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第14話 臨時休業と一騒動 前編

注意:ヒロインが(敵?に)暴力を振るう表現があります。ご注意ください。

 気怠い中目を覚ますと、視界内の時計は十時三十分だ。横にはまだ寝ているグリチネ。

 室内は事後特有の臭いが充満しており、サイドテーブルのピッチャーからカップに水を注ぎ、それを一気飲みしてからカーテンを閉めたまま窓を開けるが、廊下のドアが開いていないので空気が流れない。

 宿泊客はいないので廊下のドアも大胆に開け、一気に淀んでいた空気が入れ替わる。

「だるい……」

 それだけを言い、イスに腰掛け、テーブルのリンゴをそのまま豪快にかぶりつく。途中でサンドイッチを食べたが、あんなんじゃどこにも足らない。

 風が吹き、カーテンが揺れて気持ち良い風が室内に入り、グリチネがか細い声を出しながら目を覚ました。

「おはよう」

「……おはよう。今太陽どのくらい?」

「あと十五個分動けば昼だ」

「ん゛ーーねーむーいー」

 グリチネはベッドの上で、布団を頭までかぶり体を丸めた。まぁわからなくはない。俺だって眠くてだるい。

「昼飯はどうする? 俺が作るか? 食べに行くか?」

「軽く作ってー」

 俺は立ち上がり、サイドテーブルのカップに水を注いでから、着替えてテーブルの果物を持って一階に下りた。


 バゲットを斜め切りにして、適当に見かけた野菜やハムっぽい物とチーズを乗っけてから挟む、それを数個。

 持ってきた果物数種類を薄切りにし、それも挟み、これも同じ数用意する。

 適当サンドイッチだ。軽食にはちょうど良い。

 それを持って二階に上がると、グリチネはちょうど着替えているところだった。

「……えっち」

「それ、今言うか?」

「あー」

 グリチネが口を開けたので、ハムサンドを口に運んでやる。

「ありはほ」

 サンドイッチをくわえたままお礼を言い、着替えを続けた。今日は白か。


「で、今日はどうするよ?」

「せっかく休みにしたんだし、外食してから買い物して、面倒だから夕食も外食にしましょう。ってかスピナの服を買いに行きましょう。そのいつもと同じってのはねぇ……」

 サンドイッチを食べ終わらせ、一服しているグリチネに今日どうするかを聞いたら、買い物という事になった。

 買い物デートと見るか、ガチ買い物とみるか――

「そうだな。ちょっと目立つからな」

 現地装備で、銃は装備できるんだろうか? それだけが気になるが、まぁ、どうにかなるだろう。全裸はないが、下着にホルスターだけってのもできるからな。


「で、この街をくまなく探索してないんだが、どうするんだ?」

「私に任せなさい。大通りに美味しいお店があるのよ」

 グリチネはドヤ顔で言い、煙草を灰皿に押し付けた。

「任せる。主食が全部デザートじゃなければ、文句はいわねぇ」

「私がそんな店を選ぶと思う? ちゃんとした店よ? けど、まずは煙草ね」

「へいへい、ヘビースモーカーにとって、煙草は水と同じくらい大切だからな」


 そんな会話をしながら店のドアに鍵をかけ、俺達は出かけることにするが、本当に真っ先に煙草屋に向かったのには驚いた。

「いつもの」

 その一言で買い物が終了し、ある程度その場で煙草を作り貯めして、シガーケースのような物に入れていた。

 その洗礼された動きは、ある意味プロだな。俺だって銃をホルスターから抜いて、構えて撃って的に当てつつ一秒切るのにどれくらい練習したか……。もちろんリロードもセットで。

 そう考えると東郷さんはすげぇよな。抜いて構えて撃つまでコンマ一六秒だし、野比さんはコンマ一秒だし、勝てる気がしない。


「次は食事ね、大通りに出ましょ」

「そうだな」

 そう言われ大通りに出るが、相変わらず賑わっている。荷馬車が行き交い、粗相した物を直ぐに子供が掃除するのは、子供の小遣い稼ぎと街を衛生的にする。スラムに物乞いの孤児が少ないのもメディアスのおかげなんだろうか?

 そういうところはきちんとしてるのになぁ……。なんであの時に欲を出しちゃったかなぁ。


 グリチネの後をついて行くと、中級区と上級区の間くらいの場所にある、テラス席が小洒落た店についた。

 グリチネが空いている席に座ったので、その向かいに座ることにした。

「お酒のむ?」

「んー昼間だから軽くだな」

 メニューを見つつ、何にするか悩んだが、結局二人ともシェフのお任せ日替わりコースに、果実酒一瓶を頼んだ。

「お酒は食前にお願いね」

「かしこまりました」

 黒をメインとした、ウエイター服を着た男性は、丁寧な物腰でメニューを下げて店の奥に入っていった。


「で、俺に服のセンスを求めるような事はしないでくれよ? いつも似たような服なんだからな」

「そうね、無難なのを選んであげるわ」

 そんな会話をしていると、まず食前酒として、果実酒が出てきたので、俺がグリチネのガラスのグラスに注いでやり、自分のにも注ぐ。ガラスのグラスが出てくるなんて、確かに小洒落てるな。

「とりあえず乾杯」

「乾杯」

 俺が音頭を取り、グラスを前に出して軽くぶつけ、ガラスとガラスがぶつかる心地よい音が鳴り、軽く一口ほど飲む。

「んー。飲みやすいな。このまま三本くらい普通に飲めそうだ」

「酔っちゃ駄目よ?」

 グリチネはニコニコとしながら、半分ほどワインを飲み、軽く口から息をもらして顔を緩めた。

 それからは、料理が来るまで俺がいなかった時の、噂話程度の情報をもらった。


「あ、領主の城はどうなったんだ?」

 グリチネのグラスが空になったので、俺はワインを注ぎ、気になったので聞いてみた。

「もう修復は終わってるわよ。ああいうのは見栄えも大切だからね。四十日くらいで全部終わらせてたわ」

「へー、すげぇなぁ。壊すのは直ぐだったのに」

「そっちこそ、戦場の話しをしてよ」

 昨日の夜にその話題が出ると思ったが、あっちに集中しすぎだったから、わざと出さなかったんだろうな。

 そして移動、知り合った傭兵団の頭、戦場で何をしてたかを話した。

「本当に暇ねぇ……。そんな長い間移動しててたった半日。そしてまた三十日。十日くらい争ってなさいよ」

「いや、短くてよかったって言おうぜ? 確かに移動時間に合わない戦闘時間だったけどよ。こっちの死者も少ないからよかったんだぜ?」

「まぁ、スピナの魔法で長引かないで、泥沼化しなかなかったのは良い事ね」

「そうだな、短い方が食料も金もかからないし、死者も少ない。良い事だらけだ」

 そんな話をしていたら料理が届き、肉のパイ包み焼きをメインに、色々と料理が運ばれて来た。


「んー、美味いな」

「でしょ、上級区でも結構人気らしいのよ」

 楽しく料理を食べていたが、隣に座っていた三十代後半の夫婦が、なんかこちらをちらちら見てくるようになった。

「なんでこんな所で忌み子達が食事してるんだよ」

「ほんとよねぇ……。せっかくの料理が台無しだわ」

 そして明確に言葉を選んだ悪意。

 俺は別に気にしないが、グリチネの手が一瞬止まった。


「おい、気にすんな」

 俺は手を挙げ、ウエイターを呼んだ。

「すみませんが、席を変えていただいてもよろしいでしょうか?」

「えぇ、問題ありません。あちらへどうぞ」

 ウエイターがニコニコと、特に迷惑と微塵に感じさせない雰囲気で、少し離れた席に料理を移動してくれた。

「これでゆっくり食べられると思ったが、今度は風上に移動したよ」

「ウエイターも気が利かないわねぇ」

 暇な奴等が、わざわざ聞こえるような声で、さらに追い打ちをかけてきた。ってかそこが一番風下だよ……。


「申し訳ありませんお客様。他のお客様が不快になるような事を言ってしまい……」

「お兄さんが謝るような事じゃないですよ。まぁ、俺は平気ですが――」

 グリチネの方を見ると目を据わらせ、怒りを隠そうともしていない。

「人族至上主義の豚が……。魔族を奴隷にして、子供を産ませたのはお前達人族だろうが――」

 俺とウエイターにしか聞こえない声で、呪詛のように言葉を吐き出し、持っていたナイフを逆手にした。


「お客様。お代は結構ですのでお帰り下さい」

 ウエイターが青い顔で男女の所まで急いで行き、ニコニコと対応している。

 あのウエイター、人ができてるな――

「なんで俺達が帰らないといけないんだ、あっちの忌み子を帰らせろ」

「申し訳ございません、私どもの店は差別なく、どなたでもご利用できる店を目指しております。私の主観ですが、あちらのお客様の方が、より当店に相応しいかと……」

「行きましょう。こんな店二度と来ないわ」

 そう女が言って立ち上がり、男も立ち上がった。


「忌み子のくせしやがって、何でこんな店に来てんだよ。お前等にはお前等らしいみすぼらしい店がお似合いな――」

 男がわざわざこちらに歩いてきて、テーブルに手を付きながら顔を付きだして文句を言ってきたので、適当に無視しようかと思ったら、グリチネの方が無視できなかったらしい。

 逆手に持っていたナイフを男の手に深々と突き刺すと、果実酒が入っている瓶を持って手首を返すようにして、スナップを利かせ男の鼻を狙って思い切り叩きつけて割った。

 そして流れるような動きで順手から逆手に持ち替えて、痛がって酒まみれの男の背中に突き刺して、テーブルをひっくり返した。

 それを俺は見てる事しかできなかった。微塵も躊躇がない。ってか血か果実酒だかわからねぇ……。


「い、いやあああぁぁぁ!」

 女が叫び、左手に持っていたフォークを持ったまま歩きだし、やばいと思ってグリチネの左手を掴んで止めた。

「やりすぎだ。まずはフォークを捨てろ」

 とりあえずは俺の言う通りにして、フォークをその場で捨てたが、痛がっている男の顎先をかなりの勢いで蹴り、なんかイヤな音が聞こえ、男は静かになった。

 やばいと思い、背中の割れた瓶を抜き、縫いつけられたままの手からナイフをかなりの力を入れて抜き、太股のマガジンの脇にある注射器を抜いて、死角から謎の液体を注入し男を仰向けに寝かせた。


「連れが申し訳ありません。脈はあるので気絶だと思います。回復魔法をかけておきましたので、直に目を覚ますと思います。ほら」

 男が目を覚まし、こちらを見て飛び上がるようにして女の方に逃げていった。

「迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。皆様はそのままお食事をお楽しみ下さい。平気ですから。ご心配なさらず、そのままお買い物を続けて下さい」

 俺は笑顔でテラス席にいた客や、通行人に言い、テーブルを起こした。

 テーブルクロスがかかっていないテーブルを見ると、深々と穴が開いており、血も結構付いていた。

 弁償だろうな……。ってか出入り禁止にならなければいいが――


「ふぅ……。連れが申し訳ない事をした。こちらにも非はあるが、そちらが必要以上に挑発したのも原因だ。傷も回復しているし、ここはお互いに悪かったと言う事で、事を納めてくれないだろうか?」

 俺が睨みながら男女に諭すように言うと、三流悪党が言うようなセリフを吐いて、そそくさと逃げていった。

「悪かったわ。ちょっと許せなくて」

「ちょっとで、あそこまでできれば上々だ。ほら、迷惑かけたならどうするんだ?」

 俺がそう言うと、グリチネは各方面の方々に謝罪をした。

 そしたら奥から支配人らしき男とコックがやってきた。

「我々は気にしておりませんので、ぜひ次回も当店をご利用下さい」

「次は、もっと美味い料理が作れるように腕を上げておきますので、気にせず当店をご利用下さい」

 そう言ってコックが帽子を取ると、狐っぽい耳が生えており、軽く笑顔を作り、店の中に戻っていった。

 混ざり物を差別しない理由はコレか……。いい店だな。


「あぁ、暇ができたらちょこちょこ利用させてもらう。ここはいい店だからな。ただ、テーブル代くらいは弁償させてもらわないと気が済まない。料理を含め、いくらか教えて欲しいんだが」

 支配人がそれならとと言い、伝票に金額を書き足したので、俺はにらみつけた。ゼロが一個少ない……。

 このテーブルが大銅貨五枚はねぇよ……。

「おい、どう見ても桁が一個少ねぇだろ。正直に書いてくれよ。じゃないとこの店に二度とこねぇぞ。サービスなら大歓迎だが、こっちにも非があるんだ、頼むから払わせてくれ」

 そう言うと、支配人が苦笑いをしながらゼロを一個付け足した。

「あぁ、それで良い。これで迷惑をかけた皆様に、デザートでも出してくれると個人的にもうれしいんだが」

 そう言い、俺はテラス席にいる人数を数え、メニューに書いてあったデザートの金額分を少しだけ多めに上乗せし、テラスにいたみんなに謝罪をしてから、グリチネの手を引いて店から離れた。


「本当に悪かったわ……」

「気にしてない。ただ、なかなか行動力があって驚いた。ギャーギャーわめき散らすよりは、効果がありそうだ。けど最後の一撃は駄目だ。死んでたぞ、アレ」

「殺すつもりでやったから」

 その言葉に何も言えず、道を歩きながらちょっと昼食時の会話をしつつ、服屋に向かう事にした。トラブルがあったのに中止にしない神経もすごいよなぁ。

 ってか笑顔で言わないで欲しい。

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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