*3* 愛は偉大、恋は痛い
恋という物は理解できない。
愛は知っている。
与えるものだ。
慈悲と言っても良いだろう。
だが恋は経験したことがない。
俺が考えるに、恋とは奪うものだ。
「神父様……わたし、貴族との結婚はやっぱり無理です。彼に申し訳なくて……。」
俺は神父じゃない。
ましてや人間でもない。
まあ、その辺は良しとしよう。
俺がふざけて神父の格好で懺悔室にいるのは紛れもない事だからな。
「先日婚約した話はどうするんだ?」
「断ります。」
こいつは面白い。
婚約を決めたときは幼なじみの事などあきらめたとほざいていた奴が、今度はそいつのために家を捨てるのか?
「あきらめろ。前言撤回は無しだ。」
なぜか笑いがこみ上げた。
それは自分が適切な助言をしていると自惚れていたのか、花嫁をあざ笑ったのかは分からない。
だが、生きてもせいぜい100年程度の生き物だ。
所詮人間に永遠の愛など存在しない。
「あきらめて、将来を安泰に過ごせる相手と結ばれることだな。」
女は何もいわずに懺悔室を後にした。
後でその話をシスターに自慢げに話すと、何故か叱られた。
泣きそうな瞳で俺を散々責めた後、選りすぐった言葉で俺をけなした。
"無神経"と。
苛立ちとは違う痛みが俺の心をかけ巡った。
だが、今でもこの助言に後悔は無い。