第19話 人を虐殺2/6
馬の扱いは二時間ぐらいで慣れた。その後は休憩を挟んだり、少し速度を出した場合は、馬に疲労が出るので村で交換し、目的地周辺まできたので馬を木につなぎ、少し離れた場所に移動してからドローンを選択して組み立てる。
ちなみにだが、逃げたであろう村人とすれ違っているので、村人全滅って事はなくなった。
「高さ制限どんなもんだっけ?」
「しらねぇ。行けるところまで行くしかないだろ。ゲーム中にそんなに高く飛ばす奴いるのか? 確かリアルだと制限があって、横で千メートル高さ五百メートル程度だろ。東京の電波塔の展望台から見てるのと変わらねぇよ」
「任せた。少し早めに武器を装備して弾増やしておく」
「了解」
ヘイが装備を変えている間、俺は端末で上昇ボタンを押し続けるが、なんか重武装になっていた。
「すげぇな。AK-35ってCマグがシステム的にあるのか」
普通のマガジン部分の下に丸い筒が左右に取り付けられていて、百発ほど入るマガジンだ。
ってか対物狙撃銃も使うのかよ、遠くから撃ちまくる気満々だな。
「ロングバレルにACOG。リアルでも存在してる遠距離分隊支援用の仕様だね。バレルが長いから飛距離と命中精度が上がってる。単発なら六百メートルまでなら素直な狙撃も出来る。スピナも四十年代の武器に変えたら? 凄い便利になってるよ?」
「いいの、俺はこの時代のデザインが好きなの。お、限界高度」
俺は端末を見ると、自分達が緑色の四角で表示され、コレ以上上昇できないマークが出てる。街道の方を見ると、灰色の物が埋め尽くしてるのが見えた。
「コレ敵兵?」
「敵兵じゃね? ここが道だろ? 色が違うし奥まで続いてる。ズームするか」
俺は指を広げるようにしてズームをするが、そこまでは鮮明に映らない。カメラにも限界はある。
「動いてるのだけは確認できるね」
「だな。もう敵で良いんじゃね? どこか使える地形あるか?」
俺達は端末を見て使えそうな地形を確認するが、昨日渡った石橋くらいしかない。しかも川幅も防衛するには少し狭そうだし、あまり深くもなかった。無理すれば渡河できるが、保存食は濡れるかもしれないって感じだ。
そして辺りを見回すと。街道が見える少しだけ小高い丘しかない。
「ここに来るまでに、戦術的に使えそうな地形あったっけ?」
「ないね。ここで仕掛けよう。俺は馬であの小高い丘で待機かな」
「そうだな、良い場所だ。比較的高所だしな、俺もそこに行くわ。柵とか穴とか俺達二人だから意味ねぇし!」
「撤退の場合はどのくらいで下がる? 五百メートルくらい?」
ヘイが馬の方に歩いてる途中で、そんな事を聞いてきた。
「歩兵や騎兵の突撃が怖い、一キロメートルで下がろう」
「了解」
俺も自動小銃のG36kのアンダーレールにグレネードランチャーを付けて、ホロサイトも一応選択した。背中には高火力のジャベリン。
俺は爆発物が使えるなら使っちまえ系で数を減らす。なんで軽機関銃を使わないかって言うと、リロードに時間がかかるからだ。Cマグでもいいんだけど、俺って脇を閉めて射撃体制取るから、腕が当たるんだよね。あれ。
「うっすらと敵の先頭集団がACOG越しに確認できる。約千五百メートル」
「吹き飛ばす、有効射程内に入ったらそっちも適当に撃ってくれ」
俺はジャベリンを構え、トップアタックモードで敵の先頭集団をねらい射出すると、小さな爆炎が見えた。
「対人利用のジャベリンはやばいねー。対戦動画の開幕ブッパで、敵の進路上先読みして八人以上吹き飛ばした動画を思い出した。俺も装備しとけば良かったな。なんか爽快感がありそう」
そう言いながらヘイは、早速撃ち始めている。
「こんなの、目をつぶってても当てられるぜ!」
そんな事を叫びながら二秒に一発引き金を引き、どんどんマガジンを交換している。早々に弾がなくなりそうだ……。
俺もジャベリンの二発目を打ち込み、G36kに持ち替えて純正三倍スコープを覗くがなんかよく見えない。かといって、可変スコープを付けるのにもなんか今後の近距離戦で不利になりそうだしなぁ。
しかたがないので、斜め四十五度でグレネードランチャーを打ち込む。正確な距離の出し方? んなもん勘でどうにかなる。ってか俺はゲームじゃ大抵水平に近い角度で射出するけどな。
「駄目だ。届いてないよ。最大射程どのくらいだっけ?」
ヘイは狙撃ついでにスポッターをしてくれた。過去に戦車で狙撃してた奴のサポートしてたって話だから、その勘を信じても良い。
「ゲームではわからねぇな。けど射角四十五度でも無理か」
一応近距離用にそのまま付けておくか……。
グレネードランチャーも撃ちきり、有効射程外の距離でもどかしく待つが、ジャベリンが回復したら撃ち込むってのを繰り返す。
手持ち無沙汰だ。有効射程じゃないが、最大射程でも多少は効果はあるんじゃね? って思い、三倍のスコープを覗きながら8と描かれてる線よりかなり上の方を狙って撃つ。たぶんこの辺が千メートルじゃね? ってところだ。
「当たってないよ」
「5.56ミリで千メートル以上とか無理だって……」
「今から装備を変える?」
「貯めてた弾が無駄になる、攻め込まれた時に備えたい」
「だよねぇ……」
そう言ってヘイはどんどん撃ちまくっている。集団相手への超長距離狙撃って狙わないで済むから恐ろしいなぁ。
「あ、矢だ」
「あ、本当だ。すげぇ大量だ。あんなのスパルタ人が出てくる映画でしか見た事ねぇわ。ってか届いてない」
ヘイが矢を確認したが、前方五百メートルくらいの所に落ちた。
「きっと、当たればいいやって程度でしょ?」
そう言いながらも狙わずにどんどん撃っている。多分向こうは見えない敵におびえてるんだろうな。
俺はしばらくはジャベリンを撃ち込むマンになるが、ヘイから声がかかる。
「千メートル切ったよ。試しに撃ってみて」
「あいよー」
俺はあぐらをかいたまま自動小銃を撃ち込むが、正直見えない。手前には転がってる死体が多く、当たってもドレ? って感じだ。
「のたうち回ってるねぇ。やっぱり5.56ミリじゃ軽いね」
「十分だと思うぞ? このままばらまくぞ?」
俺は三分に一回ジャベリンを撃ち込みながら弾をばらまき。ヘイが狙撃で撃ち殺す感じになっているが正直暇だ。弾が当たってる実感ないし。
「馬を少し後方に下げておくぞ」
「待って!」
それだけを言い、馬の手綱を引いて後退しようと思ったらヘイからストップがかかった。
「どうした?」
「敵が展開している」
相手の視認外からの狙撃と、ジャベリンによる広範囲の攻撃で進軍をやっと止めたか?
「このまま街道を進まず、ここでやり合う気になったのかな?」
「知らねぇ。ただ、クソ面倒な事は確かだな。どうするか……。二手にわかれるか? それともここから引くか?」
俺は自動小銃じゃどうしようもないのでヘイに相談してみる。
「高火力で各自ぶっ放すのが一番良いと思うけど、どう思う?」
「敵に囲まれないと思うがこっちは二人だ。後方から来てる援軍が敵を殺しやすいように、街道に張り付ける方がいいんじゃねぇか?」
「ワールシュタットのモンゴルみたいに誘い込む? 戦列のままの進軍は遅いからたぶんそのうち夜になる。そして食事中か睡眠中に叩く。こっちの後ろに隠れてる本隊がないのが残念だけど」
ヘイはそう言いながらも、撃つ手を止めていない。話しながら仕事が出来るタイプか。ってかワールシュタットがよくわからない。
「なら五キロほど後退するか? こっちの体勢を整えるっていうか軽く胃に入れられる物を入れる。そして相手を疲弊させて叩く、そしてまた後退」
「そのうち展開して、一万人くらいの部隊が数個でき上がりそう、そうしたら二人じゃ対応できなくなりそうだね」
「ならしばらくここに張り付けか? 俺が前に出てもいいぞ?」
「あえて部隊を分けさせて街道のは無視、味方本隊が来るのにかける。分かれた部隊は俺達二人が遊撃」
「ワンマンアーミーだな。ならそれで行こう。部隊が分かれて展開するまで街道を後退。分かれたら二手に分かれて数を減らす。減ってれば本隊もどうにかなるだろう。ただ兵站は切らないように。輜重兵への攻撃はお互い要相談。自棄になられても困るし、盗賊とかになられても困る」
「決まりだね。一端このまま後退して迎え撃とう」
そう言うとヘイは立ち上がり、馬の方に走っていった。ショットアンドムーブが染み着いてる? 隠密行動じゃないスナイパーは本当に行動が早いな。
俺達は馬で五キロほど後退し、ちょうど良い木陰で馬を休ませつつ、爆発物系を装備していた俺が、弾を犠牲にしてドローンで偵察する事になった。
このままG28でも装備した方がいいんだろうか?
「方陣組んだまま街道沿いを来てるな。一塊が大体五十掛け五十で、おおよそ一つの組が二千五百人規模だったっぽい。今はなんか色々半端って言うより数がまばらだ。ジャベリンでかなり吹き飛んだんだろうな」
俺はカロリーバーを取り出し、食べながら水を飲み、半分残した水をヘイに渡す。
「このまま様子を見て、戦列が別れなかったらここで迎え撃って、後退の繰り返しかな?」
「だな。別れたら街道のは無視して、横から突けたら突く感じで」
「あ、こっちから見て右翼側がさっきの丘に向かいそう。少しでも高所を取るんだね」
「一応三部隊に分けたか。このまま細分化されるのも面倒だな……。ドローンをしまったら、丘の向こう側が確認できないぞ? 問題ないか?」
「ないない。見えてる奴だけでも減らせば後ろの本隊が楽だし、とりあえず接触は避けた方が無難だね。銃っていう遠距離を生かせる方法を取ろう。囲まれてヘリが墜落する映画みたいになりたくないでしょ?」
ヘイはそう言うと大き目の石の周りに、辺りの小石をどんどん寄せ集めている。ヘリコプターに大量に押し寄せる人を、意味してるんだろうか?
「だな。丘の方は任せた」
銃があっても、数の暴力ってのを思い知らされる映画だったな。こっちがある程度無限に弾が打ててもリロードに時間がかかるし、まとわりつかれたら確かに死ぬだろうな。
「はいよー」
その返事を聞き、俺は空中でドローンの電源を切り、自然落下で消滅した後に装備をさっきの物に戻し、お互い背を向けて街道から離れた。
さて、やる事はさっきと同じなんだよなぁ。俺は双眼鏡で敵の方を見る。すると土埃の向こうに敵が確認できた。
そしてジャベリンを装備し、敵の方にむけるとロックオンの電子音が鳴り響いたので、そのまま射出してみるとミサイルは上空に飛んでいき、遠くの方で爆煙が小さく見えた。
『騎兵が突撃して来る。三十騎二列三組、注意ね』
『了解。積極的な攻撃は最良の防御である。とはよく言うが、武器が数世代も違う場合は悪手だな』
『確かに。おっと、補足された。ちょっと軍旗折っとくわ』
無線の向こうで軽い射撃音が連続して聞こえるので、自動小銃に持ち替えたみたいだ。俺ももう一発ジャベリンを撃ち込んだら、自動小銃でも持っておくか。
本当だ、騎兵が二列で丘や街道、こっちの方に向かってくる。こっちの位置がある程度わからないから、ある程度あたりをつけてるのか?
俺はこっちに近づいてる騎兵を三倍スコープで狙う。
『馬はどうしてる? 撃ってるか?』
『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。馬は的が大きいよ。可哀想って気持ちは持たない方がいいね。馬は戦場では道具。観覧席もなければ性別も年齢もない。まぁ女性はXされるけどね。最悪Xまである。男って業が深いよね』
『言ってる事はもっともだ』
俺は少しだけため息をもらし、馬を狙って引き金を引くと前足を折るようにして倒れた。すまない……。
心の中で謝りながら、こっちに向かってきている馬を打ち続け、騎兵をころがしてから、起きあがった奴だけ撃ち殺した。
『街道の騎兵どうする? こっちで処理しようか?』
『頼む、そっちの方が確実だ』
そう言った瞬間、スコープで覗いていた騎兵の胴体から上が吹き飛び、馬の上からゴロリと落ちた。それが六十人分。
『やっぱお前おかしいよ! あと絶対馬ごと撃ってないだろお前!』
『ナンノコトカナ? まぁ、距離が多分バレてるから引こう。この辺に死体が転がりすぎてるしね。敵が五十人の五列編成で来てるから早めの行動。数的に先行部隊だろうね』
『だろうな……』
それからは似たような事を繰り返し、食事の準備中にも襲撃し、夕方になり敵の進軍は止まった。
俺はヘイと合流し、火を焚かずに干し肉や堅パンを水で流し込む。
「何人ぐらい殺ったんだろうな……」
「沢山。こっちは二人、向こうは大勢。気にしてられないよ。数字出ないし、キルボーナスないし。あったらあったで空爆で吹き飛ばしてるよ」
「だな。ってか、夜襲ってどう思う?」
「エロい」
俺は盛大にため息を吐いた。
「冗談だよ。戦いに卑怯も汚いもないって言葉があるでしょ」
ヘイはそう言いながら端末を操作し始めたので、俺も装備を変更する。
全身黒にスカルマスク、そして四つ目のナイトビジョンゴーグルに、短機関銃のUMPにサプレッサーとホロサイトを付けた物。
サブウエポンはいつもの自動拳銃にサプレッサーを付けた物。ついでにフラググレネードを多めに持った。三分おきにぶん投げるつもりだ。
ヘイも全身真っ黒で、いつもの短機関銃と自動拳銃にサプレッサーを装備している。
「どうする? 二人一組か?」
「流れ弾が怖いからそうするしかないね。どうせ俺達以外は敵だし。このまま二時間くらいお互い仮眠して深夜一時に襲撃。その頃には弾も溜まるでしょ」
「フルオートで撃ちまくる事前提かよ。リアルならサプレッサー真っ赤だぞ」
「ゲームの恩恵って事で。んじゃ寝る。二時間後に起こして」
そう言うとヘイは寝転がってしまった。
深夜一時。起きて柔軟体操を済ませ体が動く事を確認し、四つ目のナイトビジョンゴーグルを下ろして敵陣の方に二人で走ると、篝火の白い点が見えた。
「撤退は不測の事態があるか、午前三時でいいか?」
「だね。四時には朝日が昇り始めて少し明るくなるからね。月が雲で隠れてくれて良かったよ」
「だな」
そのまま走り続け、敵陣の中央でキャンプファイヤーの様に組んだ大きな炎が燃えており、近くまで来たらヘイがいきなり発砲して篝火を倒した。
地面に燃えていた木が散らばり、明かりが小さくなったのを口切りに、お互いに無言で発砲し始める。
辺りに連続して消音された発砲音が響くが、地面に毛布を敷いて寝ているだけの兵士はまだ誰も起きあがる様子はない。
しばらく撃ち続け、誰かが叫び声をあげるが篝火は近くの物から破壊されており、こちらを視認出来ないらしく、立ち上がって騒いでるだけだ。
俺は立ち上がった者から積極的に狙い、寝かしつけていく。
「敵はどこだ!」
「敵襲! てきしゅー!」
叫んでる奴が多くなるが、まだ明かりは付かない。火をつけるのって面倒だからな。まぁ、明るくなったらそのままそいつを狙うからいいんだけどね。
マガジンを二十回くらい交換しただろうか。奥の方で松明を持った奴が走ってきたので、とりあえず無線でヘイに相談してみる。
『中央の炎にフラググレネードを使用してもいいか?』
そうしたら左手でサムズアップしたので、一旦銃を放して松明の方に向かって全力で投げつけると大きな爆発音が響き、爆炎で辺りが一瞬明るくなるが、多分立ってる奴と見分けは付かないだろう。
そして大きな炎は爆発で吹き飛び、辺りに散っていた。
俺は持っていたフラググレネードを辺りに投げ終わらせ、銃を掴んで松明を持った奴を探すが見あたらない。ヘイが片づけたんだろう。
それからは背中を合わせる様にして、どんどん銃を撃ち続け、たまにフラググレネードを投げつける作業を続ける。
『補足され始めてるね、場所を移そうか』
ヘイにそう言われたので、俺は振り向いて肩を一回叩くと走って移動し始めたのでそれについて行き、どんどん敵を寝かせる事にする。
『あ、馬だ。運が悪かったと思って諦めて』
ヘイがそう言うと、辺りの騒音で落ち着きのない馬の集団に向かって、フルオートで銃を薙払っていた。
まぁ、うん。仕方ない。俺も馬を撃ち騎兵の足を奪い処理し始める。そう思わないと動物なんか殺せない。