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第21話 勲章授与3/4

「では、大軍を退かせた話しを聞かせてもらおう」

「その前に別な件でお話しがございます。よろしいでしょうか?」

 ヘイが良く響く声で国王様に言い、果実酒の入ったグラスを持っている。

「かまわん。それに堅苦しくなくて良いぞ、命令だ」

 国王様フランクすぎだな。わざわざ命令するってところがすげぇ。

「そこと、僕の後ろのメイドのどちらか片方。このグラスの酒を飲め。向かいにいる奴のでもいいぞ」

 一瞬にして会場内がざわつきはじめ、壁際に立っていた兵士が剣に手をかけている。


「ふむ。何か理由があるのかな?」

 国王様が口角を上げ、おもしろくなってきたという様な雰囲気で聞いてきた。

「僕とスピナシアにしか酒を注いでいない。他のメイドは数人に注いでいたし、注ぎ終わったら瓶をテーブルに戻していた。だが今言った二人は奥に下げていた」

「ほう……。理由としては弱いな。続けたまえ」

 国王様の目が細くなり、威圧感を感じるような笑顔になっている。


「多分酒に混入させたのと同じ物だ。昨日そこのメイドと倉庫でとある男が密会していた。これはそいつの部屋から見つけた物だ」

 そう言ってヘイは人差し指と親指で持った、綺麗に折り畳まれている紙を皆に見せつけている。

 いつ盗ったんだろう? しかもあの姿勢で偵察機を動かしたり見たりできないから、ただの観察による考察か?

「ふむ、興味深い。どちらか片方……。スピナシア君の後ろにいるメイド。飲みなさい」

 俺はグラスを持ち、エミリーに渡そうと振り返ると異常なほど震えており、手渡すとそのまま落としそうな勢いだ。

 仕方がないので立ち上がり、左手の親指を口につっこんで、下顎をつかんで無理矢理親指の太さ分口を開けられる状態にする。

 ってか思ってたより前歯が痛い。似たような機会があったら、この方法は二度とやらない。噛み千切られないよな?

 あと舌の暖かさが、なんかエロい。


「流し込んでよろしいでしょうか?」

 謙譲語ではないが、丁寧語で国王様の方を見ると軽く首を縦に振った。

「瞳孔が開いてるし呼吸が浅いな。心拍数も上がっているし、汗もかいている。もしかして、これがなんなのか、君は知っているんじゃないのか?」

 そしてエミリーの口に果実酒を注ぎ込み、そのまま口と鼻を塞ぎ、多少の隙間や鼻から果実酒が漏れるが、半分は飲み込んだみたいだ。

 そして手をハンカチで拭いていたら、エミリーは苦しむような素振りを見せ、倒れて口から果実酒とは色の違う赤い液体を吐き出し、ビクビクと痙攣している。

「どう見ても毒ですね」


「さて……。果実酒の入ったグラスはもう一つ、そしてメイドはあと一人。正直に言えば()の保証だけはしてやれるが?」

 国王様は冷たい声でそう言うと、ヘイの後ろにいたメイドが震えながら毒を渡した貴族を指さした。

「ヘイ君。本当かね?」

「えぇ。確かに密会してて、彼の部屋からこれを持ってきました」

「嘘だ! 毒は二つしか用意していない! 部屋中探しても見つかるはずはない! 私ははめられたんだ!」

 貴族が立ち上がり、ヘイを指さしわめき散らしている。ってか平気で貴族を切り捨てたな。自分の命の方が大切か。


「だろうな。だが……間抜けは見つかったようだ。これはただの折った紙だ。メイドが別な方を指さすと困るからな! それに俺()毒とは一言も言っていない!」

 ヘイが古いマンガの有名な台詞っぽい事を言い、テーブルの上を走っていき、貴族の肩に飛び乗るようにして床に倒し、そのまま顔を一回踏んでから自動拳銃を引き抜き、前歯を折りながら無理矢理口の中に突っ込んだ。

 ってか俺が無理矢理飲ませて中毒死っぽい事させたから、毒って言ってなくても毒だってわかるだろ。意外にヘイもおもしろい事するなぁ……。

 証拠も一人が毒を飲んで、死にたくない奴が指をさし、犯人がそれっぽい事を自供すれば十分な世界って怖い。

 あ、全員の目が向こう向いてるし、ついでにエミリーを蘇生しておこう。

 俺は注射器を抜き、エミリーの首筋に刺して薬液を注入した。命だけは助けるって言ってたし。まぁ、死んでた方がマシだったかもしれないけどな。


「そこの兵士、剣を抜いて体から放して刃を上に向けろ」

 ヘイに言われた近くの兵士は、首を傾げながら言われた通りにしている。

「スピナシア。こいつの剣を撃て(・・)

 あーはいはい。そういうことね。ここまで来たら俺は言われた事をやるだけだ。

 俺は黙ったままいつもの自動拳銃を引き抜き、持っていた剣の刃先を狙って撃つと、減音された音とほぼ同時に乾いた金属音が聞こえ、狙った場所から剣は折れていた。

「これが大軍を引かせた証拠だ。武器や鎧を容易く破壊し、意味をなさない。そしてこれを人に使うと、どうなるでしょうか? 誰に喧嘩を売ったかをその身を持って知れ、高い授業料だったな」

 ヘイの表情はここからじゃ見えないが、これは淡々と言ってるけど絶対超笑顔だな。貴族もなんか言おうとしてるけど、口の中に鉄が突っ込まれてるの同じだしな、何を言ってるかさっぱりだ。前歯もないし。


「ヘイ。もう十分だろう。そいつを兵士に渡したまえ」

 メディアスが立ち上がり、ヘイの肩に手を置いて止めに入っている。殺されるとまずいと思ったんだろうか? ってかヘイが本当に撃つかも見てみたかった。

 別に一回撃って殺してから蘇生でも問題ないと思うけど、蘇生薬を見られたら困ったことになるだろうからな。止めてくれて感謝だ。

「良かったな。これから死んだ方がマシな結果が待ってるぞ」

 ヘイはそう言って立ち上がり、変なテカリのある銃をそのままホルスターに戻した。あ、こっちも蘇生した。


「こっちは解毒(・・)しておいたぞ。証拠を固めるには二人いた方がいいだろうしな」

 俺は襟をつかんで、エミリーを無理矢理立たせると辺りを見回している。苦しみながら死んだはずなのに生きてるしな、不思議に思うだろう。

「拘束しておけ」

 エミリーの背中を押し、兵士に突き飛ばすと慌てて両手で押さえた。

 ってかこの状況でも眉一つ動かさずに、ニコニコとしている王妃様も怖いな。常に国王様と一緒にいたし、動いてたから人形ではないだろうけど、こういう状況に慣れてる? ある意味怖いわ。


「国王様の前での不作法お許しください。なにぶん急でしたので……。あのまま暴れられでもしたらと思うと――」

 よく言うわ……。絶対ノリノリだっただろう。

「問題はない。急いでテーブルクロスを変え、冷めた前菜を並べるだけだからな。あぁ、グラスも変えないといけないな。それと武器は持ち込んだら駄目だろう。しまっておきなさい」

 国王様も中々おもしろい人だな。毒が入ってるかもしれない食事会を続行かよ。俺だったらいったん解散させるぞ。しかも武器を黙認したし。



 その後は食事をしながらの話しになるが、お決まりのように、数を誤魔化しているんだろうとか、クロスボウのように遠距離から戦って恥ずかしくないのかだの色々声が挙がったが、国王様の隣に立っていた執事だか大臣だかわからない人が、全て俺の言いたい事を言ってくれた。

「ですがこの者達は――」

「別に文句を言うのはかまわない。最悪頂いた男爵の称号を辞退してもいい。お前達は、どこの馬の骨だかわからない奴が位持ちになるのが結局嫌なんだろ? 伝統だのお家柄だのとごちゃごちゃと……。なら今度敵国が攻めてきたら真っ先にお前が行け。そしてお前と部下の全滅の報告を受けたら、仕方なく戦場に出てやる。お前の尻ぬぐいだ」

「貴様! 無礼だぞ!」

「無礼で結構、所詮今日成り上がっただけだからな。けどな……。お前の先祖はどうなんだ? 成り上がって数代に渡って国に貢献し、どんどん位をあげていったんじゃないのか? 今の地位はご先祖様の努力の結果だろ? いきなり成り上がった奴を叩くのは貴族の様式美的な物なのか?」

 俺は酒で口を湿らせ、一呼吸おいてからもう一度口を開く。


「よく考えろ? 圧倒的な実力差で政治的圧力を強めれば、国は自然と安全になる。それをわかってて言ってるのか? 国がどうにかして俺達に首輪をつけて、よその国に行かれないように気を使ってるのもわからないのか? ならこんなのいらねぇよ、欲しけりゃくれてやる。そのかわりお前達が全て責任を取る、簡単だろ?」

 俺は胸の勲章を外し、最初に文句を言ってきた貴族の前に投げる。

「貴様、国王様から授かった勲章を何だと思ってるんだ!」

「あー……。お前はアレか? 難癖を付けてただ騒ぎたいだけなのか? なら今から中庭に行って叫んでこいよ。すっきりするぜ?」

「私を侮辱するな! 貴様に決闘を――」

 貴族が俺に向かって指をさした瞬間、貴族の手の甲にナイフが生えていた。

「新しいシルバーを持ってきてくれないか?」

 俺はヘイの方を見ると、涼しい顔で新しいナイフをメイドに頼んでいた。


「別に何を言っても良いが食事中に大声で騒ぐな。飯がまずくなる。スピナシア。あんな小物にかまうな、軽く流せ。それと俺も同じ意見だ、せっかく街を守ろうと奮闘したのに、こんなのが他にいると思うと今後のやる気に関わる。お前達ではなく、国と街を守ってたのにやる気を削ぐ天才や、足を引っ張る奴がいると、どうしても今後があった場合手を抜きそうだ」

 そしてメイドからナイフを受け取ると、何事もなかったかの様にまた食事を続けた。

 そして周りを見ると、誰も文句を言っていた貴族をかばうような事はしていない。特権階級の上にあぐらをかいている馬鹿は数人だけか。それとも喧嘩を売れる相手を知っているかだな。


「おや、終わったかな? ではスピナシア君の希望通り新しい領地を与えないといけないな。メディアス君、すまないが帝国側の国境付近の一部を彼達に売ってあげなさい。値段は資産の四分の一程度が妥当だろう、残りは使用人に退職金を払ったら全て家族にという事で進めるように。後続は……後ほど決めよう。食事中にする話ではないな。それとスピナシア君、私が傷つくから、次からは勲章を投げないでくれ」

「申し訳ございませんでした」

 俺は素直に頭を下げる。一応国王様だからな。

「早く彼達を追い出しなさい。大変気分が悪い」

「待ってください、私はハメられたんです! 話を聞いてください!」

 貴族達はごちゃごちゃと騒ぐが、兵士に取り押さえられ連れて行かれた。ハメられたっていうより、煽り耐性がないだけだろ。

 なんで挑発するのに、挑発に弱いんだこいつ等。ってか自分の身に何かあったら、ハメられたって言うのが流行ってるのか?

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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