にしていなかったワームのジグヘッドリグに開眼した。

シーバス歴30年にして、私の釣りに強い抑えの切り札が加わった。


赤潮の影響か、それともトビエイの襲来が原因か、6月2週からは、シーバスに関してはジグヘッドリグを持ってしても苦戦を強いられた。

しかしシーバスの移動に替わって、25センチクラスのツバスが、大量に湾内に入ってきた。8日、9日は2日に渡り、一日30本以上のツバスを釣り上げることができた。


シーバスを狙い釣行し、ツバスを釣って帰るというのは、厳密にはノーフィッシュと呼ぶものかも知れない。そう考えた私は、ツバスの群れを探す合間に、ジグヘッドリグでセイゴクラスのシーバスも一応一匹だけ釣っておいた。


納竿を始めた頃、毎年秋口でないと見ることのないような17~18センチのカタクチイワシの群れを見止め、これは翌週のシーバスは面白くなりそうだと、一人ほくそ笑んだ。


そして鉄壁の自信を引っ提げ、揚々と出掛けた6月29日の釣行で、令和初のノーフィッシュという辛酸を舐めることとなる。



いよいよ東の空の色が変わり始める4時20分頃、フィールドに到着する。

これまで見たことのない立入禁止を示すトラロープが、湾の入り口に張られていた。

(?)とは思ったものの、躊躇することなくロープを潜った。

漁港なるものが一体誰の所有物となるのか、私は知らない。

漁業組合か県や市の管理団体か。

それでも何十年も前から、この漁港は週末ともなると50人を超える釣り人でにぎわう、私達釣り人の遊び場なのだ。

ここで出会って、その後心通わせた友人も、今では数知れない。


(いや、これは何かがいつもと違う)と直感したのは、海面に浮かぶ2艇の巡視艇を見止めた時である。

違和感を抱きつつも、夜明けと同時に起こるであろう表層ボイルに備え、トップウォータペンシルをリグり始めた私に、2つの目玉のような懐中電灯の明かりが近寄ってくる。



「おはようさん、お兄さん、ここ立入禁止」


県警の制服を着た恰幅の良い警官2人。

立入禁止と言われれば、確かにそうなのかも知れない。

しかし・・・


「でもここ、毎週何十人と釣りしてますよ」


ついそんな言葉が口をついてしまった。


「これまではそうだったかも知れないけど、今どんどん厳しく取り締まろうってことになっててね。申し訳ないけど・・・」


「初めて云われました。それと、あの巡視艇は一体何ですか?これも初めて見ましたけど」


「さあ、なんだろうねぇ。僕達には分からないねぇ」


「あれですか、大阪のG20の影響ですか?」


「いや、関係ないでしょ。取り締まるのは釣り人の出すゴミだとか、万が一事故でもあったら、そこを管理している人達が困るでしょ」


「でも見たこともない巡視艇が2艇もいて、初めて警察の人に呼び止められた。偶然とかじゃないでしょう」


もちろんどんなに言葉を並べてみても、今日はここで釣りができないことは判ってはいたが、それでも思わず聞いてしまう。


それまで一言も言葉を発しなかった背の低い方の警察官が、私のバイクのナンバープレートをのぞき込み、そして言う。


「○○なら南の方に釣り公園があるでしょう。そこでやればいいじゃない」


判っていない。人の手によって沖まで延ばされた堤防から、人工的に沈められた漁礁で魚を釣る。そんな釣りと、季節や潮回りを理解し、もっとも魚が回遊してくる可能性の高い場所で、シーバスや青物を狙い撃つ、私達がやりたい釣りとの違いを。

こんな会話になってしまうと、もう言葉を発することすら億劫になってしまう。

黙って仕掛けを仕舞い込んで立ち去ろうとする私の背中に、声がかかる。


「気をつけて帰ってね。もうここには立ち入らないように。万が一事故ってことはあるからね。もうここには来ないようにね」


文句をいうつもりはない。

心無い釣り人が存在するのは事実だし、この堤防や海域はきっと誰かの所有物なのだろう。

ここはこれまで長きに渡り、遊ばせてもらえたことを感謝すべきであって、文句を垂れるのは筋違いというものだろう。理屈ではそうだ。


「万が一事故ってことがあるからね、やっぱりね」


捨て台詞など言うつもりは全くなかった。それでもあまりの執拗な言いように、ちょっとカチンとしてしまった。


「本当に万が一に備えるという緊張感があるなら、トイレに拳銃忘れる警官なんてありえないでしょ」


視線は向けなかったが、二人の警察官がムッと気分を害したことが、私には判った。

理不尽な物言いだとは自分でも思っていた。


バイクを走らせた私は、きっと今日も付近で竿を出していることであろう、83おじさんやコアマンラブラブおじさんに挨拶してから、家に帰ろうと思った。

多分この潮回りなら、あの辺りで釣りをしていることだろうと、予想できた。


来週はソルトではなく、令和初バスを釣りに行こうと思った。

朝イチなら、もうトップウォーターにも反応することだろう。


令和初のノーフィッシュは、こうして起こった。



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