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第30話 非日常から日常へ4/4 ※最終話(仮)

少しだけ長い後書きがあります

 屋根の上で敵兵を減らす簡単な作業をしながら三日が経った。

「さて、今日は城に乗り込むんだけど……」

 ヘイの歯切れが悪い。どうしたんだろうか?

「……城の分厚い鉄製の扉を破ったら、我々のお仕事はありません。兵士が大人数でなだれ込んで終了です」

「楽な仕事ですね」

「あぁ、そうだな」

 大飯はニコニコとしながら言い、左手の端末をいじりながらRPG-7を選択したのか、あぐらをかいている膝の上にずっしりと乗っかった。


「あれ? なんか手柄とか、いいとこ取りされて悔しくないの?」

「戦争で、もの凄く強い奴が一人いても勝てないのと同じですよ。野球と同じで皆でやるものですし」

「まぁな。別にいいんじゃね? 俺も問題ねぇと思うぞ? この間の遅滞戦闘は色々条件がそろって二人で奮闘したけど、もう国土的な意味では残りはここだけ、しかも城は囲んである。楽でいい」

「二人がそういうなら問題ないね。んじゃ、俺達は城の地下通路とか、既に逃げてるかもしれない王族探しでもしようか」

 ヘイは俺達二人が特に不満はないと言うと、明るく言って装備を調えている。


「じゃ、後ろに誰もいませんね? やっぱり破壊された城門なんて、真っ先に直しちゃいますよねー」

 大飯は後ろを確認し、ヘイが鎖を撃って落とした跳ね橋の奥にあった、分厚い鉄の扉を押さえてるカンヌキがあるかもしれない場所向かって、RPG-7を二発撃って扉の中央部分に穴を開け、多分蝶番があると思われる場所に、六分後にまた二発撃って片側の扉を奥側に倒した。前に爆破した時に、場所の確認はしていたんだろうか?

 そして油が降ってきてもいい様に、なんか木の板で作った屋根みたいなのを持ちながら、同盟国の兵士が突撃していった。

「元気だねぇ……」

「コレで終わりだからだろ? 春までには戦争が終わりそうだし」

「まぁ、死んだら終わりですけどね。けど場内にいる貴族とかを捕らえて昇進したいんでしょうね。敵の士気もボロボロですし」

 三人である程度突撃が終わるまで見ていて、どんどん連れ出されている貴族とかを見てから真っ先に地下牢に向かってみた。


「よう、悪夢達」

 突然牢屋内から声がかかり、髪と髭が伸び放題で、垢にまみれた男に話しかけられた。

「誰だ? 特に知り合いはいないはずだが?」

「落ちた橋の上で少し話しただろ。あの時お前が寝っ転がってて、そっちが手すりに腰掛けてた」

「あー、あの時の。見た目が変わりすぎててわからなかった。なんで投獄されてるの?」

 そういえば遅滞戦闘の最後に会ったな。


「陛下から預かった兵士とかは無事だったが、たった二人に大敗北した責任って奴だよ。俺はなんだかんだで身分が高いから処刑する訳にもいかず、幽閉って形で事実上投獄。で、何かもってない? ここ最近飯が少なくなってさ」

「悪い、何もない。ちょっと離れてろ」

 俺はヘイの方を見てショットガンを構えると、軽く頭を縦に一回振ったので蝶番部分を撃って壊してドアを開けた。

「いやー助かった。で、戦況はどうなんだ? お前達がここにいる時点でお察しだけどな」

 そしてヘイがかいつまんで説明をしているが、ドアの格子部分から顔を覗かせ、腕を出したりしてる奴がうるさいので、階段の所にあった鍵を持って地上部分に上がり、兵士を呼んで拘束してから運び、地下に戻ると橋の上で会った男がパンを食べていた。


「話を聞いたけど、あれから戻って即投獄されたみたい」

「いやー酷い酷い。城の門をくぐった瞬間に、左右から兵士がワラワラだよ。言い訳とかさせてくれなかったさ。もう忠誠心とかないから全部ぶちまけるけどさ、昔からある噂で、この城から炭坑に抜ける坑道があって、逃げられる様になってるらしいぞ?」

 橋の上で会った男は、なんか凄い事をぶっちゃけている。まぁ、忠誠心とかないって言ってたし、問題はないか。

「たぶん数十日以上の蓄えとかありそうですね」

「下火になった頃に出て来て逃亡かな?」

「だろうな、けど問題は大飯が吹き飛ばした炭坑入り口だろう。戦時中にどうでも良い炭坑を復興させるか? 犯罪者が入る為の施設だ、そういうのは真っ先に最前線行きじゃないのか? わざわざ中に閉じこめられた囚人を助ける理由もないだろ。雑兵がグチりながら崩れた石の撤去、それをさせてる時間があったと思うか? そういう噂は聞いてるか?」

 俺はもっともらしい事を言い、橋で会った男に聞いてみた。


「ないな。投獄されてる連中の話題にもなってない。ただ、重要な逃げ道なら秘密裏に作業はさせるだろう」

「炭坑に兵を配備してないから情報は皆無かなー。一部隊くらい送っておけば良かったなー」

「仕方ないだろ。まさか囚人を収容する炭坑が、秘密の逃げ場だとは思わねぇし」

「城内から郊外にある王家の墓とかまで、道を掘る場合もありますし、囚人を総動員して掘らせてから殺せば可能でしょう。その為に入り口を囲って、逃げられない様にしてたんですから。そうすれば情報は漏れませんよ」

 城の建設に関わった一般人や、設計者は全員殺されたってどこかで聞いたな。秘密の抜け道を知ってるからって理由で。まぁ嘘だったらしいけど今は黙っておくか。


「抜け道を探す?」

「既に逃げてる秘密の通路を探すより、直接炭坑に行った方が早くないですか? 逃げ出したばかりでMAPに映ってるならともかく、今は兵士達で真黄色ですよ?」

 確かに物凄い黄色だな。今は城の中に兵士が沢山いるからな。

「爆破したら崩落とかが怖いが、今は直行した方が早いな。行くか?」

「そうだね。あーそこの君、この方は最重要人物として丁寧に対応して。それと俺達は炭坑に行ったってついでに偉い人に伝えて。それと炭鉱の囚人収容に五十人以上送って欲しいって」

「了解しました!」



「一応道が整備されてて走りやすかったな。街外れから十五分くらいか?」

「石炭を運びますからね。このくらいの整備は必要でしょう。じゃないとぬかるんだり、わだちになります」

 俺達は馬を借り、炭坑に続く道を多分駈足(かけあし)と思われる早さで向かい、破壊された囲い部分で馬を下りた。

 ここに戻ってくるなんて、思いもしなかったわ。

「んーやっぱり塞がってるね。スピナ、お願い」

「なんで俺なんだよ。自信ねぇぞ?」

 ヘイからとある事をお願いされ、俺は崩れている炭坑入り口を見る。大小入り交じった石が積み重なっており、下手にいじくると二次崩落の危険があるので、慎重に石を選んでC4を置いて離れる。


「まずは一回目。ふぁいあいんざほーる、ふぁいあいんざほーる」

 一応雰囲気は出しておく。

 そして遠隔操作用の起爆スイッチを握ると大きな石が弾け飛び、上に乗っていた物がゴロゴロと崩れてきた。

 そして石の上を飛び乗っていき、踵で蹴りながら安定してるかを確かめ二個目のC4を置いてまた戻ってくる。

「二回目。以下省略」

 そんな作業を約三十分ほど続け、なんとか人が通れるくらいの穴が上の方にできた。そして俺が先に中に入り、天井付近にひび割れがないかを自動拳銃のライトで照らして確認する。

「平気だ、入ってこい。大きなのは噛んでて動かないと思うが、小さい石は乗ってるだけだから気をつけろよ」

 俺は二人に注意しつつ、ジャガノ装備にいつもの盾とmk23を装備し、爆発物は怖いのでフラッシュバンだけを選択した。


「お、蝋燭だ。ちょっと盾こっち向けてー」

 ヘイはマッチで蝋燭に火を付け、盾に蝋を垂らしてそこに立てた。

「酸素注意ね」

「カナリアはどうします?」

「スピナで」

「ひでぇ!」

 そんな会話をしながら俺が先頭で歩き、一列に並んで大飯が俺の左側、ヘイが右側に少しだけズレて銃を構えながら前進する。

「炭坑の地図ってないのかな?」

「どうだろうな。とりあえず下り道をどんどん選ぶぞ。城の標高をゼロとして、ここは五十メートルくらいだしな。本当入り口が中腹になくて良かったわ。逃げ道作ってるなら多少お同じ高さに作らないと、掘るのが面倒だからな」

 とりあえずmk23に付いてるライトで前方を照らしながら歩くが、囚人が死にまくっている。入り口の爆破が原因の食糧不足で餓死かな。


「た、たすけて。めし――」

「おい、こいつ死んでねぇぞ?」

 壁に寄りかかって死んでいる、死体だと思った奴がいきなり喋り、少し驚いてしまった。なんでMAPに反応しねぇんだ? 実はもう死んでるとか?

「んー」

 ヘイは何かを考え、弱っている囚人に近寄ってしゃがんだ。

「生き残りは? お前はどうやって生き残った?」

 なんでMAPに反応しないかは無視か。

「仲間の腐肉を食った、水は壁からにじみ出てる奴が貯まったら飲んでた。他はしらねぇ。食料の奪い合いで殺し合いが起こったからな。俺は何も持ってないから、さっさと逃げて大人しくしてた」

「そうか。悪いが食料はない。けど入り口は人が通れるくらい開いているし、帝都は陥落したから外で待ってろ」

「はは、ざまぁねぇや。逃げられる気はしねぇが、死ぬなら光を見てから死にてぇ」

 囚人は手を出してきたので、それを掴んで立たせてやった。もう死ぬ直前だったから反応しなかったんだろうか?

「出口まで歩けるか?」

「立てたんだ、壁にもたれかかって歩くだけだよ」

「もし生きる気力があるなら、這ってでも光に向かって進め。外には兵士が待っている」

 囚人にそう言うと、右手を壁に付きながらフラフラと出口の方に向かって行った。

「なんか、悪い事した気持ちで心が……」

「ここを崩してなければ真っ先に戦場か、薬を飲まされて門の外だ。気にすんな。俺だってRPGで吹き飛ばした」

 俺は大飯の肩を叩き、ヘイは囚人をしばらく見ていたが、銃を構えたので全員で奥に歩き出した。


 しばらく下り方面に歩き、なんか見覚えのある牢屋を過ぎ、更に下に向かうが、途中で白骨化した死体が多く、全ての骨が散らばっていた。多分食われたんだろうな。

「MAPに反応があるな、どの辺だコレ」

 視界内に黄色い点が自分達以外に多数見えた。

「この先だね、あれかな?」

 ヘイがスコープを覗くと、そんな事を言っていた。

「アレってなんだよ」

「ごっつい扉がある」

「それだ」「それですね」

 そして少し進むと、どんどん扉の全体が見えてきた。なんかゴツゴツした岩に扉が生えてる感じでがっちりとハマっていた。


「奥に開くっぽいね。どうする? 爆発物だと崩れる?」

 ヘイが話している間に、大飯はC4を手に持ってこっちを見ていた。え? また俺が判断するの?

「少し待て」

 それだけを言い、扉の構造や厚さを叩いて調べ、岩の質も見てみる。

「音の質的に鉄で厚さ三センチ程度、多分奥にカンヌキ。向こう側に敵が十人。中央に張り付けると上が多分崩れるから、この辺りに置いて、石とか土を積んで衝撃を申し訳程度でも少なくするしかないな。カンヌキは多分衝撃で折れると思う」

 俺は扉の下から三分の一くらいの所を指さし、周りを見て使えそうな物を探した。

「面倒だね。大飯、C4ちょうだい」

 ヘイがそう言ってC4を奪うと、俺の盾に張り付けた。嫌な予感しかしない。


「このまま扉に張り付いて起爆、確かジャガノ装備で盾だったらダメージはなかったよね?」

「アーマーの耐久値が半分以下になるけどな」

 俺は溜め息を吐きながら、盾を扉にくっ付けパイルバンカーを打ち込み、両足で踏ん張る様にして腰を落とした。

『心の準備は?』

 気が付いたら無線でヘイが喋っている。

『ゲームならできてた。この世界だとかなり吹き飛ぶと思う』

『んじゃ吹き飛んだらそのままで、扉が開いたら俺達がクリアリングする。やっちゃって』

『おい! ま――』

そう言った瞬間俺は真後ろに吹き飛び、ゴツゴツとした天井が見え、二人が銃を撃ってる光が反射している。

 耳が少し遠い。ダメージはないが鎧の耐久度が残り三割。指は動く。首も動く。

 意識も視界内のダメージが把握できる程度にはある。ただ、盾がどこかに吹き飛んだ。起き上がって探さないと……。あー、俺これから何するんだっけ? 少し頭が回らない。なんでこんな事になったんだっけ?

 そう思ってたら、上半身を起こされ、バイザーが上げられた。


「無茶させて悪かった。意識は……少し放心気味だけどあるね。はい、起きて起きて」

 そう言われて更に両脇から掴まれて立たされ、盾が左手に渡された。

「すみません。ゲーム的にも崩落的な意味でもこれが最善策でした」

「あ? あぁ、衝撃波で少し良い感じになってた。ダメージはないし、手足の痺れや、動かないって事はない。状況は?」

 起き上がって、少し頭をゆっくりと振ったら急に意識がはっきりした。爆発物処理班ってこんな感じなんだろうか?

「扉は無事破壊。奥にはミスリル製フルプレート兵が十人。全員無力化に成功」

「あいよ。背中頼むわ」

 俺は盾を構えて前進を開始し、壁にかかってるランプを見て酸素は平気だと思いつつ、どこから換気してんだと心の中で突っ込んでおいた。


 そして扉を破壊した爆発音で敵がどんどんこっちに来るが、盾を構えたまま全力で走り、一人目を体当たりで吹き飛ばし、兜のバイザーの隙間を狙って引き金を何回か引き、俺の両脇からヘイと大飯が撃ってくれているのか、足を撃たれて転んだり、コメディ映画の様に頭をぶつけたかの様に腰を中心にして、バク転する感じで転がっていく。

 俺も盾の右上から正面の兵士の足を撃っていき、多分大飯が撃って止めを刺している。

「こんなに兵士がいて、どんだけ備蓄を持って来たんだって奴だね」

「さぁな。こんな状況でも豪華に食事してたら笑ってやるさ」

「なら大笑いして下さい」

 大飯がそんな事を言い、通りの脇にあった木製のドアを蹴り破ると、大量のソーセージが吊るされており、棚にはベーコンやハム、日持ちしそうな野菜が大量にあり、箱の中には硬そうなパンや酒が入った瓶が詰まっていた。

 そして壁からにじみ出ている水が溜められる様に、壁の一部が加工されていた。


「ははっ。物資を横領してため込んでて、死にそうな兵士が大はしゃぎしてるワンシーンを思い出すわ」

「あー、あの映画ですね。これの比ではありませんでしたが、冬を越せそうな量がありましたよね」

「レコードもトランプもあって……。前線で戦ってる兵士がかわいそうな映画だったよね。あ、襲い掛かってきたら殺すから」

 そんな事を話しつつ、ヘイは奥で震えているメイドさんを無理矢理立たせ、叫んでいるのを気にしないで腋の下や腕、太ももや靴の中を調べて武器が出てこなかったので、見えていた包丁を数本撃って折り、何事もなかったかのように食糧庫から出た。

「敵女性兵もいたよね。本当戦争って醜いなぁー」

「士気的な物で、即効で犯されてましたからね」

「でも綺麗所を連れてきたっぽいから、最悪あのメイドも、男達の処理させられてたかもしれねぇなぁ」

 そんな事を話しながら、一列でどんどん進んでいった。


「はい、この扉の奥に反応が二十ほど、内一人は皇帝としましょう。何人が兵士で、何人が近親者でしょうか?」

「開けてみないとわからないですね」

 俺は二人のやり取りを聞きつつ、もうそろそろいいかな? って思ったら軽く扉を押してみるが、なにかで抑えているのか開く気配は全くない。

「駄目だわ。カンヌキか数人で抑えてるわ」

「木製ですし、スピナさんの口径ならいけるでしょう」

「試しに十二発な」

 俺は扉の中央から右に、多分胴体がある辺りを狙って中央から腕を広げる様にして十二発撃ってからリロードを済ませると、扉の隙間から血が流れて来たので、二人の方を見てから軽く頭を縦に振ると、二人も頭を振り返してきた。


「ちわーっす三河屋でーす。正面玄関から失礼しまーっす!」

 俺は扉を思い切り蹴り飛ばし銃を構えると、部屋の中は板張りになっていて、煌々としており、絨毯やベッド、食料の並べられているテーブルがあった。

 そして奥には兵士が肉壁を作っており、両脇にはメイドさんが数名固まっていた。

 俺は正面の肉壁を一人撃つと、ヘイと大飯も撃ったのかその両脇の二人も倒れ、白髪のオールバックで髭の長い、六十歳くらいに見える爺さんが座っているのが確認できた。

 そしてさらに立っていた兵士が血を流して倒れ、室内には多分皇帝とメイドさんしかいなくなった。

「動かないで下さい。非武装の女性は撃ちたくないんですよ」

「はいはーい。そこで両手を上げて膝をついてねー」

 ヘイと大飯はメイドさんに銃を向け、その場で座らせていた。


「どうも。ここで貴方様をぶち殺したいんですが、沢山のお偉いさんが待ってるんですよ。悪いけど自害はさせねぇです。きっちり生きて苦しんで頂きたいんですよ」

 俺はわざと変に喋りつつズカズカと歩いて近付き、テーブルを思い切り蹴り飛ばして、皇帝の座っていたイスを倒すとあっさりと大飯に縛られた。

「あっさりしてるねー。そして城の方に向かう反応が五つ。こいつを影武者と仮定して……。通路はどこ?」

 ヘイはメイドさんに銃を向けて一回脅し、足元に転がっている兵士を撃って死体を更に損傷させた。

「ん? 喋りたくないならいいよ。メイドは君以外にもいるし」

 そして短い発砲音がして、壁の一部が吹き飛んでメイドさんは気絶してしまった。けど俺は、ヘイが脅している間にランプを一個吹き消し、煙を出して辺りに漂わせる。

「あー脅しすぎた。失禁しちゃったよ……」

「ここ開きますよ」

 大飯は煙で空気の流れを見ていたのか、壁の一部を押すと回転ドアみたいになって開いた。

「おぅ……。ナイス判断。んじゃ影武者っぽいのは担ぐか……」

 ヘイは気まずくなったのか、何事もなかったかの様に振る舞い、他のメイドさんに謝って隠し通路に真っ先に入っていった。


「ごめん、真っ先に入ったけど、スピナが先頭で」

「知ってた。そして背中は任せる。ってかメイドさんが襲ってくるくらいしか、もう戦闘要員いないけどな」

 俺は先ほど来た通路を戻る様に作られている、人がすれ違える程度の通路を、盾を構えて入っていき、自動拳銃を構えながらライトを点灯させる。

「天井は結構あるけど狭いな。死体を踏んで歩くしかないぞ?」

「まぁ、いいんじゃないかな? こっちは射線通るし」

「問題ないです」

 二人の返事を聞き、俺は無言で少し早めに歩くとMAPに黄色の点が見えたので、暗闇に向かって十二発無造作に牽制の為に撃ち、リロードを済ませて走り出す。

 そしてライトに盾と槍を持ったフルプレートの兵士が照らし出されたので、どう見ても時間稼ぎの為にいるとしか思えない。


「残念だったな。この鎧は全身ミスリル製で、今の攻撃は全て――」

 けどそのまま突っ込み、盾で槍を外に反らして、全体重を乗せて盾と盾がぶつかる様に体当たりをした。

「悪いな。軽くて丈夫な鎧より。こういう時は重くて丈夫な鎧の方が有利なんだよ」

 そう言ってバイザーにサプレッサーの先端を押し付けて一発撃って殺した。そして死体を踏みつけ、奥に進もうとしたら、バイザーが上がる音がして、一発だけ射撃音が聞こえたので、確実に殺したんだと思う。

 発砲音的に大飯だな。あいつもなんだかんだで容赦しないからなぁ……。ってかヘイは影武者担いでるし。


 そしてどんどん進んで行くが、コココンと小さな音が鳴り、盾に少し衝撃があった。そして遅れて破裂音が三回反響した。

「三点バーストか? ほかにこっちに来てる奴がいるかもしれねぇぞ」

「いや、多分だけど音的に三人がマスケット銃じゃないかな? いたらもっと早く情報は入ってきてると思うよ」

「ですね。最後まで出し惜しみしてた結果がこうなりますので」

 少しだけ様子見で止まっていたが、右肩を叩かれたので前進すると、また三回盾に衝撃があり、破裂音が反響した。

「頭は出すなよ」

 一応ゲーム中では何でも防ぐ盾だ。こっちの国にゲームから来た奴がいても問題は少ない、対処もできる。プロで世界大会優勝チームの奴じゃなければだけど。

 そしてどんどん進んで行くと、ライトに照らされた三人の兵士がマスケット銃を構えており、撃ち終わった銃は捨てられ、壁にはまだ撃っていない銃が立てかかっていた。杞憂でよかった。


「なんとしてでも時間を稼ぐんだ! 狭い通路なら外しようがないぞ!」

「一人でも数を減らすんだ」

「わかっている! 光を狙え」

 外すも何も、防いでるんだよなぁ……。

「悪いな。こんな狭い場所に盾を持ちこんじまって」

 俺はダブルタップで一人に四発打ち込み、ホールドオープン状態の自動拳銃のリロードを済ませた。

 伏せたりしゃがんでいた奴はそのまま死んでいったが、立っていた奴だけは銃剣突撃をしてきたけど、あっさりと前のめりで倒れた。

「これで四人。残りはお偉いさん一人だけど、どうするよ?」

 そしてもう一度リロードをして弾を十三発にして、ライトで三人が見える様に照らしておく。

「今更戻って、城の中に逃げ込んでもどうしようもないでしょ。のんびり行こう」

「ですね。影武者の容姿からするにご高齢っぽいですし。問題は外で待機させてる兵士ですよ。暇してるんじゃないんですか?」

 三人で少しだけ苦笑いをし、俺は盾を構えて前進を始めた。



「随分と元気だな。もう十分は歩いてるぞ? 急に運動して、心臓発作的な物で死んでないよな?」

「俺達の歩行速度イコール、皇帝の走り」

「著名人に二十四時間走らせる企画のラストっぽいですね。あ、光点が見えましたね」

 緊張感のない雑談をしていると、大飯が光点の事を言ってくれた。というより、見えたから声に出した感じだ。もちろん俺にも見えている。

 そして近付くと、破裂音と共に肩に一発だけ弾が当たった。

「おいおい、そんなんで殺せると思ったか? 情報は耳に入ってると思ったけどな。けどそれで自殺しなかっただけ褒めてやるよ」

「うるさい、余は皇帝だ。貴様達が気安く話しかけられる存在ではないのだぞ!」

 そう言いながら影武者そっくりの皇帝は、持っていたハンドガンタイプのマスケット銃を投げて盾に当ててきた。ってか本当に似てるな。よく探すよなー。整形とかない時代にさ。

「自殺する勇気がないだけか。はいはいお爺ちゃん。おうちに帰りましょうねー」

 俺は盾を構えたまま一歩前に出ると、皇帝は一歩下がり、それを数回続けたらカカトが引っ掛かったのか盛大に転んだ。

「んもー、お爺ちゃんなんだから気をつけないと」

 俺は横に少しずれると、大飯が飛び出し、口に布を突っ込み手際よく縄で縛りあげて担いだ。

「どうするよ? 馬での移動時間と、ここまで歩いてきた距離を考えると、後十分で街外れに付くぞ?」

「んじゃ城に向かおうか。こいつ等を担いで崩れた入り口を上るのは面倒だし」

「暴れて馬から落ちられても困りますし」

「んじゃ前進で」


 そしてそのまま通路を銃で照らしながら進むと、なんか黄色い点が沢山一列で向かって来て。松明を大勢が持っているのか、かなり明るく見えた。

「誰だ! 止まれ! 皇帝を殺されてぇのか!」

「止まれ、炭鉱に行った悪夢達だ! 部下から報告を受け、城内をしらみつぶしに探索したところ、隠し通路を発見し、精鋭を編成して突撃した次第であります!」

 先頭を走っていた、目付きの鋭い男は、俺達だとわかると一時的に足を止め、報告をしてきた。

「あぁ、味方ならいい。この先は炭鉱にある隠し部屋に繋がっている。メイドが数名残っているから救出してきてくれ」

「了解しました! 行くぞお前等!」

「「「了解!」」」

 そして、俺達の横を蟹歩きで抜けて行き、どんどん奥の方に走っていった。因みに松明で皇帝の髪の毛が少し燃えたのは、わざとじゃない事を祈りたい。


「やっと地上だ。ってか梯子の先ってどこよ?」

 俺は二人に待っててくれと言い、一人で梯子を上り少し広い場所に出るが、大勢の兵士が槍を持ってこっちに向けていた。

「おいおいおい。皇帝を連れて来た。その槍を置いてくれ。おーい、味方が安全確保してたから、上ってきてくれ。こいつをベルトか何かに引っかけろ」

 俺は梯子の下にいる二人に声をかけ、ラぺリング用の紐を下ろし、ヘイがベルトにカラビナを引っかけたので、梯子を上り易い様に引っ張り上げた。

「警備御苦労。誰か偉い奴の所に連れて行ってくれ、まずこいつをどうにかしたい」

 大飯を引っ張り上げている時に、ヘイは影武者の尻を叩きながら言っており、中腰で通れそうな場所をくぐっていた。


「キッチンの食糧庫じゃん。盗み食いに来たついでに逃げ出したか?」

「常に棚に何かあるから、退かそうって気にはなれないんじゃない? ってか兵士が見つけたのって、盗み食いとか酒でも探してたのかもね」

「ありえないだろ普通。って所に作るから浪漫があるんですよ。本当、媚薬工場の階段にはガッカリでした。男の子はこういうのが好きなんですよ」

 大飯はニコニコとしており、棚にあったチーズに爪を立てた。いや、本物だと思うぞ? じゃないとばれるし。

「んじゃお偉いさんにお爺ちゃんを引き渡して、狂戦士化した奴の処理か。んじゃヘイ、悪いけど頑張ってくれ」

「はいはい。ってかここまで来たら俺はもう下りて、各国のお偉いさんに任せるしかないんだよ。国としてもう成り立ってないから、戦争賠償は取れないし。むしろ領地が増えるから、色々な収益が増えるし、長い目で見ればプラスだよ。自国領になった町や村に重税を課す馬鹿もいないでしょ。んじゃ大飯、付いて来てくれ」

「えぇ、わかりました」

 そう言ってヘイは、大飯と一緒にお爺ちゃん達を担いでどこかに行ってしまった。


「さてと……。おいまだ抵抗してる奴とか、狂戦士化した一般人が出るとかって報告はあるか?」

「いえ、ありません。掘りの内側の上級区は全てが制圧済み、堀りの外も各国の兵士が見回り、処理をしているとの事です」

 俺は隠し通路を見張っていた兵士に聞くが、もう仕事はないと言われてしまった。

「しかたねぇなぁ……。捕らえた兵士でも見張ってるわ」

 そう言って、大飯が爪を立てたチーズを手に取り、食べながら城壁内に拘束された兵士を見ているだけの作業をしていたら、ヘイに無線で呼ばれたのでテントに戻った。

 ってか仲間の兵士が優秀過ぎて、本当に城内で俺達のする事はなかった。



「さて、結果から言うと皇帝は本物。どこかの同盟国に引き渡し、長い会議とかしながら処刑か地下牢に幽閉だろうね。そしてこれからは死体処理とかで忙しいけど人数が多いから各国半分以上は凱旋。何か質問は?」

「ない」「ないです」

「ならもうこの話は終わりだ。って事で早いけど祝杯かな。それとも散っていった一般兵への献杯?」

 そう言ってヘイは腰の雑嚢から瓶を一本取り出したので、大飯は三人分のカップをランプの周りに並べた。

「今は勝利に。でいいんじゃないか? そういうのは色々済んでからだろ」

 そう言いながら、俺は塩辛いベーコンを取り出し、雑にナイフで薄切りにして行く。

「んじゃ、戦死者も多いし不謹慎かもしれないけど、全員無事だったって事で。乾杯」

「「乾杯」」

 前に飲んだ事のある、ウイスキーに似た物凄く強い酒が半分入ったカップをぶつけ、一気に煽り、塩辛いベーコンをつまみに食べて、盛大に溜め息を吐いた。

「なんか終わったと思ったら、どっと疲れた」

「自分もです。国攻めしてた時はずっと緊張状態でしたからね。ここで羽目を外したら明日がやばいので、深酒しない程度に飲みましょう」

 大飯はいつも通りに話しているが、動画のはっちゃけ具合を見ると、酒場での行動はどこまでが本当なのかわからない。

「そうだな。なんかウイスキーより強いし、あと同じくらい飲んだら止めておくわ。ってか水で割ったのを半分でいい」

「俺もそうする」

 ヘイは装備変更をしたのか、腰にペットボトルが出現し、一分経ったらそれを取ってキャップを捻り、自分のカップに注いでから俺に渡してきた。

 確かに強い酒には自分好みの濃さがあるから、勝手に注ぐって事はしなかったみたいだ。

 俺もカップに水を注いで酒を割り、大飯に渡そうと思ったら、ストレートで飲んでいた。かなり酒に強いのかもしれない。

「んじゃ、寝るか」

「あぁ」「ですね」

 小さくて短い祝杯をして、今日は寝る事にした。

 


 翌日から二日かけて撤退準備を終え、俺は軍と共にルチルに帰る事になった。悪夢達はいても、特にやる事はないらしい。

 道中は特に何もなかった。本当に歩いて帰るだけだ。

「ヘイの力で馬車とか融通できなかったんですか? 物凄くだるいです」

「馬車一台を本国に返すのに、食料や野営道具諸々、道中にある宿泊施設の代金とか面倒な事も多いんだよ。お偉いさんだけ先にってなるともっと台数が必要だし、大人数が泊まれる施設もない。だから時間はかかるけど、みんなと一緒に歩いた方が面倒は少ない。悪いけど理解してくれ」

「まぁ、俺も国境付近の戦闘に一回出たけど、行きも帰りも歩きだったし、仕方はないと思ってる」

「勝っても負けても、戦争って本当面倒事がどっちも山積みですね。今回は滅ぼしたので、負けた方は何もないと思いますけど」

「戦争賠償がないから、ハイパーインフレが起こり難そうでいいんじゃねぇか?」

 そんなどうでもいい会話をしながら、俺達は歩き続けた。



「やーっと着いたぜ」

「長かったですね」

「んじゃ解散でいいかな? 娼館行きたい」

「ブレないなー。んじゃ解散でいいか」

「ですね。メディアスさんへの報告は明日でいいですかね?」

「だねぇ。んじゃ全員腰を傷めない程度に」

 ヘイが右手を軽く揚げ、なんか凱旋パレードっぽい事をしている脇を抜けて消えて行った。

「早いなー。んじゃ、悪いけど俺も失礼させてもらうわ」

「えぇ、自分もなので平気ですよ。ではまた明日」

 俺達は防壁の門で別れる事にした。とりあえず色々と無視して通い慣れた道を通り、死者の軍隊へ向かう。今は昼の営業は終わってるから、グリチネはのんびりとタバコを吸っているはずだ。


「ただいま戻りました」

「おかえり。顔に傷とか増えてないのね……。で、涙目で抱きついてあげようか?」

 俺は準備中の看板がぶら下がっている、死者の軍隊のドアを開けて中に入ると、グリチネがタバコの煙を吐きながら、そんな事を言ってきた。

「無言でやってくれたら嬉しかったなぁー」

「次があったらね」

「こんな大きな戦争が、何回もあってたまるかよ」

「あ、スピナさんおかえりなさい」

 イスの背もたれに手をかけた時、掃除用具を持って二階から降りてきたのはララだった。言いつけ通りここに泊まっているんだろう。

「あぁ、ただいま。フィルマはどうした?」

「日雇いの仕事でここの宿代を稼いでるよ。で、ララは料理の配膳と掃除の手伝いで駄賃稼ぎ。そしてお尻を触られて、フィルマが怒ってから、軍に早く入れとからかわれるのが日課ね」

 ララに聞いたんだけど、グリチネが答えてしまった。


「そうか。まぁ軍に入るなら、しばらくはゴタゴタしてて無理だろうからな。故郷に帰るにしても、まだ少しだけ寒いしなぁ……」

 俺は疲労から出る溜め息を吐きながら、グリチネが座っている向かいのイスを引いて座った。

「ララ。悪いんだけどさ、このお金でフィルマと二日三日泊まる宿を探してきて」

 するとポケットから無造作に、銀貨が混ざった硬貨をジャラリとテーブルに出した。

「ここに泊まってるんじゃ――」

「探してきて?」

 グリチネは俺の言葉を遮り、出した硬貨を全てをかき集めて、近くに寄ってきたララに強引に渡した。無造作に出した物で足りると思ったんだろう。

「え……。あ! はい! 探してきますね」

 そしてララは笑顔で返事をして、掃除用具をそのままにし、臨時休業の看板を持って出て行ってしまった。なんで臨時休業の看板を持って行くんですかねぇ?


「立って」

「へ?」

 グリチネが煙を吐きながらタバコを灰皿に押しつけると、いきなり脈略のない事を言ったので、変な声で聞き返してしまった。

「立ってって言ったの」

「お、おう」

 グリチネに少し睨まれる様に言われ、少し首を傾げながら立ち上がった。

 そしてグリチネもゆっくりと立ち上がり、近づいて俺の胸に抱きついてきた。

 そして何も言わずにそのまま顔を擦り付け、大きく深呼吸を二回した。

「おかえり――」

 グリチネは少し胸から顔を離し、上目使いでこっちを見ながら言ってきたが、ほんの少し涙目だった。

 なんだ、ララがいたからやれなかっただけか。

「ただいま――」

 俺はそれだけを言い、涙を胸元で拭く様に、顔を押しつけてきたグリチネの腰に手を回し、グリチネが顔を離すまで頭を優しく撫でた。

最後までライバルの様な強い敵が出ず、激しいバトルとかもなくて申し訳りませんでした。


FPSで盾使いのおっさんが異世界に迷い込んだら(案)ですが、元々30話の30~40万文字を想定し書いておりました。

なのでこの30話で最終話にしようかと、活動報告で相談という形で少しだけ皆様の意見を聞かせていただきました。

そして色々な方に相談したら、実は最終話にチェックを入れて投稿しても、外せば投稿が可能? 次話投降したら勝手に外れる? と言う事なのです。

活動報告でも閑話や後日談でも良いので~という声があり、色々考え結局最終話にチェックを入れずに、なにかしら投降する場合は章管理を挟もうと思います。

ですので、一応最終話っぽい物という事にして、超不定期で今後気が向いたら閑話や後日談を投稿する形を取らせていただきます。

なので最終回(仮)です。

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

― 新着の感想 ―
ずっと読み返したかったのにタイトルが思い出せず、検索し続けていました。その間記憶を頼りに反芻していたので、数年ぶりに読めて大満足です。ありがとうございました。
久しぶりに読みましたが、最高でした!
[良い点] テンポが良い [気になる点] もうちょっととは思うけど、裏切りや愛する人が死ぬ等は無くてもいいとは思うので、こう言う終わりもよいかと。 [一言] ただ、エピローグ的な物が欲しいかな。
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