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第6話 なんか恨みを向けられてる 後編

 俺はいつも通り目を覚まし、最後の見張りだったのか、ダイダロスさんに挨拶をし、水は名目上貴重なので顔を洗わずに焚火に当たる事にした。

「昨日はベリィが悪かったな」

「……気にしてない」

 鍋で温まっていたお茶を貰い、茶を啜るが滅茶苦茶熱かった。

「なぁ、あんまりお互いの事を聞きすぎるのはマナー違反てのはわかってるが、昨日のあの武器は何なんだ? どういう仕組みなんだ」

「……魔法で鉄の塊を飛ばしてる」

 このくらいの情報なら、多分問題ないだろう。

「魔法武器か……」

「そう思っててくれ」

「誰にでも使えるのか?」

「さぁな……」

 実際にゲーム内で弾がなくなったら、その辺に落ちてる銃を拾って撃つ事はあるから、誰にでも撃てると思う。試してみるか。


「ほらよ。あそこの木に向かって、この曲がった部分に指をかけて手前に引っ張ってみろ」

 俺は気になったので銃を渡し、木を指さした。

「おもっ!」

 まぁ、ドミニオンズさんのショートソードくらいの重さだしな。平均的なショートソードだけど、材質が鉄とかじゃなかったらわかんないな。


「先っぽにある一本の棒の丸い白点と、持ち手側にある二本棒の丸い白点が重なるようにして覗き込み、点が三つ揃うようにすれば、真っすぐになってる証拠だ。そうなったらゆっくりと指を手前に引け。そうすると反動が来るから手首や肩を痛めるなよ」

 ダイダロスさんは片手を伸ばし、片目になって覗き込むようにしながら引き金を引くが、撃鉄が落ちただけで、弾は出なかった。

 おかしいな、昨日薬室内に弾を入れたままだったんだけどな。


「もしかしたらだが……、俺以外は使えねぇかもしれねぇ。ちょっと返してみろ。先っぽを俺に向けるなよ? さっき俺が渡したようにして返せよ?」

 銃を返してもらい、スライドを半分引くと弾は装填されている。安全装置はかかっていない。

 俺は一応撃鉄を起こしてからいつも通りに両手で銃を構え、木に向かって引き金を引くと、撃鉄が落ちて減音された音と共に弾は出た。

「……っかしいな。しっかり使えるし、本来はこのままもう一回指を引けば使えるはずだ」

 そう言ってもう一度銃を撃ってから渡すが、撃鉄が落ちただけで弾は出なかった。


「すまねぇ。やっぱり俺にしか使えねぇみたいだ」

「気にしないでくれ。すげぇ武器だから気になっただけだ。聖剣魔剣の類は、一度持ち主を決めると、そいつが死ぬまで他の奴では真価を発揮しないって噂もある、多分それだろうな」

「そうか、多分それだな」

 一応話は合わせておく。


 これで銃が奪われても、使われない事がわかった。俺はもう一度引き金を引き、弾が出る事を確認して、マガジンを交換してからホルスターに戻した。が、サプレッサーを付けていたのに、皆が起きてしまった。

 本当にすみません……。


 そして朝食の準備は、またダイダロスさんがしてくれたので、ありがたくいただく事にする。

 ってか、女性陣は食事を作らないんだろうか? 外の粗野な料理は男担当なんだろうか? まぁ、口出しする事はしないし、得意なら任せるに限るし、出された食事はありがたく頂く。俺も一人暮らしが長いから出来なくはないが、期待しないで欲しい。

 包丁は人並みに使えると思うけど、こんな状況での料理は経験がないからな。十日くらいパンと干し肉、ドライフルーツだけでどうにかなるわけじゃないし、水もある。

 料理を提供してくれるだけありがたいと思わないとな。



 翌日は特に魔物と逢う事もなく、目的地に着き、一時間ほど休憩を挟んでから、四人は本格的な戦闘準備を整えている。

「皆、足元に気を付けて行こう!」

 ドミニオンズさんが沼地なので注意を促し、その辺を歩きはじめた。せめてマシな場所を選びながら歩いてくれ。直線で歩くな……。

 俺はダッフルバッグを背負ってはいるが、水場があるので水袋の中の水を全て捨て、多少軽くなった荷物を背負ってるので、かなり注意して後ろをついて行くが、足首まで靴が埋まる。


 無理矢理足を抜こうとすると、抜こうとしたところが真空状態になって、靴だけ抜けそうになる。一応ミリタリーブーツというか、コンバットブーツで紐がスネ辺りまである奴だから平気だけど、目の前を歩いている女性陣は移動に苦戦している。

 もう少し乾いてる所か、草があって沈みにくそうな場所を選べばいいのに。

「なぁ、一応聞いておくが、ここへの討伐経験はあるのか?」

「ありますよ。何回も来ていますので、この状態でも問題はありません」

 ドミニオンズさんが答え、そう言ったのでそれ以上の追及はしなかった。



 少し歩き森の深いところまで行くが、白骨化した遺体や動物の骨が見える。破傷風とか雑菌が気になるな。不衛生すぎるから確かにある意味毒の沼って感じで感染症待ったなしだな。

「きゃ!」

 そんな事を思っていたら、キウィさんが転びそうになったので、リュックを掴んで支えてやった。

「ありがとうございます」

「気にすんな。泥まみれだとやる気にかかわる。それに、こういう場所だと軽い切り傷でも、傷の治りが遅くなる場合があるから気をつけろ。周りの警戒も大切だが、足元も疎かにすんな」

 あの状態でダイブか手を付いて、何か刺さったら大変だし。ってかポーションとか存在するけど、使った事がないからな。効果ってどうなん? って思う。今度怪我したら使ってみようと思う。

 ってか俺が助けたり何かするだけで、ベリィが睨んでくる。やっぱり恨まれてるな。まぁいい、数日耐えればあとは帰るだけだ。



 しばらく後ろを気にしながら歩いていたら、前方の遠くにトカゲっぽいのが二匹見える。あれがリザードマンだろうか?

 全員が気が付いてるのか、戦闘態勢になっている。まぁ、俺は見学だけど。

 ダイダロスさんが弓を放ち、先制攻撃を仕掛けている。

 足元を見ると、足首まで埋まるくらいの泥。そして走ってくるリザードマンを見ると、なんか泥の上をすべるように走っている。足の構造が違うんだろうか? それに死体から奪ったのか、赤茶色の錆びだらけの剣や槍を持っている。

 武器を持つ頭脳はあるらしい。


 一匹は腹に矢が刺さったまま走ってくるし、痛みに強いか、刺さってる場所は特に動きに阻害されない場所なのか……。俺だったら、もう少し足元がいい場所で先制攻撃を仕掛けるか、引くか釣る方を選ぶけどな。

 やっぱり鱗がない腹は柔らかいんだろうか?

 そんな事を思いながら戦闘を見ていたが、リザードマンが近づいてくる間に、ダイダロスさんができるだけ矢を撃ち込み、ドミニオンズさんが盾になりつつ攻撃を加え、キウィさんが魔法で援護って感じで、ベリィが本当に何かあった時の感じか……。攻撃魔法とかも使えるのかどうかわからないが、マジックポイント的な物を温存してるんだろうか?

 それとリザードマンの足の速い理由は、足の指がかなり開いていて、水掻きみたいな膜があった。多分あれが泥にあまり沈まない構造なんだろうな。


 リザードマンの討伐部位は腕の爪と、長くなってる犬歯と聞いたので、ナイフで切り落としたり、歯の付け根をナイフの柄で殴ったりして折って袋に入れた。

 たまに泥沼から腐乱死体が立ち上がったかと思ったらゾンビだったり、ついでにスケルトンが起き上がったりで、ゾンビゲーとかでストレス発散してた事もあるから、撃ちたくなってウズウズしたが、剣で簡単に切ったり折ったりしていた。やっぱりもろいんだな。


 ってかスケルトンの討伐部位って下顎だった。この顎は何かに加工できるんだろうか? ゾンビは親指の黄色く濁った爪だし……。

 加工できないなら、こういう風に小さいのにして欲しいなぁ。頭の中で愚痴りながら、袋別にして、討伐部位を入れる。

 それと冒険者カードがあれば、捜索願が出てれば金一封的な物が出たりするらしい。まぁ、その死体を漁るのは俺なんだけどな。嫌になるぜ……。

 そしてレアモンスターじゃないが、極稀に獣肉を求めてサハギンが出るらしい。本来は池とか海にいるらしいが、こういう沼地にも遠出に来ると言っていた。こっちは本来おまけらしいので、ほとんどいない。

 が、なんかリザードマンとかとは違い、槍を持った鱗とヒレの主張の激しい奴は五匹ほどウロウロしている。多分今のメンバーだと危険だろうな……数的に。


「みんな、聞いてくれ……。このまま前を向いて、ゆっくり後ろに下がって物陰に隠れろ……」

 ドミニオンズさんが緊張した声で静かに言い、全員がゆっくりと下がる。皆も同じ考えなんだろうな。

 そして、少し離れてそろそろ物陰に入れると思った瞬間。

「キャッ!」

 そんな声と共にベリィが盛大に尻もちをついて転び、泥沼に腰の少し下くらいまで埋まっている。

 全員が何かをあきらめたような顔になり、正面方向を見るとサハギン達がこちらに走ってきている。

 三人が臨戦態勢に入り俺は何気ない顔で、フラググレネードの場所を確認しながら急いでベリィに手を差し出す。


「スピナさん、ベリィを!」

「今やってる!」

 そして差し出した手をベリィに弾かれたので、睨みつけながら胸倉をつかんで無理矢理立たせ、フラググレネードのピンを抜いてアンダースローで、走ってくる速度や距離を目で測り、約十メートルの所に投げる。

「物陰に隠れろ! 爆発する!」

 そしてベリィを物陰に突き飛ばし、俺も物陰に急いで隠れる。投げてから四秒後に手榴弾が爆発し、取りあえず自動拳銃を抜いて木の陰からチラ見したら、サハギンが二匹倒れていた。ある程度狙い通りか。

 一番奥だった一匹は、前の奴が盾になったのか無傷だが、残りの二匹は血だらけで、よろよろと歩いている。


「い、行くぞダイダロス!」

「お、おう!」

 そして二人が飛び出す頃には、元気な奴が一匹だけ先行してやって来て、ニ対一で、リザードマンの時のような戦法でどうにか倒して、残りの二匹も倒していた。

 それを確認したので、溜息を付きながら自動拳銃を元の場所に戻し、討伐部位の尻尾のヒレを切り取り、皆の所に戻った。


「仕事以外の事はしないんじゃなかったの?」

 ベリィが泥の付いた顔で皮肉っぽくそんな事を言って来た。どうしよう、かなり頭にくるんだが……。この女とは喋りたくねぇ……。取りあえず無視する。が、なんかギャーギャー騒いでるので、仕方なくこれに答える事にする。


「お前が死んだら、俺が持つ帰りの荷物の量が増える、大量の水とお前の死体(・・)だ。討伐部位も運ばないといけない、だからなるべく楽したいから助けたが……。こんな対応されるならあのまま殺しておくべきだった……。それと善意で手を貸したのに、次にこんな態度をとってみろ。俺はこの仕事を放棄するからな」

「ふん、勝手にしなさいよ! 別にあんたなんかに助けられなくても、どうにかなってたわよ!」

「あぁそうかい。わかったよ。俺は死にたくねぇからな、お前等が殺されるのを見てから、自分の身は自分で守る。精々足掻け。ポーターには戦力は期待してねぇんだろ? 討伐部位は運ぶが、死体は生きてる奴が運べよ」

 別に怒鳴ったりはしていないが、ベリィの胸倉を掴んで木に押さえつけ睨みながら言ったので、怒りは伝わってるはずだ。売り言葉に買い言葉、まぁしかたないな。今回は運が悪かったと思い込もう。他の奴は良い人なんだけどなぁ。


 その後は宣言通り、危険な状況になっても手を貸すことはせず、戦闘中は離れ、あふれてこっちに向かって来た魔物だけを事務的に排除した。向こうも気を遣ってるのか、パーティーのベリィを思ってるのか気にしなくなった。


 そして会話も必要最低限。俺的には問題ない。もう仲間だとは思ってないからな。心情的には、ゲーム中にチームメイトがはずれだった気分だから、終わるまで俺が我慢すればいい。 

 途中、スケルトンやゾンビが大量に現れ、四人が囲まれていたが無視した。ドミニオンズさんやダイダロスさんが大怪我をして、ベリィが回復魔法を使っている。まぁ詠唱をして、手の平と傷口が青白く光ってるから、そう思うだけだけどな。


 まぁ、一人の協調性のない奴が悪いと思っておこう。そもそもの原因は俺がポーターやってたからか? 俺が弱ければ、こんな事にはならなかったんだろうなぁ……。

 まぁ三人には悪い事したって事で、今回の反省を生かすことにするか……。ってか個人の過去に何があったか知らないし、地雷っぽいのは今度から避ければいい話だ。



 そして町に帰る当日には、減った食料の場所に討伐部位を入れ、入りきらないものは横にぶら下げた。

 あと二日で終わるなら、別に今の状況でも構わないし、沼地を歩くより、少し重い荷物を持って歩いてた方が気力の減りは遅い。沼地は精神的に疲れるんだよなぁ。


 視界内のMAPに光点が裏から勢いよく何かが近づいてきてるので、軽く振り向いて胴体にできる限り倒れるまで撃ち込み、ゴリラ風のサルっぽいモンスターだったので放置する。前に討伐部位の回収をしてなかったからね。

 撃った時に音がするので全員が振り向いたが、すでに魔物が倒れているところを見たら、何も言わずに歩き出した。



 その後は特に問題なく街に帰り、冒険者ギルドについたらリュックを下して、ドミニオンズさんに渡す。

「では、換金してきますので、少々お待ちください」

「あぁ、この時間なら空いてるから早く済むだろう。終わったら声をかけてくれ」

 俺はいつもの隅の席に座り、腕を組んで背もたれに寄りかかる。そしたら、ダイダロスさんが隣に座った。


「なんだ……その、すまなかったな」

 謝罪をされた。

「ダイダロスが悪い訳じゃねぇよ。俺が悪いんだ、気にすんな」

「まぁ、そう言われちゃ次が言いにくいんだけどよ……。その……昔ベリィに――」

「興味ないし、俺が今更知ってもどうにもならない。本当に気にしてないから、この話はもうしないでくれ」

 ダイダロスさんの言葉を遮り、後腐れがないように聞かない事にした。本当に聞いてもどうにもならないし、話を聞いてもしかたないからね。俺は精神科か心療内科の受診が必要な人の面倒なんか見れないし力になれない。中途半端にかかわるのも相手に失礼だからね。

 ダイダロスさんは少し面白くない顔をしているが、実際どうしようもない。


「集計終わりました」

 気まずい雰囲気の中、ドミニオンズさんが帰って来て、テーブルに小さな袋を置いた。高額貨幣になったんだろうか?

「あとスピナさんは手続きがあるので、一緒に受付に来てください」

「ん? ……あぁ」

 なんでだろうか? その場で料金支払って終わりじゃないのか?


「仕事の終了を確認しました。では、ポーターの依頼という事で、アンケートにお答えください」

 受付の女性の所に行き、ギルドカードを提示して受付の女性を通して報酬をもらい、変な紙を渡された。

 受付嬢を通すのは、報酬の誤魔化しがない様にと、どうやらポーターが相手パーティーに対する物らしい。

 んー結構項目があるな。それっぽく書けばいいか。


・パーティー全体の雰囲気は良いが、協調性のない者が一人いて、途中から険悪な雰囲気になった。しかも自分より格下やポーターに助けられるのが気に障るのか、助けようとしたら拒否されたので、胸倉を掴んで無理やり立たせ、安全になったら文句を言われ口論になった。


・仕事内容以外の事は基本やらされなかったが、自分の身が危なくなったら、自分でどうにかした時が数回あった。今回の討伐地には少し無理があった気がする。


・ポーターの最低ランク数が3では低すぎると思う。じゃないと最悪の場合自分の身が守れない。


・料理が美味かった、士気は上がると思う。


 こんなもんか。


「これでいいか?」

 そう言って紙を渡すと受付の女性は文章を読んでいる。

「はい、かまいません。ではギルドカードをお返ししますね」

 笑顔でギルドカードを渡され、ベリィ以外に軽く挨拶をしてからギルドを出た。今回はチームが外れで、ゲームに負けたと思えばどうってことない。



「もどりました」

「生きてたのね」

「あぁ、少し問題があったが死ぬほどの事じゃない。風呂に行ってきます」

「門が閉まる頃にならないと、やってないわよ?」

「クソ……。汚れたままベッドに寝転がるのは個人的に嫌だな……。お茶をくれ」

「疲れてそうだから、たっぷり砂糖でも入れなよ。甘いものは疲れにいいわ」

「そうする……。甘いものは大好きだから少し多めに入れるわ……」

 目の前に置いてくれたお茶に、砂糖をティースプーンで三つほどいれ、ゆっくりと飲んだ。

「はぁーー。精神的に疲れた体に染み渡る……」

「何があったかお姉さんに話してみな。少しは楽になるわよ」

 悪い笑顔で、楽しそうに聞いてきた。こんな顔もできるんだなー、この人。

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作者が書いている別作品です。


長いので、気が向いた時に読んでいただければ幸いです。


魔王になったら領地が無人島だった

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