Episode.9 帰宅【叶音の場合】
女の子になって親はどのように受け入れるのか。
「あの、宮代君の副担任の坂宮です。とある事情によりまして宮代君の性別は女になりました。いま替わりますね。」坂宮先生によって実家に連絡が行った。
「もしもし。叶音だよ。今は、『かなと』じゃなくて『かのん』ね。今から家に帰るから。」
「叶音?お母さんだよ。何があったか分からないけど。お母さん嬉しい。ほら、ウチの家って男兄弟ばかりでしょ。女湯に入るのは私一人だったから。」母の知乃は一瞬驚いた様子であったが喜んでいた。
「今、これ坂宮先生の電話で掛けているからさ。電話代かかっちゃうから切るね。」
「はーい。家で待ってるね。」こんなにも適応できる母は居るものだろうか。
それにしても、胸が擦れて痛い。普通の女だったらブラを付けているが、今は完璧に男の格好だ。
「お母さん。待ってて。」服装は完璧に男の格好だが、顔は物凄い美女になっている。変態がよってきそうだ、早く帰らなくてはいけない。叶音は急いで自転車を走らせる。
叶音の家は、一軒家である。二階建ての家で立派な家だと言われている。本人には自覚がないが。
15分ほど自転車を走らせて、家に着いた。
「お母さん。只今。」叶音は元気に帰宅の挨拶をする。
「えっ?嘘でしょ?そんな……何かの間違いよ。本当にかなとなの?」電話越しでは、内心あまり信じていなかったが、母はその姿を見て驚いていた。
「カノンだよ。お母さん。これからも宜しくね。」
「お母さん。本当に嬉しいよ。それで、制服は買い換えないとダメだよね?女の子になったんだから。」
「お母さん。これは、学校で起こった事件に巻き込まれてこんな風になってしまったから、学校が無償で替えてくれるって。でも、この格好じゃおかしいから、私服を買う必要があるね。連れて行ってくれる?」
「勿論よ。でも、男の子の格好だと変だからさ。少しの間だけお母さんの服着てもらえる?見た感じだとお母さんよりもいい体型してるから、着れるか分からないけど。」
「お母さん。これから教えてくれる?その女として生活様式について。」
「生活様式って?叶音。大袈裟すぎよ。大丈夫。ちゃんとお嫁に行くのが恥ずかしくない様に育てるからね。」知乃はにっこりと微笑んでいた。
「その、お母さん何でそんなに適応出来るの?目の前に普通息子が娘になってしまったら、狼狽えると思うんだけど。」
「何言ってるのよ。顔や身体が変わっても叶音は叶音でしょ?私の可愛い子供には変わりはないんだから。」
「お母さん……グスッ」叶音はすんなりと受け入れてくれる母に涙を流していた。
「何があったか分からないけど、生きているだけで幸せよ。お母さんはそう思う。」そう言って彼女は、涙を流す叶音を抱き締めた。