表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/72

第4話 どうしてこうなるんだ? 後編

 翌日、俺は定時に起きて一階に降りる。そして朝食を食べる。今日もいつもと同じメニューだ。そろそろ慣れてきたからいいけど。

 そしてオークの鼻を売りにギルドに向かうが、相変わらず混んでいるので、隅のイスに座って待つが、一番近くのテーブルからとある単語が聞こえたので耳を傾けてみる。

 カクテルパーティー効果なのかも知れないが、鉄の杖をしごいてオークに魔法を放っていた。そんな単語が聞こえたら嫌でも反応してしまう。


 鉄の杖をしごくってなんか卑猥に聞こえるが、ポンプアクションの散弾銃ならある意味間違いではないので、何とも言えない。

 買取カウンターも空いてきたのでオークの鼻を売り、今日は休もうと思っているので宿屋に帰る。

 ってかオークの鼻高いな。十匹で三十日は休める。昨日みたいな奴等が、ランクが低いのに無理に行く理由がわかるな。噂はきっと昨日のあいつらが原因だろうな。

 悪名じゃないからいいけど、隣国にまで噂が広がらない事を祈ろう。


「戻りました」

「今日は休み?」

「あぁ、たまには休息も必要だからな」

 俺はカウンターに座って金を置いてから軽食を頼み、特に会話がないので黙って待つ事にした。

「そういえば……、あんたかなり綺麗好きよね」

 いきなりグリチネさんが、背中を向けたまま話しをしてきた。

「この店は一応酒場もやってるから、冒険者連中がくるけど、色々汚いし臭いんだよ。あんたは、かなり風呂に行ってるのは見てる。装備も服も洗ってるのか返り血もない。店としては嬉しい限りね。はい、サンドイッチ」


 俺はベトナムの、バインミーみたいなバゲットサンドを受け取り一口齧る。朝の残りのパンなのか、まだパンはパサついてはいない。

「まぁ、こんな見た目だろ? 服に返り血が付いてたら誰も近寄らねぇからな。多少は気を使ってるし、こう見えて綺麗好きだから風呂はなるべく毎日入りてぇな」

 返り血は付くが、装備を変えれば元に戻るし体の汚れも取れる。けど風呂は気分の問題だ。個人的には毎日入りたい。

「はぁ。その言葉をここに来る連中に聞かせてやりたいわね。っていうか、あいつらはあんな状態でも女も買うんかねぇ」

 いきなり下品な単語が出てきたな。


「買った事がねぇから何とも言えねぇな。そういう場所に体洗う場所とかあるんじゃねぇの?」

 現実世界基準だが。

「珍しい男……。私の冒険者やってる野蛮な見た目の男のイメージは、酒と女とギャンブルって感じなんだけど」

「まぁ、俺のイメージもそうだな……。けど娼婦は病気が怖いし、酒は判断力が鈍るからあまり酔いたくない。賭け事は趣味の範囲だから何とも言えねぇが、俺は堅実に稼ぎたいから手は出したくない。楽しみたいだけなら、木の棒でも賭けてればいいが、性質が悪いと勝つまで突っかかってくる奴がいるから、俺はそういうのはやらねぇようにしてる。だからいつもビールを一杯って感じだ」

「へぇ、意外。てっきり稼いだ金は全部酒と女って感じな見た目なのに、真逆とは驚いた」

 カウンターに頬杖をついて、ニヤニヤしながらそんな事を言ってきた。不愛想かと思ったが、笑えば結構綺麗だな。

「結構見た目で苦労してる。察してくれ」

「まぁ、あんたが最初うちに来た時は物取りだと思ったよ。けどなんだかんだで礼儀正しいし、綺麗好きだから話しかけてみたわけ」

「そいつはありがたい事だ」

 話を合わせ、サンドイッチを食べ終わらせてから自分の部屋に戻った。



 特に疲労とかが溜まってる訳じゃないが昼まで寝ようと思い、うとうとし始めると一階から怒鳴り声がしたので下に行くと、六人の男が一人の男を私刑にしていた。

 グリチネさんを見るとわれ関せずといった感じで、煙草を吸っていた。

「た、助けて下さい!」

 私刑にあっていた男は俺の方を見て、あちこちボロボロな体でどうにか声を発した。


「別に構わないが、こっちは慈善家じゃないし、巻き込まれるのは勘弁だぜ?」

「おいおっさん、関係ないなら引っ込んでろ!」

 威勢がいいな、俺も銃がなかったら引っ込んでた気がするけど。

「へいへい。そんなに関わりたくはないから、ある程度(・・・・)黙ってるわ」

 俺はそんな言葉を無視してカウンター席に座り、お茶を注文する。

「金! 金は払う!」

「その金を俺達から借りたのはどこのどいつだよ!」

「救えないな……」

 俺がそう言うと、男たちは倒れてた男の頭を蹴っていた。個人的には胸糞悪いが、両方悪いので特に何かするつもりはない。


「助けないのかい?」

「さっきも言ったが俺は慈善家じゃない。見返りがないならその義理もない。蜘蛛の巣に引っかかっていた蝶々が可哀相だから、その蝶々を助けてあげました。けど、餌を食べられなかった蜘蛛は死んでしまいました。俺にはどっちが正しいかわからないね」

「意外に詩人ね」

「まぁな。こんな年齢だったら無茶はしたくない。ただ、店の中で暴れるのは感心しねぇなぁ……」

 俺は集団で暴行している奴等をにらみつける。


「お前達……、そいつを外に引きずり出すとか出来ねぇか?」

 ボコボコにするのに、店の中でする必要はないしな。

「あん? てめぇも一緒にボコボコにされてぇのか?」

 そう言いながら威勢のいい男は、鉄の棒みたいなのを取り出した。

「いいか? 俺に危害を加えた時点で敵とみなす。警告はしたからな?」

 お茶を飲み、息をゆっくりと吐く。

「余裕かましてんじゃねぇぞおっさん!」

 何が癪に障ったか知らないが、そんな声が聞こえ頭を思い切り殴られた。視界内に表示される残り体力は88%だ。ゲーム内では一発弾がかすった程度……。

 けどクソ痛い。


 俺は振り向き、太もものホルスターから自動拳銃のmk23を引き抜き、相手の肩向かって引き金を一回引いた。

「ぎゃぁあぁ! いでぇ! ち、畜生。な、なんだコレ!」

「粋がるのはいいけどよ、当然やり返される覚悟があって攻撃したんだよな? 一発は一発だ。今回はソレでゆるしてやる。後ろの奴もやるかい?」

 別に挑発したつもりはないが皆が殺気立ち、五人が俺の方に向かってきたので、同じように太ももや肩に向かって一発ずつ撃った。

 店の中は叫び声で騒がしくなり、床に血が流れている。


「おいおい、床が血で汚れるだろう? さっさと出ていけよ。それとお前、床の掃除をしろ。助けてやった礼だと思え」

 俺はボコボコにされていた男にそう言って、マガジンを交換してからお茶の残りを飲む。

「意外にやるのねあんた。武器を持ってなかったから格闘家か何かかと思ったけど、魔法使いだったのね」

「まぁ……そんなもんだ。悪いがこいつに掃除用具を渡してやってくれ」

 俺はそう言い残し、お茶の代金を少し多めにカウンターに置いて、床に転がってる奴等を外に引きずり出して二階に戻った。



 夕食が食べられる時間になったので一階に下り、夕食を食べていると荒々しく扉が開いた。

「あいつです!」

 そして俺の方を指さし、近くの奴らが皆遠ざかっていった。おいおい、肩に穴開けてやった奴じゃねぇか。しかも傷がなかったかのように歩いてるな。

「話はコイツから聞かせてもらった。お前は魔法使いらしいじゃねぇか。ちょっとした小遣い稼ぎしねぇか?」

 街を歩いてるだけで、人が避けて歩きそうな見た目の男にテーブルを挟んだ向かいに座られ、睨まれながらそんな事を言われた。俺も似たような見た目だけど。


「飯食い終わってからでもいいか? 飯食ってる時に話すような事でもねぇだろ?」

 殺気をピリピリと感じるが、気にせずにビールを飲む。もうとっくに、一日の終わりのスイッチ入れちゃったし。

「こっちが大人しく話してるうちに質問に答えろよ? な?」

「それはそっちの都合だろう。俺は別に今の稼ぎで満足している」

 男は更に睨んでくるが、俺は気にせずに夕食を続ける。が、テーブルに乗っていた物を腕で全て払い落とされてしまった。


「おいおい食べ物を大切にしろよな。ママに教わらなかったんでちゅかー?」

 俺は睨み返しながら挑発をする。

「それに、交渉役としては最低だな。もう少し品行が良い奴を連れてくるか、話のわかるやつを連れて来い。それともお前が一番偉いのか?」

 俺は辺りに飛び散った料理を手で拾い集め、全てを一つの皿に纏めてテーブルに置いた。後で掃除用具を借りないとな。

「あぁ、俺がトップだ!」

「あぁそうかい。まずは表に出ろ、話だけは聞いてやる。けどここを掃除してからだ、待ってろ」

 俺は顎で出入り口を指し、グリチネさんから掃除用具を借りて床を拭く。そしてカウンターに大銀貨を一枚を置いて、店内にいた人達への迷惑料とする。

「悪かった。皆は食事の続きを楽しんでくれ」

 俺は外に出て話をしようとしたが、ついて来いと言われ、仕方なく付いて行った。何されるか凄く怖いんですけど。最悪強化アーマーに装備を変えて、一分間粘るか。



 男の後ろを歩く事十分程度。裏路地の人気のない家の中に案内された。

「で、話ってなんだ?」

「ちょっと気に食わねぇ奴等がいる。ぶっ殺して欲しい。無詠唱の魔法が使えりゃ楽だろう?」

「それだけじゃ納得できねぇな。詳しく話せ。そうすれば考えてやる」

 男が軽く舌打ちをし、口元に手を当てて視線を外した。多分話すか話さないか迷っているんだろう。


「俺達じゃ決定打に欠ける。だから昼間襲われた話を聞いて、お前を金で雇おうとした」

「そうか、別に強い奴を金で雇うのが悪いって訳じゃねぇ。それに傷むのは懐だけで、自分も仲間も安全な場所で酒飲んでれば事は終わる」

「待て、お前ひとりでやるつもりか!?」

「そういう話じゃねぇのか?」

 あれー? こういうのって殺し屋を雇うみたいに、情報だけ与えて殺してもらうんじゃないの?

「邪魔だから付いてくるな。付いてきても間違いがないように、確認の為の人員が後方で一人待機で良い」

「それじゃ受けてくれるんだな!」

「何人いるかも聞いてねぇし、値段を言ってねぇぞ」

 東郷さんって平均で二十万ドルだったような……。いくらにするかな……。いいや、金貨一枚で。こっちの生活水準とか考えれば、給料何ヶ月分とかだろうし。


「テメェが決めるのかよ! こっちが雇うんだから、それに従っておけよ」

「人数、危険度、その他諸々。それなのに俺はお前の言い値で働くのか? 一人殺してハイ終わりって訳じゃねぇんだろ? 最低でも金貨一枚だ」

 構成員が少ないグループ相手の抗争ってこんなもんなんだな。地方の暴走族のチーム同士の喧嘩みたいだ。漫画でしか知らないけど。

「はぁ? ありえねぇだろ」

「なら交渉は決裂だな。最初に言ったが、俺は今の稼ぎでも満足している」

 俺は立ち上がろうとしたが、男に止められた。

「奴等のため込んでる物から出す。だから引き受けてくれ」

「別に現場を漁るつもりはない。お前等がそれでいいなら俺は構わない」

 そうして俺は、前金を受け取り依頼を引き受けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

― 新着の感想 ―
[一言] 「ちょっと気に食わねぇ奴等がいる。ぶっ殺して欲しい。無詠唱の魔法が使えりゃ楽だろう?」 ↑ 流れ的にこんな殺しの依頼を受けるとは意外でした(´・ω・`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ