*4* 悪魔は求める
俺の下界での仕事は、人間に正しい教えを与えずに神の興味をそそるシナリオを構成する事。
それは、紛れもなく天使だ。
だが天使の中で、最も悪魔に近い。
なぜなら人の心が読めないからだ。
おまえ達は知らないだろう。
悪魔は心が読めないくせに、読めるふりをして近づき、真理とは無関係な善意を振りかざす。
ただの自己満足。
奴らは神から必要とされなくなった悲しさのあまり、人間に自分を必要としてもらいたいだけの寂しい堕天使だ。
そう考えると奴らは人間に近いな。
「フレル、去年あなたが諭した方からお礼が届きましたよ。」
シスターが優しく差し出した物は花束だった。
「いらん。」
俺の体から、煙草の煙と共に言葉が出て行った。
俺は元々花には興味がない。
俺の興味をそそる対象は人間だけだ。
「では、入り口に飾っておきますね。」
「勝手にしろ。」
シスターはトコトコと扉へ向かう。
揺れる服が眠気を誘う。
シスターほどつまらん人間はいないな。
こいつの元へ相談に来る奴等が、せめてもの暇つぶしだ。
この1年で、こいつをあしらうのも慣れてきたし。
「感心しました。あなたがあの花嫁におっしゃったこと。」
シスターがまた服を揺らしながら俺の元へ近づく。
あの花嫁は面白かった。
「俺は諦めろと言ったはずだ。俺の意見を聴きに来たのだから受け入れるのが道理だろう?」
結局婚約破棄して幼なじみと結婚するのなら、初めから他人の意見などきくな。
自分にしっかりとした意志があるなら他人の意見を耳に入れること事態が無駄だ。
「きっと背中を押してほしかったのでしょうね。」
トスンと俺の隣にシスターが腰を下ろす。
ふいに、あの時のシスターの顔を思い出した。
「私は人々の言葉を受け入れてばかりでしたが、彼らは突き放されることで前に進むことが出来る時もあるのですね。」
人間はさっぱり分からん。
だが、そこがまた面白い。
「何を笑ってるんです?」
「おまえには関係の無いことだ。」
シスターが小さな笑い声を奏でた。
「あの、そろそろ煙草やめたほうが宜しいのでは?体に毒よ?」
シスターは本当に詰まらん。




