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堕ちかけの天使  作者: 津田花
2/5

*2* 欲望こそ人間

"いざ来たりませ、異邦人の救い主よ。"

 とは良く言ったもんだ。

 俺は今、とある教会のミサを聞いている。

 (うた)は好きだが、(うた)は嫌いだ。

 人間の声が奏でる音色は美しい。

 それはまるで、教会の出窓に座っている俺をかすめていく、この風。

 だが、内面の汚さや欲は、言葉として紡がれてしまっている。

 それはまるで……、まるで……。

 悪いが俺が知る中でそれほど醜い物がない。



「全く、寒気がする。」



 俺は教会とか聖地とか、人間が勝手に作り上げた神をあがめる場所が大嫌いだ。

 あんな物欲の塊だ。



「どうされました?」



 やばい、シスターだ!



「どこへ行くのです!?体調が優れないのでしょう?」



 天使に体調なんてあるか!



「ほっといてくれ。」



 その瞬間ある言葉が頭をよぎった。


"下界で最初に自分に触れた人間が契約者。"


 神が暇つぶしの為に作り上げた天使の掟だ。

 俺は自分の体を人間に触れさせた事がない。

 今、この瞬間までそうだった。



「待ちなさい。その様な物を召し上がっているから体調が優れないのですよ。」



 初めての契約者は、存在しない様な慈悲深い神を敬い、奉るシスター。

 とんだ妄想野郎だぜ。

 シスターの手に奪われた煙草が、名残惜しそうに煙を泳がす。

 こいつの手が意外にも暖かく、俺の心は落ち着かなかった。






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