*2* 欲望こそ人間
"いざ来たりませ、異邦人の救い主よ。"
とは良く言ったもんだ。
俺は今、とある教会のミサを聞いている。
歌は好きだが、詩は嫌いだ。
人間の声が奏でる音色は美しい。
それはまるで、教会の出窓に座っている俺をかすめていく、この風。
だが、内面の汚さや欲は、言葉として紡がれてしまっている。
それはまるで……、まるで……。
悪いが俺が知る中でそれほど醜い物がない。
「全く、寒気がする。」
俺は教会とか聖地とか、人間が勝手に作り上げた神をあがめる場所が大嫌いだ。
あんな物欲の塊だ。
「どうされました?」
やばい、シスターだ!
「どこへ行くのです!?体調が優れないのでしょう?」
天使に体調なんてあるか!
「ほっといてくれ。」
その瞬間ある言葉が頭をよぎった。
"下界で最初に自分に触れた人間が契約者。"
神が暇つぶしの為に作り上げた天使の掟だ。
俺は自分の体を人間に触れさせた事がない。
今、この瞬間までそうだった。
「待ちなさい。その様な物を召し上がっているから体調が優れないのですよ。」
初めての契約者は、存在しない様な慈悲深い神を敬い、奉るシスター。
とんだ妄想野郎だぜ。
シスターの手に奪われた煙草が、名残惜しそうに煙を泳がす。
こいつの手が意外にも暖かく、俺の心は落ち着かなかった。