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百夜釣友  作者: 柳キョウ
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第五十三夜:禁断のゲーム(6)

ラッキーストライク社のギドバグが売っているショップ、どなたか知りませんか?

絶対これが最高のクローワームだと思う。



このあと車を運転しなければならない僕は、1杯目だけジンジャーエール、2杯目はウーロン茶を注文している。グラス3杯以上飲み物を取ると、おしっこが止まらなくなる自分の身体的特徴を理解しているので、この2杯目で私は打ち止めとしなければいけない。

40歳を超えた頃から、色々な制限を抱えて生きている。

アルコールが飲めないのはあまりに味気ないし、割り勘の際に損をした気分になるので、注文した肴は、ほとんど僕だけで食べている。


いつもの如く、さんざん船の上で缶ビールを飲んだBは、はじめから芋焼酎のお湯割り。

4月の湖上は、風が吹くと肌寒く、さすがのBも体力を奪われたようだ。

Aは微妙な表情のまま、まるで壊れたロボットの様に、一定のペースでビールを喉に流し続けている。その顔に満足感は伺えない。どちらかと言えば不満気な表情だ。


(もっとでかいのが釣りたかった)


ビールを煽りながら、幾度となくそんな言葉をAは口にした。よほど先週の釣りが、今日の期待値を高めていたのだろう。まさに釣りとはそういうものなのだが。


しかしそんなA以上に冴えないのがBの顔だ。

しきりに、(う~~ん)というため息だかなんだかよく分からない吐息が漏れる。


ここはJR近江駅にほど近い小洒落た居酒屋。

結果から言おう。

ドバミミズのエサ釣りで挑んだAは、きっちりリミットの5匹を揃えたものの、1キログラムを超える魚は最初の一尾のみで、総重量は3250グラム。

Bの声に振り回される格好で、西の湖北西岸を、105アンペアアワー3並列のマリンバッテリーをフルに消耗させて5往復もした僕は、結果4本の魚をキャッチ。そのトータル重量は2680グラム。

仮に僕達がトーナメントに参加していたとすれば、Aの成績は参加者46人中19位。僕は28位という結果だった。

2500グラムから3300グラムまでのウェイトに、多くのアングラーがひしめき合い、たった数十グラムの差で大きく順位が変動するという団子状態だったが、優勝者はたった3本のウェイインだったにも関わらず、その総重量は6270グラム。今大会の最大魚でもあったキッカ-フィッシュは、それ一本でなんと3300グラムというビッグフィッシュだった。

2位の選手も4本で6020グラム。こちらの選手は50センチオーバー2キロ級2本をゲットし、持ち込んだ魚は全て40センチアップだった。

この2人の叩き出したウェイトが飛び抜けていて、強気に超ビッグフィッシュを狙い続けたアングラー2人が、結果他を圧倒したと言える顛末だった。


エサ釣りという反則技を用いたAの成績には、この際触れないとして、地元ロコアングラーも含むプロ連中を相手取り、46人中28位という成績は、トップ2人とのウェイト差を無視すれば、僕にとっては大健闘と言ってよい順位だろう。


僕のゲットした4匹のうち1本は、バイブレーションプラグで釣った約500グラムのバス。岸際を微速で移動している際、退屈しのぎ程度に投げたルアーにたまたまバイトがあったのだ。

その魚以外の3匹は、全て6インチストレートワーム、それもサイトフィッシングで釣ったものである。そして、その3本のバスは全て、Bの言うところの(痩せていて長い、色の薄い魚)だったのだ。

最もいい魚が長さ43センチ、重さ960グラム。この日のサイト成功率は、あまりこの手の釣りが得意ではない僕にとって、それは高い成功率だったと言える結果だった。

Bが言ったように(痩せていて色の薄い魚の方が釣りやすい)ことを、僕は身を持って知る事となった訳である。


少し意外だったのは、プラクティス(?)で反応の良かった13インチロングワームが全く功を奏しなかったことだ。それどころか、僕がこの13インチワームに手を伸ばそうとすると、以前そのワームを推奨したはずのB自身が、(それは駄目だと思う)とさえ言ったのだ。結局、Bの意見でワームのサイズを落とし、実際に魚を釣ったのは6インチのストレートワームという結果だったのである。


「今、魚はスプークしている状態。そんな状態の魚に大きなルアーを見せることは、その恐怖を助長するだけ」


それがBの言い分だった。スプークなんて言葉を使わずに素直に日本語で(怯えている)と言えばよさそうなものだが、そんな憎まれ口も憚れるほど、Bは彼なりに落ち込んでいるようだった。Bが少し可哀想にも思えた僕は、


「もしAが大きなドバミミズではなく、もう少しサイズの小さなミミズを準備しておけば、もっと上位に入れたのかも知れないな」


そんな言葉をフォローのつもりで入れてみた。しかしBはゆっくりと首を横に振る。


「そうしていたら、きっとブルーギルの猛攻で一日が終わっただろう」


Bが言うには、大型のドバミミズにブルーギルは喰い付きにくるが、単純に口の大きさとの関係という問題で、針掛かりするまで飲み込んだりはできない。そうこうしているうちに、(じゃあ俺が・・・)とばかりに大型のバスが食ってくる・・・はずだったのだそうだ。

言われてみて昔、(ギルのお使い釣法)などと呼ばれた同様のメソッドがあったことを思い出した。

魚に限らず、最も食欲が刺激される状況とは、他人が何かを食べている時・・・なのだそうだ。

13インチワームの強さも、実はここにあるとBは補足説明した。

すなわち小さな魚も食べにはくるが、針掛かりまではしない。それが長い餌ということなのだそうだ。体積を大きくしてしまうと、小型の魚がバイトしてこないのだそうだ。


(へぇ~)って感じである。


(ブルーギルさえも怯えていて13インチのワームを咥えてくれない状況)


これがBの(今日の西の湖)の分析という訳なのだ。


期待通りとはいかず、やや消沈ぎみのBには申し訳ないが、トップ2人を筆頭に、(さすがはバスプロ)と評価すべき今回の結果に、僕として残念感は全くない。

むしろ(サイトフィッシングは痩せていて色の薄い魚を狙うべし)という新たな知識を得るに至ったことに十分な満足さえ感じていた。

我々の実験はこれで終わり。あとはBをなだめ倒して、早く帰路につくのみと僕は考えている。なにせ僕は、これから200km以上のロングドライブを課せられる身なのだ。

因みに、明日はもちろん仕事である。



「おい!」


「なっ、なに?」


突然Bが僕に向かって声を荒げる。

目が怪しく座っている。Bは決して酒ぐせの悪い奴ではない。

もともと口は悪いが、それにしてもこの声の荒さは一体?

いいじゃないか、そんなムキにならずとも。これだけバスフィッシングを愛している僕ですら、今では(たかが釣り)と考えているのだから。

なだめようとした僕の言葉を待たず、Bが言う。


「次の試合はいつだ?」


何だよ、まだやるつもりなのか?

正直にいうと、3回のレンタルボート代、高速代にガソリン。それは結構な出費だったのだ。もちろん最後には割り勘ってなるよな。実は少し不安なのである。


もしも今回の結果が、Bの闘争心に油を注いだとするなら、これは厄介だ。

こういうところが、元学者の難儀なところなのだ。スイッチの入り所が僕達一般人にはよく分からない。仕方がないので、普通に事実を答える。


「2カ月後だよ。6月後半さ」


「何?そんな先なのか?」


「だって5月、6月はバスの産卵期だろ。その時期はそっとしておいてやろうというのが団体の考えなのさ」


「う~~ん」


Bが腕を組み思考中。図体もなかなかにでかいBが、奇妙な迫力を醸し出している。

図体の大部分が酒と脂肪でできているのだが。


「よし」


このBの(よし)の意味するところを知ることが、何だか怖いようでもある。


「来週は無理だけど、再来週、また湖に出よう。それまで作戦は考えておく。ボート代も俺が払う」


このBの発した一言によって、僕にとっての(健闘)、Aにとっての(やや不満)、Bにとっての(悔しい敗北)という結果に終わった西の湖JBⅡ開幕戦は、僕たちの挑戦の、ほんの序章に過ぎないという位置づけとなってしまったのである。


んっ?次のボード代は払う?それじゃあ今回のボート代は?

Bの顔が迫力満点だったものだから、その問いを投げかけることが、僕にはできなかった。



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