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第13話 人も虐殺? 後編

 翌日の朝食後、俺はお偉いさんに呼ばれたらしく、朝食後にまったりしていたら重装備兵に連れられ、とりあえずお偉いさんのテントに顔を出す事になった。

「呼び出してすまない。話し合いの結果、伝達が素早くできるように我々の近くで戦闘に参加してもらいたい」

 頭痛くなってきた……。なんだその指示は。

「中央に重装備兵と横に長く歩兵、その後ろに弓兵。両翼に騎兵と重装備兵を置き、魔法部隊は弓兵の裏に散開させる。こんな場所だ、多分敵も同じような布陣になると思う」

 そう言ってT字の駒を地図に置いていく。

「で、君には色々な場面で対応できるように、近くにいてもらう事になった」

 俺はその場で口を開けることしかできなかった。

「なら、戦場を少し高い所から見渡す必要がある。俺の身長二つか三つ分くらいあればいい。木箱を積んで、寝転がれるようにしておいてくれ。それとボロい袋に軟らかい土を入れた物を一つ」

「あぁ、部下に伝えておく。それだけでいいのか?」

「多少高くないと、味方にさえぎられて魔法が当てられない。最悪味方に当たる」

「そうか、理解した。開始時刻まで太陽が六十個分傾くくらいしかないから、早めの食事になる。二度寝はできないと思うが。休息くらいならできるだろう。下がって良いぞ」

「失礼する」

 まさか固定砲台になるとは思わなかった。


「おー、お偉いさんはなんだって?」

「横にいろ。だとさ。俺に勝手に動かれると困るらしい。あー中途半端な時間だな。飯も早めに食べて、腹ごなししつつ、太陽が真上にあがったら開始だろ? 二度寝もできねぇ」

「女でも抱いてろ」

「病気がこえぇよ。お前のところの団員が拾ってきた、犬や猫をかまってた方がマシだ」

 現に何回かお世話になってるけどな。しかもかなり癒される。

「その顔で、なで回してる物が子犬とかかなり笑えたぜ? 娼婦連中で話題になってる。それに、私達より動物か! って怒ってもいたな。戦場に来る娼婦は、お前のような、たくましい男が好きってのが多いんだぜ?」

「そうか。まぁ、一途なんでね。誘われても素っ気なくかわしてたからな。悪いことしちまったな」

 そう言ってポーチからハンカチとピアスを取り出した。


「帰りを待ってくれてる女がいる」

「その女は、お前がいない間は他の男としっぽりか?」

「笑えない冗談は嫌いだね。俺が怒りやすかったら、お前の頭は吹き飛んでいたぜ? まぁ、昔は男がいたみたいだ。俺と寝た時は久しぶりみたいな事を言ってたから、多分今は男がいないっぽいし平気だろ。確信はないけどな」

 浮気現場的な物を見たら、多分俺は身を引くと思う。こんな世界じゃ慰謝料とかなさそうだし、二人の間に子供もいないし。

 なんか結婚して一緒に長く住んでても、子供ができないと夫婦とは認められないらしい。色々ひでぇ話だ……。

 相手を酷い目に遭わせて関係を修復しても、今後の関係がギクシャクしそうだしなぁ。



 十時頃に軽食を食べ、少し腹ごなしをしていたら徴集がかかり、みんなピリピリとした空気になった。

 これから並んで戦争だろ? こういうのはあわないよなぁ……。まぁ、時代だから仕方ないけど。

 俺も装備と荷物を持ち、戦線の後ろに木箱が重ねられている場所が見えたので、それを目印に進む。

「話は聞いております、コレでよろしいでしょうか?」

 階段風に木箱が重なっていた先に、少し大きめの木箱が三個掛ける三個で四段並べられていた。高さは俺の身長の二倍より少し高いくらいだから、四メートルくらいだろうか?

「あぁ、問題ない。助かる」

 一応ねぎらいの言葉をかけ木箱を上り、毛布を敷いて寝転がり、土嚢の上にマクミランを乗せる。

 ちょうどいい高さにするのに少し土を取り除き、微調整をしてマガジンを横に置く。

 そしてスコープを覗くが、二十倍じゃちょっと小さい。倍率を上げ、相手陣営を覗く事にする。

 本当に似たような陣形になるんだな……。


 ってか味方側に、ローブ着た奴が馬に乗ってるのが見える、あとは弓騎兵も。

 それは相手にはいない。機動力も育ててるのがこっちにもいるのか。けど馬ローブが気になる。

「おい、ちょっといいか? ローブ着た奴が馬に乗ってるんだが、あれはなんだ?」

 俺を台の上に案内してくれた兵士に聞く。

「魔法騎兵です。主に弓騎兵と同じような感じですが、歩兵が少しでも固まってる所に、魔法を打ち込みます」

「ほう、おもしろい……」

 んー? なんか敵のテントの周りに、棒みたいなのを持ってる奴がいるな……。マスケット銃か? まぁ近世っぽいからあっても不思議じゃねぇな。


 横一列に並んだ兵士達の最前列を、馬に乗った派手な奴が行ったり来たりしている。戦争前に志気でも上げつつ、作戦でも言ってるんだろうか? 相手には聞こえてねぇよな?

 そのうち静かになり、作戦開始のラッパが鳴り響いた。

 歩兵の後ろの弓兵が全員同じ角度で弓を引き、ここからでも聞こえる上官の放てと言う声にあわせ、一気に矢を射出するが、向こうも同じような感じだった。

 映画でしか見たことがない矢の雨を眺めつつ、人差し指を引き金のかなり上の方を思い切り押して、撃ちたい衝動を押さえる。

 正直綺麗だが、あの矢で何人死ぬんだろうか?

 歩兵が盾を構えながらファランクス風に歩くが、中央が少し遅く、両翼が早い。もうこれ囲む事しか考えてねぇわ。


「左翼に遅れが出ています。魔法で吹き飛ばして下さい」

 俺を案内した兵士は、伝言係も兼ねているらしい。こいつの胃に穴をあけないようにがんばるか。

 俺はスコープを覗き、左翼側の戦闘地帯を見るが、似たような戦力でどうにもならないっぽい。

 鎧が違う。間違える事はないな。

 そう思いつつ息を吐ききって引き金を引くと、大きな音が辺りに鳴り響き、伝言係の男は耳を塞ぎ、豪華なテントの中から数名の偉そうな奴が出てきた。

 敵の重装備兵の後ろの方の奴が数人千切れ飛び、最前線で戦ってる奴はまだ気が付いてないので、どんどん後ろの方から削ぐようにして数を減らしていくと、総司令官っぽい男も出てきて、こっちを驚いた顔で見ていた。

「馬上より失礼します! 敵、なぜか千切れ飛び、左翼側が有利になりました!」

 伝令が馬で走ってきて、そんな報告をこっちを見てたお偉いさん達に伝えていた。

「問題ない、味方の魔法の援護だ。作戦はそのままだ、攻め続けろ」

「了解しました!」

 そう言ってまた馬で戻っていった。

 これ以上は味方に損害が出ると思ったので、リロードをして戦況を見守ることにする。五十発以上は撃ったな。

 それで戦況が多少変わるって凄いよなぁ。それだけ重装備兵って脅威なんだろうな。



「歩兵裏の魔法使い並びに、位の低い指揮官を適度に排除して下さい。服があまり派手過ぎないので、見ればわかると思います」

「了解。捕虜は捕らねぇんだな?」

「多分前線に出てるのは、もう貴族として意味をなさない人物かもしれませんので、殺せとの事です」

「……了解」

 俺は、矢や火の玉が無造作に飛び交うようになってきた戦場を軽く眺め、馬に乗って剣を振りかぶってる奴や、ローブを着てる奴を、自動小銃の低倍率のACOGで探し、またマクミランの所に寝転がる。

 そしてローブやマントを付けていて、いかにも狙って下さいと言ってるような奴等を見つけては撃つのを繰り返すが、固まってないので、弾道計算が面倒くさい。

 火の玉で燃えている味方の死体の煙で風を読みつつ、数発である程度の調整を終わらせ、一番デカい胴体を狙って撃つと、上半身と下半身で真っ二つに吹き飛んだ。

 二人目は、少しねらいが狂ったのか、腹の横半分がえぐり取られた感じで吹き飛んだ。


 向かって右四分の一くらいの指揮官や魔法使いを処理し終えると、右翼側が前に出始めてるので、今度は左翼を狙うことにする。

 スコープを覗いていると、味方の弓騎兵や魔法騎兵がちょこちょこと動き回り、敵を倒していた。

 騎兵の機動力は馬鹿にできないな。ってか魔法騎兵なんか、威力の弱そうな魔法を細かく使ってるから、気怠くならないのか、地味に活躍している。中には大業らしき少し派手な魔法使う奴もいるけど。

 車に火炎放射器を付けて、走りながら薙払ってるのを想像すると笑えてくる。まさに世紀末! いや、近世だけどな。

 けどマッドなマックスが過去に来たらこんな感じなんだろうか?

 ヒュー○○ガスみたいなのは出てこないんだろうか? 出てきたら演説を期待するんだが……。

 半裸でお面を被ってる奴は……。ローマの闘技場じゃないからいねぇよな、もしくはスパルタ兵……。


 とりあえず邪魔にならない様に、味方騎兵がいない場所を狙うが、ちょうどいい感じで、多分小隊単位で動いてるから連携がとれすぎて何もできない。

 いいや、苦戦してそうな所の歩兵を吹き飛ばしておけば、優位になるだろう。

 俺は少し押され気味の場所の歩兵を見つけては、裏の方で接敵していない奴の体のどこかを吹き飛ばす作業になった。

「ビューティホーー」

 敵に当たれば、部位に関係なく有名なセリフの小言が出るくらいだ。狙わなくても、撃てば敵の誰かが吹き飛ぶし。

 自動小銃じゃなくて、狙撃銃のG28にしておけばよかったかもしれない。


 そして途中でグルダンさんを見かけるが、歩兵相手には無双状態で、返り血を浴びながらも肉厚な両手剣でバッサバッサ薙払っている。スタミナの固まりだな。

 けどさすがにやばいと思ったのか、敵歩兵も下がり気味で、重装備兵が集まりだし、数名でグルダンさんを相手にしようとしているらしい。

 飯時に何回か見かけたグルダンさんの仲間も、弓を放っていたり、魔法を撃ったりしているが、重装備兵には効き目が薄いらしい。

 なので俺が吹き飛ばしてやり、グルダンさんの傭兵団を援護する。

 二十発くらい撃った頃だろうか? グルダンさんを相手にしていた敵の重装備兵を半分以上吹き飛ばした頃に、敵の指揮系統が全体的にバラバラになりはじめ、両翼の重装備兵が相手を囲むようにどんどん包囲網を狭めていき、完全に取り囲んだ。

 後はどう料理するかって状況になったな。実際に弓兵と魔法使いが、どんどん中央に矢と魔法を放っているし。

 相手の司令部みたいなテントを見ると、荷物を纏め始めている。

「おい、相手のお偉いさんが、荷物纏めて逃げようとしてるぞ? どうするか伝えてきてくれるか?」

 伝令にそう言うと、急いでテントまで走っていった。

 俺は装備を変えてジャベリンを構え、テントに狙いを定め、ロックオン状態にしておく。


「相手の大将を倒すのは色々危険との事。無傷で捕虜にできるなら行動に移してもいいですが、できないなら無視して逃がしてやれとの事です!」

「……了解」

 まぁ、色々面倒な事でもあるんだろうな。政治とかくそめんどくせぇ……。

 この負けの責任をとらされて降格とか、死刑ならおもしろいんだけどな……。多分ないだろうな。

 まぁしかたない、この変えちゃった装備の埋め合わせは包囲網の中央にぶっ放す。

 ジャベリンの狙いを包囲網の中央に合わせ、警告音みたいな電子音が鳴ったので射出し、上空に上がったミサイルが敵中央に吸い込まれるようにして落ち、大爆発と共に敵兵の中央に巨大な円ができた。

 対人に使うもんじゃないな。家の中の人間とか既に吹き飛ばしたけど。

 そして爆発と同時くらいに、味方の包囲の一ヶ所が崩れ、アラバスターの兵士達はそこから一気に逃げ出し始めた。

「あーあ、やっちゃった。黄金の橋だよ……。エグい事するなぁ」

 囲まれてた時は必死で抵抗していたが、包囲網が崩れ、そこから逃げ出せるとわかれば、守りではなくただの逃げになり、それぞれの騎兵が追撃をかけ、死体の道を作っている。ってか、間違って勢いで全部囲んじゃったって感じが強いな。

 もう何もすることはないか? まぁ、ちょいと気になるから、マスケット銃を持ってる兵士を吹き飛ばして、持っている銃を見てみたいが、俺が行くまでに敵に回収されるだろうな。



 しばらく逃げ道の用意された包囲を見ていたが、崩れた場所に敵を押し出すように味方も圧力をかけ、さらに死体の山を作っていった。

「移動一ヶ月、戦闘半日程度……。敵が寄せ集めで弱いと見るか、こっちの戦術や練度が高いと見るか。それとも、体よく死体処理をさせられたかだな――」

 自動小銃いらなかったな……。戦闘が長引いて、戦線が崩れたら突っ込む覚悟だったけど、そんなことはなかった。まぁ、俺は保険や切り札扱いで投入されたのかもしれない。けど味方が優秀って素晴らしい。

 それと勝率七割は、与えられてるだけかもしれないな。

「まぁ、あとは国王や貴族に任せるか」

 毛布の上であぐらをかきつつ、ボーっと戦場を眺め、味方が勝ち鬨を上げているが、なんとなく死者の数が気になった。

 最初の矢の雨で、歩兵や弓兵が何人も倒れてたからな。

 そして生き残った兵士が戦場を歩き回り、まだ息があったのか、慈悲の為か敵味方問わず剣を刺しているのが見えた。


 夕方になり、死体処理とかどうするんだろうと思いつつ、祝勝ムードで酒や料理が盛大に振る舞われる中、俺は装備を戻し、木箱の上に座ってグルダンさんの所で食事をもらっている。

「お前のおかげで俺は生きてる! いいから飲め!」

 背中をバシバシと叩かれながら、カップに何かの酒が注がれ、それを一回だけは一気に飲み干した。

 何だろう、すごく酸っぱい。正確にはずっばぃ。顎の付け根が変に痛いし、唾液があふれ出てくる。何かの果物で自分達で作ったんだろうか? 前のは飲みやすかったのに。

「目の前で重装備兵が吹き飛んだ時は驚いたが、たいしたもんだぜ!」

「俺の装備のおかげだ、俺じゃねぇよ」

 二杯目は砂糖とお湯を入れてチョビチョビやりつつ辺りを見回すと、なんか商人と娼婦が増えている。商魂たくましいな……。

 国境線が曖昧になってるからできる事だし、略奪がないからな。

 俺も砂糖と塩、日持ちする青果を買って水に混ぜて飲んでたし。ってか知ってたら、もっと持って行く荷物多かったわ。現地価格ってクソ高い。足下見つつ、輸送費や戦場出張費も上乗せしやがって……。街で買う二倍だぞ?

 それにしても回復魔法ってすげぇな。部位欠損は治らないけど、速攻で血が止まって皮膚が再生して、腕や足がない兵士がもう酒飲んでるんだから。

 心情はどうかわからないけど。



 翌朝、戦後処理というか、遺髪や装飾品を小さな袋に小分けで集めてるのを見るが、袋の紐にドッグタグのような物がしてあり、出身地と名前が彫ってあった。

 ドッグタグの出始めって、もう少し先だった気がするが、異世界だからなって考えで済ませた。深く考えるとハゲるし。

 敵兵の死体も、綺麗に装備を引きはがし、魔法使いが作った大きな穴に入れ、ある程度溜まったら埋めていくの繰り返しだった。魔法使い便利すぎだろう……。

「なぁ、死体を放置してたらどうなるんだ?」

 普通なら腐敗が進み、最悪疫病が発生するが、異世界だからとりあえず聞いてみる。


「最悪の場合疫病が流行って、ゾンビとかスケルトンが死体の数だけ発生するね。まぁ、幸いにもこの辺に魔力溜まりは少ないから、腐敗だけかな? けど埋めておけば、ゾンビになっても出てこられない。死体処理は、勝利した方がする暗黙の了解みたいなのがあるね」

 穴を掘っていた魔法使いは俺に簡単に説明してくれ、周りにいた全員が何かお祈りみたいな物を唱え、土を戻して死体を埋めていた。

 掘る事はできる、埋めることはできない。なんかすごい魔法だな。もしかして地面を窪ませてるのか?


「こっちの遺品は、なんで分けられてるんだ?」

 ちょっと気になったので、コレも聞いてみた。

「敵国のだよ、紐の色が違う。戦争はするが、神の教えで死体には罪はないんだ。だからあとで送りつける。こっちが負けてたら、相手も同じ事をする。簡単だろ? ってかあんた神を信仰してないのか?」

 嘘だろ? みたいな目で見ないでくれ。俺はまだコッチに来てそんなに時間は経ってないんだよ。

「あぁ、無神論者だ。けど神の慈悲深い教えに感謝だな。俺も形だけ祈らせてもらう」

 そう言って荷物から強い酒を出して埋めた場所に撒き、少しだけ飲んでから安らかに眠ってくれと心で思っておいた。


 ってか死体処理で五日。長いと見るか、妥当と見るか……。

 最終日に、誰かが一番偉い奴に味方の損害を報告していたが、こちらは三千人も戦死者がでていた。

 そのうち、村や町で徴兵したのが千人ほどだ。コレは兵士が最前線に出て、農民が後方だったかららしい。

 農民を盾にしないで、職務を全うしていた証なんだろうが、それでも千人か……。多いと見るか、少ないと見るか……。俺にはわからねぇな。



 あれからまた三十日かけて街に戻り、特に気取ることなく宿屋のドアを開ける。まぁ、一人で戻って来ても良かったが、馬を借りるわけにもいかないし、食料もなんとなくもらい辛いしな……。

「ただいまもどりました」

「おかえり。ずいぶん顔が綺麗なままだね。傷が二つくらい増えてくると思ってたのに」

 グリチネは床掃除をしていたモップを立て、片手を置いて顎を乗せ、タバコの煙を吐いた。

「もう少し感動的な再会を期待したが、まぁ予想の範囲内だったわ」

「なに? 涙を流しながら無言で抱きついて欲しかった?」

 タバコを指で摘み、ニヤニヤしながら近くのテーブルの灰皿に灰を落とした。

「それも候補の一つに入ってたな」

 そう言って、テーブルの上にハンカチとピアスを置いた。

「悪いね、そう言うのはとっくに卒業してるのよ」

 今度はモップをテーブルに立て掛け、ピアスを外し、外した場所に俺に預けたピアスをつけ直し、ハンカチをポケットにしまった。

「預かってる物は、私の部屋の引き出しなの。今夜取りに来てくれない? どうせ疲れてるんだから、夕食まで昼寝してて。今軽食作るから」

 グリチネはそう言うとキッチンに立ち、火を使わない具材を挟んだサンドイッチを出してきた。

「どうせ保存食ばっかりだったんでしょ? 野菜でもたっぷり食べなさい」

「あぁ、わりぃな」

 サンドイッチ食べてる時に、グリチネは掃除を終わらせ、夕食の準備を始めたが、一言声をかけて部屋に戻った。

 色々な荷物を起き、ベッドに寝転がるが違和感を感じる。

「シーツが洗濯されていない? なんかうっすらと香りも……」

 長期間出かけていたのに、何でだろうと思ったら薄い藤色の髪の毛が数本落ちていた。

 そう言う事か……結構可愛いところもあるんだな。

 そう思いつつ、俺は疲れを癒す為に盛大に昼寝をさせてもらい、いつも通りに風呂に行き、夕食を食べて久しぶりに店の手伝いをする。



「おー、久しぶりに見たな。生きてたんだな。グリチネから聞いてるんだぜ? まぁ無事ならいいさ、酒のお代わりをくれ」

「承りました!」

 そんな忙しい時間が過ぎ、俺はお茶を飲み、グリチネは煙草を吸っている。

「そういえば、グリチネは風呂に行ってるのか?」

「手から水が出せるのに。行く必要があるの? 裏庭の暗がりで体を洗って、溝に水を捨てるだけ。冬なら、ここで桶に水とお湯を入れて拭けばいいだけよ」

「どうりで風呂に行ってるのを見ないと思った。その割には綺麗だし」

「女性に対して失礼ね……。香油だって付けてるでしょ」

「あぁ、俺の使わせてもらってるベッドに髪の毛と、うっすらと芳香がしてたからな、その辺は知ってる。意外に可愛いところもあるんだな」

 そう言ったらグリチネは少し顔を赤くし、煙草の煙をこっちに向かって吐いてきた。

「知っててもそう言う事は言うな! で、女は買ったの? 買ってないの?」

「買ってない。この意味はわかるな?」

 それを言うとグリチネは口角を上げ、半分以上残ってる煙草を灰皿に押し付け、壁にかかってるランプを消して歩いている。

「なんだかんだで一途よね」

「まぁな。けど手加減はしてくれよ?」

「わかってるわよ。こっちだって最近は貴方の薄くなった匂いで我慢してたんだから」

 そう言ってグリチネは、シャツのボタンを上から胸元まで外していった。気が早いな……。

 そして臨時休業という看板を出入り口のドアに掛けた。

「これだけでお察しよね?」

 そしてサンドイッチの乗った皿を持ち、目を細めわずかに微笑んでから、グリチネは俺を誘うように階段を上って行った。

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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