表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/72

第10話 夢のドラゴンステーキ

9話が三部構成になったので、10話は1話構成です

「おはよう」

 翌日、目を覚ますと隣にグリチネが気だるそうに、寝転がって挨拶をしてきた。

 二人きりの時くらいは呼び捨てにしてくれと昨晩言われた。ってか寝たのが、空がうっすらと明るくなった頃だったので、時間的には午前九時を過ぎている。確実に寝不足だ。

「おはよう」

「さすがに寝過ごしたわ……。宿泊客が他にいないからいいけど……」

 そう言いながら、サイドテーブルの水を飲んでから、タバコに手を伸ばし一服していた。

「あぁ、こりゃ確かに宿泊客がいたら無理だ。朝食が他の客に提供できねぇ。ってかそろそろギルドも空き始める頃だな」

 俺も外を見て、空き始める時間なので事実を言う。ってかもう一つの意味でも、宿泊客がいたら無理だったな。

「もうそんな時間なの? ちょっと早めの昼食作ってくるわ。朝食と一緒でいいでしょ?」

「あぁ。問題ねぇよ」

 そう言うと、ベッドから下りて着替えている。んー。裸を見るのもいいけど、着替えを見るのも良いもんだ。よし俺も着替えよう……。


 着替えて一階に下りると、もう野菜を切り始めていた。色々と早いなー。女性の朝って時間かかるものだと思っていたが、化粧が必要ないからだろうか? むしろ化粧品をもっているのだろうか?

 そう考えていたら、熱々のお茶が出てきた。沸かしたてのお湯で淹れたのか……。少し冷まそう。

「今日くらいのんびりしないか?」

「残念。こんな店でも、昼食を食べに来てくれるお得意様がいるのよ」

「そうだったな……。よく見かける奴がいるもんな。半分は俺のせいだ。何か手伝える事はあるかい?」

「図体がデカいんだから、調理場では邪魔ねぇ……。掃除かしら?」

「わかった、テーブルと床を拭いておく」


 グリチネが昼食を作り終わり、冷め切ったお茶を飲んでいたが……。

「だるいわぁ……。まさかこの歳で朝までとは思わなかったわー」

「俺もだ。数回で終わるかと思ったら、まさか朝までとは……」

 昨晩発覚したが、グリチネの祖母が夢魔族と言われてる魔族だとは思わなかった。

 どういう魔族か聞いてみたが、有名なエルフに負けないくらい綺麗所が多いそうだ。変わった見た目のもいるらしいが。ちなみに夜の技術や魔法がすごい魔族らしい。

 混ざり物と言われてたかが、髪の色が金髪じゃないのも納得だ。

 テーブルに突っ伏しながらカップを握り、無駄に変で意味のない声を出す。

「本当にだるい……。盛ったガキみたいになるとは」

「ごめん、夜用の魔法を使った。あ、勘違いしないで? ベッドに入ってから使ったから、誘惑系じゃないわよ」

 グリチネも火のついた煙草を指に挟みながら、自分の二の腕を枕にしてだるそうにしている。

「どおりで……。なんであんなに出るのか不思議だったんだよ……」

「だから悪かったって。久しぶりだったから加減を間違えたのよ」

 こんな会話が、昼食を食べに来たお客が来るまで続いた。


「これ、三番テーブル」

「あいよ」

「ごっついあんちゃん。日替わり定食二つ」

「承りました! 五番テーブル日替わり二つ」

「はいよ」

 お互いにだるいって事で、二人で一人前と言う事にして、今日は一日手伝う事にした。


 昼食の客が捌け、二人でテーブルで突っ伏している。

「もうあの魔法使わない……絶対に使わない」

「後悔先に立たずだぜー。ってか練習してほどほどにすればいい」

「その為に、毎回こうなるのは辛いわよ?」

「あー。確かに。そういえば業者の方は、荷物を届ける奴を新しく雇ったのか?」

「雇ったらしいわよ。だから買い出しはしないでも食材は届くわ――」

 グリチネはそれだけを言うと、寝息を立てている。落ちたって言った方が近いな。俺も少し寝よう……。


 ドアが開く音で目が覚め、少し目を細めてドアの方を見るとウェスが立っていた。

 俺は体を上げると、ウェスは何も言わずに同じテーブル席に座った。

「何の用だ。場合によっちゃ叩き出すぞ?」

 その声でグリチネが、体をビクリと震わせて目を覚ました。

「……あぁ、昨日の話にあった公爵の犬ね。最近は結構直接呼びに来るわよね」

 眠そうにしながらも、しっかりと言葉に毒を混ぜている。そりゃ自分が狙われてると知ったら、グリチネでもそれくらいは言うらしい。

「今更言葉で取り繕う事はしない。ただ、昨日の事を謝りに来た。すまなかった。それと、約束の依頼料だ」

 ウェスはそう謝罪して、テーブルに金貨を一枚置いて立ち上がった。

 依頼料は冗談だったんだけどな……。


「失った物と信用はデカいが、世の中には敵にしちゃいけない相手と、地位や権力に屈しない奴もいると学んだだろう。主も良い勉強にはなったと思う。また何かあったら、呼び出し以外の仕事を頼ませてもらう。防衛戦力が昨日のアレで半分以上が死んだからな」

「昨日の今日でよく俺に依頼を頼むとか言えるな。まぁ安心しろ。お前への信用はまだ落ちちゃいない。ただ、ここが狙われたら今度こそ覚悟しておくんだな。公爵も昨日のアレで身に染みただろ。それと相談料は冗談だよ」

「なら迷惑料だ」

 俺の言葉にウェスは、一言だけ言って立ち去って行った。


「まだ依頼を受ける気でいるの?」

「あぁ、別にあいつには恨みはないからな。恨みがあるのは飼い主の方だ。あいつはグリチネを殺してこいって命令に逆らい続けたからな。一時的な感情で動きはしない。俺っておもちゃが手に入れられなかった飼い主が、馬鹿やっただけさ」

「なら次は城落としね」

「暗殺の方が楽だな」

 お互いが鼻で笑い、夕方の営業もどうにかしてこなし、今日は何もせずに同じベッドで寝る事にした。



 翌日、いつも通りに目を覚まし、朝食を食べてからギルドに向かうが、ちょっとだけ公爵の城が気になったので足を延ばしてみる。どうせ早く行っても空くまで待つからな。

 城の前に行くと大勢の人が作業をしており、石レンガを分けていた。使える物と使えない物だろうか? それと、跳ね橋と盾の所には大きな布が垂れ下がっていて、入り口がある堀には板がかけられていた。

 復旧には時間がかかりそうだな。俺はニヤニヤしながらギルドに向かい、掲示板の情報を見て飛竜の解体って文字を見て吹き出しそうになった。

 あんな生ゴミが庭にあったら邪魔だよな。鱗は色々な物に利用できそうだからいいとして、内蔵とか肉だよな。食べられるならいいけど、食べられないならどうやって処理するんだろうか? 街の外に捨てる?

 なんか疫病が流行りそう……。庭先で燃やせねぇしな。もしかして、処理の人件費で治療費やインフラ整備、寄付とかできない? あーやっちまった。まぁ、家が破壊されるよりマシだろ。



 討伐を終わらせ宿屋に帰る途中で、飛竜の肉って急造された看板を何個も見た。どうも肉は食えるらしい。灰汁が強そう……。血抜きとかあまりしなさそう出来なさそうしてなさそうだし。

 そして宿屋に帰ると、ここにも飛竜の肉と書かれていた。こいつは覚悟を決めるしかなさそうだ。

「ただいま戻りました」

「おかえり」

 テーブルを見ると、分厚いステーキ風の肉が乗っているテーブルしかない。

 いつも通り風呂に行き、帰って来て席に座ると、ビールと共に分厚い肉が出てきた。

「悪いけど、最低一枚がノルマよ」

「お、おう……」

 とりあえず見た目だが、焼いた牛肉のように焦げ茶色だ。ナイフで切った時の感じだが妙に繊維質で食感は柔らかい鳥だ。ワニとかって鳥と遠い親戚で、見た目がアレだが味は鶏肉にそっくりとか聞いた事はある。

 だから空飛ぶワニっぽい飛竜も、肉質や味は鶏肉みたいなんだろうか?

 臭いはあまり感じないが、妙に食べやすいのが気になる。まぁ視覚と味と食感が一致しない食べ物なので、不思議な感じだ。

 不味くはないが、酒を飲むから味は濃いめの方が美味い気がする。けど普通に食べるならちょうど良い。


「ごちそうさま」

 とりあえずお代わりをして、一応ノルマよりは多めに食べ終わらせた。俺は食器をカウンターに戻し、部屋でゆっくりしようと思ったが、ホールに立つことにした。

「お? あんちゃん。財布でも忘れたか?」

「ここの部屋を借りてるだけですよ。忙しそうなんで、狩りから戻ってきて、風呂で体を綺麗にしてから飯食って、手伝いをする気十分って奴です」

「お世話になってるから恩返し。そう言うの嫌いじゃないぜ。って事で麦酒と飛竜ステーキお代わりだ」

「承りました! 二番テーブルに麦酒と飛竜ステーキ」

「はいよー。これ五番ね」

 まぁ、肉体関係結んじゃったから、忙しいのに部屋でゴロゴロするのに抵抗があるだけです……。


「はぁ。今日も捌けた。ちょっと外に看板かけてきてー」

「あいよ」

 俺はドアに閉店と書いてある釣り看板を引っかけ、ランプの明かりも消して中に戻った。

「おつかれ。余り物の飛竜の肉でも焼く?」

「この歳だと胃にくるんだ。水でいい」

 そう言うとグリチネは水を目の前に置いてくれた。

「まさか飛竜が不味くないって事に驚いたぜ。食っても癖が強いもんだと思ってた」

「なに。飛竜は初めて? 珍しいわね」

「まぁな、鳥みたいな味で結構美味かった」

「近所で討伐されると、腐る前にその近所の町や村で消費するのが暗黙の了解ね。捌き切れそうにないなら、塩コショウしてから干し肉にする。捨てる場所は内蔵の一部くらいね。問題をあげるとしたら、腐りやすいから捨て値で売られて、調理して売ったとしても調味料代と手間賃くらい。最悪各家庭に配られて、一時的に肉屋が泣くわね」

 街の食料問題が一気に解決して、保存食までできるのか。骨と鱗は工芸品とか防具になるのかな?

「肉屋に悪い事しちまったな」

「スラムの欠食児と孤児院が諸手を上げて喜ぶから、私としては問題ないわね。どちらかと言えば、いい場所のお肉以外はそういう場所優先で配るし」

「肉屋以外は結構良い事だらけか。配れるくらい安いし、不味くないし食べれる場所は多いし」

 国外産の肉みたいな位置付けだな。

「で、後何日くらい肉を食えばいいんだ?」

「この街は結構人が多いから、今日で終わりよ。まぁ昼と夜で食べた人は多いんじゃないかしら?」

「昼間は街を離れてて助かったぜ」

 結構胃にくるし……。

10万文字超えたから、この話で公開する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ