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第23話 ピクニックと悪夢 後半

 しばらく光点を追うように動くが、動きが魔物っぽくない。

『動きが人間っぽいな。真っ直ぐ目的地に行くような感じだ』

『噂の盗賊かな? 目立たないように街道に出ないで森を移動。そして商人や少数冒険者を襲う』

『手柄が増えずに仕事だけ増える面倒な奴ですね。報告がだるいです』

 そして光点が集まっている場所に追っていた光点が合流し、そこで止まっている。

 なので少しだけ速度を上げるが、二つの光点が並ぶように動いた。

『もしかしてこの先って洞窟で、この二つは見張りって仮定した方が良いか?』

『そういう事にしようか。スピナは俺が追いつくまで停止、大飯はそのまま進んで、今設定したA地点から百メートル以内に奇襲できるように潜伏』

『『了解』』

 正面に銃口を向け、左右を見ながら警戒してヘイを待ち、合流してから進むと崖が見え、自然にできた裂け目みたいな場所があった。


「集音するか? それとも敵と仮定して殺るか?」

「装備がお粗末すぎて不揃いだし不潔だね。はぎ取った物の可能性は高いけど、集音して会話を拾おう」

『崖の上からラペリングしますか?』

 ヘイと会話してたら、大飯からも無線が入った。

「殺る時はスピナと処理する。そのまま待機で」

『了解』

 俺は会話中に装備に集音マイクを装備し、マイク部分を見張りに向ける。

『見張りは損だな。俺も女を抱きてぇよ』

『諦めろ、クジで決めた事だ。俺達は見張りが終わって交代の時に女が壊れてない事を祈るだけだ』

『冒険者も大した事ねぇよな。俺達を少数と勘違いして追ってくるし』

『けどよ、そろそろ引き際だろ。今までに何人殺ったよ?』

『女で十だな、男はその倍。中で殺されてなければだけどな』

 見張りは心底暇そうにして、下卑た会話をしている。


『何()残します? 自分は全部殺してもかまいませんよ?』

 特に感情を表に出さずに、大飯は奴等の事を匹扱いしている。なんだかこう言うのが一番恐ろしい気がする。

「一人か二人は残した方が良いだろ」

「入り口の二人は殺すとして、中の馬鹿を二人は残した方が良いかもね」

『了解。近距離用に装備変更しておきます。今から一分後以降にそちらのタイミングで殺してください』

 大飯さんがそう言ったので俺は装備変更で、自動拳銃をサプレッサーとホロサイト付き短機関銃のUMPに変え、撃てるようになったらヘイに合図を出す。

 この距離ならG36kの三倍スコープでも十分に当たる。


「ゼロで左の奴を撃つ。右を頼む。さん、に、いち、ゼロ」

 ヘイのズの音が聞こえた瞬間に引き金を引き、タイミングとしてはコンマ三秒のずれもなしに二人の頭に穴が開いて崩れ落ち、その瞬間に大飯が中腰で走って二人に近づき、死体を引っ張って中から死角になる外に運び出した。

 そしてこっちに来いとハンドサインがあったので、俺達も中腰で入り口に近づく。

「俺は見張りしてるから、近距離が得意な二人は中に」

「「了解」」

 大飯は相変わらずのVP70だった。狭いから問題はないけどさ……。

「サプレッサーのある俺が先行するか?」

「投げナイフありますよ? そっちの方が音が少ないです」

「なら任せた」

 俺は銃を構え、大飯の左後ろに立ってから肩を叩くと進み出したのでそれに続いた。


 奥行きはそんなに深くはないのか、直ぐに女性の泣き声やうめき声、男の笑い声が聞こえた。

 大飯は壁に張り付き死角に入り、自動拳銃をホルスターに戻し、スタングレネードを持つと目を合わせてきたので軽く頭を縦に振ると、左手にも持ち出した。二個かよ……。

 仕方がないのでもう一回頭を振り、左手で肩を叩くと、一個は人がたまっていそうな中央に向かって投げ、左手で持っていたのは思い切り明後日の方に投げ、壁に当てて甲高い音と共に跳ね返ってどこかに落ちた。

 そして轟音と閃光がどちらも二回確認できてから突っ込み、一番手前の二人の腕を撃ち、残りは致命傷になりそうな場所に当てていく。大飯も三点バーストでどんどん撃っていた。


「数人は息がありますね。ってか……男色家だけは勘弁して欲しかったなぁ……」

 大飯はぐったりしている女性を数えてる時に、そんな事を言った。

 本当だ……。女性が十人に男性二人。しかも線の細い系とガッチリ系。最悪こいつらも撃ち殺してたわ……。

「あぁ、縛られてて助かった。おかげで殺さずにすんだ。この後はどうするんだ?」

「体を洗わせてから食事が順当かと。自分がギルドや衛兵に知らせに戻りますので、二人で見張りをお願いします」

「了解」『了解』

 そう言って大飯は洞窟の外に走っていったので、まだ息のある致命傷の奴にとどめを刺し、腕を撃った奴の止血を雑にしてから縛り上げてるとヘイが出入り口の方から入ってきた。


「手伝う事は? あぁ、換気以外でね」

 色々な臭いが混ざったこの空間を見て、少しだけ皮肉に近い冗談を言った。

「捕らわれてた奴の縄を切って、外の雨で体を洗わせる事か? 幸い外傷は打撲だけだが、性器や排泄部分の裂傷までは判別できねぇな」

「了解、とりあえず現場維持で。ここの食料くらいは与えていいのかな? 余剰分はないからここのを漁る事になるけど、そのくらいは仕方ないでしょう」

 ヘイは縄や猿ぐつわを外しながら言うが、男性には手を着けようとはしなかった。コレ、俺がやるん?

「助かったぜ。こんな事二度とゴメンだし笑い話にもなりゃしねぇぜ」

 縄を切ったら男は仁王立ちで感謝してくるが全裸だ。本当に勘弁して欲しい。

「いいから隠せ、男の物を見ても嬉しくねぇよ」

「すまんすまん。外は雨なんだろ? 体洗ってくるわ」

 男は直前まで真後ろにいた、男の死体を十回以上踵で踏みつけてから外に向かっていった。ずいぶんとご立腹だったらしい。

「おい、いつまで泣いてんだ。犬に噛まれたと思って諦めろ」

 もう一人の男に声をかけ、軽く背中を押して外に出した後は食料の調達だ。

 箱の中を漁り、食べられそうな物を探して通路に運び、中央に火を焚いていた後があるのでマッチで火を着けてお湯を沸かしておく。

 

「着替えになりそうな物はあるかな?」

 俺が火に薪を足していると、ヘイがやってきた。特に問題はなかったんだろうか?

「ねぇな。死体から引っ剥がすか?」

「着たくないでしょ、そんな汚くて血塗れのなんか。布もないの?」

「ボロ布なら松明用のがその箱にあったな」

『十二人分の服を追加ですね』

 箱を顎で指すがヘイは箱を漁って布を出し、大飯からの返事もあった。

「リュックから茶葉をとってくれ」

 そう言うと無言でヘイが茶葉を投げてくれ、ついでに生きている二人の傷口を蹴ってから外に出て行った。ヘイらしくねぇなぁ……。


「おい、お前達はもしかしてビスマスの悪夢か?」

 縛っていた盗賊の一人がそんな事を言ってきた。

「答える義理も義務もねぇな。痛い思いをしたくなかったら黙ってろ」

 お湯が沸いたので鍋に茶葉を入れ、火から下ろしてザルで掬ってお茶が渋くならない様にしておく。

 ってか悪夢か。確かに悪夢だろうな……。

「たった二人でクロスボウのような物を連射し、魔法で広範囲を吹き飛ばす。戦争を予定していたのに、上はたった二人にやられるとは思ってもみなかっただろうな」

 とりあえず敗残兵は確定。国から逃げる理由はわからないが、こっちの国で犯罪してたことは確かだ。

 とりあえず黙らなかったので、カップに半分お茶を掬って無表情で傷口にぶっかけておく。もの凄く騒いでるが自業自得だ。

「あぁすまん。痛い思いじゃなくて、熱い思いだったわ」

 ついでに口に布を突っ込んで、口も縛っておいた。



 雨が当たらない、死体の見えない通路で暖かいお茶を配り、漁った箱からどこかで盗んできたであろう食事を与え、希望者には酒も飲ませた。呑まなきゃやってられない可能性もあるからな。

 そして俺とヘイは、ぐっちょりしたサンドイッチを無理矢理口に突っ込んで飲み込む。正直まずかった……。

「お腹に入れば一緒……。お腹に入れば一緒……」

 言った手前、もの凄く後悔しているヘイが暗示のようにつぶやき、サンドイッチを食べている。

 冷めた粥に野菜や、ハムとかチーズぶち込んだ感じだしな……。

「遅れました。全員分の着替えです。こっちです! 奥に生かしてある奴がいます」

 大飯が服を持ってきて、十数名の兵士を引き連れ奥に入っていった。

 そして全員が着替え終わる頃には、敗残兵二人は連れて行かれるが、冒険者全員から殴られたり蹴られたりしいた。勇ましい女性だなぁ……。二人ほど男性もいるが。

 兵士も兵士で、事情を知ってるから止めないし。生きてればいいって感じか。

「はいはい、その辺にしないと死んで情報引き出せないからやめようねー。向こうにある死体なら好きにして良いから」

 そして軽い感じでヘイが止めた。いや、死体もやばいだろ。故意に破損させるのって色々問題があった気がするが、こっちの世界だしなぁ……。どうなんだろうか?


「お疲れさまです! 盗賊一味を捕らえていただき助かりました!」

 大飯が連れてきた兵士全員が俺達に敬礼し、馬車に冒険者を乗せていたが、全員が服にポーションを勢いよくぶっかけていた。主に下半身に。

 あぁ、裂傷か……。揺れるし木の板は堅いもんな……。

「この洞窟どうする? 崩せっていうなら崩すぞ?」

 一応隠れ家的な物になるから、兵士に聞いてみた。

「我々の巡回ルートにしますので結構です。こういう隠れ家になりそうな場所は多少残しておく決まりになっております」

「あぁ、わざと残しておくのか。ならいいな。死体はどうするんだ?」

「引きずり出し、服や装備を剥いで土を軽くかけて放置です。自然や動物が土に還してくれます」

「お、おう……」

 骨とか残るんじゃないの? 埋めた方がいいんじゃない? よく頭蓋骨だけ残ってるのアニメとか映画で見るよ? アンデット化しない?

「さて、最悪のピクニックになっちゃったけど帰ろうか。歩く? 馬車?」

「馬車だろ。雨で濡れて寒い」「馬車でお願いします。ビショビショです」

 俺はヘイの返事を待たずに二台目の馬車に乗り込んだ。



 そして俺達は兵士の詰め所とギルドを回り、大飯が報告書を書いた。そして討伐品として、盗賊化した奴等の右手を出し、賞金を三人で分ける。

「ピクニックついでのおやつ代は回収できたな」

「宿代にはなるね。娼婦も買えるかな? 最低ランクだけど」

「休日出勤代と思っておきます」

 ギルドの隅のテーブルで三者三様の発言をし、俺はおやつとして買った林檎をかじる。

「解散でいいか?」

「だねー」「ですね」

 二人もそれに賛成し別れることになったので、一回宿に戻って長めに風呂に入り、少しだけ早めにホールに立つ。


「そう言えば……公爵様はなんだって?」

「ん? 王都で貴族の数名が喧嘩売ってきた話はしたっけ? そいつ等の処罰の報告と、領地がほしいか? って内容だ」

「で、返事は?」

「いらねぇって答えた」

「スピナらしいわね……」

 グリチネはタバコの煙を吐き、温くなったお茶を飲んでいる。雨の日は客が少なくて暇だ。


「俺なんかが領地運営なんかできると思うか?」

「ヘイと一緒ならできそうだけど?」

「ここを動くつもりも、改築する気もない嫁さん予定と住んでるのに、本当に領地は必要か?」

「……ないわね」

 グリチネは煙を吐きながら灰皿にタバコを押しつけ、ため息を吐いてお茶を飲み干した。

「暇だな」

「そうね……」

 二人で雨音を聞きながら、客が来るまでグダグダと過ごした。たまにはこんな日もあるか……。

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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