*5* 人間は自由に生きる
なぜ天使が人間の姿をしているのかって?
それは違うな。
天使が人間を真似るはずがない。
人間を真似る天使など、ただの変わり者だ。
俺みたいにな。
人間が進化の過程で天使の姿を望んだんだ。
そのことが神にとって興味をそそったのは言うまでもないな。
「あなたは天使だったのですね!?」
嫌な奴が来た。
「何のことだ?」
煙草の煙でシスターの顔が霞んで見えた。
「今一瞬、あなたの背中に羽が見えましたわ。」
この女時々妙な事を言う。
天使に羽など無い。
もし、この喜々とした表情を見たのが神なら、自分が天使だと名乗るに違いない。
あいつは面白いことを望んでいるからな。
「勝手にほざいてろ。」
ついにおかしくなって幻覚でも見たか?
手元の煙草を再び口に運ぶ。
足は忌々しい聖堂の扉へと運ぶ。
「あなたは初めてお会いした時から不思議な方でした。」
俺にとって人間ほど不思議な物はない。
こいつは俺に"恋"をしているらしい。
"愛"なら分かるが"恋"という物はさっぱり分からん。
契約者が"恋"をしたら契約は打ち切られる、それが天使の掟だ。
そろそろこのシスターとも別れ時だな。
「行かないで下さい!」
シスターの言葉が何故が俺の心を貫いた。
「は?」
振り返りはしない。
俺に未練や情けなどと言うものはないからな。
「このままあなたが消えていなくなる様な気がします。」
シスターの上品な叫び声が痛い。
俺の口から出ていく言葉が痛い。
「その通りだな。」
俺は大嫌いな教会の扉を天界へつなげ、シスターの元を去った。
これが俺の初仕事だった。
何事も初心は忘れてはいけないものだ。
だが、俺はこの痛みを忘れてしまいたい。
ありがとうございました。
彼にとって、この初仕事がいつの日かハッピーエンドだったと言える日が来ることを祈ります。