妖怪とわかれた人間の置手紙。
久々の短編。それでも最後まで楽しく読んでくれたらなと。あと平仮名は、仕様です。
ある日、四季折々に情景を変える山の中に佇む、えらく古びた小さな小屋で妖怪は、朝目覚めた。
それは、小さな雨粒が、空から舞い落ちてくる、冷たい日だった。
妖怪は白い布団から起き上がり、立ち上がろうとした、その視界に映ったのは、ある『置手紙』だった。
昨夜には無かったはずの、誰かの手紙。
妖怪はそれを手に取り、封筒を開け、中から手紙を取り出した。
その手紙は、自分がよく知っている、特徴的な字で書かれたものだった。
《愛しの〇〇へ。
やぁ、元気かい? 僕らがわかれてもう何年も経つけどさ、僕は相変わらずだよ。
あっちに行ってさ、久しぶりに友達に会ったんだ。
大丈夫、僕は楽しくやってるよ。
昔は色々あったけど、今は笑いあって話せるから、心配はいらない。
そこで思ったんだ。
今は無理だけど、いつか君もこっちに来た時、みんなで歓迎して迎えようって。
相談したらさ、全然オーケーだって。
だからさ、君も早くって訳ではないけど、いつか笑ってさ、また会おうよ。
そんで、君はそっちで思いっきり楽しんで。あ、あとお土産を忘れないでよ? 僕たちの思い出の品、ちゃんと持って来てね。
でさ、今日さ、何の日か知ってる?今日は6月の25日。
そう、僕らが始めて出会った日だよ。
いくら時間が経ってても、忘れてはないよね?
あの時さ、僕が、同じ年代の子供に虐められてた時、君が手を差し伸べて助けてくれたこと、すごく覚えてる。
嬉しかった。そして、かっこよかった。
その時かな、人生で始めて『恋』ってのをしたのは。
いつか恩返しがしたいと、次に会ったのは、今度は君が他の妖怪に虐められてた時。
僕は喧嘩は強くなくて、弱っちかったけど、でも君のために必死で庇ったよ。
痛かったけど、君が泣きそうな顔して優しくゆすってくれたら、痛みなんてすぐ吹っ飛んだ。あの時は、少し強くなれたのかな。
それから君と毎日会うようになってさ、色々山での遊び方とか、妖怪の種類、一緒に探検もしたね。おかげでそのことが周りにバレて、みんな離れていったけど、そんなことは全然気にならなかったし、君もそうだろう?
それぐらい毎日が楽しかった。あの時に君から貰った綺麗な緑色に光るあの石のペンダント、わかれる前に君に返したよね。君にしか、その光は似合わないと思って。
で、僕たちの身長も大分伸びて、青年の年になった時、君は出会った時とあまり変わらない、可愛らしい姿のままだったよね。これが人間と妖怪の違い。
勇気を出して、父さん母さんに、この方と2人で暮らすと言った時も、酷く反対されたけど、一歩も引き下がらなかったから、とうとう呆れられて、父さんに「好きにしろ」なんて言われて、
「いいかい、人間と妖怪なんて、長く続かない。すぐわかれてしまうよ」と母さんに言われて、それでもいいって、出て行って。
結局、この小屋で2人でずっと一緒に過ごして、どっかに出掛けていって、その度にしわを増やしていってさ。
だけど、やっぱり母さんの言った通り、長くは続かなかったね。
僕らが最初で最後の喧嘩をしたのは、わかれる一週間前辺りだったな。
辛かったけど、そのうちに何で喧嘩したのかも忘れて、僕は黙って先にいっちゃったから、わかれの言葉も言ってない。だから、こうして君に手紙を書いたんだ。
それがずっと心残りでさ、これであっちでゆっくり出来るよ。
本当に今までいろんなことがあったね。その度に、君は笑ってくれた。
僕に愛をくれた。
本当に幸せだった。
特に君が笑って泣いてくれたあの顔は、出会った中で一番綺麗だった。
最後に、ひとつだけ質問するよ。
今日は、僕たちが出会って、結ばれた日ですが、他にあとひとつ、僕たちの大事な、大事な記念日があります。さて、何でしょう?
君ならわかってくれるよね。
じゃ、そろそろ。
いつかまた会おう。
待ってる。
元気でね、〇〇。
だいすきだよ。
君に恋した、人間より》
それを見た妖怪は、大粒の涙で、白い布団を濡らしながらこう言った。
「馬鹿、そんなのわかるに決まってるよ……それに、その口調……昔の貴方そっくりで……懐かしい」
と。
妖怪は涙の海を閉じ、静かに手紙も閉じた。
そして、首から下げた緑色に光る綺麗なペンダントを握りしめながら、胸の中にいるひとりの人間に向けて、答えを出した。
そう、今日、6月25日は、貴方がこの世からいなくなった日。
私とわかれた日。
貴方が永い人生で一番、大好きだった日。
おわり
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。まだまだ未熟者ですが、これからもよろしくお願いします。
次回の短編お楽しみに、ほんじゃバーイ‼︎