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第20話 指輪と話し合い 後編

 翌日、言われた通りずっと宿屋で待機し、早めに食事をとり、昼時には店を手伝い、客が捌けた頃にトニーさんが店に来た。

「お迎えにあがりました。準備はよろしいですか?」

「あぁ、問題はない。んじゃ行ってくる」

「何か言われても殺さないように。一応この街のお偉いさんなんだし」

「あいよ」

 軽く返事をして、通りに出て馬車に乗った。


「いやー、女性の勘ってたまに当てになりませんねー」

 馬車で公爵の屋敷に向かっている時に、トニーさんがいきなり口を開いた。

「結局見つからなかったのか?」

「自分が見つけました。アニタはお金が入ったから高級志向の店を探し回ってたんですが、いたのは真逆でした」

「ほー。スラムみたいな所にでもいたのか?」

「えぇ。裏路地で客を取っているような場所にいました。店ではないので、探し出すのに苦労しましたけどね」

 奴の心境はわからないが、貧困層に金でも落としに行ったんだろうか? 趣味思考的に子供を買うって事はないだろうが、ちょっと不安になるな。


「一軒単位だろうな、個人で客を取るんだから。地道な聞き込みお疲れさん」

「いえ、ちょうど道でばったり会ったのでそれほどの事では……。ただ、買わないか? と数人に言い寄られたのが少しうっとうしかったですけどね」

「食うのに必死なんだ、察してやれ」

「ですね……」

 その後は特に会話らしい会話はなく、公爵の屋敷に着いた。


「やぁ、今日は俺の方が早かったね」

 既にヘイがいた。珍しい。

「そうだな。珍しく宿屋で待機でもしてたんだろ? 距離的にはそっちの宿の方が近い」

「残念、娼館から直だよ。門の正面で待機。門番にジロジロ見られまくった。そしたらウェスが屋敷の二階からこっち見て、走って出てきたよ」

 ヘイはニコニコとしながらお茶を飲んでいた。本当に行動が読めないな。


「相変わらず突発だなぁ。ウェスが可哀想になるよ」

「俺でもそう思う。けどさ、偉い奴の屋敷に連日呼ばれるって中々ないよ? なにがあるんだろうね。あ、婚約? 結婚? おめでとう」

 ヘイが左手の指輪に気が付いたのか、祝福をしてくれた。

「あぁ、ありがとう。政略結婚用に昨日急いでだよ」

 俺がそう言うと、ヘイが急に真顔になった。どうしたんだろうか?

「ちょっと俺も買ってくる!」

 ヘイが少しだけ声を荒げて立ち上がると、メディアスとウェスが入ってきた。俺が来た時点で、既に遅かったようだ。


「何を買ってくるんだ? 話し合いが終わってからにしろ」

 ヘイの行動をウェスが制し、イスを指さして上から下へと動かすと、それを見たヘイが大人しく座った。

「さて、先日はご苦労だった。今日は国王様に手紙を送る為に呼んだ。すぐに終わるから我慢してくれ」

 メディアスは俺達の正面に座り、後から入ってきたメイドがお茶を淹れて戻っていった。

「呼んだ理由は簡単だが、内容が難しくてな。お前達に関する報告書みたいなものだ。これは下書きだ。目を通してくれ」

 そう言ってメディアスは、紙を二枚滑らせてきたので、自分の名前が書いてある方に目を通した。

 んー、なになに。


 国や組織に所属する事を嫌い、今までの行動は全て自分の住んでいる場所を守る為に行った行動であり、国を守る意味合いではない。

 極度に地位や名誉を嫌い、そういった物は枷としか考えておらず、また金銭で動く事も固執する訳でもなし。生活水準が低い場所でその日暮らしが出来れば十二分に満足。

 金を貯め込む事はせず、運営に困っていそうな教会や孤児院に寄付をするが善悪の基準がなく、仕事なら物事を割り切り、無実な子供や女性、使用人をも平気で殺せる為判断材料が曖昧。

 不特定多数の婦女子との交際はなく、一人の女性と仲良く質素な生活をしており、貴族の娘や未亡人をあてがうと逆効果だと思われる。

 帝都アラバスターで指名手配中なので、そちらに着く事はないと思われるが、居心地が悪くなった場合は街や国を去る可能性もある。

 以上の事を踏まえ、首輪を付ける事はせずに自由にさせておいた方が得策。あとは他の国に行かない事を祈る。


 んー。本人にこれ見せちゃうの?

 俺は少しにやけながら紙を置き、軽くため息を吐いた。

「お前の性格だ。事前に見せておいた方が怒りを買わないと思ってな。書き足す事はあるか? こっちもこの国に留めておくのに必死でね。最悪私が処される」

「昨日指輪を贈った。婚約ないし結婚済みにしておいてくれ。どっちにするかは任せる。それとなく政略結婚を警戒していたが、こんな手紙まで用意されていたとは……。ご苦労な事だ」

 俺は左手を上げて薬指を強調させてメディアスに見せつけた。

「他国に強大な戦力が渡るのだけは避けたいからな。それにスピナを怒らせない様に、上に事前に釘を刺しておかないと大変な事になる。私の時の様にな……」

「そうだな。何かちょっとでも自分に実害があったら、誰であろうとぶっ殺すってのも入れておかないと駄目だな。どこかの公爵様と富豪様みたいになる。必要以上に利用されるのも嫌い……もな」

「そうだったな……。肝心な事を忘れていた」

 メディアスはニヤリと笑い、何かを書き足している。


「ヘイ、そっちはどうなんだ?」

「いやー、笑っちゃうね。好色家で楽天家、本人が楽しければ大抵の事はやる。ただ、正義感はあり、女性が強姦されてたりすると助ける行動も見せる。快楽殺人者ではない」

 そういってヘイは紙を渡してきたので、俺の紙も渡して軽く目を通した。

「表面上は殆ど当たってんじゃん」

「好色家は別にいいさ。でもね、好みって物があるじゃん? 僕だって(ピー)だからとか幼いから良いとか、ロイヤル(ピー)だから良いって訳じゃないよ?」

「うわーすげぇ下品。最悪その言葉だけで処刑だわ」

「後はシチュエーションかなー。昨日はスラムの娼婦達の統括役の所に行って、ある程度お金が全員に行き渡るようにって交渉しつつ支援して、そのまま抱いて色々な情報収集と性病に対しての処置方法やらを聞いて、対策があるなら配布しておいてって事で上乗せ。スラムを仕切ってるボス風な強気な女性でね。もうバインバイン。決して高くないわよって雰囲気」

「へー。それでも救済って意味じゃ金は回るな。子持ちもいるだろうし」

 最悪スラムのネットワークの情報は全て手に入るな。それに表だって協力はしないにしろ、敵対はしないだろうな……。

 そして会話中は、メディアスがやっぱり紙にメモを取っていたし、女性の事はお互いにつっこまなかった。


「さて、楽しく話をしているところ申し訳ないが、今後の流れを話すぞ? まぁ、この内容の手紙を送りつつ、国王様の日程が決まったら招待状が届き王都で受勲だ。その後に食事会兼顔合わせだ。私も同行する、何か質問は?」

「式の流れを知らない。首に剣を当てられるとかそういうのが絵画であったな。たしか有名な……。興味ないから忘れたが、そいつが跪き王に剣を肩に当てられてた」

 ナポレオンだった気がするが、こっちの世界だ。似たような絵もあるだろう。

「気が付いたら終わってるような流れがいいなー。面倒くさいし強く当たって後は流れで」

 俺はその言葉で軽くむせた。それ八百長の奴じゃねぇかよ。

「ふむ……。略式ではないから教育だな。しばらく通え。なんだかんだでお前等は教養がある。招待状が届くまでには形にはなるだろう。ウェス、俺の元教育係を明日の朝から来てもらうように手配してくれ。歩き方から夜会まで全部だ、予定はじいやに任せろ」

「かしこまりました」

 メディアスが命令するとウェスは部屋から出ていき、俺はため息を付きながらお茶を飲み込んだ。


「あ、毒殺や暗殺されそうになった時の作法は? 多少あるでしょ? そういうの。どうすればいいの?」

 あー、確かに確率はゼロではないな。ってかそんな時の作法あるの?

「丁寧に追いつめて、吊し上げてさしあげろ」

 あるのかよ……。

「食器は銀製か? 銀に反応しない物や遅効性だったらどうするんだ?」

「食器は銀製だが、そういう毒なら諦めろ。平民が貴族になるのが気にくわない奴か、敵国の犯行だ」

「過去に食事会での毒殺はあったのか?」

「あぁ、あるぞ。社交界は相手の弱みを握って蹴落としあう場所だ。若い芽は摘んでおこうってな感じでな。そしてお前達の後ろ盾は私しかいないし、当たり前だが派閥にも入っていない。処理するのは簡単だろうな」

 メディアスはため息を吐きながらお茶を飲み、呼び鈴を鳴らしてメイドを呼びお茶のお代わりを頼んだ。


「つまり飲み食いしない訳にはいかないし、毒が入ってない事を祈れって奴だね」

「そうだ。だが、成り上がりだからこそ通じる手もある。開き直る事だ。もう毒が入ってるって事を警戒していると言い、手を着けない」

「そうか。まぁ性格が違う二人がいる、片方が馬鹿を演じるのもいいだろうな。それと吊し上げろと言われたが、殺しちまった場合はどうするんだ?」

 面倒くさい世界だからな、聞いておかないと色々まずい。


「裏取りが難しくなるな。だから極力避けろ」

「了解。逆に殺していいのはどこまでだ?」

「なんでそんなことを聞く? 別にお前はそこまで暴悪でもないだろ?」

「上手いこと丸め込まれた使用人を、使ってくるかもしれないだろ?」

「多少傷つけてもかまわんが殺すな。上を聞き出すのに使う」

 とりあえず殺しはまずいって事か。


「明らかに罠だとわかっている物はどうすればいい? 引っかかっていいの?」

 ヘイは何を聞いてるんだよ……。

「どういう意味だ?」

「俺好色家。情報が漏れてメイドが誘ってくる場合とか。ハニートラップって奴だね」

 ヘイは自分の事を指し、ニコニコとしている。確かにあり得そうな状況だ。

「もういっその事指輪いらねぇんじゃねぇのか? 言い寄ってくる奴は片っ端から食っちまって、情報を逆に取るとか」

「付き合いが面倒。ってか向こうが本気だったらどうするのさ?」


「混ざり者に爵位持ちのお嬢様が自ら来ると思うか? 親に言われて次女辺りが嫌々道具になってるって奴だろ?」

「多少偏見があるが、大体そんな感じだな。私はお前達みたいな者には絶対に娘がいたら嫁にやったり家族になったりはしない。大抵は力を利用しようって考えの奴だろう。家として功績を挙げれば陞爵(しょうしゃく)できるからな。まぁ混ざり者への差別ではないが、お前達の事を良く知っているからな。篝火の隣に火薬の樽を置いて寝るような物だ」

 火薬があるのか……。ならあの時見た奴はマスケット銃なのかもしれないな。まだ出始めってところか? 後で調査が必要だな。

「で、どうするよ? スパイのあぶり出しでもするか?」

「いや、面倒くさい。指輪なしで言い寄ってきた場合だけかな」

「ならそういう流れでいいな。明日は朝食後から来い」

 そう言われ俺達は解散になった。


「どうするー? なんか面倒になってきたね」

「しかたねぇだろ。で、あてがわれた女はどうするんだ?」

「言い寄ってくるのは財産目当てだったり、こっちのステータスを気にしてる奴が多いからうんざりだ。見た目がダメでも、合コンで医療大って言った瞬間に言い寄ってくるのが多いのと同じだ。そういうのは大嫌いでね……。同格じゃないと相手にしたくはない」

 あー……。ヘイはかなり地位の高いリーマンとかだったのかな? 年収ウン千万とか? そうすると、そういうの()寄って来ちゃうよな……。


「その、悪かったな。そっちの都合も考えないであんな事言っちまって」

「気にしないで良いさ、罠にかけるだけの遊び(・・)だと思うから。だから俺は娼婦を買ってるんだよ。後腐れがないからね。女性だってそれなりの地位があればホストに行ったりもするだろ」

 ヘイは急に真面目モードになったが、トゲトゲした感じはしないな。

「そういう……。納得した。平均年収まっしぐらの俺にはそんな経験なかったから、そっちの気苦労は理解できないけどな」

 だからゲームではおふざけが多かったのか。


「下心見え見えとか、埋まってない地雷と同じだよね。警戒する気にすらなれない」

「突っついてみたくはなるけどな」

「それなー。けど向こうでは……。もう止めよう。こっちはこっちだ。死んだら死ぬのか戻れるのかもわからないし、向こうはどうなってるのか考えたくもない。下手したら胡蝶の夢かもしれない。楽しんどこうぜ」

 ヘイは親指を立てながら財布をとりだした。

「飲みに行こうぜ。なんか愚痴ったら飲みたくなった。場末の埃っぽい雑多な場所がいいな。今後嫌ってほど上品なのを経験するんだ、そういうのはなしだ」

「悪いけど飲み歩きしねぇんだ。スラムに近い適当な所に入ろうぜ」

「いーねー。カウンターにお金出して、昼から飲んでる奴を巻き込もう」

「ここにいる奴らに同じ物をってか!」

 俺達は笑いながらスラム街の方に歩き出した。

久しぶりに一発も撃ちませんでした。

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長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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