表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百夜釣友  作者: 柳キョウ
2/101

第二夜:キューヨシの天才君

年の離れた大切な友人の話です。


旧吉野川で釣りをしている。

正確には旧吉野川の支流である今切川の護岸に立って釣りをしている。

今や全国的に有名になってしまったバスリバーだ。

釣り人というのは、自分のお気に入りのポイントが有名になるのを兎に角嫌がる。

僕もそのタイプだ。


バス釣りは僕の唯一の趣味である。

土曜日の早朝。

5時を少し回ったくらいから釣りを始めて、6時半になる頃には小さいながら3本の魚をキャッチしていた。

どれも大きくはなかったが、トップウォーターで釣れたので自分的には満足している。


現在7時過ぎ。

そろそろ来るのでは?と思った矢先、声がかかった。


「師匠!」


天才君の登場だ。僕がこれまで見たアングラーの中でも飛び抜けた釣りウマ少年だ。

でもなぜかヘタレアングラーの僕を師匠と呼ぶ。


釣りに関しては僕も一家言持っている。

若いころは車でボートを引っ張り、各地のトーナメントにも参戦した。

一回だけだが優勝もしている。

そんな僕がこの天才君には全く歯が立たない。


「釣れますか?」


「3本くらい。一番いいので40(センチ)ちょっと」


ちょっと過大申告した。


「ふ~ん、横で竿出していいですか?」


「もちろん」


「今日は水門の全閉日だから厳しいでしょうね」


そう言って天才君は竿を振った。


「昼になったら水温は27℃くらいまで上がるだろうからね。朝勝負かな」


「あっ、喰いました」


いきなりヒットである。


「でかそうじゃん?てか、それ一投目でしょ」


散々自分が叩いた後、後から入って来た人が、あっさり魚を釣るのは、一般的には不愉快極まりないことである。でも天才君は別格なのだ。


「一投目ですね。ラッキーですね」


「よく引いてるねぇ。でかそうじゃん」


「そうでもないです。40センチあるかないかじゃないですか」


魚が浮いてきた。でかい。

あっさりと天才君がハンドランディングする。

測ってみると50センチあった。


「思ったよりデカかったです。ただのラッキーです」


とまあ、毎回こう言う具合なのだ。

100回やったら天才君には100回負ける。


何事にも向き不向きはある。

上手い下手もある。

でも釣りなのだ。運が占める要素も大きいはずだ。

テニスや野球やボクシングなら100回やったら100回とも強い奴には勝てない。

それは納得できる。

釣りで100戦全敗とはこれ如何に?


天才君とは2005年に今切川で知り合った。

当時まだ小学生だった。

年20回一緒に釣りをしたとして・・・やはり100回だ。


天才君と最後に釣りをしたのは2010年。

僕が転勤で徳島を離れることになったのだ。

餞別で釣り竿を一つプレゼントした。

天才君が泣きそうになっていた。

僕も泣きそうになった。


2013年のある夏の朝、神戸の自宅で新聞を読んでいた。

高校総体の記事が載っていた。

やはり故郷の徳島県勢の活躍が気になる。


天才君が写真付きで載っていた。

バドミントンの徳島代表として活躍していたのだ。

天は二物を与えるものだ。


一つだけ天才君の弱点を僕は知っている。

ある日少し離れた場所で釣りをしていた天才君が何やら大騒ぎしている。

何事かと思って駆け寄ると、巨大な雷魚が天才君の竿にヒットしていた。


「僕、雷魚触れないんです。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ