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第26話 戦争間近 後編

 しばらくすると兵士が荷馬車に乗ってやってきたので、いつも通りに死体を投げ入れるが、まだ息がある場合はとどめを刺す。他の兵士も喉にナイフを突き立てている。

「いやー、今日は一段と多いですね」

「名目上は傭兵団ってのがな……。もうイヤになる、町は祭りの雰囲気で一色なのによ。あぁすまん、ただの愚痴だ」

「いやいや、問題ないですよ。ピリピリした時期です、我々兵士はもう祭りを諦めてます」

「祭り休戦ってのはないのか? 収穫時期とかに戦争やってると、戦略的に麦畑に火とかつけるだろ? 今回の秋は戦争はなかったけど」

 荷馬車に死体を投げ入れながら、俺は一緒に投げ入れている兵士と休戦的な話しをする。日本の戦国時代は秋に戦争しなかったけど、信長が戦闘軍人を作って秋でもどうのこうのって習ったのは覚えてる。

 あとクリスマス休戦。一人の裏切りで翌年からなくなったとか誰かから聞いたけど。


「国境付近は日常茶飯事ですよ。なので燃やさせるために蒔くだけで、手入れとかしてないですよ、お互いに(・・・・)

 お互いかよ……。

「いっせーのせで、止めようぜって言って止められれば苦労はしねぇわな」

「ははは、そうですね。けどそうしたら俺達の仕事がなくなります。なくなった方が良いんでしょうけど、最低限の防衛戦力は必要でしょ? 俺なんか馬鹿だから、兵士辞めたら農夫くらいにしかなれませんよ」

 兵士ってそんなもんだよな、潰しがきかないから農夫か傭兵、盗賊になるしかないってか。


「読み書きと計算くらいできれば上々だ。自分の名前しか書けねぇ奴も多いぞ?」

「スピナさんはどうなんです? なんかこっち一筋って感じですが?」

「おいおい、高等な計算や文官になれる頭はもってるぜ? それに一応男爵だ。どうにでもなる」

 頭にこっちの世界での、ってのが付くけどな。日本の義務教育とかに感謝だ。

「そうでしたそうでした。一応爵位持ちでしたね」

「成り上がりのな。ってか一応ってなんだよ、ちゃんとした男爵だよ」

 そう言って二人で笑い、他の兵士が用意してくれた革袋に入った水で手を洗って作業を終わらせるが、もう一人の兵士は紙に何かを書いていた。今日の処理人数だろうか?


「本当に俺達兵士はスピナさんに感謝してるんですよ。あの悪夢がなければ、大勢の死者が出てたんですから。もしかしたら町にも……」

「恩に着せるつもりは元々ねぇが、こっちはできる限りの遅延工作をしただけだ。そうしてたら相手が撤退した。それだけだ。そっちは仕事しようと防衛準備をしていた。上々だよ。んじゃコイツ等を頼むわ」

「そう言ってくれればうれしいですね。んじゃ捨ててきますね」

 兵士はそう言い荷馬車を走らせていった。どんだけ深い穴を掘ったんだ? 人だって小さくないだろうに。しかも腐りにくい時期だ、底の方なんか見たくもない。


件名:そろそろナリフリかまってられないって感じだ

今日は百人程度が来た、もちろん装備に統一性はなく傭兵団風だ。監視人風な奴は確認できなかったが、町人に紛れている可能性も高い。突撃されて切られそうになって急遽ジャガノ装備だ。対策も練ってきてるぞ。


 俺はテーブルを起こし、カップを軽く洗ってからお茶を注いで飲むが、速攻で返事が来た。


件名:今ルチルだ。合流したら同盟国と足並みを揃えて帝国に攻める。

グリチネさんに何か伝える事ある?


 ついに件名の方が長くなったな……。

 俺は無事だ。たまに恋しくなって同じタバコを一口吸って残りは焚いているが、何か俺も常に匂いが出る物を付けるか、焚いてれば良かったと思う。悪かった。で。


件名:りょうかい


 変換しろよ……。


件名:百人切りお疲れ様です。

この世界では自分達は簡単に達成できますね。ありがたみはないですが、敵をジャガイモだと思って処理してください。もしかしたら心を折りに来てるかもしれません。


 処理と言ったか……処理と。人を人と思わないようにしてやがる……。どうりで匹扱いする訳だ……。



 あれから十日、いつも通りデフォルメなスカルマスクでイスに座って待機していると、また遠くに人の集団が見える。イヤになるな……。

 ため息をつき、目の前に来た男を睨みつけるように見上げると、いつものように口上を言っているが、正直もうどうでも良い。そう思っていたら、いきなりそいつの頭が破裂し、即座にイスごと倒れて警戒したら、城壁の上に人影がくっきりと見える。

『待たせたな!』

 城壁までは四百メートル以上離れている、もしかしなくてもヘイだな。来るのが早いな。

『目立つな、伏せてろ馬鹿』

『そのままでいいの? 何か走ってきてるよ?』

『はいはい、撃ちますよ』

 俺は自動小銃を持って起きあがると、敵がどんどん走ってきているので、座ったまま二十八発ほど撃ち、マガジンを変えて立ち上がると、遠くの方で敵の体が千切れ飛んでいるのが見える。


『対物狙撃銃?』

『そうだよ、そこまで離れてればほとんど音が聞こえないでしょう? 頭に減音って付く奴だけどね』

 そしてまた一人千切れ飛んだ。

『処理が面倒だからもう少し弱いの使ってくれ』

『ヘイヘーイ!』

『うぜぇ!』

 そう叫んだら今度はどんどん人が倒れていき、俺は一マガジン撃っただけで終わってしまった。


 そして防壁の方を見ると人影が下りている。ラペリングかな?

 俺は死体の数を数え五十の旗を振る。そして城門から荷馬車が出てくると同じくらいにヘイがこちらに付いた。

「久しぶり。いやー、会議めんどくせぇ……。すげぇめんどくせぇ。一国の盾である数人の軍人が勇猛すぎてさ、さっさと滅ぼそうだの、帰ったらさっさと突っ込むだの、年越祭までに片を付けようとかどうしようもないね。もう頭の中まで筋肉筋肉。どう考えたって逐次投入だろって言っても、一番槍とか武勲が欲しいのか、今後の外交で優位に進めたいのか知らないけどさ、勇み足になっちゃうでしょって」

 なんか凄くグチってる。怒鳴り散らす事はないが、テーブルをバンバンと叩いている。他国との共同なのに、出し抜く事とかしか考えてない姑息な成り上がり系か。


「で、足並みってのは?」

「年越祭当日から数え、二十五日に国境を越える。正月みたいに三日から五日くらいまで馬鹿騒ぎ、正月や新年くらいは休みたいだろ? それから集まって進軍、国境から遠い街とかの兵士は仕方ないから、数日遅れるだろうから予備戦力扱い。一気に進軍させるのも駄目だからね、空きができたらそこを埋めるようにしないと裏をとられる。この辺は全員納得してる、流石は軍人ってところだ。一斉に突撃するリスクは知っていた」

「だろうな。突撃して進軍した後どうするんだって話だ。でグリチネはなんて言ってた?」

「おいおい、普通そっちが先なんじゃないの? 強がりー?」

「ゆ、優先順位の違いだろ?」

「目が泳いでるけど?」

 ヘイがニヤニヤとしているが、まぁどうでもいい。多分グリチネの事だから平気だと思っただけだ。


「いやー、彼女も強いね。スピナの事言ったらニヤニヤし始めて一服。そしてこう言った。ヘタったスピナの下着を雑巾みたいにしないで、洗わないで綺麗な布で包んで自分のクローゼットに……。その布に匂いを移して複製の作成。現物は匂いが薄くなったら最後の最後だって」

「……そうか。俺の同じ銘柄のタバコを焚く事が、クッソ可愛い行為だって事がわかった」

 そういやヘタってた下着が新しくなってたし、気を使ってくれてたのかと思ったわ。けど保険を手に入れてたんだなー。


「なに遠い目をしてるの? 引いちゃった?」

「いや、あの時に新しい下着買ってきてくれてたなーとか、(したた)かだなぁって……」

「そんなもんじゃない? ヤンデレ化しないだけいいよ。で、何時までここで待機する仕事してるの?」

「門が閉まるまで」

「後四時間くらい? 大変なお仕事だね、こんなに寒いのに風除けもなし、屋根なしのストーブだけ」

「交通量調査の奴よりはいいんじゃね? 車通りが激しいと風が強いし」

「あぁ、アレね。んじゃ俺は城壁に戻るよ。また門が閉まる頃にでも」

 ヘイはそう言って走っていき、門の脇の小部屋から城壁の上に上ったのか、人影が手を振ってるのが見える。お偉いさんとの会議はないのかな?



「で、詳しい話を聞かせてくれ」

 夜中になり、年末の騒がしい酒場で酒を飲みながらヘイに聞いた。

「第一陣と共に進軍する。もちろん援護だ。悪夢がどうのこうのになると他から敵を引きつけるから、爆発物は使わない事を言ってきた。会敵……俺達ならエンゲージの方がわかりやすいな。そしたら後方からの援護射撃。大口径は千切れ飛ぶから、使っても7・62ミリまで。それでも小指くらいの穴が開くから、最悪ばれるけどね」


「あいよ、気楽に自動小銃でもぶっぱなしてるわ」

「後は大飯との合流、略奪関係は動画でも言ったけど基本なし。ただ、兵糧的な意味合いで、備蓄してある古い麦から二割五分までなら持って行く事は許可した。むしろ帝国に納める税より少ない。それと、貴族の屋敷は最悪破壊しても良いが、一般人の人的被害は一割以下に押さえる事。攻撃してきた場合のみ最低限の暴力で捕縛。貴族の家主や家族は各国で幽閉した後に、リストと照らし合わせて八割以上は皇帝の近親者を捕まえたい。身内で集まられてクーデターでも起こされたらたまったもんじゃないからね」

「強姦や略奪はこの時代背景的に当たり前だが、やったらどうするんだ?」

「自国の領土になるのに、強奪を進める馬鹿はいないと思いたいが、強姦はわからない。ただ、部隊長クラスには部下に厳命するように言ってある。やったら刑罰、娼婦が一緒に移動してるんだから、そっちを買って金を落とせってね。まぁ一般兵の話だけど、偉い奴がやったら死刑だけどね。あ、地元娼婦は合意すればオッケー。向こうも稼げるし」

 ヘイはニコニコと笑いながら酒を飲み、雑にフォークを肉に突き刺して口に持って行った。


「まだ実感わかねぇなぁ……。どうなるんだか……」

 俺も肉にフォークを刺し、よく味わってからビールで流し込んだ。

「なるようにしかならないよ。ただ、各国共通の目標として、皇帝を生きて捕らえるのが最優先。駄目なら死体にして収容。重役は殺すか処刑。その辺で気まぐれにはらませた種は、どうにもならないけどねー。けど実際(ピー)とかどうやってんだろう、(ピー)(ピー)になるのに」

「しらねぇよ。夢魔族にでも頼んでるんじゃねぇの?」

 いきなり下品な話になり、呆れた様にビールを飲む。

「大嫌いだけど、利用できるなら利用するって奴かな? 地下牢に一人飼ってるとかマジでありそうだから怖いわー」

「経験者の俺としては、二回できれば満足、五回以上は結構……かなり苦痛」

 俺はビールのカップを置き、ため息混じりに言う。本当に辛いし……。

「若い時に、何回(ピー)できるかとかも思いつつ、連続で(ピー)したら実は(ピー)回でしたって奴?」

「回復力が早いって事は、それだけで(ピー)(ピー)にも負荷がかかるって事だ」

 その後は結構下品な話題になり、馬鹿笑いをしながら酒を多めに飲んで帰って寝る事にした。

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

― 新着の感想 ―
[良い点] 想像するけどピーに当てはまる言葉が分からない…分かったらもっと面白いんだろうなぁ
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