表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/72

第13話 人も虐殺? 前編

15000文字になったので、三つに分けようと思ったけど話数管理が面倒なので二つにしました。

 オーク討伐から数日、グリチネと朝食を食べていたら、ウェスが入って来た。しかもベーコンの残り一切れを、少し長めに口の中で楽しんでいる途中だったのに。

「食事中に申し訳ない、火急の件だ」

 名残惜しいがベーコンを飲み込むことにした。

「なんだ、また盗賊か?」

「そっちの方がまだマシだったな。すまないがお茶を貰おう、少し長くなるかもしれん」

 そう言って同じテーブルに着かれた。まぁ二人とも食事は終わってるから問題は少ないが。

「単刀直入と、説明込み。どっちが良い?」

「単刀直入に言ってくれ。その後で、必要なら説明もして貰う。ってかここでいいのか?」

 俺はグリチネを見て、仕事の内容を聞かれても平気なのかを聞いた。

「問題ない、そのうち噂になる。帝国と小競り合いになる。この間の村の件だが、向こうが領土を主張してきてな、村を不法占拠するなら、武力で解決する……と」

 真剣な顔をして、それだけを言ってきた。


「つまり、俺に戦争に参加しろと?」

「あぁ、ビスマスの国王に正式に使者を出してきての抗議文だ。それで国境から一番大きな街のルチルは、即時出兵しろとのお達しだ。最低限の防衛戦力を残し、国境線の詰め所の平原での戦闘になる」

 良く戦場になってそうな話っぽいのに、あそこ通ってここまで来たけど、俺が戦闘の跡に気が付かなかっただけか? それともしばらくは小競り合いがない?

「今の帝国の帝王は、国土を肥大化させるのが好きでね。こうやって嫌がらせを繰り返しては、虫が餌を食べるようにジワリジワリと国を大きくしている」

 ウェスはそう言って、お茶を飲んで一息入れている。


「……もう少し詳細をよこせ。敵の数、平均的な戦闘期間、こちらとの戦力差、過去の勝率だ」

 国や軍に所属するつもりはないが、最悪この街まで敵が来たら、どのみち俺も動くことになる。ならここは言う事を聞いて出ておかないと、後々大変な事になる。

「今回は小さな村の取り合いだからな、過去の戦争から見ても多くて二万、戦闘期間はお互いの損耗率になるから不明だ。戦力差だが、なんとしてでも勝ちたいから、周辺の貴族からなるべく多くの兵士を出せとお達しだ。たぶん勝ちに行くから最低で三万は行くだろう。過去の勝率だが、一応七割だ」

「数字だけ聞けば勝てそうだが……。一応国土差と人口も教えてくれ」

「変に学がないのに、変なところだけは気にするんだな。帝国が十ならこちらは四程度、人口は知らん」

 ウェスは冷静に答えてくれた。結構この国も大きいな。帝国が小さいのか?


「やり口的に嫌がらせを繰り返して、少しずつこっちの戦力と兵糧を削いで、一気に国を潰す感じか? たぶん今回は向こうの練度は低いだろうな。吸収した国の不穏分子の排除も目的だろう。領土的にも差があるから長期戦は厳しいか……。食料はどのくらい余剰に作ってるかは興味ないが、俺を参戦させて、長期戦で無駄に兵士や兵糧とかを消耗するよりはいいな。相手の指揮官は、国でも信頼できる奴として、戦略は一応得意だろうし……。本当に戦争は地獄だぜ」

 お茶を飲みながらそれらしい事を言うと、ウェスは左目をヒクつかせていた。

「農民っていうか、市民の徴兵義務はあるのか? 減りすぎると多少生産力に影響があるかもしれないし。最悪盗賊になって、自国でも略奪行為もするからなぁ……。公爵様もそれはわかってると思うけどな」

 お茶をカップの中で回し、独り言のように呟きながら、少し細かい茶葉を浮かせ一気に飲み干す。

 ウェスの顔は苦虫を潰したようになっていた。過去にやっぱりあったのかな?


「そういえばギルドはどうなんだ?」

 俺は不思議に思ったので聞いてみた。

「ギルドは魔族大陸を含めて世界規模の組合だ、そういうのには不干渉だ。ただ、傭兵としての参加で金を稼ぐ奴もいるがな」

「兵士はいつあるかわからない戦争に備えて、訓練をして飯と給料をもらうからな。まぁ、怪我しても文句は出ないだろう。ただ傭兵は自己責任ってやつか」

「そうだ、だからお前を兵士(・・)として雇いたい。返事は今すぐにでも欲しい」

「ん? 傭兵じゃねぇのか?」

「傭兵は飯も持参だ。傭兵団に所属してないのに、飯はどうするんだ? だから兵士なんだよ」

「理解した。いいだろう。ただ、俺は好きにやらせて貰うぞ? 一人で遊撃だ。ついでに一筆もらえれば嬉しいねぇ。軍隊で命令を聞かない奴は、殺されても文句を言えない組織だからな。無能な働き者ほど殺すしかない」

 一人が命令を無視して部隊が全滅とか、そいつが引き金になって負ける事もあるからな。保険は欲しい。隠密作戦とかはないだろうけど。


「いいだろう、直ぐに用意する」

 ウェスは金貨を一枚取り出してテーブルに起き、懐から紙と筒を取り出し、筒の中からは羽ペンが出てきた。

 そして本当に一筆書き出し、メディアスの名前を書いて、赤いろうそくにマッチで火を付け、蝋を垂らして指輪を押しつけた。

「これで平気だ。ただ、ある程度の軍規は守って貰う。いいな?」

「あぁ、これでも一応周りの空気は読める」

 グリチネは口を挟まず、隣のテーブルで三本目の煙草に火をつけていた。余計な口を挟まないでくれるのは嬉しいね。性格なのか、良き理解者なのかはわからないけど。

「私物の持ち込みは、どのくらいまで容認されているんだ?」

 すべての物がある程度容認されており、現地で商人から物を買ったり、女を買ったりできるように小銭はあった方が良いと言われる。財布にある程度お金が入ってるのを確認し、特に問題なさそうなので、ボロいローブと毛布を部屋に取りに行った。

 財布の中に、大銀貨が三枚見えたし足りるだろう。



「んじゃ行ってくる。これは預かっててくれ」

 そう言って、グリチネにさっきの金貨とギルドカードを渡した。

「季節が一巡するまで預かっててあげる。変な病気をもらってこないでよね」

「そうだな、気を付けるわ」

 別に娼婦を買うつもりはないが、そんな事を言われたらそう返すしかない。

「貸してあげる。お気に入りだからちゃんと返してね」

 グリチネはそう言ってピアスを一個外し、ハンカチと一緒に俺の目の前に置いた。


「夜中寂しくないように、下着を渡されるかと思ったぜ」

「下着の方がお好み?」

 軽くセクハラしてみたが、優しい笑顔でがっつりカウンターを貰った。

「冗談だ……」

 その一言しか言えなかったよ……。俺はヘタレだな。

 通りに出て、いつも寄っている店に行き、干し肉とドライフルーツ、ナッツ類の詰め合わせを選び、迷ってからこの間飲んだ強い酒も一瓶買った。

 この間みたいな事はあまり経験したくないけど、色々なストレスがその辺に転がってるかもしれないからな。


 門の外に出ると、兵士が武装して整列していた。

 大ざっぱに見て歩兵千、重装備兵三百、騎兵三百ってところか。この街結構兵力持ってたんだな……。あとから農民が参加するのか? なんだかんだで国境線から一番近い街だからな。

 輜重兵も多いし、本当に戦争は金と食料の消費が激しそうだ。ここに電力や石油系がないだけマシと思うべきか……。

 勝ったら領土も増えるし、戦争賠償ももらって、活躍した貴族の隊に多く分配したり、略奪もするのかもしれないな。

 けど自国領になる村か町を略奪ってどうなんだ? 何もない廃村や廃町に移住させるのか?

 焦土作戦で、井戸に毒とか入れられないように祈るだけか……。

 それに、兵士は人口の一から二パーセントくらいらしいから、人口五万から六万人? この街で六万人はさすがに多すぎるな……。多くて四万人くらいが関の山だ。ってか、この街にどれだけ兵士がいるんだよ……。流石国境に近い街。防衛に力を入れてるな。


 ゲーム内でも大規模戦も経験した事あるが、片方が二百五十六人だったからな。最低が十六対十六で、それが十六組。懐かしいなぁ。

 全員が指揮官の言う事聞いてただけだけどね。戦況見て的確に指示出してきたからなぁ……。歴史とか戦術を詳しいとか言ってたなー。

 貴重な壁役として、速攻でフレンド申請されたけど……。

 ってか本当に娼婦も行くんだなぁ……。まぁ、稼ぎ時だから希望者だけ行けばいいが、奴隷みたいなボロい服と首輪をした女性も見える。これに関しては考えたくもないな。そういう趣向だと思おう。

 さーてお偉いさんはっと……。あー派手だから一発でわかるわ……。

「すまん。忙しいところ悪いが、こいつに目を通してくれ」

 周りの取り巻き兵士を色々と無視しながらメモを渡すと、隣にいた奴がそれを奪い取り、死にそうなくらい青い顔で震えだし、上官にそのまま渡すとなんか最敬礼っぽい感じで背筋を伸ばし、大声で挨拶をしてきた。メディアスのサインは強いな。ウェスが書いた奴だけど。


「別に迷惑をかけるつもりはない。ダラダラと最後尾を歩かせてもらう。飯を食わせてもらえれば問題ないし、変に口を出すつもりも規律を乱すつもりもない。ただ、俺みたいな変な奴がいると頭の隅に入れておいてほしい」

「わかりました、スピナシア様!」

 メモを返してもらい、輜重兵の裏の方に歩いていく。そうすると、傭兵っぽい奴等が沢山いる。

 これが稼ぐ為に、魔物じゃなくて同族を殺す奴か。人の事言えないけどな……。


「おい、お前は一人か? なんなら俺達の傭兵団に入れてやろうか?」

 俺のように傷が多く、筋肉隆々で、いかにも最前線で体を張ってる感じの男だ。大きな怪我がないって事は、それだけ戦場の経験があるって事だろうな。

「すまんな、こう見えて雇われ兵士だ。限りなく黒に近い位置の兵士だけどな。最悪傭兵でも通じるが、規律は兵士並に守らないと駄目だし、飯も兵士と同じだ。だが傭兵となれ合うなとは言われてない。スピナだ、別に覚えなくても良いし、ギルドで知り合った奴等からはおっさんって呼ばれてる。好きに呼んでくれ」

「俺とあまり歳は変わらねぇだろ。グルダンだ、とりあえず頭張ってる。よろしくな」

「あぁ、よろしく頼む」

 とりあえず握手をし、出発まで適当に時間を潰す事にする。



「遅い……」

 何が遅いかって? 行軍速度だ。実際一日に歩ける時間も決まってるし、武器や鎧甲を装備してて、二十キロくらい体重が増えてたとしても、ここまでは遅くはない……。

 やっぱり道幅いっぱいの、十列にならんで歩いてるのが問題か。個人個人ならもう少し早いんだろうが……。

 実際ドミニオンズさん達のパーティーでは、個人で持てる量の限界とはいかないが、装備と荷物で似たような重さにはなっていたはずだ、女性陣の荷物は軽いとして……。

 やっぱり列で歩くってのは遅いんだな。軍楽隊がいて、一定のリズムで太鼓を叩いてはいるが、それでも遅い……。騎兵隊なんか暇そうだ。


「おいスピナ。お前は軽装でいいな。軽そうだ」

「ん? あぁ。どうせ切られたら死ぬ場合もあるし、クロスボウとかだと、簡単に板金鎧なんかも貫くからな。なら軽い方がいい」

 グルダンさんに昼食中に言われ、とりあえずそう答えておく。

 今回はアラバスターとの戦闘だから、強化アーマーと盾は使わないつもりだから、通常装備で行くつもりだ。

 だって炭坑大脱走の犯人が隣国にいたらやばいじゃん? 銃は戦闘中の混乱ならバレないだろうけど。


 昼食が終わり、後片づけやらなんやらでもたつき、やっぱり歩き出すまでに時間がかかる。

 これも行軍が遅い理由か。レーションもないから、スープなんかは時間がある朝と夜くらいにしか、たぶん出ないな。

 ってか水の樽が少ないと思ったら、魔族の男が樽に手をかざして水を満たしていたので、水は多く持たないで済むみたいだ。




 三十日後。色々な村や町から若い男を徴集しつつ、やっと国境線の砦が見える場所に来た。

 せめてもの救いは、事前におふれが出ていたのか、揉めなかった事だろう。けど、泣きながら奥さんと思われる女性や彼女、子供と別れる姿を見ると少しだけ心が痛むが、うらやましい……。

 なんかグリチネはドライなんだよなぁ……。そう思いつつ、腰のポーチに、ハンカチとピアスがある事を確認し、とりあえず安心する。


「どんどん人が集まってきたな」

「ルチルは一番国境線に近い街だからな、戦場に付く時間が早いのは当たり前だ」

 夕方になり、辺りを見回せば本当に三万人近くなっているし、大きな指揮官用のテントの周りには、重装備の兵士が沢山いる。ってか騎馬用の柵とか、穴掘らないの? なんか頭痛くなりそう。

「どうやって戦が始まるんだ?」

 不安になってきたので、グルダンさんに聞いてみる。

「今回は場所と時間を指定された戦いだからな。並んでからの突撃だろ。後は数と采配だろうな」

 頭いてぇ……。最悪数が多い方が勝つぞこれ。

「ただ、侵略されたとかだったら柵とか色々用意して、防衛とか色々準備はするぞ。穴掘ったり奇襲かけたり」

 一応防衛の方はちゃんとしているらしい。

「あぁ、わかった。で、いつ戦うんだ?」

「明日の太陽が真上に上った時だ」

 想像より下じゃなくて良かったわ。んー明日の午後か。弾が心配だから、今の内に装備変更しておくか。


 俺は端末をいじり、対物狙撃銃のマクミランと、自動小銃のHK416を装備し、グレネード枠にジャベリンを入れ、服装は茶色と黄土色の多いデジタル迷彩にし、銃の塗装も黄土色にする。もちろんドクロのフェイスマスクも忘れない。

 アクセサリーは、マクミランに可変スコープ、HK416にオープンドットサイト付きACOGとグレネードランチャーくらいだ。

「うお、なんだそりゃ」

「悪いな、あんな軽装じゃ戦えるはずがない。移動は軽い方がいいからな、現地で装備だ。グルダンだって防具は荷馬車に積んでただろ? 似たようなもんだ」

 移動中ずっと話していた奴が、いきなり胴体に二種類のマガジンポーチと、グレネードランチャーの弾を入れる場所、背中には銃という変な筒、ドクロのマスクに、土色の服になったらびっくりするよな。

「偵察してくる」

 それだけを言い、自動小銃を背中に回し、マクミランをもって兵士達の固まりから離れる。


 ちょうどいい場所がないので、適当に離れたらうつ伏せになる。

 胴体のマガジンポーチが邪魔だが仕方がない。スコープの倍率を最大にまで上げ、敵陣営を覗く。

 すると敵側も似たような雰囲気で、娼婦っぽい女性もいれば、商人みたいな人もいる。

 国境を越える時に入った砦は無事だが、左右にあった簡素な(やぐら)は壊されていた。高い場所をとれれば有利だからな。砦の中はどうなってるんだろうか? あの時は二国の兵士がいたがどうなったんだろうか? 俺が気にする事じゃないな。

 石レンガにどす黒いナニかがなかったから、戦争の知らせがあったら挨拶して逃げてればいいって、平和的憶測をしてみたい。


 向こうも豪華なテントに、重装備の兵士が沢山いるな。あそこを一気に潰したら終わるんじゃねぇの? 後で聞いてみるか。

 そう思いつつ、俺は装備をジャベリンに替え、一分後にかなり小さく見える豪華なテントに照準を合わせると、ロックオン完了のピーという電子音が鳴り響いた。

「あちゃー、狙えるのか。射程は二キロだからギリギリって感じかな?」

 そう思いつつ人の集団、地面付近を狙うと、ロックオンできた。

 対物って言うより、中のコンピュータが勝手にやってくれるのか。ゲームでも地面も狙えたし当たり前か。


 俺は豪華なテントに近づくが、重装備の兵士に阻まれた。お仕事ご苦労様です。ってかドクロの覆面してたら止められるよな。

「ルチルの関係者だ。領主のサイン入りの命令書もある。入れてくれないだろうか? いや、コレを渡すから確認を取ってきてくれないか? それで中の方達が良いと言ったら入れてくれ」

 そういって紙を渡し、重装備兵だか近衛兵は中に入っていった。

 そして直ぐに、初日に見た派手な奴が出てきて、紙を返してくれ、俺をテントの中に招き入れてくれた。


「いきなりの訪問ですまない。あと換気をしてくれ。タバコの煙は結構肺とかに毒なんだぜ? それとも虫除けに使ってるのか?」

 もう少しグチグチ言いたいけどな。十一月の金髪の人みたいに。

「おい、いったいこいつは何なんだ。叩き出せ」

 なんか一番偉そうな奴が叫んだ。こいつが総司令官? 階級はわからないが、ビスマスの首都から来たんだろうか?


「待って下さい。こいつは飛竜を一人で、しかも二撃で倒した男です。領主様より丁重に扱えとお達しなのです」

「「「なんだと!?」」」

 ルチルの偉い奴以外が驚いてるが、当てられなければ落とせないし、腕が良ければ頭を一撃で吹き飛ばせた。まぁ、俺の狙撃の腕が悪いんだけどな。

 テーブルを見ると、よく見た事のあるT字の駒みたいな物が色違いで二種類乗っている。兵棋(へいぎ)もあるんだな。布陣用かな?


「提案なんだが、聞くだけ聞いてくれるか?」

 テーブルに近づいて、敵だと思われる赤い駒をとって地図に置く。

「ここに国境線の小さな砦があるな? そしてここに敵のお偉いさんが沢山いるテントがあった。開戦直後に吹き飛ばす事が可能だが……。どうする?」

 ってか砦取り合わないの? 戦場が俺の考えてた場所と全然違うんだけど。

「馬鹿か、指揮官が一気にいなくなると、兵士が散り散りになって盗賊化する。この辺り一帯の治安が悪くなるぞ」

 そうか、よく考えたらそうだよな……。


「なら、一人一人指揮官らしい奴を適度に吹き飛ばし、指揮系統を混乱させるか? それとも適当に兵士の数を減らした方がいいのか? 俺は見ての通り戦術には詳しくない。誰か一人伝令をよこしてくれれば、その通りに動くが? 中央の最前列でもいいぞ?」

 わからなければ面倒だから、命令通りに動けばいい。ウェスに調子に乗って好きに動くとか言ってた自分を殴りたい。ってか恥ずかしい……。

「お前の役割に付いては追って知らせる。いったん席を外してくれ。馬鹿みたいな火力が一人いると、戦況が読みにくくなる」

「……そうだな。すまなかった」

 ビスマスの偉い奴に言われたので、テントを出ることにした。戦争は簡単じゃないな……。

 あと、戦争を終わらせるのも簡単じゃないみたいだ。


 仕方がないのでグルダンさんの所に戻り、毛布を敷いて銃を置いてから寝転がる。

「で、偵察はどうだったよ」

「あ? 全然だ。こっちと同じで、お偉いさんが集まってるテントができてたくらいだな」

「だろうな。戦場と兵士は生き物だ、時間で動きが変わる。その時にならねぇと、どうにもならねぇ」

「そうだな。クソ偉い奴にも言われた。けどなぁ……。伏兵を隠せそうな山や森もなければ、戦況に関わりそうな川もねぇ。本当に平地だけ。泥沼化しそうだ。頭の切れる奴はいるかな? いれば戦闘は簡単だろうな。あとはそれを実行できるだけの練度だな」

 それだけを言ってあくびをして目を瞑る。

「夕食になったら起こしてくれ」

「あいよ、今日もこっちで食うか?」

「そうだな。なんかへんな目で見られながら飯は食いたくねぇな。ごちそうになる」


 二時間ぐらい眠っていたのか、辺りはもう薄暗く、篝火が焚かれていて、いい匂いが漂っていた。

「飯か……」

「あぁ、そろそろだ。ちょうど良い時に起きたな。まぁ飲めよ」

「いただきます」

 寝起きなのに、出された酒を断れずに飲む事にする。ご相伴に預かるのに、断る事は俺にはできない。

「ふう……飲みやすいな。知ってると思うが、酒はあまり飲まないようにしているんだ。悪いな。適当に水に変えてくれ」

「なんだよ。せっかくお前と飲めると思ってたのによ」

「明日二日酔いで戦争する勇気はなくてな」

「飲まなきゃやってられねぇぞ?」

「その感情は、クズ達を始末した時に味わってる。酒は戦争が終わってから、ゆっくり楽しもうぜ。生きてたらだけどな」

「だな。で、そのクズを始末した話を聞かせてくれよ」

「俺の飯が終わったらな。村を襲った盗賊を一掃する話だ」

 それだけを言って、志気を上げるためか、具沢山のスープや柔らかいパンが出た。コレを作ったのは傭兵に雇われてる女性達だろうか? 嫁がいたり娼婦がいたりと、傭兵団ってのはけっこう歩く村みたいなイメージがあるからな。ベル○ルクで読んだ。

 その後は約束通り、例の村の件を話したら全員が聞き入っていた。



「おいおい、いくら何でも吹きすぎじゃねぇのか? もう少し慈悲ってもんがあるだろう」

「まぁ、やりすぎたとは思ってるさ。次があったら気をつける。こんなほら吹きの話しを聞いてても、おもしろくはないだろ?」

「これはこれでおもしれぇぞ? んじゃ俺は女買ってくるわ。下手したら明日死んでるかもしれねぇからな」

「あぁ、悔いのないように楽しんできてくれ。俺は寝てる」

「おいおい、酒も女も賭もやらねぇ。お前は何が楽しくて生きてんだ?」

「俺でもわからねぇよ。きっと、生きるのが楽しいんじゃないか?」

 それだけを言って毛布にくるまり、借りたピアスを指で転がした。

「会えるのは戦争が終わってから三十日後か。お互いに無事ならいいが……」

 そう、誰にも聞かれないように呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ