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第9話 飛竜と引き抜きと 前編

 あの後に俺は仕事を十日ほど休んだ。なんか気分が乗らなかったからだ。その後は、ギルドの掲示板の残り物の魔物狩りの告知を読んで、狩りに出かけるというのを繰り返す。

 あれからヒョロイ男が俺の隣に座る事はなくなったが、いつ来るかがわからないのが辛い。


 ギルドの掲示板で日帰りできる狩場情報を見て、またオークが増えていると情報があったので森に向かおうとするが、幌のない馬車で大きな卵を運んでいる奴等を見かけた。二十人以上のパーティーか。ずいぶん多いな。

 ってか成人男性の胴体くらいあるぞ。何の卵なんだろうと思いつつ、その日は何の問題もなく狩りから帰ってきたらなんか街が騒がしい。

 とある大富豪の商人が私的に冒険者を雇い、飛竜の卵を持ち帰らせたという話で持ち切りだった。


 飛竜……ねぇ……。あんな卵を産むんだから、かなりでかいんだろうなぁ。

「戻りました」

「おかえり。噂話は聞いてるかい?」

 宿に帰って早々そんな話をされた。

「あぁ、飛竜の卵の件だろう? 狩りに行く前にすれ違った。ちょうど俺の胴体くらいの大きさだったな」

 俺は自分の体を指さし、その後に楕円形っぽい形を手で作りながらエアろくろで説明。

「それは大きいわね……。なんでも大商人の娘さんが病気で、色々薬の材料を集めているらしいわね」

「どこの世でも、親は子供がかわいいからな」

「そうね。霊薬や秘薬とは言わないけれど、結構高価な材料を糸目をつけずに集めてるらしいわね」

「普通の料理を高級食材で作るみたいに、ポーションの材料とかを凄い材料で作るんじゃねぇのか?」

「実際ポーションを作るのに、何を使ってるかわからないけどね」

 グリチネさんは腕を組んで、渋い顔をしながら首をひねっている

「俺も薬草採取の仕事やってねぇからわからねぇな。まぁ薬草と何かを混ぜるんだろう。多分。んじゃ風呂に行ってくるわ」

「気を付けてー」

 俺はいつものように風呂に行き、その後に夕食を食べつつビールを飲み、一日のスイッチを切り替えてから寝た。



 早朝のまだ薄暗い中、布を引き裂くような音で目が覚め、二度寝をするのも何なので早めに起きる。

「おはよう。早すぎるが朝食を頼めるか?」

「少し待ってて。今作るから」

 俺は裏庭に出て、壷に入っている水を桶に汲み、顔と歯を洗ってからカウンター席に着き朝食を待つ。

「そういえば、さっきの変な音ってなんだか知ってる?」

「いや、知らねぇな。俺もそれで目を覚ました」

「そう、はい。いつもの朝食」

「あぁ、今日もいつも通り美味そうな朝食だ。いただきます」

 早速焼きたてのパンにかぶりつき、ベーコンにフォークを刺して噛みちぎってから飲み込む。うん、分厚いベーコンはいつ食べても美味いな。保存食だからものすごくしょっぱいけど。

「そしてお茶。コレもいつも通り……。熱いのは飲めないんでしょ? いつも冷ましてるし、早めに淹れておいたわよ」

「ありがたい」

 俺がお茶を一口啜ると、グリチネさんもカウンターの向こうで同じ物を食べ始めた。

 同じ物を作った方が手間が掛からないからな。多分一緒に朝食を食べる事にしたんだろう。

 朝食を食べ終わらせ、お茶を飲みながら久しぶりにゆったりとした時間が過ぎる。

 冒険者ギルドが開くまでまだ時間がある。特に会話はないが、空間の雰囲気はいい感じだ。グリチネさんも食器を洗い終わらせ、ゆっくりと煙草を吸っている。クールスモーキングって奴だろうか? ゆっくり吸った方がおいしいとか聞いた事があるし。

 まぁ、こういうのも悪くはない。


「けどさっきから鳴ってる、布を裂くような音は何なんだろうな?」

「さぁ。遠そうだからウチには関係ないわよ。近くで火事だったら慌てるけど」

「そりゃそうだ。誰も死にたくはねぇからな」

 お互いに鼻で笑い、二杯目のお茶を啜るとドアが勢いよく開いた。はぁ……なんでヒョロイ男がここに来るんだよ。

「悪いけど、朝食は宿泊客だけだよ」

「食事ではない。そちらの男に話がある、ここか、外か。今すぐ選べ」

 なんか必死すぎるな……。何があったんだろうか?

「外だ」

 俺は舌打ちをして、ヒョロイ男が開けたままのドアから外に出る。


「飛竜だ。お前の力を借りたい。大至急だ!」

 ヒョロイ男が空を指さした。

「断る」

 だけど俺は上を見ずに即答した。

「なぜだ! お前は金で動くんだろう!? 今すぐ訳を話せ!」

 こいつが、こんなに慌ててるのは初めて見るな。

「他人の尻拭いを俺にしろって言うのか? 噂は耳に入ってる。どこかの商人が病気の娘の為に薬の材料を集めてるってな。現に昨日の朝に、馬車の荷台に大きな卵が乗ってるのを見た。多分あれが噂の飛竜の卵だと俺は思ってる。そして飛竜を殺さないで卵だけ取ってきたんだろうってな――」

 そして俺は上を見る。かなり低い場所を飛んでいるのか、飛竜の姿がはっきりと見える。

「その結果がコレだろ? まずはその卵を持ってきた奴等に頼むんだな。奴を殺せ……と。どうせギルドを通してない、私用で雇った奴等だから調べるより、俺の方が早いと判断した。違うか? 商人の屋敷に入れてもらえればいいな。にしても……、子供を思う親の気持ちは、魔物も人間もかわらねぇな。奴が火を吹かねぇ事だけ祈るぜ、この辺一帯が火の海になったら困るからな」

「貴様! 街の危機なんだぞ!」

「俺の街じゃねぇよ、それに俺のせいでもねぇ」

 俺はそれだけを言って宿の中に戻った。


「今日は出かけねぇ方がいいぜ、この音の正体は飛竜の鳴き声だ。そろそろ慌ただしくなるだろうな」

「で、あの男はあんたに何だって?」

「討伐依頼。グリチネさんと一緒で、ギルドを通さないお仕事って奴さ」

「あんたはこう見えて結構凄そうな魔法使いだからねぇ。しかも上昇志向がないから、その日暮らしの金さえあればランクが低くてもいい。だからギルドを通しての徴収も難しいってやつね。面白い事になってるわねぇ」

 グリチネさんは煙草をくわえて火をつけた。相変わらず動きが自然すぎるし、慌てる様子もない。

「で、勝率は?」

「わからねぇなぁ……。あんなに早く飛ばれたら当てられる物も当てられない。防壁の上で迎え撃とうとしてる奴等と、戦闘をする為に飛竜が降りてきたなら当てられるかもな」

「ふーん。まぁ兵士にやらせればいいんじゃない? あんたに死なれると私が困る。長期宿泊客がいなくなるからねぇ」

 グリチネさんは笑いながら、嘘だとわかるような雰囲気で冗談を言ってきた。

「ちげぇねぇ。宿泊客なんか滅多にいねぇからな」

 俺もその冗談にのってみたら、グリチネさんが苦笑いをしている。


 けど、やり合うとしたら大口径の銃か、対航空機に使えるスティンガーミサイルとか、ジャベリンが生物にロックオンできるだろうか? 最悪狙いを定めて撃つだけの、単純構造のロケット弾で攻めるしかないなぁ……。

 周りの被害? 放っておいたらもっと被害が増えるから、コラテラルダメージってやつか? ってか使い方あってる?

 まぁ、やるだけやってみてもいいかもしれない。

「出かけてくる」

「依頼は断ったんじゃなかったの?」

「あいつの依頼はな……。ただ個人的にヤってみたくなっただけさ」

「男って馬鹿ねぇ……。素直に街を無償で救うとか言ったら?」

 グリチネさんは煙草の煙を吐きながら、カウンターに頬杖をついて、にやけながら悪ガキを見るような目でこっちを見ている。

「男は子供のままデカくなった奴が多いんだぜ?」

 俺はカップに残っている温くなったお茶を一気に飲み干し、そのまま店を出た。

 さて……。ノープランだが――。教会に鐘があったな、貸してもらえれば万々歳だ。



 俺は下級区の教会に入り、正面にいるマッチョの半裸で剣と盾を持った神様を見てると、シスターがやってきた。

「このような時にお祈りとは、とても信仰深いのですね」

「すまないが無神論者だ。鐘楼まで上らせてくれるとありがたいんだが」

「何をするかは聞きませんが、鐘を鳴らさなければいいでしょう。飛竜を引きつけられては困りますので」

「あぁ、安心してくれ。ただの高みの見物だ。一般人が何かできる訳がない」

 そう言って鐘楼まで案内してもらい飛竜を見る。

 高い建物が教会の鐘楼くらいだから、街が簡単に見渡せるな。

「恐ろしいですね。あのような魔物が街を襲うだなんて……」

「噂くらい耳に入ってるんだろう? これは人災だ」

「それはそうですが……」

 二人でしばらく飛竜を見ていたが、シスターは恐ろしいと言って下に戻っていった。

 さて、結構遠いな……。外壁に行くべきだったか?

 俺は腕の端末を操作し、対物狙撃銃のダネルNTW-20と、軽機関銃のMG4を選択し、UAV一式を組み立てて、軽機関銃とC4をくっつけて飛ばした。


 ある一定の場所を飛竜はクルクルと旋回し、時々空中でホバリングしているのが見える。卵の位置がわかっているかの様な動きだ。上級区の上空で旋回してるし、あれが商人の家なんだろうな。

 カメラをズームすると、庭先に人が集まっており飛竜に矢を放っていた。

 何本か刺さっていたが、飛竜が地面に下りて尻尾を振るって、庭先に出ていた人を吹き飛ばしていた。質量があるだけで脅威だな。

 けど周りに人がいない。庭先に飛竜がいる。これってチャンスじゃね?

 俺は端末の中央に飛竜を持ってきて、指でトンッと一回触れると、画面が少しだけブレ、飛竜が暴れまわっているのが見える。

 そしてブレが収まったら、二秒ほど画面を押し軽機関銃を連射で使う。そうしたら痛さで飛び上がって、真上に飛んで来たのでUAVを下降させて、接触させてC4と一緒に自爆させると、叫び声をあげてるような声がここまで聞こえた。多分背中にでもあたったんだろう。


 そして飛び上がってきた飛竜を撃つのに選んだダネルだが、前に使ったマクミランってやつの弾よりさらに大きい。なんてったって二十ミリメートルだ。前に使った弾より七ミリメートルも大きい。それだけ高火力ってな訳だ。

 ゲームでは、壁や航空機をメインに狙うが、人に当てれば胴体から上は即死、足や手だった場合は、謎の薬を使わないと復帰できない。

 けど一発撃ったら、排莢の為にボルトを上げてから引いて、薬莢が出てきたら、まだ撃ってない弾をそこに入れてボルトを戻すという、かなり面倒くさい仕様になっている。

 別なモデルもあるが、これは弾が三発しかマガジンに入らない。それだけ弾が大きいって事だ。

 ちなみに重すぎて、かなりの移動速度制限がかかるし、対戦中に一回も撃った事がない。

 ストーリーモードも壁越しの狙撃に使うだけ。持ち運びもしない。けど対戦では使える。

 ストーリーで出したから、データ的にもったいないってスタッフの暴露話であったし、このゲーム会社は結構はっちゃける事が多い。だから世界観をぶち壊す物も多く存在する。

 けどこの銃も本当にぶっ飛んでいる。ってかこの銃を作った奴がぶっ飛んでる。なんてったって、戦闘機で使う弾を人が撃とうって考えなんだからな。


 さて、このクソ重い銃を鐘楼の手すりに乗せて、ズボンのポケットから弾を取り出して入れるが、重くて違和感しかない……。しかも時間がたてば増えるから、ポケットがパンパンだし、手すりが重さでメキメキと悲鳴を上げている。リアル世界でこの銃は二十六キロらしいが、ゲーム中では移動速度低下としか出ない。

 俺は空中でホバリングしている飛竜に照準を合わせ、頭の辺りを狙う事にした。どうせ大きいから、弾が落ちても胴体には当たるだろうって考えだ。

 息を大きく吸って全て吐ききってから、ゆっくりと引き金を引くと、近所に雷が落ちたんじゃないかという音が鳴り響き、吊ってある鐘が音の振動で微かに鳴っている。

「どんだけでかい音なんだよ……」

 けど飛竜の胴体に大穴が開いており、俺は急いで次弾を装填し、よろよろと飛んでいる飛竜にもう一発打ち込み、そのままスコープを覗いていたら先ほどの家の庭に落ちた。

 ボルトをコッキングして次弾を装填しておき、しばらく様子を見ていたが、飛んでくる気配がないので多分どうにかなってるんだろう。しばらく同じ場所を覗いているが五分ほど経っても飛竜の姿が見えない。

 多分死んだんだろう。そしてそのままスコープ越しに外壁を見るが、バリスタを押している兵士の姿が見えた。

「遅いな……見張りが気が付いたら速攻で準備するんじゃねぇの? 練度が足りないのか見張りがさぼってたかだな。早朝だったし立ったまま寝てたのか? けど飛竜の叫び声が聞こえたから、熟睡してなければ気がつくよなぁ……。まぁいいか。帰ろう」

 俺は装備を元に戻し、シスターに挨拶をして、入り口にある寄付を入れる皿みたいな所に銀貨を入れておいた。

緩い銃説明


ダネルNTW-20 より遠くを狙えるように考えられた狙撃銃。作った国が平原が多いから、見つからない遠くから狙おうって理由から作られた。

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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