クマの子ライとタロの説得
「2匹の動物たちよ。あなたたちも、冬を終わらせに来たのでしょう?」
冬の女王様は聞きました。
「冬になんて、早く終わってほしいと願って、ここに来たのでしょう?」
「冬を終わらせに?」
ライは首をかしげます。
「違います。」
「……?! ではなんの用があってここまでわざわざ来たのです。あなた、山から来たのでしょう。」
「僕は、冬を終わらせに来たんじゃ、ありません。」
ライは言いました。
「季節を廻らせに、来たんです。」
「……なにが違うって言うんですの……!つまりそれは……。」
「違うんです。冬が嫌いだから、冬なんてもう嫌だから、終わってほしくて来たんじゃないんです。次の季節に順ぐりに順ぐりに変わっていってほしくて、来たんです。」
ライは、一生懸命、伝えようと話をします。
タロも、ライを見上げながらじっとその話を聞いています。
「僕も最初は、お母さんに起きてほしくて、一緒にお花見がしたくて、ここまで来ようって決めました。」
そうです。ライだって、起きたのに雪ばっかりで、母クマもグウグウ寝ていて、お腹もグウグウ鳴っていて、シクシク泣いたのでした。
「でも、ここに来るまでに僕は、いろんなお友達に出会って、それで気がついたんです。僕、冬も好きだなぁって。国のみんなもそうです。」
「嘘をつくな!ワタクシをここから出したいからといって、そんな戯言を……!」
「嘘じゃ、ありません!」
アカシロ山で出会った、白ウサギのシャオリー。
『わたしは、白い毛でいられる冬が一等好きなんだ。冬がいつまで続いてくれたっていいんだよ。』
アカシロ山のふもとで出会った、黒い犬チャラとミケネコのタカ。
『確かにそろそろ春になってほしいけどね。冬は冬で、おこたつの中で丸くなるのも、わるくないんだよねぇ。』
『あ!オレも!雪の中をご主人様と走り回るの、超好き!まぁ春も好きだけどな!』
ハルナ山のふもとで出会った、ニンゲンのお兄さんゴンヌ。
『確かにそろそろ春になってほしいんだけどさ。冬は冬で、大根や白菜が旬なんだよねぇ。うちでとれた野菜もとっても美味しくてさぁ。ライ、今度鍋食べにおいでよ。待ってるからさ。』
ハルナ山で出会った、春の女王様。
『わたくしは、春を司っているけれど、冬のことだって大好きなのよ。雪もとってもキレイだし、吐く息がほわっと見えるのも、ステキ。ただその期間、冬の女王に会えないのがさみしいのが、難点だけれどね』
そして、ここまで一緒に旅をして来てくれた、リスのタロ。
『一緒に雪合戦してあそぼうぜ。冬もなかなか楽しいもんだ。池でスケートもできるんだぜ。すごいよなぁ。』
ライが出会ったみんなのうち、誰1人として、「冬なんて嫌いだ」「終わってほしい」と願った人はいませんでした。
「いろんな人たちの話を聞いて、僕、考えたんです。僕は、クマの子だから、冬が来たら、ごはんを溜め込んで冬眠します。だから、冬眠のためにたっくさんのごはんを食べるのが、毎年いつも楽しみなんです!どれ食べようかなぁって!」
「確かにライは、毎年毎年楽しそうにごはん食べているよなぁ。よくそんなに食べられるなぁっていうくらい!」
タロもケタケタ笑いました。
「えへへ。それで、そのあと、大好きなお母さんと一緒にお家でぐっすり眠るんです。あったかくて、ふわふわで、とっても気持ちがいいんです。お家から時々、雪が降っているのも見えたりします。真っ白な雪を見ると、ああ、今年も冬が来たんだなぁって思って、ゆっくり眠れます!」
「そんな……そんなとってつけたような話で、ワタクシのココロを動かせると思ったら大間違いですわ……!綺麗事ばかり言って!」
「本当です!信じてください!」
「どうせみんな、ワタクシの気持ちなんてどうだっていいのですわ!早く春に来てほしいからといって、そのようなでまかせばかり……!」
冬の女王様が、バンッ!とトビラを叩きつける音が聞こえます。
「女王様……!」
「第一、クマの子のあなたがそう思ったからといって、どうして国の民みんなもそうだと言えるのでしょうか!きっとそんな風に思っているのは、冬眠していられるクマのあなただけ……。世の中そんなに甘くはないのですよ。」
「でも……タロも……お友達も……。」
でも、ライはここでそれを女王様に聞かせることはできません。そして、お友達が言ったからといって、「みんな」がそうだということも、できません。
「どうしよう……。」
ライもタロも、すっかり困ってしまいました。
やっぱり、冬の女王様を説得することはできないのでしょうか?