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第2話 話せるのに字が読めない 後編

 少しだけ湿った布団だったが、ごつごつした岩で寝覚めるよりマシだな。特に着替える事もないので、本物の銃の知識だけで分解整備をしようとするが、色々な部品が外れない。

 銃の大まかな部分は動くが、本当に分解できない。

 マガジンを抜いて、スライドを引いて弾がない状態にしても、そこから細かい部品が動かない。

 本来なら留め具部分を外せば分解できるのに外れない。

「なんだコレ」

 確かにゲームでは整備とか耐久値の概念はなかったけどさ……。異世界でも整備いらないとか、ある意味便利だな。弾が一定数以上に増えるのはチートだけどな。


 俺は食堂で朝食を済ませギルドに行くが、物凄く人であふれかえっている。

 まぁ、文字が読めないからいいんだけどね。隅の椅子にでも座って待ってるか。

 俺は人が少なくなった頃に、受付に座る。

「何か割りの良い討伐依頼がしたい。もちろん近場で最低ランクを」

「あ、昨日の方ですね。それでしたら依頼ではありませんが、太陽の出る方角の門から出て、しばらく歩くと森がありますので、そこに現れる魔物の討伐がよろしいかと思います」

「感謝する」

「もし必要な物があれば、ギルドで保存食と水袋など、旅に必要な物が売っていますので、あちらでお買い求めください」

 丁寧に手で誘導してくれるが、財布事情がな……。

「すまないが金にそんな余裕がなくてな。今日多めに稼げれば検討する」

 水はスタンロッドやテーザーガンの効果を上げるのに、なぜか爆発物系の欄にあるから、もしかしたら飲めるかもしれない。水は自分にもぶっ掛けられるしな。門から出たら早速試そう。


 言われた通り朝日が昇ってきた方に向かうが、東であるEという文字がMAPに出てたので、こっちの世界でも朝日が出る方は東らしい。異世界なのにゲームのシステムが適応されるって不思議だ。

 門を出てしばらく歩いて人気がなくなったら、装備欄をいじり、フラグ欄のところを水の入ったボトルにして、あとは昨日とほぼ同じ装備にする。

 俺は水を取り出しキャップを捻り口に運ぶ。

 飲めた……。

 しかもなんか妙に飲みやすい。これで飲み水だけは心配しないで良いな。さて、この街道沿いを進んだ先にある森でいいのかな? 木の先端が少しだけ見えてるし。


 さて、昨日とほぼ同じと言ったが、メインウエポンが短機関銃のMP5A4にサプレッサーとホロサイトを付けた物に変更してある。

 森の中では見通しが悪いし、木が邪魔で取り回しに苦労しそうだから、反動が少ない短機関銃を選んだ。そして何でA4かというと、固定ストックだからだ。

 伸び縮みする可変ストックでも良いが、MP5は固定ストックにこだわりがあるからとしか言えない。

 MAPの光点に注意しながら進み、光点が近付いたら警戒する。

 五匹ほどたむろしていたので、セレクターを安全(セーフ)から連射(フルオート)にし、横薙ぎで撃ち込み、かなり小さな音だけが鳴り、何が起こったかわからないゴブリンたちはどんどん倒れていく。

 ついでに言うなら、遭遇率が低いから既に短機関銃と自動拳銃の両方の弾数が一万発を超えている。

 多分装備をタブレットを使って引っ込めなければ、増え続けるっぽい。爆発物の最高値は増えないけどな。

 そしてリロードをしてから、左肩付近にあるナイフで鼻だけを削いで袋に入れる。


 そんな事を繰り返し、水を飲んでいたら叫び声が聞こえたので慌てて向かうが、見た目が十五歳くらいの少年が剣を振るっており、後方で杖を構えた同世代くらいの少女が身構えていた。

 剣士と魔法使いって感じだな。なんか微笑ましい。

「おりゃぁ!」

 そんな声と共に、少しだけ大きいゴブリンに剣で首辺りに切りかかり、首は落とせなかったが、一撃で仕留めていた。

 見事な物だ。俺があれくらいの頃にはゲームしかしてなかったわ。


「おい、悪趣味な格好してる奴。さっきから何見てんだよ」

 口は悪いようだ。

「いや、叫び声が聞こえたから足を運んだだけだ」

 そう言いながらヘルメットとスカルマスクを外し、素顔を見せる。

「おっさんじゃねぇかよ。なんでこんな初心者の多い狩場に来てるんだよ。どう見ても駆け出しじゃねぇぞ」

「ちょっとやめなよ。何か理由があるんだよ」

 生意気な少年に止める少女。青春してるねぇ。


「まぁ、そっちのお嬢ちゃんの言う通りだ。気が付いたら裏路地で倒れてた、ご丁寧に金も無くなってたがな。しかもその前の記憶がない。多分頭を強く殴られたんだろう。親切な奴にギルドの事を聞いて、なんとか飢えずに済んだが、文字が読めずに苦労している。しばらくここに通って、ある程度金が溜まったら字の勉強だ。この森で顔を合わせるかもしれねぇがよろしく頼む」

 手を出しながら数歩だけ近づき握手をしようとするが、少年は少女を守る様に立ちふさがった。少し心に来るな。


「おいおい、突っ張ってばかりだと良い事ねぇぞ? ほら、握手しようぜ先輩(・・)。俺はスピナって言うんだ。そして俺はランク1で昨日冒険者になったばかりだ」

「嘘つけ! なんでそんな装備してんだよ! 金なしなんだろ!」

 あーそういう事ね。

「服や装備は無事だった、そういう能力持ちだ。魔法に部類されるかもしれんがな」

 少しだけニヤついて腕を引っ込めるが、まだ警戒心は解かれてない。

「まぁ、何かあったら助け合い精神でよろしく頼みますよ……。先輩」

 スカルマスクとヘルメットを装備し直し、俺はその場から離れた。あんなにトゲトゲされたんじゃこれ以上の会話は無理だからな。


 その後も狩りを続けるが、二つの光点がつかず離れずで俺に付いてきている。

 適当な茂みを見つけ、一気にそこに駆け込んで、距離を置いて大回りし、光点に注意しながら十分ほどしてから裏を取った。

「動くな……」

 俺は後ろを歩いていた少女を押し倒し、腹の上に乗ってから喉元にナイフの背の部分を押しつけ、銃を少年に向ける。

 何事かと思った少年はそのままこちらを向くが、抜剣したままだった。

「先輩さんよぉ。さっきから後をつけ回してるが何が目的だ? 取り合えず状況を見て冷静に動こうぜ? な?」

 あ、やべぇ。銃を向けても、銃を知らないんじゃ話にならないか。動いたら盾でも吹き飛ばす。


「貴様! ララに何をしやがる!」

「もう一度言うぞ? 何が目的だ?」

「しょ、初心者だから見守ってただけだ」

「そうか、なら一声かけてもいいんじゃないかなぁ? なぁララさん?」

 少女の名前を呼ぶが、ナイフを喉元に当てているせいか目を見開いたまま震えているだけで、何も言えなさそうだ。


「わ、私。やめようって、い、言った。何もしてない……見てない」

「って言ってるが……本当の事言わないと、大変な事になっちゃいそうだなぁ……。なぁララさん。ちょっと先輩に言ってやって下さいよ」

「フィ、フィルマ。正直に話してぇ……」

 今までより少しだけ強くナイフを首に押しつけたら、フィルマと呼ばれる少年を説得し始めてくれた。ナイフが相手から見えないっていいね。

 フィルマは、苦虫を噛み潰したような顔になっってるが、ようやく口を開いてくれた。


「街中の兵士が話してた。炭坑に収容してる極悪人達が逃げたって。その極悪人を逃がした奴の特長が、お前に似てた。だから確かめようとしてただけだ。情報でも賞金がもらえるからな」

 簡単な変装でも無駄だったか……。かといって、覆面はクソ目立つしな。さっさと街から逃げるか?

「はぁ……。そんな事かよ。心配して損したわ」

 態とらしくため息を吐き、ララと呼ばれた少女から降りると、下半身が濡れていた。やっちまった……。ってかやりすぎちまった……。


「すまなかった」

 とりあえず先に謝り、ナイフを戻して続ける。

「俺もその噂を聞いたが、見た目が似てて困ってんだ。街中で兵士に連れてかれて、首切られてる奴らの横で訳を聞いて言い訳だ。逃げ出した奴が小綺麗な格好で堂々と街中を歩いてるか? ってな。だから俺は生きてるし、お互い些細な勘違いだ」

「些細な事なのに、かなり大げさじゃねぇのか?」

「大切な武器を取られたら嫌だからな。ソレと二度と記憶をなくしたくないから、後ろには気を配ってただけだ」

「そ、そうか。あんた最近襲われて、金も記憶も失ってたんだったな。すまなかった」

 こんな嘘で信じられると、逆に罪悪感出てくるわ。

「あぁ、あとはそっちのお嬢ちゃんが俺の事許してくれれば嬉しいね。許してくれなかったら、恥かかせたからって理由で夕食くらいご馳走しなきゃならない。今日で冒険者二日目だ。少しだけ質が落ちる大衆食堂でなら大歓迎だぜ」


 その後は、街も近いしあんな状況だから狩りは切り上げ王都に戻る事になり、大衆食堂を知らないので、着替えもあるだろうからギルド前で待ち合わせした。

 取り合えず門の外でPMC装備に変更し、身軽になった。

「なんだソレ、便利すぎじゃねぇか!」

「残念だけど装備しか入らねぇ。だから、金と討伐部位は手持ちだ」

「では、ギルド前で集合ということで……」

 門の中に入ったら二人と別れ、討伐部位を換金してからランクの説明を受ける事にした。


「ランクは1から10までありまして、最低が1になっております。依頼等は1つ上のランクまで受けられますが、失敗によるペナルティは場合によって発生します。ランクアップは、依頼を成功させればランクに応じて回数を重ねていただく場合があります。例をあげるならランク4の方は3から5までなら、ランクアップの条件が揃います。ですが、2以下の依頼は金銭のみの受け渡しになってしまいます」

 まぁ、ランク5の奴が安全な2を淡々とこなしても絶対に上がらないよな。けど生活のために金は手に入ると……。


「金は預けることが出来るのか?」

「可能です。ギルドカードと金銭を渡していただき、預けると言ってくれれば、どこのギルドでも引き下ろしは可能です」

 銀行みたいな事もできるんだな。

「ほかにございませんか?」

「あぁ特にねぇな。助かった」

「ご利用ありがとうございました」

 似たような設定を何かのラノベで読んだな。


 金はすべて硬貨で、銅貨が最低貨幣だ。

銅貨十枚=大銅貨

大銅貨十枚=銀貨

銀貨十枚=大銀貨

大銀貨十枚=金貨

金貨十枚=大金貨

 ってな感じだ。物価を見た感じだが、銅貨が百円程度っぽい。安い物は二個や三個で銅貨一枚って感じだったな。だから、銀貨は一万円てな認識だ。



 ギルドの隅のイスで二人を待ってたら、周りと同じ様な軽装で現れた。

 そういえば、武器の携帯とか防具の着用は街中でも当たり前なんだな。俺も何か現地装備をした方がいいのだろうか? まぁ最悪街中でぶっ放すか。今、目の前で小競り合いが起きてるし。

 二人と目が合ったので、軽く右手を挙げて挨拶し、小競り合いを眺めてたら、大男がこっちに吹っ飛んできたので、一緒に吹っ飛ばされた。ひでぇな……。

「おいおい、周りに迷惑かけるなら外でやれよ」

 大男を払いのけると、ちょうど蹴りかかってきた男の靴底が顔に当たった。

「あ……」

「おい……、外でやれ手前ぇら……。周りに迷惑かけんじゃねぇよ!」

 吹き飛ばされた男と一緒に転がって来た、小さな丸い盾を左手に装備し、蹴りかかってきた男に左腕を振り上げるようにして、思い切り殴りつけたらそのまま動かなくなった。

 周りから拍手が飛び、気絶させた男は数人で持ち上げられ、出入り口から投げ出された。

 ドアがない理由がわかったわ……。

「おう、助かったぜ」

「感謝する気持ちがあるんなら、少しだけ我慢して表に出ろとか言ってくれ……ほらよ」

 多分男の盾を返し、フィルマ達と合流する。


「すまねぇ、巻き込まれた」

「おっさんつえぇんだな」

「体格を見て言ってくれ。あと綺麗に入っただけだ」

 にやけながら言い、三人で外に出る。

「まぁ、飯は任せる。食堂の場所がわからん」

「よっしゃ。じぁあいつもの場所だな。付いて来てくれ」

 俺はフィルマの後を付いて行くと、メイン通りから一本外れた通りに入り、少し進んだところに賑わってる場所があった。あれがおすすめの場所か。

 付いて行くと勝手に空いている席に座り、麦酒を頼んでいる。未成年じゃねぇのか? まぁ、国で成人の基準が違うからな。多分平気なんだろう。


「俺もだ」

「私はお水を」

 そうすると奥の方から返事が聞こえ、飲み物が運ばれて来た。

「んじゃ、取りあえず乾杯だな」

「おう」

 俺とフィルマは乾杯をして、一気に運ばれて来たカップを空にする。飲めなくはない。

「おっさん。ここはな。席に座れば日替わりの飯が出て来て、水か酒を頼むんだ。飯は来てからのお楽しみって奴だ。まぁ隣のテーブルを見れば何かわかるけどな」

「手間が少なくていいな。店も、俺達も。お、早速来たみたいだぜ?」

 木でできた深皿には、色々な野菜と何かの内臓がどっさり入っていた。

「今日は当たりだぜ。ここの内臓は何回か煮こぼして、柔らかいし臭みも少ない。肉があまり好きじゃないララだって食えるんだ。本当に美味いぞ」

「そうか、なら食わせてもらうぞ」

 うん、美味いな。確かに臭みが少ない。しかもいい感じで野菜全てに味が染みてるし、柔らかい。店主の努力に感謝だな。


 ララの方を見ると、パンを浸して食べている。パサパサしてたからな。あれもアリか。俺も浸そう。

「そういえばよ、お前等なんで冒険者してるんだ? 危ないんじゃないのか?」

「村にいても畑を耕すくらいしかないからな。だからララと一緒に出て来た」

「おいララ。こいつの手綱をしっかり握っておけよ? じゃないと危ない事に平気で突っ込んでいきそうだ。魔法使ってるところは見てねぇが、その杖で頭くらい叩いてやれ」

「は、はい……」

「お前もお前だ。危なくなったら逃げろよ? じゃないと村に帰っても畑仕事も出来ねぇぞ」

「うるせぇよ。俺は覚悟して出て来たんだ。それなりにやってみせるわ!」

「おうおう言ってくれるねぇ。ララの事を思って行動しろよ? じゃないと本当に愛想尽かされるか、先に殺されるぞ? それと最悪な状況を常に想定して動け。お前は男だからいいけど、ララは女だ。性欲を押さえられない奴等に絡まれたらどうする? 目の前で犯されたらどうする? そういう事まで考えて動けよ」

「その忠告はありがたく受け取っておくわ。けどよ。飯の時に言う内容じゃねぇぞ」

「そうだったな。すまねぇ。けどよ、もしかしたらもう会えないかもしれねぇだろ? だから言ってんだよ」

「わかったよ……注意して動くよ」

「それでいい。おっさんからの忠告だ」

 まぁ、よく聞く展開だしな。これくらいは言っておいても平気だろう。



 その後は適当に雑談しながら夕食を食べ、俺が支払いを済ませ入口で別れる事にした。

「んじゃおっさん、ごちそうさん」

「ご馳走様でした」

「おう、脅かして悪かったな。んじゃまた縁があったなら」

 そうして俺達は別れた。

左肩のナイフ

グリップがしっかりとしていて、肉厚だけどしっかり切れる。


G36k:H&K社のアサルトライフル。三倍スコープが標準装備で付いてる。

ドットサイト:赤い点がガラスみたいな所に映って、その点付近に弾が飛ぶ、近距離なら狙いやすい

AFG:マガジン付近に付けるグリップ、肘を曲げ気味にして持ちやすくなる


デジタル迷彩:小さな四角の塊で遠くに行くとぼやけて見える


バリスティックヘルメット:オデコ辺りにカメラとか色々付けられる


スカルマスク:黒い生地の目出し帽に、ドクロの柄が描いてある


スタンロッド:接触すると電気が流れる


テーザーガン:ワイヤー付きの針が飛び出し、相手に電気を流す


MP5A4:H&K社のサブマシンガン。ストックが伸びたり縮んだりしない


転がって来た小さい盾:多分バックラー

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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